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日本の「おもてなし」のウソ 本当の気遣いを見せる集客とは?

こんにちは、トイアンナです。
2020年東京オリンピック関連のニュースも増える昨今、外国人観光客も増加しています。2013年に1036万人だった訪日外国人観光客が、なんと2016年には2404万人。わずか3年で倍以上の外国人観光客が日本へ押し寄せているのです。

外国人観光客が増えて影響を受けるのはホテルや遊園地など観光に直結している産業だけではありません。エステサロンや飲食店など「旅行中に使いたくなる関連施設」から、いざというときの病院や歯科医院も多言語の対応を迫られるでしょう。さらには観光をきっかけにビジネスチャンスを見出した外国人パートナーとの取引もありえます。ですから誰にとっても外国人観光客増加は他人事ではないのです。

そこで今回はそのチャンスを逃さない方法を再考してみましょう。

「お・も・て・な・し」は本当に意味があるのか?

ここで少しさかのぼって、オリンピック招致が決まった瞬間を思い出してください。当時の映像で私たちが必ず思い出すのは「お・も・て・な・し」と滝川クリステルさんがスピーチする場面でしょう。

確かに細やかな気を遣ってくださる日本のサービスは素晴らしい……と語る滝川クリステルさんのスピーチ。しかし現実は相反します。融通がきかない、杓子定規だと外国人から不評も多いのが日本のサービスなのです。

たとえば京都では市内観光バスがすし詰めとなってしまい急遽値上げに踏み切るなど観光客増に追いつけない受け入れ態勢が課題となっています。

以前の連載でも申し上げましたが、日本には富裕層向けサービスが不足しています。そのせいで富裕層が訪問したくても高級ホテルの数が「ベトナム並」しかないからと、訪問自体が白紙になるケースも報告されています。

また、いまだに英語への苦手意識からお客様を受け入れない方も多いのではないでしょうか。簡単な相談をしているのに「ノーイングリッシュ、ノーイングリッシュ!」とかわされてしまうことで、外国人も敬遠してしまうことが少なくありません。

「嫌なら来るな」と突っぱねるのは簡単ですが、外国人観光客を誘致したのは外ならぬ日本です。宣伝しておきながらいざ訪れたら冷たい対応をされる国との悪評が広まってしまえば「日本嫌い」の外国人が増えるリスクもはらんでいます。

実はこの兆候、すでにデータでも表れています。先述のとおり日本を訪れる観光客は増えたにもかかわらず、訪日客が使った金額は6.7%減となっているのです。

その背景には東京、京都など有名都市へ観光客が集中してしまい、すし詰め状態で観光客の満足度も下がっているようすがうかがえます。せっかくお金を使いに観光客が押し寄せているのに、魅力的な使い道を私たちが提案できていないのです。

地方への誘致は、バス1本でできる

さて、この記事をご覧になっている方には地方にお住まいの方も多いでしょう。そして日本の良いところは地方ごとに特色が強い点でもあります。世界のどこを見渡しても、スキーとビーチリゾートが両立しうる国はさほどありません。北海道でスキーを楽しんでから沖縄で海遊びなど、四季の違いを数日間で味わえるのは大きな魅力です。

さらに地方ごとに文化、言語、食べ物が違うのも魅力的です。都内から少し足を延ばすだけでも長野や仙台、鎌倉、日光など色とりどりの文化を体験できる環境が整っています。

しかし日本に足りないのは「簡単な交通手段」です。

都心へ上京された方なら誰しも、新宿や渋谷駅の複雑さに舌を巻いたことがあるでしょう。
出口の数は無限、複雑な矢印の案内図にくらくらします。東京住まいが10年弱となる私も、いまだに新宿からバスに乗らねばならないときはハラハラします。

そもそも電車の出口にたどりつけるのか、バスターミナルにたどり着いたところで難十か所もある中から正しいバス停へたどり着けるか。日本語でもわかりづらい表示のバス停一覧。英語表記も容易に見つかりません。

しかしもし、わかりやすい駅から近隣都市へ出られるバスが1本出ていたらいかがでしょうか。そしてバスに乗るだけで、その土地の良さを味わえるツアーが外国人向けに存在していたら?

地域の「熱愛なファンになる」ターゲットを考えよう

すでに熱海や箱根などの有名観光地はこの手段を取っていますが、まだまだ外国人向けの簡単なツアーは発掘されていません。

また「グルメ」「歴史」といったおおざっぱなツアーではなく廃墟巡りやアニメの聖地巡礼、伝統工芸の1日体験など特定の地域だからこそつかめるニーズは眠ったままです。多くの観光客は見向きもしないけれど、特定の層にだけ強く刺さる観光スポットさえあれば地方にとってはうれしい収入源となります。

おおざっぱに「外国人向け」を考えるよりも「イスラム教徒が感動するハラール(教徒に許された食事)を精進料理で提供できる」「地域に縁切り寺が多く、失恋した人ならきっとめぐりたくなる」といった、「熱烈なファンを獲得できそうな長所」を地域のみなさまと一緒に考えてみてください。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

 

シャネルに学ぶ「度肝を抜くマーケティング・イベント」の考え方

こんにちは、トイアンナです。
シャネル、Dior、エルメス……。ランウェイをさっそうと歩く、ハイブランドたちは「伝統的な顧客を守りつつ、革新的なファッションを発表せねばならない」ジレンマと常に戦います。

伝統と革新は相反する概念ですから、たとえるなら「最高級フレンチのジャンクフード」「手術をしない抜歯」を求めるようなものです。私がもしクライアントから両立した企画を作るよう依頼を受けたら「それで、本当はどっちを優先されたいですか?」と質問してしまうかもしれません。

しかし、本来ありえない真逆の要求を両立させる気概があるからこそ、ハイブランドは優れたマーケティングが生まれる源泉でもあります。今期のシャネルはその好例でした。

シャネルのエッフェル塔を再現した「度肝の抜き方」

シャネルは今期、展示会場内にエッフェル塔を屋内に再現するというまさに度肝を抜くマーケティングを実現しました。パリの大規模展示会場「グランパレ」のガラス張りになった屋内に、高さ50mのエッフェル塔がドライアイスに包まれて登場。エッフェル塔付近にあるキオスクまで再現するというこだわりが魔法のような演出を実現し、新聞を始め取材を大量に獲得しました。

「そんなこと言ったって、大企業の新作発表なのだからPRで掲載されるのは当たり前」と思われるかもしれません。しかしファッションの世界は新商品、コレクション発表、アンバサダーの露出、期間限定ショップ開設などPR企画が月に1回以上発生します。

自社で乱立するイベントのすべてを報道してもらうのは不可能なうえ、ファッション業界には競合も大量に存在しています。エルメス、ルイ・ヴィトン、ディオール……。ファッション業界はどこも豊富な資金でPRイベントを打ってくるため、単なる「何かを開催します」では取材をしてもらえないレッド・オーシャンです。したがってPR担当者は「伝統の範囲内で最大限革新的な」という難しい課題をクリアし、度肝を抜くことが求められます。

実はローコストでもあるイベント

そしてシャネルのPRイベントには、中小企業だからこそ学びにつながる特徴が1点あります。

実はラグジュアリー業界を俯瞰してみると、世界3グループが大手ブランドをほぼ独占していることがわかります。ルイ・ヴィトンやDior、セリーヌなどを抱えるLVMHグループを筆頭に、世界のほとんどの有名ブランドは3社が独占しているのです。

大手グループはブランドごとの協働イベントも行えるうえ、予算を他ブランドから回すこともでき大変有利です。一方、シャネルは単独のメゾン。他のブランドから利益を回すことができないためイベント予算は限られていたはずです。

こんな「誰も考えたことのない」マーケティング戦略でありながら、エッフェル塔の制作は獲得した取材の量に比してローコストでもあったでしょう。今回の企画は同じ露出を獲得できるほどの広告出稿に比してローコストでありながら、爆発的な成果を出せたと言えるでしょう。このように広告を出すのと比較しても、コストパフォーマンスが高いのがPRの特徴です。

やみくもな広告出稿は「安っぽさ」を出してしまう

さらにシャネルのようなハイブランドは「広告ではなくPRで認知度アップを図る」必要が特にある業界です。安い商品はテレビCMを大量に打ちさえすれば力技で認知度を獲得できますが、シャネルのようなハイブランドが同じ戦略をとると「安っぽい」と思われてしまうからです。

一部雑誌社への広告出稿、銀座のど真ん中に位置する直営店舗などを除くと、高級イメージを維持したまま知名度を上げられる手法は限られています。その中でも今回のシャネルが実施したPRイベントは大成功を収めました。

たとえばあなたが自社製品を高級だと思ってもらいたいなら、闇雲な広告出稿へは1度「待った」をかけてください。その広告が目に触れる場所で、他社はどんな広告を出しているでしょうか。露出さえ増やせば「誰かの目に映る回数」は増えますが、果たしてその相手は自社製品を購入してくれる可能性が少しでもありそうでしょうか? 単に近くへ住んでいる、性別や年代が合っているだけでなく所得やラグジュアリー感も同じでしょうか?

お金さえあれば1日に1度、全国民の目に触れる広告を出すことも不可能ではありません。しかしそれだとコスト以前に「大衆っぽさ」「安っぽさ」を出してしまうリスクをはらんでいます。会員制のバー、富裕層向けの歯科医院、ラグジュアリーなエステサロンなど、高級感を醸し出す必要がある製品やサービスを届けるなら、広告よりもPRが適していると言えるでしょう。

PRで取材を獲得できるかどうかは、当日にならねばわかりません。当日芸能人のスキャンダルや災害があれば、取材も立ち消えになるバクチ要素を秘めているからです。それでも取材を獲得し、安定的に知名度を上げる素晴らしいPRイベントには「伝統と斬新」を両立させる優れたアイディアと、賢いコスト感覚の2点が内包されているのです。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
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保護中: あなたの商品が選ばれない理由は? AISCEASの流れで見る課題

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マーケティングでV字回復を狙うイギリス紅茶市場 集客を取り戻す差別化の鍵は?

こんにちは、トイアンナです。
「イギリスといえば?」と連想ゲームをするなら、すぐに思い浮かぶのが「紅茶」でしょう。特に女性にとって、優雅なアフタヌーンティーは憧れです。ところがその紅茶、イギリスで斜陽となっています。調査によればイギリスの紅茶市場は2013年から2015年までで14%縮小
その理由は「若者の紅茶離れ」です。
今回はイギリスの紅茶が一体どのような危機を迎えているか、そして紅茶の復活を願った各社が力を入れたマーケティング施策をご紹介します。

イギリスの若者には緑茶がトレンド

そもそも、イギリス人はどのくらい紅茶を飲むと思いますか?
およそ3割の50・60代のイギリス人は1日5杯、紅茶を飲みます。日本で同じ量の緑茶を飲む方はまずいないのではないでしょうか。
「イギリスと言えば紅茶」も納得です。

しかし20代後半から30代前半の若者ではこれが2割弱まで減少。紅茶よりコーヒーを好む若者が増えています。イギリスでは日本と同じようにスターバックスを初めとするコーヒー店が続々増えており、紅茶市場を揺るがしているのです。

さらに調べてみると、紅茶が不人気な理由のトップは「汚れが歯につくから」。
ここで「ん?」と引っかかった方は、マーケティングのセンスがある方です。若者がもし本当に歯の汚れを気にして紅茶離れを起こしたなら、コーヒーも飲めないはず。むしろ私達日本人からすると、コーヒーの方が歯も汚れるイメージも強くありませんか。

このように矛盾のあるデータが上がってきたときは、アンケートの数字に出てこない本当の理由が隠れていることが多いものです。マーケティングではこれを「インサイト」と呼びます。インサイトを知るためには、対面でのヒアリングが欠かせません。

実際にお話を20代イギリス人から伺うと「紅茶はダサい」「年寄りの飲み物だからオシャレなカフェで頼みたくない」という赤裸々なインサイトが明らかになりました。何だか、日本の「若者の日本茶離れ」「若者の和菓子離れ」に通じるものを感じます。どの国でも、伝統的な食べ物は若者から敬遠されるようです。

弱みより強みを活かした集客を

もちろん、若者の本音を見抜いたのは私だけではありません。紅茶メーカーから販売店、カフェまで紅茶は「イケてない」と思われていることに気づいていました。彼らもただ手をこまねいているわけにはいきません。そこで集客のため考案されたのが「オシャレなアフタヌーンティー」でした。

アフタヌーンティーはもともと1日2食だったイギリスで、午後の小腹が空く時間に軽食を食べるため考案されました。しかし現在、1人あたりの価格は5,000円以上。アフタヌーンティーは日常的に楽しむものというより「ハレの日」のイベントとなっています。

若者が欲しがらない紅茶も、ハレの日を演出すればお金を落としてもらえる。その証拠に高級ホテルのアフタヌーンティーでは予約率が上昇していました

ハレの日にふさわしい、若者が来たくなるアフタヌーンティーを提供できれば……。紅茶市場の復活を目指し、ホテルは差別化戦略を立てました。

若者に「ワクワク」の要素を

ここからは、実際にマーケティングの成功した事例ご紹介します。

高級ホテル「サンダーソン」では『不思議の国のアリス』に因んだ「帽子屋のお茶会」をテーマにアフタヌーンティーを提供しています
リンクをご覧いただければ一目瞭然のカラフルなお菓子。アリスをモチーフにした可愛らしいデザインは、世界中の乙女を虜にしました。従来の伝統的お菓子からは想像もできない外見が「ハレの日」を演出しています。

また、どの国でも海外へあこがれを抱くもの。日本人がイギリスに憧れるように、イギリスではフランスやアメリカ、日本のスタイルが「オシャレ」とされます。

アフタヌーンティーカフェ「sketch」では、パリの三ツ星レストランシェフ「ピエール・ガニェール」の力を借りて個性的な内装と料理を届けました。
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Photo By: トイアンナ

こちらは実際に訪問してきましたが、お昼過ぎには満席。観光客が多いエリアにも関わらず若いイギリス人客もちらほら見かけました。

さらに観光客へ舵を切りヒットしているのがB-Bakaryのアフタヌーンティー。なんと二階建てバスの中をまるごとアフタヌーンティーの場所にし、観光しながら紅茶を飲める仕様にしています

紅茶文化を復活させるため、各施設がマーケティングを駆使し差別化へ成功しています。

どんな時に使いたくなるか? が経営のヒント

「市場が斜陽産業で、これから顧客は減っていく一方」という現場でも、市場を伸ばす方法はあります。
今使っていただいている方法以外で、どんなシーンで利用してもらえそうか、どんな気分で愛されそうか。もし自社製品の市場が伸び悩んだときは、ユーザーが製品をどんな時に使いたくなるかを思いつくままリストアップして、市場全体を大きくする方向を模索してみましょう。

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

「あえて敵を作る」差別化で飽和市場を成長させるビール会社

こんにちは、トイアンナです。イギリスで有名な飲み物といえばビール。
日本でもパブのチェーン店がいくつもありますね。
イギリスではパブが駅ごとに1~2軒は立っており
「ちょっと一杯」にふさわしいカジュアルな社交場となっています。

ここまでの情報を踏まえ「イギリスで新しいビールブランドを作る」という企画があがったら、
マーケターとしては警戒するところです。
市場はすでに飽和している可能性が高く、今更ビールを飲みたい人口も増えない場所で、
他のシェアを奪うのは難しいでしょう。

ところが、私の至らぬ予想に反し、イギリスに1285軒存在する
小規模クラフトビール業界は、昨年比で10%も成長しています。
その背景には過熱した市場でも生き抜く、斬新なマーケティングが息づいています。
今回はその中から、「グローバルに成功している500社」へも選出され
最大の成功を収めているブリュードッグ(BrewDog)社について研究してまいります。

始まりはビールの最強の度数対決

ブリュードッグ社は2007年創業。
当時イギリスへ日本のアサヒが進出し
「ビールはアルコール度数が薄い楽な飲み物」のイメージが広がっていました。
そこでブリュードッグ社はあえてその逆を行く「世界最高度数のビール」、
タクティカル・ニュークリア・ペンギン(戦術的なペンギン核兵器)を生み出します。

商品名からしてその個性が際立っていますが、強烈なのは32%のアルコール度数。
ブリュードッグ社が「今までと違う」と印象付ける最高のマーケティング戦略でした。

とはいえ、当時ブリュードッグ社が知られていた理由は「最強の度数」に過ぎません。
ドイツのライバル企業がすぐさま「ショルシボック40」という40度のビールを出したこともあり、
このままではすぐ埋もれてしまう運命にありました。

秘密はあえて敵を作るマーケティング

そこでブリュードッグ社は単なる度数勝負を超える、次の一手を打ちます。

新製品はその名も「ザ・エンド・オブ・ヒストリー(歴史の終焉)」。
度数も55度ともはや標準的なウイスキーを超えてしまったのですが、
何より度肝を抜いたのはビールボトル。
リスのはく製でビール瓶を包んで販売したのです。

※ 実際の商品画像はこちらからご覧いただけますが、動物が好きな方はご注意ください。

元々イギリスは動物愛護団体も多く、
過激派は「インフルエンザウィルスにも生きる権利はあるから風邪薬を飲むな」と運動するほど
他の生命を大切にする国民性を持っています。

そんな中でリスのはく製を売ったものですから、動物愛護団体は激怒。
「安っぽいマーケティングだ」「死骸のビール」と散々なバッシングを受けました。

しかもこのリスのはく製ボトル、お値段は、約86,000円と超高額!
手軽な消費財であるべきビールではありえない金額設定も考えると、
小心者の私など「よく社内稟議を通ったな……」と当時を想像してはハラハラしてしまいます。

ところが、市場に出てからは大ヒット。
確かに動物愛護団体や心の優しい人は激怒しましたが
「パンク」と呼ばれるタブーを壊すことに抵抗のないファンが急増。
ブランドイメージとして「パンク」の称号を手に入れたブリュードッグ社は差別化を成功させ、
同ビールも瞬く間に世界中へ出荷される大ヒットとなりました。

ブランドイメージを守れば、ファンができる

お客様満足度100%。聞こえはいいですが、そんなブランドには敵がいません。
「なんでそんなものを買うの? 信じられない」と思う層がいないブランドは
無個性の塊として、そのうち忘れ去られてしまいます。
日本の巨大ブランド、たとえばdocomoやJALであっても
強烈な信者とアンチがいることによってブランドが保たれているのです。

ただしブリュードッグ社のように成功したいのであれば、
大切なのは斬新なアイディアが浮かんだときにブランドイメージから逸れないよう気を配ること。
ブリュードッグ社はブランドイメージを「パンク」にしていたがために、
今回取り上げたようなタブーを無視するアイディアが大成功となりました。

しかし同じ案を「伝統的・保守的」と思われたいビール会社が行っても
絶対にヒットしないでしょう。
斬新なアイディアは保守的なブランドにも存在します。
たとえばイギリスの女王陛下が美味しそうに飲み干すビールのCMが流れたら、
保守的であるにもかかわらず「ちょっと飲んでみようかな」と興味をそそられないでしょうか。

業界の革命児になって大成功を収めたいのであれば、
革新的なアイディアをブランドイメージに則って実行すること。
そして常に他社事例から学び、アイディアの幅を広げることです。

ブリュードッグ社の事例は2016年9月発売の
『ビジネス・フォー・パンクス ルールを破り熱狂を生むマーケティング』に詳しくありますし、
世界最高の広告を表彰するカンヌ国際広告祭の受賞作はYoutubeで見られるものも多くあります。
常にインプットを楽しみ、あなたの戦略に役立ててみてください。
参考文献:

『Good Beer Guide 2015』

 

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

差別化マスターへの道

美人へ「美人だね」と褒めても、女性は落ちない――こんな恋愛の黄金ルールをご存知でしょうか。
たとえば職場にモデル級も美女がいたとします。あまりの美しさに周りの男性も「今日もかわいいね」「本当に美人だね」「モテてしょうがないでしょう」と飲み会などで誉めそやします。もしあなたがこの美女を落としたいなら、どうすべきでしょうか?

こんなとき、あなたが群がっている男性の3倍「今日もきれいだね」と褒めたところで、女性の心はピクリとも動きません。いつも褒められている言葉を聞かされても「またか」と思いつつ、笑顔で「ありがとうございます」と返すことしかできないからです。

女性を落としたいなら「差別化」褒めしよう

ですが、あなたがこんな言葉をかければチャンスは上がります。「○○さんって、本当に仕事を覚えるのが早くていいね」「応用力があるから、とっさのトラブルでも○○さんがいてくれると助かるよ」「手が器用なんだね。仕事も丁寧なのは、そのおかげかな?」

いつも美人、美人と誉めそやされている女性ほど「どうせ皆、私の顔しか気にしてないんだ……。中身は誰も見てくれていないんだ」とコンプレックスを抱くことがあります。そんな女性へ仕事の優秀さや丁寧さを伝えると「この人は私の中身を見てくれた!」と差別化されるのです。

モテてからでも、真実の恋愛はできる

さて、あなたは競合分析をした上で美人に向かって「美人だねと3倍褒める」ような差別化をしてはいないでしょうか? 特に自社製品が優れている企業ほど、他社より機能で秀でていることを売りたくなる傾向があります。
「つい似たサービスで優位に立とうとする」のは、頑張れば実際に優位にたてる企業だからこそ行えるワザだからです。

しかし、実際に自社サービスで優れていることを売りにするよりも、「全く違う強み」をアピールした方が皮肉なことに売れてしまうことがあります。そういった場面で「ウチの強みをわかってない!」と憤懣やるかたない経営者さんを多く拝見しましたが、「社長が売りたい本当の強みは、まず製品がバカ売れしてから伝えてはいかがでしょう」と私は考えています。

売れなければ誰も「本当の強み」を知らないままですが、1,000人に売れれば、10人は間違いなく「本当の強み」に気付いてくれるからです。

まず1,000人にモテよう

男女関係にたとえるなら、年収5,000万円ある方がお金持ちだとアピールすれば、間違いなくモテるでしょう。その上であなたが実は持っている良さ――たとえば音楽に詳しい、スポーツ観戦をする姿が生き生きしていてカッコいい、家庭的で子煩悩……といったものは、モテてから真価に気付ける女性へだけ伝えればいいのです。

1,000人の女性にモテればそのうち10人くらいは「年収なんてなくてもいいの、でもあなたの性格が好き」というファンが生まれるもの。そうして始めて、気に入った女性と付き合うことができます。「年収目当ての女ばかり寄ってくるから、俺は貧乏なフリをするぞ!」とわざわざ強みを隠しても、相思相愛になることは難しいはず。売りたいものより、売れるものを最初は見せびらかすべきなのです。

ここまでをご覧いただければ、下記の例が企業の「売りたいもの」を優先しており「売れるもの」を見せる差別化になっていないと伝わるかと思います。
・ エステの痩身コースを調べたら、他社は10,000円で提供していた! ウチは8,000円で提供しよう!
・ 同じ街にあるあの本屋は、マンガが200種類揃ってるらしい。よし、競合に負けないためにウチはマンガを250種類揃えるぞ!
・  あのマッサージ屋はヘッドスパを売りにしているらしいから、うちは特殊技術を備えたヘッドスパの店員を採用しよう!

差別化とは、競合を徹底的に調べた上で「ライバルと全く違う方向性」で強みを発揮することを言います。競合の強みを真似てしまうとお客様から差が見えなくなってしまうのです。

正しい差別化は「一目で違いがわかる」もの

それでは、均質化ではない正しい差別化は、どうすればできるでしょうか? 簡単にまとめると「一目で違いがわかる」ものを作ればいいのです。たとえば……
・エステの痩身コースが他社は売れてるから、ウチはシワ取りを売りにしよう
・あの本屋はマンガが200種類揃ってるらしいから、ウチは文庫を充実させよう
・プラスチックの原料を1000円/kgで売っている業者があるから、ウチは加工製品を売りにしよう

このように「一目で違う」と伝わる内容であれば差別化に繋がり、1,000人にモテるサービスを提供できます。

最後に宿題として差別化の事例を記しますので、本当の差別化に当たるかを考えてみてください。
1. あの居酒屋は日本酒が揃ってるって人気だし、ウチも5種類くらい入荷しよう
2. オーダーメイドの眼鏡屋が人気だから、ウチは30分で眼鏡をお渡しできるサービスで売ろう
3. 同僚のショップ店員は着合わせの提案が上手だから、私は在庫管理のプロになろう
4. 隣町の学習塾はイギリス人講師を雇ったらしいから、うちはアメリカ人を採用しよう

正解は、スクロールした下にあります。

 

 

正解:1.差別化できていない 2.差別化できている 3.差別化できている 4.差別化できていない

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トイアンナ
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現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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「あなたの奥様を好きになる男は誰?」競合分析とは

こんにちは、トイアンナです。
いきなり不穏な質問で恐縮ですが、あなたの奥様はどんな人にモテると思いますか? 「そんなうちの妻なんて……」と謙遜するのは止しましょう。あなたが1度は惚れた女性、そして今は尊敬するパートナー(ですよね……?)となった奥様は今だって引く手あまたのはず。70年代ならいざ知らず、この時代なら10歳年下の彼氏を作るのだって珍しくありませんから奥様を付けねらう悪い虫だっているかもしれません。

と言っても、この話は決して「奥様に油断するべからず! 今すぐ興信所を付けてください」なんて物騒なメッセージではありません。奥様を狙う男性を想像することは、あなたのお仕事における「競合分析」と似たエクササイズになるがゆえのご提案です。

ライバルを想像するために、あなた自身を思い出そう

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と孫子も述べていますが、あなたの奥様がモテる相手、つまりあなたのライバルになる男性はどんな人か。それさえ分かっていればあなたはライバルの男性より一歩抜きん出ることができます。そして付き合っていた当時、実際にあなたが勝利したからこそ奥様と一緒になることができたはずです。奥様に夢中になるような男性を想像する際のヒントとなるのはあなた自身。「結婚前、付き合っていた当時のあなたが持っていた強み」をリストアップしてみましょう。

まずは年収や職業のような、表面的なものから入ると簡単です。
・ 年収400万円
・会社員だったが、父の会社を継ぐ予定だった
表面的な「強み」が出揃ったら、次は多少「盛った」つもりで構いません。性格についてもあなたの強みを記してください。
・ 毎週1度は家族で出かける優しい性格
・ 誕生日にきちんとプレゼントを渡すマメさ
・トラブルが起きたときの包容力
こんな風に並べてみると「俺って意外といい男だなぁ」なんて思えてきませんか?そんな男性像が、奥様を今でも狙っている「ライバル」の姿でもあるのです。ですが不安になることはありません。付き合っていた当時のあなたと現在のあなたでは今の方がずっと奥様を深くご存知でいらっしゃるでしょうし、奥様が喜ぶ術も身につけたかと思います。あなたは今、間男が現れても奥様を守れる「勝者」なのです。

ライバルを想像するために、あなた自身を思い出そう

ここまでは奥様との馴れ初めを思い出していただきましたが、仕事でもこのような視点を持つと、競合の姿が浮かび上がってきます。あなたが口説き落としたいお客様は、いったいどんなライバルに狙われているでしょうか。そして、そのライバルはどんな強みを持っているでしょうか?今回は事例としてガラス製のテーブルウェアを制作しているA社を参考に、競合分析をしてみます。

もともとA社の強みは、1つ1つ手製で製作する「うすはり」のグラス。厚さわずか1mmの口当たりは、お酒を飲む上で決定的な違いをもたらします。自社グラスを使ってもらえる老舗のバーやレストランを徐々に増やしていましたが、その一方で、競合の外資系大手B社にシェアをどんどん拡大されている状態にもありました。

ここでB社の競合分析をしてみましょう。先ほどの「奥様のライバル」と同じように、まずは表層的な強みをリストアップすると分かりやすくなります。
・ A社と0.5mmしか違わない「うすはり」を大量生産できる工場
・高い耐久性で、食器洗浄機でも洗うことができる
・低い卸値
さらに深掘りして「お客様目線」の感情的な強みも記します。
・大量発注してもすぐ納品してもらえる安心感
・海外ブランドというカッコいいイメージ
・ 青山、心斎橋のようなシャレた地域にある直営店舗
こんな風に「機能」と「感情面」での強みをリストアップすると、競合の姿が見えてきます。

お手元の情報だけではお客様から捉えた自社とライバルの差が分からないようなときは、ぜひお客様へ自社の名前を伏せてお招きし、こんな質問をしてみてください。
・ ライバル社の製品をどれくらい買いたいか
・ なぜライバル社の製品を買いたくなるのか
・ ライバルの製品・サービスがなかったら他に何を選ぶか

ある地方都市で語学学校C社を運営している社長さんが、社名を伏せて英会話イベントを開催。イベントへ来訪された方へ上記の質問をしたところ、ライバルの語学学校D社を選ぶ方は「朝8時から運営している」ことを理由に挙げたそうです。そこでC社の社長さんは競合の強みを逆手に取り「C社は夜遅くまでやっています、お帰りが遅い方も勉強できます」という運営体制にしたところ、夜型の生徒さんを取り込んで事業拡大できたそうです。

競合の強みを知った上で、競合とは違う自社のサービスを売りにする。
これこそ、マーケティングの「差別化」を実現できた例と言えるでしょう。
競合の強みを学び「違う強さ」をアピールできれば、あなたの扱う製品やサービスも、まさに百戦危うからずです。

次回は、
「売上を6割上げた奇跡の旅館に学ぶ「競合」の考え方」についてご案内いたします。

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トイアンナ
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消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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ビジネスにも多い「差別化ごっこ」:なぜ女性が髪を切っても気付かないのか? 

こんにちは、トイアンナです。
女性のささいな髪形の変化に気付くことができない。これは年齢問わず男性からよくご相談いただくものです。
前髪だけ1cm切った、髪色を少しだけ明るくした……そんな違いに毎回気付くことができる男性がいるならばさぞモテることでしょう。

とはいえ男性も学ぶもの。友人男性はある朝、女性スタッフが出勤してから、得意げにフロアを歩いているのが目に留まりました。こういうときは髪型が変化したときだ、と察した彼。「髪、切った?」と質問したところ「いいえ、髪は何も……変えたのはネイルです!」とたしなめられてしまったそうです。

ネイル、タイツの色、スカーフに化粧……いったいどうやってこんな違いに気付けと? と呪いたくなる、些細な変化を見抜くのは難しいものです。ですがそんな男性も趣味の領域となれば事態は一変。「この時計は盤面が全て手塗りで……」「革靴はパティーヌの最上級品で……」「手帳には結構こだわってて、こいつは各ページに糸綴じ製法が……」うっとりとした表情で語る、こんな男性をご覧になったことはありませんか?
男性だって、自分の好きな分野になればプロ顔負けの微細な違いに気付くことができるのです。

こんな風に、私たちは自分が熱中している部分なら細かな変化を察知することができます。しかしその一方で深い興味を持たない分野で起きた変化に対しては鈍感なもの
ここでビジネスに立ち返って考えていただきたいのが「あなたの製品・サービス」です。

あなたの製品に1番興味を持つのは「あなた」

あなたの製品やサービスへ1番深い興味を持っている人は誰でしょうか。答えは、あなた自身です。
例えばマーカーペンを販売している私の友人は、同じ「赤色のペン」でもインクの色からにじみ、長持ちする度合いまで誰よりも詳しく知っています。彼が扱っているペンは確かにインクがにじみにくいのが魅力です。しかしその魅力を誰も知りません。なぜなら、99%の人にとってペンのにじみ度合いは、深い興味を持たない分野だからです。

同じようなことは、他の業界でも起こります。
・ 他社より1.25倍ゴミをキャッチできる排水溝のネット
・ 今までで一番薄くて丈夫なスーパーの袋
・麻酔が上手な歯医者
・ 自由にメニューを組み合わせられるヘッドスパ

これらは全て同じ業界の人間であれば「すごい差別化だ!」と思うような変化でも、一般人には「どこが違うの?」と思われかねないものです。残酷な現実ではありますが、あなたが10年かけて作った盛大なイノベーションも、お客様から見たときには「女子のネイルが変わった」くらいにしか見られないというリスクがあるのです。

大切なのは「差別化」の伝え方

といっても「技術をどれだけ磨いても、差別化へは繋がらないから研究開発はいらない」という暴論を伝えたいのではありません。
まず、よい差別化とは「メッセージがお客様目線」になっているものです。先ほどの「差別化」は全て、製品やサービスを提供する側の目線でしか違いがわかりません。しかし全て下記のように言い換えてみたら、いかがでしょうか?

・カレーの残りも三角コーナーでキャッチ、排水溝が詰まらないネット
・5kgのお米を運んでも千切れないスーパーの袋
・無痛抜歯を約束できる親知らず専門の歯医者
・20種類のメニューから自由に選べるヘッドスパ

訴求している内容は全く同じでも、より「一般の方が興味を持つ言い方」に変わったと思います。このように差別化のほとんどは言い換えるだけでお客様の心に届く強いメッセージになります。

そもそも「差別にならない」差別化もある

その一方で「差別にならない」差別化もあります。たとえばこんな例です。

・友達を呼んだら300円オフになる割引券…「そのサービス、どこでもやってるよね?」と思われてしまいます。他社でもやっているようなキャンペーンを作っても、差別化にはつながりません。
・ 最寄りの喫茶店がわかる携帯電話の新機能…「それができたところで、何の役に立つの?」とお客様は考えてしまいます。お客様が直感的に今までと違ってすごい! と思っていただけるのでなければ、差別化にはつながりません。

このような差別化のダメ事例は、他業種であれば「なんでこんなのが差別化になると思ったの?」とすぐ気付くものです。しかし実際に自分が携わる製品になるとつい「これこそが差別化だ!」と妄信してしまいがちな落とし穴もあります。

自分が作った製品やサービスはわが子のように愛おしいもの。その子が市場でモテようがモテまいが「なぜ売れないんだ、こんなにいい子なのに」と考えてしまうのはごく自然な感情です。ですがもし、あなたが「市場でモテる」製品を作りたいのであれば差別化の最低条件は、下記を満たす必要があります。

(1)競合と比べて大きな差があること
(2)買い手にとっても「大きな変化」であること

従って、差別化をするためには競合とお客様の深い理解が必要となりますし、できれば製品ができた後ではなく「商品開発を始める前」から熟考する必要があります。差別化に繋がらない研究開発へ多額の投資をしてしまった後では、取り戻すのが難しくなるからです。

次回は、誰でも始められる簡単な競合分析のテクニックをお伝えしてまいります。

合わせて読みたい:男友達止まりの俺と 女を落とすアイツの違いは?「差別化」の秘密

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

「差別化」の秘密:男友達止まりの俺と 女を落とすアイツの違いは?

こんにちは、トイアンナです。
今までに500人以上から人生相談を承ってきましたが、過去にこういったご相談がありました。

「仙台でしがない中小企業を経営している者です。たまに友達とパーティへ行くと「いい人だね」とは言ってもらえますが、いつも男友達止まりです。それに対してルックスも年収も俺より下で、ただの会社員をしている弟は女の子の手をいきなり握ったり、セクハラまがいのことをしたりするのにモテます。こういうのって、何でなんでしょうか?」

答えは、弟さんが他の人と「差別化」できているからです。

「違う」とモテる? 差別化戦略

合コンのように「自分のよさ」を見せたい場面では、みんな無難な「いい人」になりたがります。
「好みのタイプは、優しい人」
「あ、お肉取り分けるね」
「グラスが空になってるけど、もう1杯飲む?」
こういった言葉は「いい人」になりたがる男性がよく言ってしまうフレーズ。こういう発言であなたを悪い人だと思う人はいないでしょうが、誰もがこういう振る舞いをすることで、「たくさんいる男性の1人」に埋もれてしまいます。

ですが、堂々と振舞う男性は別です。モテる男性は「下の名前を呼ぶ」「軽いボディタッチ」など、下手をすると嫌われるかもしれない行動をさらりとやってのけます。もちろん拒否反応を示す女性もいますが「この人、ステキかも」とドキドキする女性も生まれるわけです。
この時点で「合コンに参加してきた5人の”いい人”たちと、1人の気になる彼」という差別化が生まれるのです。

ビジネスでも「差別化」が命

この事例は、仕事にたとえても同じです。身近な例で、コンビニの棚に並んでいる菓子パンを想像してください。
ずらりと一列に100個以上の菓子パンが並んでいる店内で、各企業のパンが自社製品を選んでもらおうとひしめき合っています。
季節限定の桜メロンパン、大食漢の男性も食べたいチキンカツサンド、女性の小腹に入るミニあんぱん……といった涙ぐましい企業努力の中で、誰よりもヒットした企画があります。

それはY社の商品にシールを貼り付け、数十枚溜めると必ずお皿と交換するというものでした。美味しさ、安さ、量と「パンと直接関係した」宣伝が並ぶ中で、なぜかお皿との交換を提案したY社のキャンペーンは、たちまち人気沸騰。今では毎年春になると必ず実施される風物詩となっています。

このように「他社とはちょっと違う」ことをアピールするだけで、商品そのものはたとえ優れていなくても、飛ぶように売れる仕組みを作ることができるのです。

「いい差別化」と「悪い差別化」を知ろう

とはいっても、何でもかんでも差別化すればいいわけではありません。ここで、合コンの事例に戻って考えてみましょう。
合コンで女性から「私、スピリチュアルが趣味で。好みのタイプは前世が武士だった人」と言われたら95%の男性はドン引きしませんか? 
これが悪い差別化の例です。
同じように合コンで男性が「俺、数学の勉強にはまってて。知ってる? xの36乗ってさ……」と2時間語ったとしましょう。
確かに他の男性と彼は差別化されるでしょうが、合コンの二次会も吹っ飛ぶに違いありません。
対していい差別化は「狙った相手の心へ響く」ものです。
合コンで、もし「ほんわかした、優しそうな女性」へ差別化したいのであれば「でも優しくしてるのって、くたびれない?」と相手の愚痴を引き出すといいでしょう。逆にサバサバした、キツめの女性が好きならば友達の口から「コイツ、本当にいい奴なんだけどいい人過ぎて癒し系にしかならないって女に振られたことがあってさ~」と語ってもらえば「私も癒されたいかも……」と心を動かせるかもしれません。

「いい差別化」のために相手を知る

いい差別化をしたいならば、相手のことを深く知らねばなりません。
相手が「この人、今までに会った人と違う!」と思わせるものを提供するためには、今までに出会ってきた商品や人を知る必要があるからです。合コンであれば元彼の話を聞いたり、恋愛観について質問してみたりすると、
「意外とグイグイ引っ張ってくれる男性が好きなんだな」
「前に趣味が同じ相手と付き合って大喧嘩した挙句に別れてるから、全然違う趣味の男性を選びたいんだ」
といった情報を得ることで「いい差別化」を図ることができます。

同様にビジネスであれば、今までにどんな商品を使ってきたかを顧客へ質問します。
過去にどんな商品が好きだったか、あなたの製品・サービスを選ぶ前の「元彼」を聞きだすことで、顧客の「心が動く」ポイントを調べてゆくのです。

次回は「差別化できているつもりで、できていない? 差別化ごっこのリスク」についてご案内いたします。

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com