by ジョアンナ・ウィービー
「あなたが私にしてくれたから、私も同じことを返さなくてはならない義務がある」
これは、私のお気に入りのビジネス書『影響力』の著者である、
ロバート・チャルディーニ博士が定義した、返報性、または恩義という概念です。
返報性とは、チャルディーニ博士のいう、説得戦略の6つの武器のうちのひとつ。
おそらくあなたも耳にしたことがあるはずです。
もし聞いたことがないなら、ここをクリックして、本を買ってください。(もちろん読むのも忘れないで)
返報性とは、説得の行動原理として私たちがおこなうもので、
私たちがおこなうコンテンツ・マーケティングや、無料トライアルのほとんどが、それにあたります。
私たちは、返報性という考え方にもとづいて、相手に気前よくふるまえば、
相手も同じものを返してくれるだろうという想定のもと、
無料のホワイトペーパー(※技術資料や説明書)などを気前よくプレゼントしたり、
ソフトウェアをクレジットカード情報の入力不要でお試ししてもらったり、
こんなスーパー役に立つブログ(えへん)を書いたりしているのです。
ところが、返報性がそんなに効力を発揮するのなら、
どうしてトライアル・ユーザーは、契約してくれないのでしょう?
どうしてもっと私たちの送ったメールを、開いてくれないのでしょう?
どうしてもっと私たちの記事に、コメントしてくれないのでしょう?
2012年、トタンゴの調査によると、
クレジットカード情報の入力不要の無料トライアル・ユーザーのうち、
購入に至った顧客は、わずか15%であったことを報告しています。
また、2013年におこなわれた、製品-市場の合致を達成した小企業712社を対象とした
グルーブの調査では、コンバージョン率の平均を明らかにしています。
この「トライアル → 契約」の数字は、返報性について議論する上で、興味深いものです。
トライアルでは、ユーザーは無償で価値のあるソリューションが得られます。
彼らは贈り物を受け取っているのです。
返報性の法則によれば、今度は受け取った人が、提供者が示してくれた寛大さに応えて、
返礼すべきではないのでしょうか。
あなたが私に、クレジットカード情報を求めることもなく、製品を使わせてくれるなら、
私はあなたと良い関係にあると感じ、私の側からも返礼をすべきだと思うのではないでしょうか?
それこそ、公平だといえます。
正しい行為です。
まさにチャルディーニの言うとおりです。
「あなたが私にしてくれたから、私も同じことを返さなくてはならない義務がある」
であるなら、なぜわずか11%の人しか、無料トライアルから転換するという形で、
お返しをしてくれないのでしょうか?
それとも、89%の無料トライアル・ユーザーは、一度もサイン・インせず、
私たちのソリューションを試してみなかったのでしょうか?
そうかもしれません。
とはいえ、多くの人が返報性に基づいて行動しようとしない理由については、
あなたもすでに考えてきたことでしょう。
その理由の一つが、これです。
もし、お返しもせず、もらったまま逃げてしまえるのに、私が返礼するとしたら、
そこにはどのような動機があるのでしょうか?
消費者としての私は、コストコの試食の大ファン、というわけではありません。
けれどもマーケターとしての私は、大ファンです。
試食が売り上げを2000%も増やすことがわかったのです。
ここにアトランティック誌がレポートした、試食製品の平均的売り上げ増加率があります。
食料品店で試食品を配るのも、サース・ビジネスで無料トライアルを配布するのも、
本質的には同じことをやっています。
試食販売では、試食する人が好みそうな味のものを、提供しています。
だとしたら、どうして冷凍ピザの試食が、6倍にものぼる売り上げの急上昇につながったのに対して、
サース・ビジネスの提供した
1) チーズのかかったダンボールよりずっと価値があるものが、
2) 強い興味を示したオーディエンスに配布されているのに
試してみた人の10分の1しか、契約してくれないのでしょうか。
サース製品が単純に、この地球上で最悪の製品だということなのでしょうか?
私に言わせると、冷凍ピザより憂鬱なものは、ほとんど思いつかないのですが、
実際に人がそれを試してみたところ、ピザの売上げは、天井知らずだというのです。
試食コーナーでは何が起こっているのでしょうか?
無料トライアルの世界では何が起こっていないのでしょうか?
2つの場面を比較してみましょう。
これがコストコの試食コーナーです。
一方、以下はメールの受信箱にあった、ウィンバックのトライアル延長メールです。
こんにちは、ジョアンナ・ウィービー
コ・スケジュール・ソフトウェアのトライアル期間が終了して7日が過ぎました。
製品があまり気に入ってもらえなかったのは理解していますが、
もし差し支えなければ、ご感想をいただけませんか?
考え直していただくためには、私たちは何をなすべきでしょうか。
どうかお考えをお聞かせください。
ギャレット (共同創設者 )
P.S.コ・スケジュールの無料トライアル期間の延長も、まだ間に合います!
お返事いただければ、さらにもう一週間延長いたします:)
決定的な違いがありますね?
一方は、相手(たいていは感じの良い人の)と目を合わせながら、
相手からじかに受け取らなければならないのに対し、
もう一方は、相手からは見えない人のままでいられる、ということです。
このちがいは、試食コーナーであなたの感じる社会的なプレッシャーと、
サースのプロバイダーの前に身をさらさないですむ気安さにほかなりません。
2011年、ブリティッシュ・フード・ジャーナルは、以下の見解を明らかにしています。
試食した人は、試食コーナーのほかの人の存在を強く意識するために、
対象商品を買うよう、一定の「圧力」を感じていると考えられます。
しかも私たちが説得のために、返報性原理に焦点を当てた戦術を「実行」しようとすると、
さらに大きな問題が生じます。
私たちは、返報性とは、私たちの誰もにあらかじめ組み込まれている、
内なる力だと考えています。
その力が、自分のためになることをしてくれた人には、
相手のためになることをせよ、とし向けるのだ、と。
チャルディーニも言っています。
「あらゆる人間の文化は、メンバーひとりひとりに、以下のルールを実行するよう
訓練する。すなわち、“何かを受け取った以上は、返礼をしなければならない”」
けれども、そんなに単純な話なのでしょうか?
それとも……
私たちは、外部のプレッシャーが働くときには、返報性の原理に従う傾向がある?
近年の研究は、この魅力的な仮説にイエス、と言っています。
以下に挙げるのが、重要な手がかりの一部です。
- 利他主義とフェアにふるまいたいという願望は、一般に言われるほど、強力な動機づけではなない
- 顔を出さなければならない時にくらべて、匿名のままでいられるとき、人間は返報性の原理に従わなくなる傾向がある
- 寛大さは、性別や社会的状況を含めた個人の性格によって、変化する
- 自己中心的な行動を取ることが可能で、しかもその行為を隠すことができるなら、人間はそうする傾向にある
- 人間の大半は、分かちあいや返礼を、みずから進んでは行わない
- 人間の大半は、頼まれれば分かちあいや返礼を行うが、できればその要求をすべて受け入れたくはないと思っている
- 私たちは、プラスの働きかけに返礼するより、意地悪には意地悪で、というように、マイナスの働きかけに返礼する傾向が高い
2012年におこなわれた実験では、興味深い結果が得られています。
資金集めの担当者が、戸別訪問でやってくると聞いて、多くの人は
対面で断るより、玄関を開けないことを選んだ、というのです。
このことは、人間が、人づきあいの上であまり好ましくない「ノー」を避ける傾向にあることを示しています。
陰に隠れることができるなら、そちらを選ぶのです。
私たちは、返報しなくてすむのなら、せずにすませるのです。
逆に言えば、社会的圧力を感じる場面、また、
利己的だと思われることを怖れるような場面では、人は返報する傾向が高い、
ということでもあります。
つまり、返報性の原理は、利他主義や公正さの概念からくるものではないのです。
そうではなくて、主要には、自分の社会的イメージを守るというところから来るのです。
では、この情報をあなたはどう活かしますか?
ここにあなたが試してみる5つの方法があります
返報性の原理は、あなたのビジネスにおいても、威力を発揮させることができます。
ただし、試食コーナーを無人にさえしなければ。
アカデミックな環境で効果をあげたことに基づいた、なすべきことをあげていきます。
1. 匿名性を取り除く
あなたの顔を潜在顧客の前に出し、また、潜在顧客にも出してもらいましょう。
同じことは、あなたのサポートチームのメンバーのツイートや、
トライアル・ユーザーに対するメール(理想をいうなら自動応答ではないもの)にもあてはまります。
if-then ルール(「…ならば、~する」というルール)を作成し、
ツイッターで新しいユーザーをフォローしたら、すぐに適用してください。
もしあなたのブランドが、おもにひとりの人物を中心に構成されているのなら
(もしくは、もっと悪いことに、中心となる人物がいないのなら)、
もっとチームの個々人を目立たせてください。
動画配信サービスをおこなっているウィスティアは、すばらしい仕事をしていますし、
経理会社のベンチもそうです。
新しいユーザーに向けて、ウェビナーをおこなう?
ならば、後ろに隠れるのではなく、カメラの正面でおこなってください。
そうして、誰もが好きなあのこと、つまり、セミナーが始まる前と、セミナーの途中で、
あなたにチャットを送ってくる人の名前を呼ぶのです。
アンケートを送るのですか?
その中に、個人的な感情を盛り込んだひと言を加えてみましょう。
ダン・ノリスがこの講演の中で言っているのですが、
相手を褒める言葉と、調査に参加してくれるよう、相手の名の呼びかけを加えたことで、
返信が倍になったというのです。
要点:
もはや「顔のない」会社は、生きていけません。
そうしてあなたの潜在顧客も、顔のない会社など信用できません。
彼らはただ、幽霊のようなあなたの店を通り抜けて、製品を手にとって眺めたあとは、
目に見えない建物からサッと出て行ってしまうだけです。
私は何も、幽霊のようにつきまとえ、と言っているわけではありません。
目に見える存在になりなさい、
無料ユーザーにも、自分たちの存在をはっきり見せなさい、と言っているのです。
2. 得るために与える
チャルディーニ博士の言葉をもう一度、読んでみてください。
「あなたが私にしてくれたから、私も同じことを返さなくてはならない義務がある」
あなたは最初に与えなければなりません。
つまりこういうことです。
PPCランディングページへの訪問者が、ホワイトペーパーをダウンロードする際に、
詳細な情報の入力を求める代わりに、
最初に彼らの求めるホワイトペーパーを、その場で、ページ上で、読ませてあげるのです。
そうやって、先に与えることで、お返しをしたい、という気持を呼び起こします。
訪問者に、全体の半分、または3分の2を読ませてあげるのです
―― メールアドレスを記入してもらう前に。
なぜそれがダメなのですか?
あなたにとって、どれほどのちがいがあるのでしょう?
そのホワイトペーパーが役に立つなら、
彼らはメールアドレスを記入して、最後まで読むでしょう。
ビデオの前に、有料購読者しか進めない壁やゲートを配置していませんか?
ビデオが始まる前に、視聴を制限する代わりに、あるていど視聴してもらったあとで、
そこから先を見たければ、メールアドレスを記入してくれるように頼んではどうでしょうか?
続きが気になるという理由からだけではなく、あなたが先に与えてくれたから、
もっと多くの視聴者が、メールアドレスを記入してくれるでしょう。
人間は、お返しによって物質的な見返りが受けられるとわかると、
もっと返報的なふるまいをするようになるのです。
3. 社会的圧力を導入する
利己的と見られることを望む人はいません。
私たちは寛大で公正にふるまうことを望んでいるわけではなく
― また、そのような動機を持っているためでもなく ―、
罪悪感や、ほかの人につまらない人間と思われて恥をかきたくない、という理由で、
人やビジネスに、お返しをしています。
分かち合いという規範を、公然と破りたくはないのです。
たとえ自分が利己的であっても、利己的な人という印象を、与えたくはないのです。
仮に、あなたが新しいトライアルの登録をしてもらいたい、
実際に、サインインして、あなたの SaaS ソリューションを使ってほしい、と考えているとします。
社会的プレッシャーを導入して、無料でソリューションを試したことに対して、
返礼をしてもらうには、こんな方法があります。
- 良い数字を伝える:「PMソフトを試すために登録された方の90%以上が、このプランを選ばれました」
- その人に関連のありそうな人からの推薦を、写真またはビデオと併せて載せ、知り合いから自分が見られているという感覚を持たせる。
4. 頼む
研究は繰りかえし、人は、頼まれたら厭とはいわないことを明らかにしてきました。
けれども、頼まれなければ、人はやってはくれません。
してほしいことを、頼んでください。
そう、とても単純なことです。
誰の目にも明らかな答えが、正解なのです。
あなたは新規のトライアル・ユーザーに、
あなたのプロジェクト・マネージメント・ソフトウェアを、
起動して使ってほしいと思っているとしましょう。
では、そう頼んでください。
以下のようなイベントに基づいた(イベントはなくても良いのですが)メールで、トリガーを試してみましょう。
こんにちは、〔相手の名前〕さん、
あなたに(会社名)のPMソフトウェアを使っていただいて、
とてもうれしく思っています。
PMソフトは、25の研究に基づいたプロジェクト・マネージメント技術を搭載し、
デザインの名門、ロード・アイランド校出身のUXデザイナーによって
設計されたものですから、
きっとあなたにも気に入っていただけていることでしょう。
いよいよ実際にお使いになる時がやってきました!
ここをクリックして、PMソフトにサインインしていただけませんか?
それからあなたのチームの3人のメンバーを招待して、
一緒に始めてください。
一緒に働くチームとPMソフトを試してみることが、最高のやり方です。
あなたのお手伝いができるのを楽しみにしていますよ、
〔相手の名前〕さん。
あなたの名前
PS:〔相手の会社名〕が、私たちの作っているソフトウェアのファンであると聞いて、
私自身、大変誇りに思っています。
あなたの名前を私たちの「最高に幸せなユーザー」欄で拝見することを、
心から願っています……
潜在顧客に、メールを開けてもらえないのですか?
電話をかけて、メールでやってみてほしい、と訴えることを、実際に頼んでみてください。
ツイートしてもらえないのですか?
ならば、頼んでみてください。
リツィートしてくれない?
それも頼むのです。
忘れないでください。
「大半の人々は、仕方なく分かち合っている。
頼まれたから、分かち合うのであって、
さもなければ分かち合いの要求など、避けようとするだろう」
避けさせてはいけません。
5. 「たいしたことではない」を「喜んでお手伝いする」に
仮に、あなたをサポートしてくれる誰か、またはチームがいるとします。
そうして、彼らはすべきことをやります。あなたを助けてくれるのです。
サポートチケットが解決してくれたなら、ユーザーは彼らの助けに感謝するでしょう。
あなたのサポートをしてくれる誰か、またはエンジニアは、それに返事をしてくれていますか?
最高の結果を望むのなら、「あたりまえのことをしただけです」とか
「たいしたことをしたわけじゃありません」などと言うべきではありません。
ノリスは返報性原理を働かせるには、
誰かを助けたあと、そのインパクトを弱めるようなことは避けるように言っています。
その代わりに、あなたが相手に贈り物をした、という事実を強めるような言葉を遣うように、と。
ノリスが勧めるのは、こうした言葉です。
「お手伝いができてうれしかったです」
「あなたのお役に立てて、私もうれしいです」
「友だちだったらこうするだろうと思ってしたんです」
あなたが役に立つ人間であるということを、過小評価してはいけません。
説得のテクニックとしての返報性についてのチャルディーニの議論で、
重要でありながら、おそらく過小評価されているのは、この点です。
「人間は、恩義がある人に対して、イエスと言う」
つまり、親切に対して返報しなければならない人には、
「あなたは親切にしてもらったんですよ」と教えてあげる必要がある、ということです。
彼らには、恩を受けていることを知らせる必要があるのです。
返報性の原理は、あなたのビジネスで効果を発揮します。
あなたは外発的動機づけとなるものを、強めに押さなければなりません。
あなたの親切に応えようとする、内発的動機づけに任せているだけではダメなのです。
そうでないと、あなたは確実に、人間性に対する信頼を失うことになるでしょう……
著者:ジョアンナ・ウィービー(コピー・ライター)
元記事:http://bit.ly/1Di1Uh8
(翻訳:服部聡子)