スティーブ・ジョブズから学んだ交渉のヒント

by ピーター・コーハン

 

 

2007年、アップルの最初のiPhoneが販売された当時、携帯電話はすでに大きな市場でした。

ところが2009年までには、アップルは携帯電話市場の30%を占めるまでになっていました。

ジョブズはどうやってAT&Tを説得し、 アメリカでのiPhoneを提供する排他的販売契約と引き替えに、

画期的な契約を結んだのでしょうか?

 

ラジ・アガーワルがコンサルティング会社アドベンティスの電気通信部門に在籍した当時、

ジョブズと数ヶ月間、週に2度の割合で会っていた、といいます。

8月におこなった私とのインタビューで、アガーワル氏は、

スティーブ・ジョブズがどのようにAT&Tを説得し、iPhoneを提供するために、

先例のないレベニュー・シェア契約を結んだかを説明してくれました。

 

ハーバード・ビジネス・スクールの事実記載書によると、

アップル社は2010年、アメリカ国内での独占オペレーターであるAT&T社と、

先例のないレベニュー・シェア、 すなわち、iPhone契約者1人当たり10ドルを受け取ること、

配布、価格、商標はアップルが管理する、という内容で合意した、 とあります。

 

「2005年初め」に、アドベンティス社のコンサルタントとして

ジョブズと仕事をおこなったアガーワル氏は、 このように語っています。

 

「ジョブズはAT&Tと、契約をうまく結ぶことができました。

 

というのも、彼が iPhone 細部にいたるまで関与していたことと、

通信キャリアとの関係を築こうとする努力、 他人には法外とも思えるような要求を貫こうという意志、

自分のビジョンに、大きなリソースを賭ける度胸があったからです」と。

ここに、スタートアップを考えている人が応用できる、 ジョブズの3つの戦略を見てとることができます。

 

 1. カギとなるものを細部まで掘り下げる

 

 

優れた起業家は、 スタートアップが確実に軌道に乗ることができるよう、

細部に至るまで、あらゆることを把握しておきたい、という衝動と、

社員に仕事を任せる必要との間で、 うまくバランスを取っていかなければなりません。

 

とはいえ、細部を徹底的に掘り下げる必要に迫られる場合もあります。

とりわけスタートアップの将来がかかっているような場合には。

アガーワル氏は、ジョブズと、戦略の実行をほかの人に任せていた 多くのCEOとが

異なっていたのを指摘しています。

 

「ジョブズはすべての通信キャリアのCEOと、個別に会っていました。

私は彼の、直接実務に参加しようという気概と、

会社のやることを、あらゆる面において成功させよう、という激しい情熱に打たれました。

彼は自分が従事して来たことに、細部まで徹底的に関わっていました。 彼がなしとげたのです」

とアガーワル氏は言います。

 

 

 

2. 自分のビジョンに大胆に賭ける

 

あなたが自分のスタートアップの将来を、ビジョンとして思い描くタイプの起業家ならば、

自分のビジョンをシェアしてくれるよう、他者を説得できない限り、 先は見えていることでしょう。

これまで部下やビジネスパートナーに対して、できる限り説明したけれども、わかってもらえなかった、

というのであれば、そのビジョンがこのスタートアップの未来にどれだけ重要であるか 納得させるための、

大胆な一手が必要となるはずです。

 

アガーワル氏は、ジョブズが自分のビジョンを理解してもらうために、

リスクを進んで引き受けようとする態度に、感銘を受けたといいます。

 

「会議室でのあるミーティングで、ジョブズはAT&Tが契約のリスクを心配して、

あまりに時間をかけるのにいらだっていました。

そこでジョブズはこう言ったのです。

 

連中の不平を止めさせるために、どうしたらいいかわかるだろうか?

AT&Tに10億ドルの小切手を切ればいいんだよ。

もし契約がうまくいかなければ、相手はそれを取っておけばいい。

AT&Tに10億ドルを渡そうじゃないか。

(※当時アップルは現金で50億ドルの所有がありました)

そうすれば不平も止むだろうし。

 

アガーワル氏は当時をこのように回想しています。

 

ジョブズが実際に、AT&Tに現金を渡すことはありませんでしたが、

そうしてもかまわない、という彼の確固とした意志は、アガーワル氏に強い印象を残しました。

 

 

 3. 途方もない要求を出し、そのために戦う

 

もしあなたに、業種を転換しようとしている、といううわさがあるなら、

途方もない要求を出したとしても、 その要求に応じてくれる人が現れるかもしれません。

 

ジョブズがAT&Tとの契約からそんなにも多くのものを引き出すことができたのも、

そのせいだったからかもしれません。

 

けれども、見方を変えれば、ジョブズが結果的に成功できたのも、

ジョブズの法外な要求と、そのために戦おうとした彼の意志があったからこそ、とも言えるのです。

 

アガーワル氏は、途方もない要求をぶつけてくるところに、

ジョブズのユニークな点を見ています。

 

その説明によればジョブズはこのように言ったといいます。

 

月額50ドルで、無制限通話、データ通信、

ショートメッセージサービスプランの一切を含む。

これが私たちのミッションです。

私たちはこれまで誰もすすんでやろうとしなかったこと、

現状を度外視する、ということを、

望み、求めていかなければなりません。

 

彼はこうした法外な要求を思いつくと、 そのために戦い、戦ったことで初めて得られるような、

多くのものを手に入れてきたのです。

 

あなたは第二のスティーブ・ジョブズにはなれないかもしれません。

けれども、この3つの戦略を学ぶことで、よりよい起業家になることができるはずです。

 

 

 

著者:Peter Cohan (著作家・投資家)


 

元記事:http://bit.ly/1LE1qcp

(翻訳:服部聡子)