意味の意味
by ガイ・カワサキ
元記事:http://bit.ly/1QJhQ2M
(※著者の承諾を得て翻訳しています)
私は評判や名誉のことを考えて、曲を書いたことがない。
心の中にあるものを外に出さなければならないからだ。
だから私は作曲する。
――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
私がベンチャー・キャピタリストだったころ、
金儲けを第一目的にして起業した人々は、たいてい失敗していることに気がつきました。
というのも、金儲けを目指す起業家が引き寄せることができるのは、
金儲け以外には関心のないような人だけ。
その会社がすぐに巨額の利益を出さないとわかると、(実際、そんな新規事業があるはずがないのですが)
彼らはさっさと別の猟場を探しに行ってしまうからです。
会社を立ち上げる前に、厳しく自己分析することをすすめる人は、多くいます。
確かにそれは良いことではあるのですが、 起業しようとする人は、たいてい自分に対して間違った質問をしています。
長時間、低賃金で働くことができるだろうか?
断られ続けても、粘り強く働きかけられるだろうか?
大勢の従業員に対する責任を果たすことができるだろうか?
実のところ、このような質問にあらかじめ答えることは不可能です。
しかも、こうした問いには、さほど意味がないのです。
言葉だけ、強がってみせるだけなら安いもの。
「やってみせる」という言葉は、実際にやることとは関係ありません。
他方、自分に対する疑いの念や、不安がある人が、かならずしも企業を大きく育てられないわけでもありません。
こうした質問にどのように答えようと、 いいアイデアが生まれたとき人が実際にどう行動するかは、 何も教えてはくれないのです。
そのときになってみるまでは、そんなことは誰にもわかりません。
実際、そのときですら、わからないこともあるのですから。
新しい事業を始める前に、 自分自身に問うてみなければならない重要な質問はこれです。
自分は意味のあることがしたいのだろうか?
Photo By:Matt Kowal
「意味がある」 ということの意味
意味がある、とは、お金や、力や、名声のことを言っているのではありません。
そんなものでは、楽しい職場を作ることさえできません。
「意味がある」という言葉の意味は、 世界をより良いところにする ということです。
これには、ふたつのやり方があります。
第一に、何か良いものを、作りだしたり、使えるようにしたり、 増やしたりする、ということです。
たとえば、Macコンピューターは 人々の創造力と、生産性を向上させました。
グーグルやウィキペディアは、実質的に無限の情報に、
豊かな人も貧しい人も、誰でもがアクセスできるようにしました。
第二に、何か悪いものを防いだり、なくしたり、減らしたりする、ということです。
たとえば、テスラは大気汚染と、私たちの石油依存を減らそうとしています。
パランティアやその他のサイバー・セキュリティ起業は、私たちのコンピュータに侵入しようとする悪者を防ごうとしています。
「意味」 を持つ人の強み
世界を変えたい、という情熱は、厳しい道を進もうとする人にとって、 とてつもないほどの強みとなります
というのも、高い目標を掲げている人は、 単に金を儲けたい、というだけの人より、
エネルギーが生まれてくるものだし、 才能ある人を引きつけられもするからです。
それに、もし意味を作りだすことができたなら、 自然な帰結のひとつとして、収益もあがっているはずです。
私が「意味の意味」を理解するようになるまで、20年かかりました。
1983年、アップル社のMac部門で第一歩を踏み出したとき、
私はIBMを打ち負かし、セレクトリック・タイプライター・ボールを作っていた頃の
タイプライター事業に逆戻りさせてやろうと考えていました。
1987年になると、こんどはウィンドウズとマイクロソフトを 潰してやろうと思っていました。
やがて私も、こうした野心が、愚かとまでは言わないまでも、 くだらないことだと気がつくようになりました。
競争心を抱いていては、ほんとうに大切なことから目がそらされてしまいます。
立派な組織のDNAには、「意味のあることをしたい」 という情熱が、含まれています。
顧客や従業員のために、 世界をよりよいものにしたい、という 「意味」 が。
この情熱は、成功を保証してくれるものではありません。
でも、仮に失敗したとしても、 少なくともその失敗には、やっただけの価値はあったのです。
ですから、会社を立ち上げようと考えている人は、 自分の送り出そうとする製品やサービスが、
どのような意味を持つのかを明らかにして、 それを出発点にしてください。
(翻訳:服部聡子)