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「雨が多いイギリスで傘を売るな」マーケティングで欠かせないヒアリングの技術

こんにちは、トイアンナです。
私は現在イギリスに住んでいますが、日本製品は食事から雑貨まで高品質なことで知られ、愛されています。特にトレンドへ敏感なロンドンではいたるところに寿司屋やラーメン店があり、異国感が薄れてしまうほど。

雑貨ではMUJI(無印良品)、UNIQLOが名だたるブランド品と並んで出店しており、特にUNIQLOのヒートテックは大ヒット商品となりました。

このような成功例を踏まえ「同じように高品質なものをヨーロッパへ出せば売れるのではないか」と日本企業の多くが進出を試みています。しかしその多くは辛くも惨敗し、撤退せざるを得ない現状があります。なぜ日本の製品は素晴らしいのに、現地で売れないのでしょうか。

今回は「自分が知らない分野」へ進出する際にありがちなマーケティングの失敗例と回避術をお伝えします。

雨が多い国だからと傘を売ろうとする国、日本

イギリスは雨と霧の国――そう聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。昨年はドラマ『シャーロック』が流行りましたが、その中で多くの殺人事件やバトルシーンが霧の中起きていました。

そうすると、日本企業の担当者はこう考えます。「イギリスは降水量が多い? だったら日本の傘はよく売れるに違いない。ざっと調べてみたが、イギリスの傘は粗悪でデザインもシンプルすぎる。日本の傘は丈夫でコンパクト、さらにデザインが豊富。さらに手軽に買える値段でもある。これなら輸出するだけで売れるはずだ」

そう考えて傘を売ると、これがさっぱり売れません。それもそのはず、イギリス人は雨が降っても傘を差さないのです。

浅いマーケティング分析では測れない真の需要とは?

イギリスの雨は日本と違い、ぽつぽつと大人しく降り、そしてすぐ止みます。1日中雨の日は珍しく、長くて1時間で止むのが特徴。むしろ雨は降らないままどんより曇りだけが続くことも珍しくありません。

こういった雨が多いと、傘をいちいちさすのも面倒くさいからと、折り畳み傘を持ち歩く人も少ないのです。

道端で雨が降りだしたときイギリス在住者が取る反応は以下の2つ。
(1) 気にせず歩き続ける
(2) カフェにでも入って雨がやむのを待つ
これでは雨で売上が上がるのは、傘より駅近くのカフェでしょう。

イギリスでは傘が売れない代わりに、防水ジャケットとカバンがよく売れます。傘をささずに歩き続ける雨の中で、パソコンやお菓子を持ち運ぶならカバンに防水機能が欠かせません。日本のようにオシャレで口の空いたバッグなど持ち歩いてはあっという間に水で中身が濡れてしまいます。

一時日本のランドセルがイギリスで売れていると話題になったことがあります。これも売れるのは納得。防水性・軽さ・丈夫さのどれもがイギリスの気候に合っているからです。

売れる商品、集客できるサービスの裏には必ず消費者のニーズに合ったマーケティング戦略があります。そして正しいマーケティング戦略は「〇〇だからXXが売れるだろう」という机上の空論ではなく、地道なヒアリングで成り立っています。

「現場の消費者にこそ売上アップの答えがある」というマーケティングの考え方は、営業を経験された方にとっては腑に落ちるのではないでしょうか。マーケティングとは多くの日本企業が強みとする営業力を、取引先の代わりに消費者へ向ける技術です。

真実はヒアリングの中に

もしこれまでに「マーケティングは会議室で話し合うばかり。営業しか現場を知らないんだ」とお考えになっているのであれば、それはこれまでに接触したであろうマーケターが与えてしまった誤った印象です。マーケティングを生業にするものの一人として、こういう誤解が生まれたことを申し訳なく思います。

正しいマーケティング戦略の基盤は、営業と同じ現場にあります。マーケティングにとっての現場とは顧客・消費者の声です。

マーケティングでは消費者が「これなら絶対に買う」と仰っていただくことが、営業にとって「よし、うちで扱おうじゃないか」とお取引先に確約していただくことに等しくなります。

多くの企業では何も考えず飛び込み営業をするよりも、長期的に利がありそうなお取引先を選んでからご挨拶へうかがうでしょう。マーケティングでやみくもに傘を売らず、自社の製品が好まれそうな地域や消費者を探すのも同じことです。

イギリスへ傘をやみくもに輸出するような失敗を避けるためにも、すべての企画に先駆けたヒアリングは欠かせません。もしマーケティングへ割くことのできる予算が限られているのであれば、リーフレットやWebサイトを作る費用を後回しにしてでも、ヒアリングへ真っ先に予算を割いてください。

ヒアリングは明日の利益にはつながらないかもしれませんが、1年後、2年後に歴然とした差を生みます。手っ取り早い果実よりも大きな成功を目指すため、消費者の声へ耳を傾けていただければ幸いです。

 

 


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

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集客を考えるときはマーケティングと「善悪」を切り離そう

こんにちは、トイアンナです。
マーケターとして仕事をしていると、たまに「天才だ」と思わされるマーケターに出会います。たとえばドナルド・トランプは天才の一人です。正確に言えば、ドナルド・トランプのバックにいて、彼の原稿や発言を管理している有能な秘書たちでしょうか。

トランプ大統領は就任直後、いきなりイスラム教徒が多い国籍保持者を入国拒否しました。数百万人単位のデモを起こし、世界中で混乱と批判を浴びているトランプの何が天才なのか?と思われることもあるでしょう。

しかしアメリカ国民に対して行われた調査では、トランプの入国拒否手続きを支持すると答えた層が反対を上回っています。

彼にとって一番重要なのは自国の支持率を維持することですから、いくら裁判所がNOを付きつけようが、目的を達成するために正しい戦略を取ったと言えるでしょう。

彼のしたことは現場の担当者へ大混乱を招きましたし、何よりビザを持つ人間すら拒否したため裁判所から合衆国憲法違反と判断されました。さらに何も悪いことをしていないのに空港で追い返された多くの人を傷つけたという意味で「正しい」「正しくない」の天秤にかけるなら「正しくない」と感じる方も多いはずです。私もリベラル寄りなので政治的信条からすると彼の行為は絶対に許せないことです。

その一方、マーケティングという目線で語るなら彼の戦略はあまりに的確で、舌を巻きます。

マーケティングでは「正しさ」を問わない

マーケティングは「正しさ」「正しくなさ」に関係なく目標を達成するための道具です。
ところが自社のマーケティングや集客を考える上で、まずは頭を柔らかくしてどんなアイデアでも自由に出してみましょう――と言われても

「これはウチのポリシーに反するから」
「いくら売上のためだからってこれはできないよ」

と、「正しい」「正しくない」でアイデアの幅を狭めてしまう方が少なくありません。特に同じ業界で長くお勤めなら慣習やしがらみもあり、なかなかこれまでのやり方を無視できないはずです。

けれど、思いもよらないマーケティング戦略は正しさやしがらみ、常識から外れたところに生まれます。たとえば機能が劣ってもいいからカッコいい動作を追求しようと、携帯電話業界の常識を無視して登場したのがiPhoneです。iPhoneにはデコレーションメール機能や着メロの音質といった「当時ガラケーの会社が当然備えるべきと考えた機能」は何一つありませんでした。

iPhoneが海外製品だったから勝てたというわけではありません。日本の例ですと、雑誌なのに「読まれなくていい。付録目当てで買ってもらう」という新しいコンセプトで爆発的に売上を伸ばした女性誌『InRed』があります。男性に身近なケースでは、ビールなのにアルコール分ゼロを売りにしようという新しい発想で生まれたのが『キリンフリー』は記憶にあるかと思います。

「正しい」「正しくない」やこれまでのしがらみを一度すべて忘れ、新しいアイデアを出すことで大ヒット商品は生まれてきました。

このように型にハマらないヒットの卵を産むためにはスティーブ・ジョブズ並の天才社員、もしくは何でも提案できる社風づくりが欠かせません。「とんでもないこと言い出しやがって」と部下を叱る前に「待てよ、もしかすると面白いかもしれない」と一度採用してみる。こんな心意気が、ヒット商品へ繋がります。

「どうすればできるか」を考える

さて、企業によっては「スティーブ・ジョブズ型の天才ばかりを雇用する」ところもあるかもしれませんが、アイデアを出しやすい仕組みづくりを行う企業の方が日本では多く見られます。そのため多くの企業がボーナス付きのアイデア公募制度を用意しています。公募制度を実施する際はボーナスだけでなく、社内で不利益を被る人が出るアイデアでも投稿者が報復人事にあったり、嫌がらせをされたりしない仕組みが必要です。

アイデアを全社員が出しやすい土壌を作ったところで、次に常識破りの面白いアイデアが出てきたとしましょう。しかしそのまま世に出してはトランプ並みの波紋が業界へ起きます。また、奇抜なだけのアイデアは話題こそ呼ぶものの実際の集客へ繋げるのは難しいものです。

そこで、まとまった時間を取ってからアイデアを並べ、「どうしたらアイデアを活用して集客を実現できるか」「どうしたらしがらみや慣習を突破できるか」を考えてみるのが、マーケティングのやり方です。

面白いアイデアの中から、目標(売上・利益)を達成できそうなものを選び、さらに業界からも「最初はびっくりしたけど、ありゃ面白いね」と言われるサービスや製品をこの世へ出せるかには、会社としてどこまでリスクを取れるか覚悟が求められます。

冒頭のトランプであれば「たとえ大反発を招いても、支持率を稼げるなら目標達成だ」と判断し、リスクを取ったと思われます。トランプほどの反発を招く行為は私が御社のマーケターならオススメしませんが、それくらいの胆力があればどんな「正しさ」も超えて優れたマーケティングアイデアを出せるはずです。まずはアイデアを出せる制度作り、御社で考えてみませんか?

トイアンナ「マーケティング深化論」目次


トイアンナ:

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

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マーケティングの集客を成功させる秘訣は「季節感」

こんにちは、トイアンナです。
大変遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。日本にお住まいの方であれば、新年には家族でおせちやお餅を召し上がったかと思います。つまりおせちを作るお弁当屋さんやお餅を生産する工場にとっては12月~1月が儲けどきと言えます。

もっと市場が潤うのはクリスマスです。ギフト商品からラッピング、飲食店からヘアサロンと、恩恵を受けた方も多かったのではないでしょうか。

このように「季節感」は売上アップを考える上で欠かせない要素です。季節のイベントへ便乗することでいつもより売上や集客を確保できますから、時期を絞って広告費を集中投下するマーケターも多くいます。

この記事では2016年、季節を利用して成功したマーケティングの事例を振り返りつつ自社にも応用できる成功の秘訣をお伝えします。

「季節感」の利用例1 夏も売場を独占する空気清浄機

まずは昨年「ドヤ家電」と流行した蚊取り機能付き空気清浄機を見てみましょう。

一般的な空気清浄機の売上が上がる季節は春と夏。どちらも花粉が飛ぶ時期です。春には飛ぶように売れる空気清浄器ですが、夏には家電売り場の奥へ引っ込むさだめ。代わりに家電屋のメイン売り場には除湿機能つきのエアコンや扇風機が並びます。

その運命をひっくり返したのが、蚊取り機能つきの空気清浄機でした。虫を引きよせるUVライトで引き寄せ、空気清浄機の力で吸い込むという極めてシンプルな機能を付けました。春の花粉から夏の蚊取りまで、季節感を応用して2シーズンの売り場を確保したのです。

さらに「有害物質を使わず蚊を除去したい」ニーズに応えた製品は大ヒット。長年売上低迷に苦しんできた発売元のシャープにとって、久々のポジティブなニュースとなりました。売り場を確保する営業力と、季節感を活用したマーケティングの融合による成功例と言えるでしょう。

「季節感」の利用例2 クリスマスに売上を伸ばしたパン屋

次に海外の事例より、クリスマスを活用したマーケティング集客テクニックをご紹介します。

クリスマスは日本人がケンタッキーでお買い物して、ケーキを買うのが一般的です。同様にイギリスには七面鳥やクリスマスプディング、パイなどの定番メニューがあります。これらの店舗が爆発的に売れる一方で、普段より売れなくなってしまう飲食店もあります。たとえば普通のパン屋さんは、12月にプディング需要のせいで売上を落とすのが通例でした。

ところが同じ季節感を活用し、この運命をひっくり返したパン屋があります。グレッグズというパンのチェーン店は、普段なら閑散期になる冬を狙って「チキンの香り」「パイの香り」を付けたリップを無料配布しました。
http://metro.co.uk/2016/12/15/greggs-is-now-doing-lip-balms-that-taste-like-mince-pies-and-festive-bakes-6324801/
「クリスマスにパンを買う気は起きないけれど、クリスマス関連グッズなら興味が湧く」というインサイトを利用したのです。この無料配布で「クリスマスの香り」が欲しいとパン屋へ人が戻っただけでなく10誌以上にキャンペーンが掲載され、高いPR効果も手に入れました。

通常、サンプリングは自社製品を配るだけのことが多いのですが、季節感を取り入れるためあえて「クリスマスの香り」を集客に利用した好例です。

「季節感」を上手に使う方法

このように季節感を上手に使えば、普段は閑散期として諦めていた売上を爆増させることも夢ではありません。ただし1点だけ注意事項があります。闇雲に「季節限定」といっても売れるわけではないのです。極端な例ですが「春限定!五寸釘セット」があっても売れないのは容易に想像できるでしょう。

これらは、ベンチャーから中堅企業でも少ない予算で始められる「季節感」の条件です。

(1)  すでに盛り上がっているイベントへ便乗する
バレンタイン、ハロウィン、クリスマスなど、国民全体の財布のひもが緩むイベントへ便乗しましょう。ゼロからイベントを作って認知させるには大型投資を必要とするからです。

(2)  自社を使ってイベントを「盛り上げる」
事例でご紹介したパン屋が「クリスマスの香りのリップ」を配ることはパンと何の関係もありません。しかしクリスマスの盛り上げに貢献したことで売上に繋がりました。

新しい季節感のあるマーケティング企画を立てるなら自社製品を押し出すことより「どうすればイベントをもっと盛り上げられるか」を考えます。お客様は「イベントでもっと盛り上がるもの」を広く探していますから、自然と普段は来ない層も来客を見込めます。

(3)  他社にない試みで季節を盛り上げる
たとえば今からカフェが「桜のラテ」を考えても、スターバックスのコピーになってしまい爆発的な売上は考えられません。同業では始まっていない試みにチャレンジしてみましょう。同じカフェ×春の季節なら「お花見用ランチボックス」などいかがでしょうか?

世界中で集客に利用されている「季節感」を利用したマーケティングで、きっと御社もヒット商品を生み出せます。季節を盛り上げて、ますますのご繁栄をお祈りしております。

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toiannaトイアンナ

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
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マーケティングはピンチを操る 英国のEU離脱を活かした集客ビジネス

こんにちは、トイアンナです。
私は今年よりイギリスに住んでいますが、ブレグジット(英国のEU離脱)が決まったときは国全体が「しばらく終わりだ」という沈痛なムードに包まれていたのを思い起こします。イギリスはブレグジットが決まってから一夜にしてポンドが暴落。実に2/3の価格となりました。つまり、国の価値の1/3が吹っ飛んだのです。

もともとブレグジットが起きた背景は「テロや犯罪を起こしそうな移民はいらない」という排外感情。EUから移住している外国人も事によっては帰国せざるを得なくなります。さらにヨーロッパ金融の中心地という立場も失うため、経済は冷え込むと予想されていました。これがポンド暴落として現れたのです。

ところが、そんな危機を乗り越えるどころか、むしろ追い風にしたビジネスがイギリス国内にありました。外食産業です。今回はその外食産業がいかにマーケティングを駆使して集客を成功させたかをご紹介します。

イギリスは「おいしい」!?

さて、「イギリスといえば」と質問されれば紅茶、クラフトビール、そしてまずいご飯……と連想ゲームで出てきてしまうほど、ご飯のマズさは有名です。私も渡航して現地のミシュランガイドを買い、まさかの見開き2ページでロンドンの星付き店が尽きたときは絶望したものでした。

ところが実際に食べ歩いてみると、「グルメの首都」と称賛される日本ほどではありませんが、以前に比べて「おいしい」店は確かに増えている印象です。おそらくはこれ、EUの賜物。イタリアやスペインなど食事が美味しいEU圏国家からの移民に、香港統治時代から移ってきた中国人などが腕を振るっています。さらに食べる側にも移民がいることから味への要求水準が上がり、かなり改善されています。

そしてブレグジットが決まったとはいえ、すぐさま「はい、もう出て行ってくださいね」と法律が一朝一夕で変わるわけでもありません。現在もEU市民はロンドンを中心にその手腕を発揮しています。むしろブレグジットで変わったのは、イギリス人の振る舞いでした。

ブレグジットに便乗した外食産業

ブレグジットから発生したポンド安を理由に、イギリス人は海外旅行へ行かなくなりました。弱くなってしまったポンドでは豪遊できないからです。ブレグジット前はわずか数千円払えばヨーロッパへの航空券を買えた彼らも、今年は控えめに

その分の娯楽費が、国内へ回ります。今年のイギリス人は休みの日や特別なお祝いを国内のパーティや外食で済ませることにしました。その結果、にわかに国内の外食産業が昨年比12%もの盛り上がりを見せています

さて、このチャンスをつかんだのがデリバリー業界でした。イギリス人はもともと料理をあまりしません。専業主婦でもピザを温めるくらい。であれば、レストランは看板に「配達も承ります」と付け加えた方が得策です。マーケティングに長けた企業はいち早く自転車でのデリバリーを開始しました。食事は温かいうちに届けなくてはいけないため、バイクや自家用車で遠征するより近隣に素早く届ける方が喜ばれます。集客に長けたレストランは「店内の回転数以外」で売上をたたき出したのです。

Uberによる代理デリバリーも

そして、さらにマーケティングの才覚ある企業が存在しました。ウーバー・テクノロジーズが運営するタクシーのブランド、Uber(ウーバー)です。Uberはデリバリーをする余裕がない飲食店のために自社スタッフによる代理デリバリーサービスを開始。日々の食卓から豪華なホームパーティまで、デリバリー文化を一気に広めました。このサービスは日本へも上陸。東京の一部地域で利用できます。

Uberのサービスは簡単に言ってしまえば、お店の料理を家まで自転車で運ぶだけ。そんな単純なニーズがこれまで世界中で満たされていなかったのです。このようにマーケティングでは「誰もが欲しかったのに気づいていなかったニーズ」を満たすと、一気に集客を獲得できます。

優れたマーケティングはピンチからチャンスを見つける

このように、一見誰もが「もうだめだ」と落ち込むような経済や政治状況であっても、巡り巡って集客、販促のチャンスをつかむことはできます。そのために必要なのは、チャンスを見つけたときにすぐ動くこと。さらに言えば、いざとなったらすぐ動けるような稟議・承認システムを用意することです。

マーケティングではよく「シンプルなものが強い」と言われます。売上に繋がるコンセプトやキャッチコピーもそうですが、社内のしくみもシンプルであれとよく言われます。これからを生き抜くため、変化へ迅速に対応すること、「誰もが欲しがっているのに気づかれていないニーズ」を発掘するのと同時に、チャンスを見つけたらすぐ投資できるよう無駄な承認システムを削ることが成功への近道です。

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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会社が盲目になって道を踏み外すさないために

ここのところずっと、このことを考えてきました。
つまり、企業は一体どこで道を踏み外してしまうのだろうか、という問題です。WELQやまとめサイトのコピー記事で、企業倫理が話題になっています。チームが増え、事業部が増えていけば、経営者が目を通せる内容は限られてきます。末端まで企業倫理を浸透させ続けることができるかどうか、他人事ではなく、私自身も含めすべての経営者にとって非常に怖い問題ではないかと思うのです。

企業にとって、利益を上げることは「善」です。使命です。ROIを上げることは経営の至上命令です。出資した株主に対してリターンを戻せないことには、人間失格の刻印を押されます。自社を高額で売却することは、経営者としての手腕であり、最も評価される部分です。

と、ここまで書いてくれば、おわかりでしょう。
若い人生経験も少ない経営陣にとって、社会から求められる「善」をまっしぐらに追求した結果が、 WELQの村田マリさんであり、高額アフィリエイターであり、情報商材やマルチ商法であるわけです。彼らをもてはやしながら何かあればさっさと突き落とす。この構図はいつもよく見るパターンです。国の予算をバッサリ丸ごと持って行く広告代理店さん、そして大勢に影響のない個人を攻撃する大手メディアのお得意の構図です。

個々の方々は、才覚があり、優秀な方々だと思います。
だた、長く成功し続ける企業人と、一つだけ差があるとすれば、それは「経営者の品格」ではないでしょうか。そして、その「経営者の品格」とは何かを、深く深く追求した結果、ジェイエイブラハムは「卓越論」を著しました。多くの経営者と接してきて、一時はうまくいってもやがてどこかでつまづく。一方でそれほど急激に頭角を現さず目立たないが、やがて大きな成果を上げていく経営者がいる。その差は何かを知りたくて、非常に長い時間をかけて優秀な経営者にヒヤリングした結果、あのレポートが出来上がりました。

社員はいち早い利益化を急ぐものです。実績を上げ、成果を手にし、少しでも豊かな暮らしへと邁進する。それが本当に素晴らしいスタッフです。でも、それだけではないことを、経営者は言語ではなく「振る舞い」において示し続ける必要があるのです。結局のところどこから登っても、経営の道は「卓越論」に行き着くのです。それを深く掘り下げ、社員に徹底していく。苦しくてもぶれない姿勢が経営者には必要です。

ですので、経営のバイブルとして今でも世界各国で読み継がれるのでしょう。ぜひ手にとってお読みになっていただきたいのです。一流の経営者の方々が、膝を打ち、チーム教育に取り入れたいと思われるはずです。もし何もひっかかるところがなければ、それは逆に自らの経営理念を疑う必要があると思います。人は成長すればするほど、物事を深く読み取れるようになるものです。

さて、原題:Strategy of Preeminenceですが、過去には「卓越の戦略」と訳されていましたが、タイトルがジェイエイブラハム本人の意図するところから外れるのではないかということで、「卓越論」としました。Strategyは確かに「戦略」ですが、この頃は、ドラッカーが戦争用語の「戦略」を経済用語に取り入れたばかりで、まだ一般に浸透しておらず、現在のような使い古されたコンサル用語ではありませんでした。またジェイエイブラハムはその意図を、「理念」というような意味で逆説的に使っています。その深い意味を鑑み、あえて薄い意味に捉えられがちな「戦略」を外し、「論」としました。その経緯もきちんと新訳には解説してあります。

翻訳チームが頭を抱えながら精進した、ジェイエイブラハム翻訳の経験を全てつぎ込んで新たに訳し直し、「経営塾2016テキスト」に収録しました。その和訳の意図や悩んだ箇所も、注釈をそのまま入れました。聖書のように長く読み解いていただければ本望です。メンタークラブでは地域の勉強会でも取り上げます。

 

 

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島藤真澄 (ShimaFuji IEM代表)

フォーブス誌選出全米5大ビジネスコーチ,ジェイ・エイブラハムの
東アジアディレクター(交渉代理人)。
ジェイの『限界はあなたの頭の中にしかない』PHP研究所を企画・翻訳。

 

成功する美容室の秘密は「ホワイトスペース」

ご自宅の最寄り駅に、美容室は何軒ありますか?
私が大学時代に住んでいた東京ののどかな住宅街は、駅前に美容室が4、5件もあって
「さすがに多すぎないか」と考えたものです。

当時はマーケティングの知識もなく、美容室はさぞかし利益率が高くて、
顧客の人数が少なくても経営できるんだろうなあ、なんてマヌケな予測を立てていました。

感覚だけでなく、データからもすさまじい美容室の軒数が把握できます。
平成24年のデータによれば、美容室の件数は23万。1,134550人に1軒美容室がある計算です。

そう思うと「あれ? まだ余裕がありそう?」と思うかもしれませんが、
あれだけどこにでもあるコンビニですら全国に約52,000軒しかありません。

他国と比較しても、私が住むイギリスには約1600人あたり1軒の美容室がある計算。人口当たりの競争率は3倍。
日本の美容師さんは、熾烈な競争へ巻き込まれています。

その一方で「成功できる」美容室の条件はこの数十年で大きく変わったわけではありません。
大手美容室を調べていくと、成功するキーワードは「参入障壁の高い差別化」にあることが分かります。

参入障壁とは、マネする大変さ

参入障壁とは、ある企業が市場へ加わろうとするときに払わなくてはいけないコスト。
もっと簡単な例として、あなたがレストランを開くとしましょう。
これまで1店舗もレストランを経営していない人は、塩・コショウからフライパンまで用意するだけで、準備にお金も時間もかかります。
安くて高品質な材料を手に入れる卸もわからず、最初は高値で買ってしまうかもしれません。

それと比べていくつかレストランを経営しているなら、調理器具はお下がりでもスタートできますし、
いい材料の入荷元もあらかじめ知っているので有利です。
このように新しく開業する人は、すでに業界にいる人と比べて高いコストを払います。
これを参入障壁と呼びます。

参入障壁の高さは「マネする大変さ」

さて、参入障壁には比較的マネしやすいものと、されにくいものがあります。
お金や手間がかかるもの、そのブランドでないと強みを発揮できないものは参入障壁が高く、
誰でもすぐマネできることは参入障壁が低くなります。

たとえば、美容室のポイントカードは参入障壁が低いアイディアです。
どの店舗でも今すぐ始められるからです。
逆にVIP専用のシアタールームを美容室内に用意するのは初期コストが高く誰にでもできることはありません。

競争が激しい業界で勝ち抜くには「他店がすぐにマネできない施策」を打つことが大切です。

ホワイトスペースを探し出そう!

ここで、ホワイトスペースという考え方をしてみましょう。
ホワイトスペースとは、ライバルがまだ進出していない領域のことです
たいていは参入障壁が高すぎるか、それが売れるなんて誰も思ってなかった! という理由で放置されています。

たとえば「お~いお茶」の発売当時は、日本人はお茶を家で淹れるからわざわざ金を出す人間なんかいるわけないと思われていました。
しかし現在は伊藤園の看板ブランドです。
ホワイトスペースをしっかり掴めば「日本初」の称号を得られます。

ホワイトスペースを今度は美容院業界で考えてみましょう。
ご自宅などで髪を切る訪問美容師は、これまで要介護で動けない方など一部のお客様に限られたサービスでした。
これを富裕層の忙しい方へ向けて行い成功した方がいます。
「誰も手を付けていないところ」へ最初に進出することでその場にある利益を独り占めできるのです。

上記とは真逆ですが1,000円カットも「簡単でいいから安く切ってほしい」というホワイトスペースを開拓したものでしょう。

2つを組み合わせると「長期的に成功できる」

まずは、あなたの業界でホワイトスペースを探してみましょう。
たとえばネイリストがいるヘアサロンは多いですが
「ご飯を食べながらカットできる」サービスがあればホワイトスペースかもしれません。

レストランの隣に出店してその店と協働するだけで用意できますから、難易度もそこまで高くありません。
食品営業許可申請が必要になる可能性が出てくるなど確認したいポイントはありますが、
忙しくてヘアサロンも行けない高収入ビジネスパーソンに受けそうです。

ただし、この案だと参入障壁が低い(=誰でもマネできそう)のが難点ですから付加価値をつける必要はあります。
たとえば体に優しいオーガニックフードを選べる、限定メニューがあるといったものが付加価値の例です。

まずは、ホワイトスペースと呼べそうな新しい領域を探してみましょう。

そして次に参入障壁の高い戦略を選ぶことで、長期的に勝てる場所を見つけてください。

あなたが日本初の〇〇としてメディアに引っ張りだことなるのも、近い未来かもしれません。

 

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

チェーンに学ぶビジネスの勝ち方:1億杯のコーヒーを1週間で売る

こんにちは、トイアンナです。

イギリスといえば紅茶のイメージがありますが、実はその国に激震が起きています。
実は現在、イギリスはコーヒー大国。コーヒー店業界の売上は17年連続で上昇しており、
昨年だけでも10%市場が拡大しなんと1兆円市場へ到達。夢のような成長ぶりです。

それをけん引したのが、日本でいうならエクセルシオール、ドトールのようなコーヒーチェーン店です。
イギリス国内でコーヒーショップの数は20,000店舗を超えており
日本のスターバックスやドトールコーヒーの1,000~1,400店舗数と比較すれば、
非常に大きな市場であることがわかります。

そこで今回は、代表的な3ブランドをご紹介することで日本のカフェ経営にも応用できる
「成功の秘訣」をお伝えいたします。

なお、実際の3ブランドの店舗写真をご覧になりたい方はこちらをご参照ください。
イギリス情報 | お気に入りのカフェはどれ?

コスタ:コーヒーの先駆けという誰にも勝てない強み

初めてイギリス人を紅茶党からコーヒー党へと動かしたのがカフェ「コスタ」です。
コスタは1971年創業の老舗で、イギリスへコーヒー文化を持ち込む先駆者となりました。

特に大きなカップで紅茶を何倍でもお代わりするイギリス人にとって、
の直径10cmはあろうかという大きなカップで
コーヒーを「ごくごく飲む」という発想がぴったりフィット。
在でも2,000店舗以上の大規模チェーンとして愛されています。

日本で応用できる点:イノベーションを起こし業界をけん引する

マーケティングで最も影響力が強いとされるのが
「この世に無かったものを消費者に提案すること」、通称イノベーションです。
まだ流行っていない製品やマニア向けサービスを一気に広げることでブームを巻き起こします。

製品を広めた最初の1社目はその後もトップシェアでいられることが多く、
「コーヒーと言えばコスタ」といったイメージを植え付けられます。
日本の例なら「コーラといえばコカ・コーラ」あるいは「航空会社と言えばJAL」といったものです。
ただし、イノベーションを巻き起こすためには認知度を急激に上げる必要があり、得てして広告費がかかります。

カフェ・ネロ:美味しいコーヒーが飲める唯一の店

さて、業界1位のコスタには大きな欠点がありました。
コーヒーがそこまで美味しくなかったのです。
決してマズいとまでは言いませんが、当時のコーヒーは「紅茶ほどは美味しくない」くらいの位置づけでした。

そこでカフェ・ネロは「どこよりもおいしいコーヒー」を純粋に追及し、
イタリア風の濃いコーヒーを展開して一気に質を向上させました。
カフェ・ネロが登場するまで、多くのコーヒー店では目の前でインスタント粉コーヒーを入れるだけ、という店も多かったイギリス。

カフェ・ネロはひき立てコーヒーを提供することで、
チェーンに限らず全国のコーヒー品質を向上させる革命を起こしたのです。

日本で応用できる点:質で勝ることで1位の座を揺るがす

イノベーションを繰り返す企業は先進的な反面で、品質に劣ることがあります。
たとえばソニーのウォークマンは1990年代まで時代の寵児でしたが、
その一方で「ソニータイマー」とも揶揄される品質の欠陥が指摘されていました。
そこで品質を求めた消費者はパナソニックなどの他ブランドを選んでいました。

このように先頭を走るブランドが逃している品質に目を向け、
そこで圧倒的な差別化をすればトップを揺るがすライバルになれるのです。
現在でも誰もが知っている製品で、質で劣るものはないでしょうか。
そこが、あなたが次に勝てる場所です。

プレタ・マンジェ:オーガニックという新しい軸で独自展開

「プレタ・マンジェ」は他ブランドに比べて創業も遅く、コーヒーチェーンでは後塵を拝していました。
ただの品質、ただのイノベーションでは勝てない。
圧倒的不利な状態から生まれたのは「大規模チェーンが決してできない戦略」を狙うことでした。

まず、「プレタ・マンジェ」は添加物を使わないオーガニック食品を使い、都心に展開しました。
特に環境や有機野菜に関心がある都会の裕福なビジネスパーソンを狙ったのです。
こういった「全国的に人数が少ない」相手へ売り込むことは、
すでに大きくなりすぎたチェーン店にとって難しくなります。

「プレタ・マンジェ」の手作りサンドイッチは味も美味しく、健康志向の富裕層へ大ヒットしました。
日本で例えるならナチュラルローソンや、成城石井の成功例がこれに近いと言えるでしょう。

現在はより激しくなった競争に打ち勝つため「筋トレ用の美味しいたんぱく質メニュー」や
「ベジタリアンが満腹になるお弁当」といった、
これまで「味に妥協してきた人」を満足させる品ぞろえとなっています。

日本で応用できる点:大規模チェーンができない「少ない人数」を狙い撃ち

日本でもダイエット中の方、筋トレに励んでいる方向けのメニューを用意できているカフェはほとんどありません。
日本でも「偏食しませう」という強烈なキャッチコピーで
筋トレしている方が食べられるお店「b-ZONE」がヒットしています。

このように「今まで誰も狙ったことのない消費者」へ目を向けることで、
コアなファンを作るのもマーケティングの手法です。
メリットは広告費が無くても口コミで広がりやすいこと、
デメリットはある程度人口がない地域で実施すると
「該当する人が10人くらいしかおらず、商売にならない」恐れがあることです。
この戦略を取られるのであれば、必ず
お住まいのエリアにどれくらいコアなファンがいるかを概算してからにしてください。

ここまで、イギリスのコーヒーチェーンを参考に
日本で勝てるマーケティングの方法をご案内してまいりました。
大規模な市場も、街中のお店も初めは同じ1店舗。
そこからあなたが成功するためにも、先人の知恵を活用していってください。

参考資料:
スターバックス 店舗数
http://www.starbucks.co.jp/company/history/
ドトールコーヒー 店舗数
https://www.doutor.co.jp/about_us/ir/report/fcinfo.html


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

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