偉大な起業家を目指すなら理想を手放してはならない
by ピーター・シムズ
理想主義の必要性
一般的に、若い人々は理想的である、
?目を大きく見開き、やる気に満ちあふれている、と考えられています。
それも、世間でもまれておらず、現実を知らないからだ、と。
けれども、長年、起業家精神について学び、
ベンチャー・キャピタルの投資家でもあった私は、
多くの成功した起業家にあっては、それが逆であることを見てきました。
あなたが真の意味で立派な企業を設立することを望むのなら、
たとえどれほど多くの困難に見舞われても、
現実の厳しさを思い知らされるようなことがあったても、
あなたの理想は守りとおさなければなりません。
スティーブ・ジョブズがその好例でしょう。
ウォルター・アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』を見ても、
ブレント・シュレンダーとリック・テッツェリの新作
『スティーブ・ジョブズになるまで 無謀で横柄な青年が洞察力に満ちたリーダーへと遂げた進化』
を見ても、ジョブズはお金を儲けることより、
はるかに「宇宙にくぼみ」を作ることに意欲を燃やしていたことが、明らかになっています。
ジョブズの同僚が登場するドキュメンタリーや映像では、
自分たちが何か重要なものの一員、世界を変えていく中の一員であると考えていたから、
ジョブズの気むずかしい人となりをも容認したことを、繰りかえし伝えています。
最高の起業家は、説得力をもって会社の使命と存在意義を語ることのできる人々です。
彼らの言葉は、つぎからつぎへと伝えられていき、
多くの関係者、従業員から潜在的パートナー、顧客が、強い感銘を受けるのです。
それこそが、理想の持つ力です。
考えてみてください。
あなたの情熱をかきたてるようなブランドのことを思い浮かべてみてください。
どうしてそうなのだろう、と。
その答えを、真相にたどりつくまで、問いつめてみてください。
そうすれば、おそらくあなたはひとつのことに気づくでしょう。
それが、理想です。
1980年代半ば、エド・キャットムルはハード・ドライブの会社を経営していましたが、
世界初の前編デジタル・アニメーション映画の制作を夢見ていました。
その夢は、当時ディズニーを解雇されたアニメーター、ジョン・ラセターに感銘を与え、
ふたりは共に進むことになったのです。
ふたりは大変な苦労を重ねましたが、スティーブ・ジョブズの資金的なサポートと、協力体制を得ることができ、
誰もが知っている会社、ピクサーが誕生し、映画の世界に革命を起こしました。
幸運にも私は、何年にもわたってキャットムルと親しくしているのですが、
キャットムルは現在もピクサーの社長であると同時に、ディズニー・アニメーションの社長でもあります。
彼のすばらしい会社、永続的な会社を作りたいという理想は、いまなお、いきいきと燃えています。
近年のマーク・ザッカーバーグから始まったイノベーターの世代は、
会社を作っていくさまざまな段階で、
自分たちのミッションを、非常にはっきりと打ち出すようになっています。
世間がザッカーバーグについて何を言おうと、
世界を結ぼうと願う彼のフェイスブックにかける思いは、純粋なものです。
フェイスブック社で働く社員たちは、たとえ彼に1年間で1度か2度しか会えなくても、
ザッカーバーグの情熱は、はっきりと理解しています。
理想主義は、真の意味で、力を持つものなのです。
「なぜ?」から始めよう
私はサイモン・シネックの本 『WHYから始めよ!』 で広く普及した
「“なぜ”から始める」という考え方のファンです。
あなたも
「いまやっていることを、自分はなぜしているのだろう?」
と自問してください。
そうしてその問いかけを、あなただけの理想主義の核心にたどりつくまで、続けてください。
もしそれが単にお金でしかなかったら、あなたは同じような目標を持つ人と、
何かを作ることはできるかもしれませんが、それが長続きすることはないでしょう。
ここ数年来、私はゴールディ・ブロックスのCEOであるデビー・スターリングと仕事をしています。
ゴールディ・ブロックスは、おもちゃを通して女の子にエンジニアリングと創造性のスキルを伸ばすことを
みずからの使命としている会社で、私自身も投資しています。
未だ3歳にしかならない会社ですが、ゴールディ・ブロックスのミッションが、
どれだけ多くの人に感銘を与えているか、私も驚かされるばかりです。
ミュージシャンのジョン・レジェンドの共同マネジャーから、製品の販売を希望したトイザらスのような企業のトップ、
数えられないほど多くの親、ゴールディ・ブロックスに共感する投資家……。
ブランドの資産価値を数量化することは困難ですが、
ゴールディ・ブロックスは、今もぐんぐんと成長を続けています。
すべてはデビーと、デビーの深い信念、
日に何度となく語られる彼女の言葉と、そこからにじみ出る思いから始ったのです。
けれども、私たち同様、彼女もまた自分の理想主義と「なぜ?」を探さなければならなかったひとりです。
彼女はブランド戦略家として働いた後、
スタートアップのアイデアについて議論するために、
友人と定期朝食会に参加していました。
ある日、その席で女の子のエンジニアリングと創造性のスキルを伸ばすことができるような
会社のことを話しているとき、
デビーは雷に打たれたように感じた、といいます。
自分はこの問題とアイデアを追求しなければ、と悟ったのだ、と。
それが、理想なのです。
同様の話を、私はどれだけでも続けることができますが、
他の分野、たとえば政治の分野であっても、同じ原理が当てはまるのです。
もうおわかりでしょう。
すべてはこの1点です。
あなたの理想を大切にしてください。
確かに、偉大な起業家になろうと思えば、
あなたは実際的にならなければいけないし、
抜け目ない、リアリストでなければならないでしょう。
けれども、もしあなたが理想を失えば、そうして、あなたが存在する意味を失えば、
おそらくあなたには何も残らなくなるはずです。
あなたの理想を見つけてください。
そうして、その理想に生きてください。
自分の生涯をかけて、その理想を追求してください。
世界はあなたを必要としています。
(翻訳:服部聡子)