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集客を考えるときはマーケティングと「善悪」を切り離そう

こんにちは、トイアンナです。
マーケターとして仕事をしていると、たまに「天才だ」と思わされるマーケターに出会います。たとえばドナルド・トランプは天才の一人です。正確に言えば、ドナルド・トランプのバックにいて、彼の原稿や発言を管理している有能な秘書たちでしょうか。

トランプ大統領は就任直後、いきなりイスラム教徒が多い国籍保持者を入国拒否しました。数百万人単位のデモを起こし、世界中で混乱と批判を浴びているトランプの何が天才なのか?と思われることもあるでしょう。

しかしアメリカ国民に対して行われた調査では、トランプの入国拒否手続きを支持すると答えた層が反対を上回っています。

彼にとって一番重要なのは自国の支持率を維持することですから、いくら裁判所がNOを付きつけようが、目的を達成するために正しい戦略を取ったと言えるでしょう。

彼のしたことは現場の担当者へ大混乱を招きましたし、何よりビザを持つ人間すら拒否したため裁判所から合衆国憲法違反と判断されました。さらに何も悪いことをしていないのに空港で追い返された多くの人を傷つけたという意味で「正しい」「正しくない」の天秤にかけるなら「正しくない」と感じる方も多いはずです。私もリベラル寄りなので政治的信条からすると彼の行為は絶対に許せないことです。

その一方、マーケティングという目線で語るなら彼の戦略はあまりに的確で、舌を巻きます。

マーケティングでは「正しさ」を問わない

マーケティングは「正しさ」「正しくなさ」に関係なく目標を達成するための道具です。
ところが自社のマーケティングや集客を考える上で、まずは頭を柔らかくしてどんなアイデアでも自由に出してみましょう――と言われても

「これはウチのポリシーに反するから」
「いくら売上のためだからってこれはできないよ」

と、「正しい」「正しくない」でアイデアの幅を狭めてしまう方が少なくありません。特に同じ業界で長くお勤めなら慣習やしがらみもあり、なかなかこれまでのやり方を無視できないはずです。

けれど、思いもよらないマーケティング戦略は正しさやしがらみ、常識から外れたところに生まれます。たとえば機能が劣ってもいいからカッコいい動作を追求しようと、携帯電話業界の常識を無視して登場したのがiPhoneです。iPhoneにはデコレーションメール機能や着メロの音質といった「当時ガラケーの会社が当然備えるべきと考えた機能」は何一つありませんでした。

iPhoneが海外製品だったから勝てたというわけではありません。日本の例ですと、雑誌なのに「読まれなくていい。付録目当てで買ってもらう」という新しいコンセプトで爆発的に売上を伸ばした女性誌『InRed』があります。男性に身近なケースでは、ビールなのにアルコール分ゼロを売りにしようという新しい発想で生まれたのが『キリンフリー』は記憶にあるかと思います。

「正しい」「正しくない」やこれまでのしがらみを一度すべて忘れ、新しいアイデアを出すことで大ヒット商品は生まれてきました。

このように型にハマらないヒットの卵を産むためにはスティーブ・ジョブズ並の天才社員、もしくは何でも提案できる社風づくりが欠かせません。「とんでもないこと言い出しやがって」と部下を叱る前に「待てよ、もしかすると面白いかもしれない」と一度採用してみる。こんな心意気が、ヒット商品へ繋がります。

「どうすればできるか」を考える

さて、企業によっては「スティーブ・ジョブズ型の天才ばかりを雇用する」ところもあるかもしれませんが、アイデアを出しやすい仕組みづくりを行う企業の方が日本では多く見られます。そのため多くの企業がボーナス付きのアイデア公募制度を用意しています。公募制度を実施する際はボーナスだけでなく、社内で不利益を被る人が出るアイデアでも投稿者が報復人事にあったり、嫌がらせをされたりしない仕組みが必要です。

アイデアを全社員が出しやすい土壌を作ったところで、次に常識破りの面白いアイデアが出てきたとしましょう。しかしそのまま世に出してはトランプ並みの波紋が業界へ起きます。また、奇抜なだけのアイデアは話題こそ呼ぶものの実際の集客へ繋げるのは難しいものです。

そこで、まとまった時間を取ってからアイデアを並べ、「どうしたらアイデアを活用して集客を実現できるか」「どうしたらしがらみや慣習を突破できるか」を考えてみるのが、マーケティングのやり方です。

面白いアイデアの中から、目標(売上・利益)を達成できそうなものを選び、さらに業界からも「最初はびっくりしたけど、ありゃ面白いね」と言われるサービスや製品をこの世へ出せるかには、会社としてどこまでリスクを取れるか覚悟が求められます。

冒頭のトランプであれば「たとえ大反発を招いても、支持率を稼げるなら目標達成だ」と判断し、リスクを取ったと思われます。トランプほどの反発を招く行為は私が御社のマーケターならオススメしませんが、それくらいの胆力があればどんな「正しさ」も超えて優れたマーケティングアイデアを出せるはずです。まずはアイデアを出せる制度作り、御社で考えてみませんか?

トイアンナ「マーケティング深化論」目次


トイアンナ:

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。

ブログ:http://toianna.hatenablog.com

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