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保護中: 3つの邪念を振り払ってマーケティングの「ニーズ」へ注力しよう

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なぜ枝豆? 世界で注目される酒の肴に隠されたマーケティングのヒント

「海外で有名な日本食といえば?」と質問されたら、誰もが想像するのはSushi(寿司)でしょう。確かに数字を見ると、この10年でずいぶんと寿司は有名になりました。

イギリスでは銀座出身の寿司屋 The Araki(あら輝)がミシュランガイドで三ツ星を獲得。イギリス初の日本料理屋・三ツ星獲得の快挙を達成しました。

といっても、最高峰だけのブームではありません。ロンドンには、回転寿司からパック売りの店舗まで、バラエティ溢れるお店の多さに驚かされるでしょう。これは私の体感値に過ぎませんが、ロンドンを歩いていると日本の回転寿司屋に出くわすよりも高い頻度でお寿司屋さんにぶつかります。あまりに寿司屋が多いので、現地でも「イギリスで日本人が労働ビザを得る一番簡単な方法は、スシ・シェフになることだ」と笑い話になるほど。

都会と地方のコントラストが、伸びしろを決める

いっぽう、都心部と地方ではかなりのコントラストが見られます。もともとイギリスでは魚を生食する文化がなく、「フィッシュ&チップス」にして食べるのが一般的。寿司や刺身なんて耐えられないという方が、いまだに多く住んでいます。ですから私がマーケターとして寿司の店舗を出すご提案をするなら、ある程度移民も多く、食に多様性がある中核都市を選出するでしょう。

日本人に置き換えて考えてみると、もっとわかりやすいかと思います。たとえば今年、東京ではパクチー(コリアンダー)が大ブームになりました。パクチー大盛りメニューが流行した時期もありましたが、地方で「パクチー専門店」を作っても、すぐに潰れるだろうことは想像に難くないでしょう。

このようにニュースだけを見て「ヨーロッパでは寿司が流行っている! ガンガン進出しよう!」と、思い込むと痛い目を見るのです。

ではなぜ、枝豆は流行できたのか

一方、同じイギリスでも都心・地方を問わず購入されている日本食があります。それはなんと、枝豆です。枝豆ブームは2007年ごろに到来。それから飽きられることもなく、イギリスのスーパーで必ずといっていいほど見かける製品になりました。

そこでざっとイギリスの記事を漁ってみました。記事を読むに、「枝豆を食べると二日酔い防止、筋肉増強、コレステロール値は減少、さらには精がつく」とまで書かれています。おそらく、日本人でもにわかに信じがたい効能でしょう。本稿では効能の検証は行いませんので、ご判断は読者様にお任せしますが、キーワードはイギリス人の「健康志向」です。

イギリスはもともと健康志向が高く、健康に良いとされるものならヒマワリの種から虫まで食べるブームが訪れます。しかしそれでも味による選別はあるのか、安定して10年以上も愛される製品は限られるもの。枝豆はその例外として、ロングセラー商品になったのです。ではなぜ、枝豆は10年もの間、イギリスで生き延びたのでしょうか?

枝豆ブームが始まる数年前から、大豆はすでに「スーパーフード」としてもてはやされていました。アメリカ発のコーヒーチェーン、スターバックスでは2003年に豆乳がオプションに追加されており、今なお人気です。

しかし2003年ごろは、大豆の遺伝子組み換え製品が多くなった時期でもありました。そこで健康志向のターゲット層に「安全な大豆を食べたい」というニーズが生まれたのです。枝豆はそのニーズを、完璧に満たす「大豆」として愛されたのでした。

すでに有名なものより、現地のニーズに合うものを

さて、今回のケースから、どのような知見が得られるでしょうか。マーケティングを学ぶ上で押さえておきたいのが「すでに流行しつくしたものより、ニーズに即したものを売る」ことです。

もし、海外で日本食を広めたいならば、寿司を売るのが一番手っ取り早いでしょう。しかしすでに都心へは大量の店舗が出ており、これから出店するには新たな切り口での差別化が必要です。地方では魚を生食する文化がないことを考えると、市場の伸びしろは限られています。それよりは、現在知られていない製品でもニーズに即したものを意識すると、枝豆のようなブレイクスルーが生まれるのです。

たとえばイギリスのブランド「itsu(イツ)」は、枝豆をチョコでコーティングしたお菓子を販売しています。普段、居酒屋か食卓でしか枝豆を見ない我々にとっては「はぁ?」と驚かされる製品でしょう。今回執筆にあたり試食してみましたが、日本人には奇妙な味わいでした。

けれどイギリスのメーカーは、枝豆の食べ方に固定観念を持っていませんでした。その結果「空き時間にヘルシーな大豆をおいしく食べたい」とうニーズを満たす、枝豆チョコレートを販売できたのです。もしあなたが日本生まれ、日本在住でありながら偏見を取っ払い、現地のニーズに即したマーケティング戦略を「枝豆チョコレート」のように立てられたなら……次のヒット商品を作るのはあなたです。

 

 

 


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com