そのスタートアップは働いてもいい会社か?
by ジェームズ・アルトゥーカー
もしも誰かがある会社に投資しないかと尋ねてきたとします。
きっとあなたは返事をする前に、その会社に関する情報を収集して、
いくつかの点を考慮するでしょう。
新企業の立ち上げの人材として働くかどうかを決断する際も同じような点を考慮すべきです。
下記に考慮すべき点をまとめました。
A.その会社の最高経営責任者(CEO)は
以前にも起業をした経験があるかどうか
経験があるからといって、必ずしも成功するとは限りません。
フェイスブックを開設したマーク・ザッカーバーグやグーグルの創業者ラリー・ペイジは
過去に起業した経験はありませんでした。
興味深いことに、スタートアップの85%が倒産しているという統計が出ています。
しかし、最高経営責任者に会社の設立と買収の経験がある場合、
倒産する確率は25%にまで下がっています。
こうした統計の数字を見ると、最高経営責任者の経験の有無は、
その会社の重要な情報の一つとして考慮できるでしょう。
B. その会社は、十分な資金の積み立てがあるかどうか
「十分な資金の積み立て」とは、以下の二つの点を含むものです。
a. 少なくとも1年間会社運営を持続するだけの十分な金額であること
ところで、注目すべき重要な事として、もしも会社が起業した時点で、
半年分かそれ以下の運営資金しか持っていない場合、
その会社は既に倒産していると言って良いでしょう。
実績のある最高経営責任者であれば、この事実を知っています。
ですから、上記の点を考慮するのは重要なのです。
b.「十分な資金の積み立て」の中には、より多くの資金を集められる人や他の資金源も含まれる
手持ちの資金が、友人や家族から借りた一年分の運営費だけだとしたら、
一年間で使い果たしてしまうでしょう。
他にもたくさん良い仕事があるのに、誰がわざわざ好き好んで、このようなリスクを負うでしょうか?
では、3つ目の点を考慮する前にちょっと質問です。
その会社、または最高経営責任者は、資金調達ができ、
また目標や計画といった経営ビジョンをしっかり持っているでしょうか?
C. その会社の最高経営責任者の経営ビジョンを信じることができるかどうか
これには、いくつかのことが含まれます。
- 最高経営責任者は、確固とした経営方針を作り出すのに十分な創造力とコミュニケーション能力がある。
- その会社は自分も使いたいと思える製品を販売している。
- たとえ自分ではその製品を使用しないとしても、その製品が多くの人々に役立つことを想像できる。
これがその良い例と悪い例です。
良い例:テスラ
化石燃料減少の必要性に関するイーロン・マスクのビジョンを信じている場合、
またテスラを運転したい場合や、みんなが電気自動車を運転することが多くの人に役立つと信じている場合、
テスラで働きたいと思うでしょう。
悪い例:売り込みのアイデアが、すでに消費者さえ宣伝で目にしているようなものである場合。
とてもそんなアイデアで、多くの人の役に立つとは思えません。
ですから、私はそのような会社で働きたいとは思いません。
(ちなみに、こんな会社にも投資家はたくさんいるものです)
私は最近、ビタミンや医薬品を吸引する技術を開発したスタートアップに投資しました。
私自身、その会社の製品を使用しているので、その製品が多くの人に役立つことをすぐに理解できました。
(アメリカ人の多くは、ビタミンDが欠乏していますが、
このビタミンはビタミン剤としては吸収することができないのです。
とはいえ、決してこの場でこの会社への投資を募ろうとしているのではありません。
この会社はすでに十分な資金を得ています。)
D.会社の価値
おそらくあなたはそのスタートアップのオプションを与えられるでしょうし、
投資額に応じて、そのオプションは増加していくはずです。
では、どうすれば最新の包括的評価が良好であるかどうか、確認できるでしょうか?
少しの間、会社が調達した資金のことはおいておきましょう。
(資金については上記ですでに述べています)
けれども、もしもあなたが会社の運営に必要な現金を持っていたとします。
そのお金で良質で長く売れる製品を作り出すことができますか?
たとえば460億円あれば、タクシーの配車アプリサービスをおこなっているウーバーを超える企業を
立ち上げることができるでしょうか?
私にはちょっと疑問です。
とはいえ、多くのスタートアップが、全面時価評価額を現金で渡されたら、
簡単に経営を譲ってしまうことでしょう。
低い評価で、容易に経営を譲り渡してしまうような会社に勤めるのは止めましょう。
考慮すべき二つ目。
もしも価値を信じている場合は、オプションはベンチャーキャピタルの評価額ではなく、
「409 A評価」であることを確認してください。
こちらの詳細に関してはグーグルで検索して下さい。
E. その会社に勤めることで何か学べるか
セルゲイ・ブリンの面接について、とても良い話があります。
彼は通常、面接の最初の数分で、その人を雇うか雇わないか、わかるそうです。
そしてその後の面接の残り時間は、たとえ雇わないと決めた相手でも時間を無駄にせず、
少なくとも1つのことをその人から学ぶように努めているそうです。
たとえすべての判断を間違い、最悪の状況に陥ったとしても、
その状況から、すみやかに、たったひとつでも学ぶことができれば、
それは自分の肥やしとなり、次の仕事に生かすことができます。
スタートアップではありませんでしたが、
私はかつて大手ケーブルテレビの HBOで仕事をしたことがあります。
技術面からエンターテインメント、そしてテレビ制作に至るまで、
本当にたくさんのことをその3年間で学び、自分の肥やしとして身につけることができたのでHBOを辞め、
自分で会社を始めて成功することができました。
F. その会社の環境と人間関係はどうか
私は様々な理由で、年間多くの企業を訪問しますが、いつもその会社の空気を読むようにします。
a. 社内の人間関係
たとえば、私が投資しようと思っていた会社は、共同経営の体制をとっていました。
私は噂で一方の経営者が、他方の経営者の噂話を流していると聞き、投資を止めました。
会社全体の文化と環境は、上から下に影響します。
事業を開始したパートナー同士が一致団結していなければ、
会社全体が協調性に欠けていると言えるでしょう。
b. 従業員が顧客のことをどのように話すか
ジェットブルーの創業者の伝記を読んでみてください。
彼は、顧客サービスのメールに毎晩、午前3時まで対応しました。
さらには月に一度、飛行時間の長い飛行機に自ら乗り、
後部座席から前方座席に向かって、順番に乗客のとなりに座っていき、
何か問題がないかを聞いてまわるそうです。
彼は実際そうしている間に良い人材を見つけ、従業員として雇いもしたそうです。
最高経営責任者だけでなく、すべての社員が顧客に対してそのような態度をとる必要があります。
1年前、ある法律事務所を訪ねました。
そこの社員は顧客を中傷したり、馬鹿にするようなことを話していました。
そのような会社では決して働きたくないですし、また投資したくもありません。
企業と顧客は、ひとつのエコノミーシステムであって「会社 対 お客」ではないのです。
c. 会社の上司と経営陣はどのような人か
上司の多くは、 「飛行機でこの人の隣に座って出張したいだろうか?」という問いに基づいて
雇うか雇わないかの決断を下します。
あなたも自分の将来の上司について、同じように決断を下すと良いでしょう。
あなたが上司を必要とする以上に、上司はあなたが必要だということを信じてください。
ですから、あなたが上司を好きかどうかは大事なポイントなのです。
また、再度エコノミーシステムについて考えてみましょう。
社内での社員同士の関係を調べてみてください。
噂はすべて悪いものだったとします。
社員が同僚を尊敬し、大切にしているのでない限り、
その会社で働くべきではありません。
G. 流行の傾向
ウォーレン・バフェットは、価値志向型投資家ではありません。
多くの人がそう思っていますが、1960年代初頭以来、彼は本格的な価値志向型投資を行っていません。
ウォーレン・バフェットは、流行を先取りした投資家です。
バフェットの言葉を2つこちらに引用します。
もしその会社がいまから20年経っても健在なら、その会社の株は買うにふさわしいと言えるだろう。
もうひとつは
もしあなたが将来流行ると感じるなら、たとえ経営管理がよくなくとも、
その会社はうまくいくだろう。
例として、『大胆であれ』という本は、
今話題のムーアの法則を使った多くの流行の傾向を参考にしています。
その例としてロボット工学や、もののインターネット、3Dプリンターなどがあります。
こちらを参照するのもよいきっかけと言えます。
または今話題となっているヘルスケアの崩壊に関与する企業を参照にするのもよいでしょう。
別の例では、私は大手のタクシー会社にお金を貸す会社よりもウーバーで、
マリオットよりエアービーアンドビー、GMよりテスラで働きたいです。
H. その会社の将来の展望は明るいかどうか
面接のときにいつ株式を公開するかなど尋ねることはできません。
会社がいつ売りに出されるか、または株を公開するか、
社員が持ち株を売る機会がいつ来るのかは全く予測不可能です。
良い会社は、株を公開するまで7年から10年待つことがあります。
というより、実際には良い会社はそのぐらい待つ必要があります。
なぜなら、もしもその会社がうまくいっているならば、間違いなく市場よりも早く成長しているからです。
ですから、できるだけ非公開にしておいて株主と従業員の利益が最大になるまで待つのです。
しかし、ここで問題です。スタートアップに勤める従業員の平均勤務年数は3.1 年です。
ですから7年から10年間、その会社で働けるかどうかを考慮するのは良いことです。
また、経営者が最終的に株を公開することに興味があるかどうかについても
出来るだけ探っておくのは良いことでしょう。
一部の最高経営責任者には、公開するつもりがない場合もあります。
I. その会社の最終的な利益はどうだろうか
収益が出る見込みを確認してください。
会社によっては起業後、数年経ってから収益が出る場合もあります。
しかし、最終的には大きな利益(収益だけでなく、利益)が出る会社に勤める利点は、
他にもたくさんの特典があるということです。
ウォルマートとグーグルのチーフを比較してみましょう。
ヒントとして、ウォルマートにはチーフはいません。
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以上が、あなたがスタートアップで働くかどうかを決めるためのチェックリストとなるでしょう。
けれども、忘れないでほしいのは、ここではあなたこそがもっとも大切な人だということです。
自分の必要なものを大切にしてください。
あなたには大きな自由があり、
仕事でもっと能力を発揮することができ、
一緒に働く人との間に、もっと良い関係を築くことができるのです。
言葉を換えると、あなたは幸せになるべきなのです。
そうしてそれこそが、仕事に就く最大の理由なのです。
著者:ジェイムズ・アルトゥーカー(起業家、著作家)
(翻訳:服部聡子 責任編集)