あなたは賭けに勝てるか? 縮小市場で生き延びるマーケティング術

こんにちは。トイアンナです。

突然ですが、読者のみなさまへ問題です。あなたは会社のオーナーとして、2つの商品を売ろうとしています。ひとつは安定的に売り上げを出す商品。もうひとつは縮小市場を相手にしており、しかも売上は低迷しています。

来年度への投資を考えるとき、あなたはどうすべきでしょうか?

縮小するからといって、撤退だけがセオリーではない

模範解答はこうでしょう。「縮小市場から撤退して、その分の投資を別の商品へ投下すべし」
合理的な判断です。マーケティングに優れているとされる企業も、多くはこの戦略へ従います。その一例として、スピーディに進出や撤退を決断する外資系企業では日本からの撤退・縮小が相次いでいます。

世界中に支社を持つ外資系企業にとっては、市場が伸びる国へ資本を集中投資し人口が減る・競合が強く勝ち目がない市場からは手を引くのが合理的です。何よりもまず、日本は人口が減少しています。人口が減ればいくら単価を上げても売上はどこかで伸び悩むでしょう。

さらに日本は世界有数の「消費者がうるさい」国として知られています。安価で高品質な商品を求める日本では、新製品を1つ出すにしても他国と同じシェアを獲得するのは至難のわざです。縮小市場の上に、コストもかかる――。もし私が外資系企業のトップなら、「さっさと日本から撤退して、人口増だけで売上が確保できる中国やインドへ投資しろ」と指示したことでしょう。

実際、日本支社で働く外資系企業のマネージャーからお話をうかがうと、
「前年比から2けた成長しても、予算を減らされる。一方、中国やインドは新製品すらなくても人口ボーナスで売上が増える。これでは何のために頑張っているかわからない」
「たとえ日本でこれまでの倍売っても、中国の1%増に負ける」
「売上に応じて社員の国籍も調整されるから、どんどん日本人が減っていく。日本の戦略立案に日本人が一切関われなくなる日も近い」
と、世知辛い実情を聞かされることが増えています。

ところが、合理的に見える「縮小市場からの撤退」は必ずしも正しい戦略とは言えません。

撤退を中止した日本マクドナルド

ここでは、日本マクドナルドの例を見てみましょう。さかのぼること2014年、マクドナルドは消費期限切れ鶏肉使用問題を抱えました。ところが、この問題に直面したのはマクドナルドだけではありません。日本ではファミリーマートも同じ工場の肉を利用しておりファストフード業界全体が沈没してもおかしくない状態でした。

しかし日本ではマクドナルドへの衝撃が際立ちます。一説にはマクドナルドの社長が「日本へは期限切れの鶏肉を輸入していない」と突っぱねた対応の悪さにあるとも言われますが、2014年8月の既存店売上高は前年同月比25.1%減。

これを受けて本社は、日本マクドナルドの売却を検討します。しかし2017年には、日本マクドナルドの売上が劇的に改善。手のひらを返した本社は「日本が最大の貢献者だ」と礼賛するに至りました。

日本単体でもマクドナルドは巨大資本ですから、買収できる企業との交渉は時間がかかると見られていました。その間に日本支社の社員による劇的な経営再建が行われ、売却をまぬがれたのです。

特にマーケティングチームの活躍はめざましく、数百店舗の改装後は、わくわくする体験型キャンペーンを連発。「名前募集バーガー」「裏メニュー」など、客離れを起こしていた店舗へ再訪したくなる仕組みを作りました。さらに一方的な情報発信ツールだったTwitterとSNSを見直し、お客様の発言をシェアすることで双方向のコミュニケーションを実現しました。

マーケティングにおける「賭け」

さて、ここからは想像してみてください。あなたの目の前に売上の減っているブランドがあります。その市場は人口も減っていくことがわかっており、競合もどんどん撤退・縮小しています。

あなたはそこで王道の戦略を選び、撤退することもできます。しかし「賭け」を選ぶこともできます。誰もが撤退した市場で、唯一残った王者を目指す賭けです。ジリ貧と言われようが「チキンレースのチャンピオン」になることで、寡占市場を手にする機会も生まれます。

もちろん、たやすく手に入る王者ではありません。しばらくは赤字が続くでしょう。しかしそこで事業売却に踏み切らなかった企業だけが、未来の利益を手に入れられるのです。

マクドナルドは日本支社の売却交渉に難航している期間、運よく縮小市場に踏みとどまる「賭け」をすることができました。その結果、今年の8月には営業利益が前年比200倍へ躍進したのです。奇しくもその年、マクドナルドは世界的に売り上げが不調となりました。そして本社は最終的に、日本支社を礼賛する結末を迎えたのです。

 

 

 


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

 

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保護中: 中小企業が勝つには「コアで熱烈なファン」を狙うべき理由

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日本の「おもてなし」のウソ 本当の気遣いを見せる集客とは?

こんにちは、トイアンナです。
2020年東京オリンピック関連のニュースも増える昨今、外国人観光客も増加しています。2013年に1036万人だった訪日外国人観光客が、なんと2016年には2404万人。わずか3年で倍以上の外国人観光客が日本へ押し寄せているのです。

外国人観光客が増えて影響を受けるのはホテルや遊園地など観光に直結している産業だけではありません。エステサロンや飲食店など「旅行中に使いたくなる関連施設」から、いざというときの病院や歯科医院も多言語の対応を迫られるでしょう。さらには観光をきっかけにビジネスチャンスを見出した外国人パートナーとの取引もありえます。ですから誰にとっても外国人観光客増加は他人事ではないのです。

そこで今回はそのチャンスを逃さない方法を再考してみましょう。

「お・も・て・な・し」は本当に意味があるのか?

ここで少しさかのぼって、オリンピック招致が決まった瞬間を思い出してください。当時の映像で私たちが必ず思い出すのは「お・も・て・な・し」と滝川クリステルさんがスピーチする場面でしょう。

確かに細やかな気を遣ってくださる日本のサービスは素晴らしい……と語る滝川クリステルさんのスピーチ。しかし現実は相反します。融通がきかない、杓子定規だと外国人から不評も多いのが日本のサービスなのです。

たとえば京都では市内観光バスがすし詰めとなってしまい急遽値上げに踏み切るなど観光客増に追いつけない受け入れ態勢が課題となっています。

以前の連載でも申し上げましたが、日本には富裕層向けサービスが不足しています。そのせいで富裕層が訪問したくても高級ホテルの数が「ベトナム並」しかないからと、訪問自体が白紙になるケースも報告されています。

また、いまだに英語への苦手意識からお客様を受け入れない方も多いのではないでしょうか。簡単な相談をしているのに「ノーイングリッシュ、ノーイングリッシュ!」とかわされてしまうことで、外国人も敬遠してしまうことが少なくありません。

「嫌なら来るな」と突っぱねるのは簡単ですが、外国人観光客を誘致したのは外ならぬ日本です。宣伝しておきながらいざ訪れたら冷たい対応をされる国との悪評が広まってしまえば「日本嫌い」の外国人が増えるリスクもはらんでいます。

実はこの兆候、すでにデータでも表れています。先述のとおり日本を訪れる観光客は増えたにもかかわらず、訪日客が使った金額は6.7%減となっているのです。

その背景には東京、京都など有名都市へ観光客が集中してしまい、すし詰め状態で観光客の満足度も下がっているようすがうかがえます。せっかくお金を使いに観光客が押し寄せているのに、魅力的な使い道を私たちが提案できていないのです。

地方への誘致は、バス1本でできる

さて、この記事をご覧になっている方には地方にお住まいの方も多いでしょう。そして日本の良いところは地方ごとに特色が強い点でもあります。世界のどこを見渡しても、スキーとビーチリゾートが両立しうる国はさほどありません。北海道でスキーを楽しんでから沖縄で海遊びなど、四季の違いを数日間で味わえるのは大きな魅力です。

さらに地方ごとに文化、言語、食べ物が違うのも魅力的です。都内から少し足を延ばすだけでも長野や仙台、鎌倉、日光など色とりどりの文化を体験できる環境が整っています。

しかし日本に足りないのは「簡単な交通手段」です。

都心へ上京された方なら誰しも、新宿や渋谷駅の複雑さに舌を巻いたことがあるでしょう。
出口の数は無限、複雑な矢印の案内図にくらくらします。東京住まいが10年弱となる私も、いまだに新宿からバスに乗らねばならないときはハラハラします。

そもそも電車の出口にたどりつけるのか、バスターミナルにたどり着いたところで難十か所もある中から正しいバス停へたどり着けるか。日本語でもわかりづらい表示のバス停一覧。英語表記も容易に見つかりません。

しかしもし、わかりやすい駅から近隣都市へ出られるバスが1本出ていたらいかがでしょうか。そしてバスに乗るだけで、その土地の良さを味わえるツアーが外国人向けに存在していたら?

地域の「熱愛なファンになる」ターゲットを考えよう

すでに熱海や箱根などの有名観光地はこの手段を取っていますが、まだまだ外国人向けの簡単なツアーは発掘されていません。

また「グルメ」「歴史」といったおおざっぱなツアーではなく廃墟巡りやアニメの聖地巡礼、伝統工芸の1日体験など特定の地域だからこそつかめるニーズは眠ったままです。多くの観光客は見向きもしないけれど、特定の層にだけ強く刺さる観光スポットさえあれば地方にとってはうれしい収入源となります。

おおざっぱに「外国人向け」を考えるよりも「イスラム教徒が感動するハラール(教徒に許された食事)を精進料理で提供できる」「地域に縁切り寺が多く、失恋した人ならきっとめぐりたくなる」といった、「熱烈なファンを獲得できそうな長所」を地域のみなさまと一緒に考えてみてください。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com