保護中: 中小企業でもできる、ローコストなマーケティングPR例

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シャネルに学ぶ「度肝を抜くマーケティング・イベント」の考え方

こんにちは、トイアンナです。
シャネル、Dior、エルメス……。ランウェイをさっそうと歩く、ハイブランドたちは「伝統的な顧客を守りつつ、革新的なファッションを発表せねばならない」ジレンマと常に戦います。

伝統と革新は相反する概念ですから、たとえるなら「最高級フレンチのジャンクフード」「手術をしない抜歯」を求めるようなものです。私がもしクライアントから両立した企画を作るよう依頼を受けたら「それで、本当はどっちを優先されたいですか?」と質問してしまうかもしれません。

しかし、本来ありえない真逆の要求を両立させる気概があるからこそ、ハイブランドは優れたマーケティングが生まれる源泉でもあります。今期のシャネルはその好例でした。

シャネルのエッフェル塔を再現した「度肝の抜き方」

シャネルは今期、展示会場内にエッフェル塔を屋内に再現するというまさに度肝を抜くマーケティングを実現しました。パリの大規模展示会場「グランパレ」のガラス張りになった屋内に、高さ50mのエッフェル塔がドライアイスに包まれて登場。エッフェル塔付近にあるキオスクまで再現するというこだわりが魔法のような演出を実現し、新聞を始め取材を大量に獲得しました。

「そんなこと言ったって、大企業の新作発表なのだからPRで掲載されるのは当たり前」と思われるかもしれません。しかしファッションの世界は新商品、コレクション発表、アンバサダーの露出、期間限定ショップ開設などPR企画が月に1回以上発生します。

自社で乱立するイベントのすべてを報道してもらうのは不可能なうえ、ファッション業界には競合も大量に存在しています。エルメス、ルイ・ヴィトン、ディオール……。ファッション業界はどこも豊富な資金でPRイベントを打ってくるため、単なる「何かを開催します」では取材をしてもらえないレッド・オーシャンです。したがってPR担当者は「伝統の範囲内で最大限革新的な」という難しい課題をクリアし、度肝を抜くことが求められます。

実はローコストでもあるイベント

そしてシャネルのPRイベントには、中小企業だからこそ学びにつながる特徴が1点あります。

実はラグジュアリー業界を俯瞰してみると、世界3グループが大手ブランドをほぼ独占していることがわかります。ルイ・ヴィトンやDior、セリーヌなどを抱えるLVMHグループを筆頭に、世界のほとんどの有名ブランドは3社が独占しているのです。

大手グループはブランドごとの協働イベントも行えるうえ、予算を他ブランドから回すこともでき大変有利です。一方、シャネルは単独のメゾン。他のブランドから利益を回すことができないためイベント予算は限られていたはずです。

こんな「誰も考えたことのない」マーケティング戦略でありながら、エッフェル塔の制作は獲得した取材の量に比してローコストでもあったでしょう。今回の企画は同じ露出を獲得できるほどの広告出稿に比してローコストでありながら、爆発的な成果を出せたと言えるでしょう。このように広告を出すのと比較しても、コストパフォーマンスが高いのがPRの特徴です。

やみくもな広告出稿は「安っぽさ」を出してしまう

さらにシャネルのようなハイブランドは「広告ではなくPRで認知度アップを図る」必要が特にある業界です。安い商品はテレビCMを大量に打ちさえすれば力技で認知度を獲得できますが、シャネルのようなハイブランドが同じ戦略をとると「安っぽい」と思われてしまうからです。

一部雑誌社への広告出稿、銀座のど真ん中に位置する直営店舗などを除くと、高級イメージを維持したまま知名度を上げられる手法は限られています。その中でも今回のシャネルが実施したPRイベントは大成功を収めました。

たとえばあなたが自社製品を高級だと思ってもらいたいなら、闇雲な広告出稿へは1度「待った」をかけてください。その広告が目に触れる場所で、他社はどんな広告を出しているでしょうか。露出さえ増やせば「誰かの目に映る回数」は増えますが、果たしてその相手は自社製品を購入してくれる可能性が少しでもありそうでしょうか? 単に近くへ住んでいる、性別や年代が合っているだけでなく所得やラグジュアリー感も同じでしょうか?

お金さえあれば1日に1度、全国民の目に触れる広告を出すことも不可能ではありません。しかしそれだとコスト以前に「大衆っぽさ」「安っぽさ」を出してしまうリスクをはらんでいます。会員制のバー、富裕層向けの歯科医院、ラグジュアリーなエステサロンなど、高級感を醸し出す必要がある製品やサービスを届けるなら、広告よりもPRが適していると言えるでしょう。

PRで取材を獲得できるかどうかは、当日にならねばわかりません。当日芸能人のスキャンダルや災害があれば、取材も立ち消えになるバクチ要素を秘めているからです。それでも取材を獲得し、安定的に知名度を上げる素晴らしいPRイベントには「伝統と斬新」を両立させる優れたアイディアと、賢いコスト感覚の2点が内包されているのです。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

 

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