ユニリーバの挑戦

by デイビッド・アーカー

 

私の現在のベスト・ソーシャルプログラムを選ぶとしたら、
「子供たちに5歳の誕生日を」という手洗い運動です。
スポンサーとなっているのは、アメリカではすでに半世紀前に姿を消したブランド、
ユニリーバのライフブイ石鹸です。
ところがライフブイ石鹸は、国際的には広く受け入れられています。
このブランドは、インドやほかの新興国35か国11,000ブランドを対象とした
カンター・ワールドパネルによる購買頻度調査では、
コカ・コーラ、コルゲート、マギーに次ぐ第4位を獲得しています。

Lifebuoy

▲「1日5回ライフブイで手を洗おう」というキャンペーン

「子供たちに5歳の誕生日を」という運動を通じてライフブイは、
手洗いの習慣が重要であることを世界中に広く訴えることによって、
多くの生命を救おうとしています。
このキャンペーンの背景には以下の2点の要因がありました。
1) 毎年200万人の子供たちが、下痢や肺炎のような病気のために、
5歳の誕生日を迎えることなく亡くなっています。
2) 石鹸で手を洗うことによって、世界中で下痢は45%、肺炎は23%減少します。
これにより乳幼児の死亡率も大幅に引き下げられるのです。
ライフブイの「子供たちに5歳の誕生日を」運動の重要なイベントは、
インドのテスゴーラという1500家族の住む農村をモデルケースとした実践でした。
プログラムでは、実際に36%から6%まで、下痢を減少させ、
そのことは、孫が5歳を迎えた祖父が、誕生日を祝うために逆立ちして歩くという
3分間のビデオのテーマとなりました。
ビデオは現在では1900万回以上も再生され、
ユニリーバがインドや他の24か国での同プログラムを加速させることになったのです。
ライフブイは「子供たちに5歳の誕生日を」プログラムを、創造性と情熱をもって
展開しています。
インドでは、1,500人のユニリーバ従業員が、子供になじみやすいコミックや、
歌や、ゲームやご褒美などを通じて、子供たちに手洗いの重要性を教えることを、
ボランティアで手伝っています。
3度の食事の前、入浴時、トイレのあと、という1日5つのカギとなる出来事で、
20秒間手を洗うことの重要性は、1度の手洗いでも残っている細菌を
照らし出す装置によって、さらに強調されます。
けれどもそれだけではありません。
インドでの乳幼児が死亡する40%以上が、生後28日間に起きていることから、
母親の教育が必須となります。
ユニリーバは子供たちがもっと簡単に習慣づけられるように、給水ポンプを改善しました。
さらに「今日、ライフブイで手を洗いましたか?」という言葉を、
ヒンズー教の祝日に、250万枚以上のロティスという薄いパンに焼きつけました。
さらに同社は子供たちや保護者、地域社会全体に向けて、
このことの重要性を訴える、十数本のビデオを作成しました。
ライフブイは、2008年から始まった、「10月15日国際手洗いの日」の設立にも
大きく関わっています。
2012年10月15日には、ドバイのライフブイ社は72か国の人々に
同時に手を洗ってもらったことで、ギネスの世界記録を作りました。
「子供たちに5歳の誕生日を」は、社会的責任プログラムとして、大きな成功を収めました。
すでに2億5千万人が参加し、2020年までに10億人の達成という目標に、
手が届くところまで来ています。
オブザーバーの1人、TriplePunditのレオン・ケイは、
このプログラムは、これまで多くの人が関わった中でも、最も影響力の高いプログラムだ、
としています。
ブランドに、エネルギーと高い目的意識を持たせ、
社会的にも、感情的にも、大きな利益を生み出すものとなった、とも。
私の考えによると、このプログラムが際立っているのは、以下の3つの理由があるでしょう。
第1に、ユニリーバの中核である国際市場が抱える、具体的で、大きな意味があり、
感情に訴える、乳幼児の平均寿命という問題と、闘おうとしている点です。
そしてユニリーバは、「手洗い」というはっきりとした行動を示すことによって、
それを遂行しているのです。
第2に、このプログラムの企画・実施ともに、創造的であり、効果的であることです。
子供も母親も、さまざまなツールや方法を通して「正しく手を洗うこと」を教えられ、
動機づけられます。
第3に、このプログラムがライフブイ石鹸を使って手を洗うことと結びついていることです。
さらにこの結びつきは、病気と闘う石鹸、という遺産となって、
ライフブイに残っていくことです。
手洗い運動を積極的に行っている組織はほかにもありますが、
ライフブイは多くの面で、そうした運動の模範となっていったのです。

 

― デイビッド・アーカー(ブランド戦略家 カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)


元記事:https://goo.gl/8Yk79b

(翻訳:服部聡子)