新時代の消費行動に後れを取る学術研究

by ルイス・リー

 

デジタル・マーケット時代の購買意志決定プロセスはどのようなものか

 

マーケターは、消費者が購買を決めるまで、どのようなプロセスをたどるか

豊富な知識を持っています。

けれども学術研究の側は、インターネットやモバイル機器が

買い物という行為をどのように変貌させていったかについては、

すっかり遅れを取ってしまっています。

消費者がどのように製品を選ぶかについて、研究者の知識には、

大きな穴が空いたままになっているのです。

 

消費者行動とマーケティングについて、今日の教科書は

もはや時代遅れになってしまっています。

 

そう語るのは、スタンフォード大学経営大学院のマーケティング学部

イタマー・サイモンソン教授です。

消費者の購買決定プロセスの研究には、新しい指針が必要であることを、

同教授は指摘しています。

 

ネット上のレビューは、従来の情報ソースより役に立っているのか?

ブランド・ネームは、品質を保証する面で、重要ではなくなってきているのか?

こうした問いは、サイモンソンが『マーケティング・ビヘイビアー・ジャーナル』最新刊に発表した論文で、

さらに掘り下げながら、考察を進めているものです。

 

予想通りに不合理数年前、行動決定理論や、

判断や意志決定を調査する研究者たちは、

人が時として不合理なふるまいをすることを、実証的に明らかにし、

大きな成果を達成したと考えていました。

 

 

「今日では、合理性の基本原理と

相容れない証拠があまりに多くあがっています」

とサイモンソンは語ります。

「このことは、実にさまざまな方法で、おもしろおかしく主張されてきました。

本も、学術分野にとどまらない、幅広い人々の手によって、書かれるようになっています」

 

同時に、最近の研究では、人が既に知っている情報を、実際の消費行動に

どのように適用しながら意志決定をおこなっているかについての研究も、進んでいます。

たとえば、人がデフォルト・オプションを優先する傾向を用いて、

健康に良いものを選ぶようにする方法、というものなどです。

 

けれども意志決定が、新しいインターネット環境によってどのように変化したかについては、

これまでのところほとんどなされていない、とサイモンソンは語っています。

 

Photo:Online Shopping By:InspirationDC

 

今日では、かつてよりはるかに多くの情報に、すばやく、しかも簡単に

アクセスできるようになりました。

これは、人々の意志決定が、根本的に変わったことを意味します。

そこには、様々な種類の新しい研究課題や、理論の可能性があります。

 

膨大な量の情報に囲まれた ―― 圧倒されたとさえいえる ―― 消費者がどのように考え、

意志決定をおこなうのか、

マーケティング・エグゼクティブもブランドマネージャーや販売者も、

もっと多くの情報を渇望しています。

 

ブランドについて考えてみましょう。

ブランドのおもなはたらきのひとつは、品質の保証です。

 

けれども、製品の品質について、もっと確かな情報にアクセスできるなら、

おそらくブランドネームや、価格、どこで作られたか、などという不明瞭な保証より、

消費者はそちらを信頼することでしょう。

 

さらにオンラインレビューや、品質に関するその他の情報をふまえた消費者が、

ブランドネームを考慮するかどうかについても、研究の対象となるでしょう。

 

さらに考察されるであろう領域として、

革新的な製品を、見たり試したりするのが簡単になっている時代に、

製品を選択する上で、ブランドネームや価格などの旧式な要因が、

どこまで影響力を持つかということもあります。

 

今日の消費者は、ユーチューブで製品のデモンストレーションを視聴できるし、

ソーシャルメディアでコメントを読むこともできる、

PDFをダウンロードして、製品の仕様書やマニュアルも見ることができます。

 

私たちは製品について、通知される前に、詳細に知っているのです。

 

動画投稿サイトなどのオンライン情報が、消費者の新製品の受容に、

どれほどの影響を及ぼしているか、今後、研究されていくでしょう。

 

Photo:Medwinds event By:The Style PA

これまで研究者は一般の人々に向けて、人間は時として不合理である、と説いてきました。

ところが皮肉なことに、新しい情報ソースが示すのは、

人間が不合理なものに影響されにくいことであると、サイモンソンは指摘します。

 

たとえば、今日ではマーケターが消費者に、製品Aを買わせようと、製品Bを見せて、

BがAにくらべてどれほど劣っているか示すような誘導が、むずかしくなっています。

 

今日の消費者は、製品CやD、Eまでも簡単にチェックすることができるので、

Aがほんとうに望ましいものなのか、単にBほどひどくはないというだけのことなのか、

すぐにわかってしまうからです。

 

消費者が、サーバースペースにある膨大な量の情報の中から、

どのように情報を引き出し、どのように選択する方法を決定しているかは、

マーケターにもいまだほとんどわかっていない領域です。

 

消費者が選択するのは、どのような要因が影響を及ぼした、どのような情報なのか?

そうして消費者はそれをどのように整理し、分類しているのか?

こうした問いが、決定的に重要になってきます。

 

というのも、消費者が何を調べようと選び、どのように閲覧するかが、

実際に何を買うかを決定する主な要因となってきているからです。

たとえば、オンラインレビューはいたるところにありますが、

意志決定に関しては、レビューを読むことが、他の要因、

たとえばブランドネームや価格などの影響力を弱めることにつながっているか

など、さらに突っこんだ研究が必要になっています。

 

消費者が無視するのはどのようなレビューか、

相反するレビューが、購入パターンにどのような影響を及ぼしているかなど、

いまだほとんどわかっていません。

伝統的に、買い物客が目を通す一連の商品、いわゆる「考慮集合」は、

かつては予測しやすく、2、3 の有名なブランド、

もしくはそれより安価なモデルに限られていた、とサイモンソンは言います。

 

けれども、今日の消費者は、購買決定をしようとする際に、

よく知っているものも、検索結果に表示されて知ったなじみのないものも、考慮に入れています。

明らかに「考慮集合」の枠が、拡大しているのです。

サイモンソンによると、こうした問いは

「消費者行動の中心に関わるものであり、

広く意志決定やマーケティングの研究にとっても重要なものである」ということです。

 

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元記事: http://stanford.io/1BwbhaN

(翻訳:服部聡子)