千秋育子さんインタビュー
島藤真澄インタビューシリーズ:千秋育子さん(イラストレーター)
今回は世界的に活躍されているイラストレーターの千秋育子さんに
お話をうかがいます。
スタートからどのように仕事をしていったか、
プレゼンのやり方、イラストというお仕事についてなど、興味深い話が続いていきます。
今回は世界的に活躍されているイラストレーターの千秋育子さんに
お話をうかがいます。
スタートからどのように仕事をしていったか、
プレゼンのやり方、イラストというお仕事についてなど、興味深い話が続いていきます。
こんにちは、トイアンナです。
先月、イギリスで痛ましいテロが起きました。人気沸騰中の歌手、アリアナ・グランデのコンサート会場でテロが発生。計22名が亡くなりました。犠牲になったのは10代の子供たちと、コンサート帰りで送迎に来ていた親御さん。遺された痛みを想像するとそれだけで筆が止まりそうです。
一方、イギリスでは「ある奇妙な現象」が起きていました。テロの追悼番組では、事件の当事者であるアリアナ・グランデではなくイギリスを代表するロックバンドOASISの音楽が流れたのです。
この事態がどれほど奇妙だったか。比較するために1980年のジョン・レノン暗殺事件を思い出してみましょう。現在に至るまで追悼番組で流れる音楽はいつも『イマジン』です。これに限らずとも特定のアーティストに関する事件では、BGMとして本人の曲が流されるのが通例です。
ところが、アリアナ・グランデでそれは起きませんでした。彼女の楽曲の知名度が20代以上で低かったからです。
といっても、アリアナ・グランデは決して「カルトな人気」の歌手ではありません。2013年にデビューアルバム『ユアーズ・トゥルーリー』をリリースして以来、動画再生サイトYoutubeでは10億回も楽曲が再生されました。若者に人気の写真投稿SNS「インスタグラム」では世界3位のフォロワー数に支えられています。
ここであることに気付かれた方もいらっしゃると思います。アリアナ・グランデの業績には「CDは何枚売れたか?」がないのです。
筆者はアラサー世代ですが、当時はCD全盛期。浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、椎名林檎とビッグ・スターが次々登場し、CDのミリオンヒットも珍しくありませんでした。
もちろん親世代は「なんだ? 最近のアユ、リンゴって。リンゴ・スターか?」くらいに思われていたかもしれません。しかしCDおよびTV番組『速報!歌の大辞テン』などに支えられ、世代を超えて「何が流行っているか」は知られていました。
宇多田ヒカルのアルバム『First Love』は2000年1月31日までに853万8465枚を売り上げています。当時の10代だけが購入していたとするなら、ほとんど達成不可能な数字です。
新曲を耳にした親世代も一緒にCDを購入したからこその栄誉でしょう。
それに対し、アラサーの私にとってもアリアナ・グランデは「名前くらいは聞いたことのある歌手」に留まります。なぜならアリアナ・グランデは音楽のインターネット上における再生で10代「だけ」に知名度を上げ続けたからです。
アリアナ・グランデは音楽再生アプリ”Sportify”(スポーティファイ)で主に試聴されていることから、”スポーティファイ時代のスター”と呼ばれます。スポーティファイは世界中の音楽をストリーミング再生できるアプリで、アクティブユーザーは1億人以上、有料会員数5000万人。Apple社の競合アプリ”Apple Music”を超える勢いで若者へ普及しています。
ところが、このツールを使っているアラサー以上の年代はほとんどいないのではないでしょうか。実際のデータはないため推論ですが、少なくとも今まで数百名に実施した30代以上へのヒアリングで「スポーティファイ」という単語を聞いたことがありません。
これまで、レコードがCDになり、CDがMDになっていく進化の過程で「ある世代だけが使うプレーヤー」はありませんでした。若年層の方が流行に敏感だったため早期購入層ではあったでしょうが、「ある年代だけが使っていて、他の年代は全く使わない音楽プレーヤー」はほぼ見られなかったはずです。
しかしスマートフォンが一気に普及した現在、主にアプリを使って音楽を試聴する若者と、そうでないアラサー世代は分離しました。スポーティファイで大ヒットする若手アーティストを30代以上は知ることもなく、また今の30代が買うミスチルやB’zといったアーティストも「おじさん・おばさんのもの」になりました。
自分が聞いていた音楽が「おじさん・おばさんのもの」と言われることはどの時代にもありましたが「テレビを見ないからミスチルを聞いたことがない」「浜崎あゆみ、名前だけなら知ってる」と言われるほど認知度が低くなっているのは、現代の特異さではないでしょうか。おそらく使っているメディアによって、「音楽の世代間断絶」が起きているのです。
音楽の世代間断絶により、アリアナ・グランデのテロを伝えるニュースでは「レコード世代・CD世代の我々でも知っている」OASISが選ばれたと思われます。
ビジネスでも同様に自分と異なる世代や性別、職業の人へマーケティングを考えるときには、我々の「常識」を超えた道具が使われ、知らない人がそのグループには大変な有名人ということもあります。
なぜマーケティングでは消費者の生の声を、何度もしつこく調査する必要があるのか。
それは30歳と25歳の間にすら、互いの常識が通じない世界が転がっているからです。自分の世代の常識を疑うところに、マーケティングの種が転がっています。
トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com
こんにちは、トイアンナです。
私は現在イギリスに住んでいますが、日本製品は食事から雑貨まで高品質なことで知られ、愛されています。特にトレンドへ敏感なロンドンではいたるところに寿司屋やラーメン店があり、異国感が薄れてしまうほど。
雑貨ではMUJI(無印良品)、UNIQLOが名だたるブランド品と並んで出店しており、特にUNIQLOのヒートテックは大ヒット商品となりました。
このような成功例を踏まえ「同じように高品質なものをヨーロッパへ出せば売れるのではないか」と日本企業の多くが進出を試みています。しかしその多くは辛くも惨敗し、撤退せざるを得ない現状があります。なぜ日本の製品は素晴らしいのに、現地で売れないのでしょうか。
今回は「自分が知らない分野」へ進出する際にありがちなマーケティングの失敗例と回避術をお伝えします。
イギリスは雨と霧の国――そう聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。昨年はドラマ『シャーロック』が流行りましたが、その中で多くの殺人事件やバトルシーンが霧の中起きていました。
そうすると、日本企業の担当者はこう考えます。「イギリスは降水量が多い? だったら日本の傘はよく売れるに違いない。ざっと調べてみたが、イギリスの傘は粗悪でデザインもシンプルすぎる。日本の傘は丈夫でコンパクト、さらにデザインが豊富。さらに手軽に買える値段でもある。これなら輸出するだけで売れるはずだ」
そう考えて傘を売ると、これがさっぱり売れません。それもそのはず、イギリス人は雨が降っても傘を差さないのです。
イギリスの雨は日本と違い、ぽつぽつと大人しく降り、そしてすぐ止みます。1日中雨の日は珍しく、長くて1時間で止むのが特徴。むしろ雨は降らないままどんより曇りだけが続くことも珍しくありません。
こういった雨が多いと、傘をいちいちさすのも面倒くさいからと、折り畳み傘を持ち歩く人も少ないのです。
道端で雨が降りだしたときイギリス在住者が取る反応は以下の2つ。
(1) 気にせず歩き続ける
(2) カフェにでも入って雨がやむのを待つ
これでは雨で売上が上がるのは、傘より駅近くのカフェでしょう。
イギリスでは傘が売れない代わりに、防水ジャケットとカバンがよく売れます。傘をささずに歩き続ける雨の中で、パソコンやお菓子を持ち運ぶならカバンに防水機能が欠かせません。日本のようにオシャレで口の空いたバッグなど持ち歩いてはあっという間に水で中身が濡れてしまいます。
一時日本のランドセルがイギリスで売れていると話題になったことがあります。これも売れるのは納得。防水性・軽さ・丈夫さのどれもがイギリスの気候に合っているからです。
売れる商品、集客できるサービスの裏には必ず消費者のニーズに合ったマーケティング戦略があります。そして正しいマーケティング戦略は「〇〇だからXXが売れるだろう」という机上の空論ではなく、地道なヒアリングで成り立っています。
「現場の消費者にこそ売上アップの答えがある」というマーケティングの考え方は、営業を経験された方にとっては腑に落ちるのではないでしょうか。マーケティングとは多くの日本企業が強みとする営業力を、取引先の代わりに消費者へ向ける技術です。
もしこれまでに「マーケティングは会議室で話し合うばかり。営業しか現場を知らないんだ」とお考えになっているのであれば、それはこれまでに接触したであろうマーケターが与えてしまった誤った印象です。マーケティングを生業にするものの一人として、こういう誤解が生まれたことを申し訳なく思います。
正しいマーケティング戦略の基盤は、営業と同じ現場にあります。マーケティングにとっての現場とは顧客・消費者の声です。
マーケティングでは消費者が「これなら絶対に買う」と仰っていただくことが、営業にとって「よし、うちで扱おうじゃないか」とお取引先に確約していただくことに等しくなります。
多くの企業では何も考えず飛び込み営業をするよりも、長期的に利がありそうなお取引先を選んでからご挨拶へうかがうでしょう。マーケティングでやみくもに傘を売らず、自社の製品が好まれそうな地域や消費者を探すのも同じことです。
イギリスへ傘をやみくもに輸出するような失敗を避けるためにも、すべての企画に先駆けたヒアリングは欠かせません。もしマーケティングへ割くことのできる予算が限られているのであれば、リーフレットやWebサイトを作る費用を後回しにしてでも、ヒアリングへ真っ先に予算を割いてください。
ヒアリングは明日の利益にはつながらないかもしれませんが、1年後、2年後に歴然とした差を生みます。手っ取り早い果実よりも大きな成功を目指すため、消費者の声へ耳を傾けていただければ幸いです。
トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com
こんにちは、トイアンナです。
マーケターとして仕事をしていると、たまに「天才だ」と思わされるマーケターに出会います。たとえばドナルド・トランプは天才の一人です。正確に言えば、ドナルド・トランプのバックにいて、彼の原稿や発言を管理している有能な秘書たちでしょうか。
トランプ大統領は就任直後、いきなりイスラム教徒が多い国籍保持者を入国拒否しました。数百万人単位のデモを起こし、世界中で混乱と批判を浴びているトランプの何が天才なのか?と思われることもあるでしょう。
しかしアメリカ国民に対して行われた調査では、トランプの入国拒否手続きを支持すると答えた層が反対を上回っています。
彼にとって一番重要なのは自国の支持率を維持することですから、いくら裁判所がNOを付きつけようが、目的を達成するために正しい戦略を取ったと言えるでしょう。
彼のしたことは現場の担当者へ大混乱を招きましたし、何よりビザを持つ人間すら拒否したため裁判所から合衆国憲法違反と判断されました。さらに何も悪いことをしていないのに空港で追い返された多くの人を傷つけたという意味で「正しい」「正しくない」の天秤にかけるなら「正しくない」と感じる方も多いはずです。私もリベラル寄りなので政治的信条からすると彼の行為は絶対に許せないことです。
その一方、マーケティングという目線で語るなら彼の戦略はあまりに的確で、舌を巻きます。
マーケティングは「正しさ」「正しくなさ」に関係なく目標を達成するための道具です。
ところが自社のマーケティングや集客を考える上で、まずは頭を柔らかくしてどんなアイデアでも自由に出してみましょう――と言われても
「これはウチのポリシーに反するから」
「いくら売上のためだからってこれはできないよ」
と、「正しい」「正しくない」でアイデアの幅を狭めてしまう方が少なくありません。特に同じ業界で長くお勤めなら慣習やしがらみもあり、なかなかこれまでのやり方を無視できないはずです。
けれど、思いもよらないマーケティング戦略は正しさやしがらみ、常識から外れたところに生まれます。たとえば機能が劣ってもいいからカッコいい動作を追求しようと、携帯電話業界の常識を無視して登場したのがiPhoneです。iPhoneにはデコレーションメール機能や着メロの音質といった「当時ガラケーの会社が当然備えるべきと考えた機能」は何一つありませんでした。
iPhoneが海外製品だったから勝てたというわけではありません。日本の例ですと、雑誌なのに「読まれなくていい。付録目当てで買ってもらう」という新しいコンセプトで爆発的に売上を伸ばした女性誌『InRed』があります。男性に身近なケースでは、ビールなのにアルコール分ゼロを売りにしようという新しい発想で生まれたのが『キリンフリー』は記憶にあるかと思います。
「正しい」「正しくない」やこれまでのしがらみを一度すべて忘れ、新しいアイデアを出すことで大ヒット商品は生まれてきました。
このように型にハマらないヒットの卵を産むためにはスティーブ・ジョブズ並の天才社員、もしくは何でも提案できる社風づくりが欠かせません。「とんでもないこと言い出しやがって」と部下を叱る前に「待てよ、もしかすると面白いかもしれない」と一度採用してみる。こんな心意気が、ヒット商品へ繋がります。
さて、企業によっては「スティーブ・ジョブズ型の天才ばかりを雇用する」ところもあるかもしれませんが、アイデアを出しやすい仕組みづくりを行う企業の方が日本では多く見られます。そのため多くの企業がボーナス付きのアイデア公募制度を用意しています。公募制度を実施する際はボーナスだけでなく、社内で不利益を被る人が出るアイデアでも投稿者が報復人事にあったり、嫌がらせをされたりしない仕組みが必要です。
アイデアを全社員が出しやすい土壌を作ったところで、次に常識破りの面白いアイデアが出てきたとしましょう。しかしそのまま世に出してはトランプ並みの波紋が業界へ起きます。また、奇抜なだけのアイデアは話題こそ呼ぶものの実際の集客へ繋げるのは難しいものです。
そこで、まとまった時間を取ってからアイデアを並べ、「どうしたらアイデアを活用して集客を実現できるか」「どうしたらしがらみや慣習を突破できるか」を考えてみるのが、マーケティングのやり方です。
面白いアイデアの中から、目標(売上・利益)を達成できそうなものを選び、さらに業界からも「最初はびっくりしたけど、ありゃ面白いね」と言われるサービスや製品をこの世へ出せるかには、会社としてどこまでリスクを取れるか覚悟が求められます。
冒頭のトランプであれば「たとえ大反発を招いても、支持率を稼げるなら目標達成だ」と判断し、リスクを取ったと思われます。トランプほどの反発を招く行為は私が御社のマーケターならオススメしませんが、それくらいの胆力があればどんな「正しさ」も超えて優れたマーケティングアイデアを出せるはずです。まずはアイデアを出せる制度作り、御社で考えてみませんか?
トイアンナ:
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com
新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)