音楽認識アプリが音楽を変える?(後編)

by デレク・トンプソン

 

 

前編より続く

データへの依存がもたらす音楽スタイルの「クラスター化」と

ポピュラー音楽の無個性化

同じヒット曲が流れる回数がどんどん増えているというだけでなく、

ヒット曲そのものも似通ってきているのです。

 

レーベルも売れる音楽を特定する術に長けてきており、

それと同時に、売れる音楽を模倣したアーティストへの投資決定もスピーディーになってきています。

 

私が意見を聞くことのできた音楽業界関係者は皆、

データに依存することが同じスタイルやジャンルが群がるようになる「クラスター化」につながり、

ポピュラー音楽は退屈で無個性なものばかりになってしまうと口を揃えます。

2012年、スペインの国立研究評議会の発表したあるレポートが、世界中の音楽マニアを喜ばせました。

 

ポピュラー音楽は、どうやら、どんどん退屈なものになってきており、音量は大きくなり、

またパターンの決まったコード進行を何度も繰り返し使うため意外性が失われつつあるというのです。

この研究では、1955年から2010年までに世界中で発表された464,411のポピュラー音楽を分析しました。

 

その結果、10年単位で見た場合に、2000年以降に流行した曲は、

それまでのどの時代より「音程の変化のバラエティーが少ない」ということを発見したのです。

研究チームの結論は、古い曲であっても、ただ楽器編成や編曲をリフレッシュし、

「平均的な音量」を上げるだけで、「斬新でファッショナブル」に聞こえるようになるというものでした。

Sounds

ポピュラー音楽のアーティストの側に問題があるわけではありません。

私たちの脳が、聞いたことのあるメロディから逃れられないようにできているのです。

(オハイオ州立大の音楽理論研究者、デビッド・ヒューロンは、

私たちが音楽を聴いて過ごす時間の少なくとも90%は、

聴いたことのある曲を探すことに費やされていると言います。)

 

なぜなら、親しみのある楽曲は脳が処理しやすいのであり、

また、音楽であれ、絵画であれ、何かのアイディアであれ、考える必要が少なければ少ないほど、

私たちはそれを好きになりやすいのです。

 

これは、心理学では流暢性という概念で語られます。

「情報処理が流暢である」とは、脳に入る情報が予想されたパターンにきれいに当てはめられ、

それに満足し自信を感じている状態を指します。

 

親しみのあるものは心地の良いものです。不安を感じているときは特にそうでしょう。

 

とは、流暢性を研究する、南カリフォルニア大のノーバート・シュワルツ心理学教授の言葉です。

 

機嫌が悪いときには、古い友達と会いたくなったり、

大好きな食べ物を食べたくなったりするでしょう。

メディアや情報の選び方にも、これがよく当てはまると考えています。

ストレスが溜まっているときは、新しい映画を見たり難解な音楽を聴いたりしたくはなりません。

よく知っていてなじみのあるものを欲しがるはずです。

 

しかし、音楽が低脳化、大音量化、定式化への道を一直線に突き進んでいると考えるのは、

単純に過ぎるすぎでしょう。

レーベル各社はヒップホップとカントリーの人気にすでに気づいているのであり、

これらのジャンルを伝統的なポピュラー音楽と混ぜ合わせることで革新的な新しい音楽を生み出しています。

 

夏のヒットソングだった『プロブレム』は、ふらつくようなサックス、

90年代ポップソング風のボーカル、ささやき声のサビ、さらに女声のラップを組み合わせています。

実に変わったサウンドでしたが、ひとときの間は、至る所でかかっていました。

また、カリフォルニア大学デービス校で音楽産業でのジャンルの混合を研究しているグレタ・シュウ准教授は、

ジャンルを混ぜ合わせることにはリスクはあるが、

複数のオーディエンスに対して新鮮であると同時に耳なじみのある音楽と受け入れられ、

際立った成功を納めることもあると、私に語りました。

Talk Radio

また、データの力が楽曲の制作プロセスを取り込むまでにはいたっていないということも、

音楽ファンにとってはなぐさめとなるでしょう。

プロデューサーやアーティストはトレンドには敏感ですが、

表やデータの中に埋もれて仕事をしている、スーツ姿のレーベル・エグゼクティブとは異なります。

レコーディング・ルームにまで機械が侵入してこない理由は、

リスナーが好むのが少し難のあるリズムだからかもしれません。

2011年のハーバード大による研究で、ロボットのドラマーやその他の機械が演奏する音楽は、

私たちの耳には正確すぎるものだということが判りました。

研究を率いたハーバード大の物理学研究者、ホルガー・ヘンニグは

 

人間が叩き出すリズムには不完全な部分があり、

それがどうやら、私たちの耳に完璧なほどになじむらしいのです。

 

と言います。

ヘンニグは、熟練のミュージシャンが集まって演奏すると、ミスもしますがそれだけではなく、

そのささいな変化がベースになってさらに音楽が発展し、

生の音楽がちんまりとまとまってしまわないようにしていることを発見しました。

インターネットを通して、私たちは驚くほど大量の音楽に触れることができます。

独創性がないものもありますが、大部分は大胆で実験的で、見事とさえ言っていいものもあります。

スポティファイやパンドラのようなストリーミング・サービスがあれば、

何十年か前までは世界最大のレコード店にさえ入りきらなかったコレクションを

試聴することができるようになっています。

 

また、こういったサービスは、ただコレクションが幅広いというだけでなく、

検索することが可能で、各ユーザーに合わせてパーソナルに仕様を変えることもできます。

パンドラのチーフ・サイエンティスト、エリック・ビーシュケはこのように言います。

 

ユーザーの方々にはあまり知られていませんが、

パンドラのアルゴリズムは一つだけではないのです。

数多くのアルゴリズムがジャンルや人気、リピートの多さなど、

様々な方法で人と音楽を結びつけているのです。

さらに、それら全てのアルゴリズムをメタ・アルゴリズムが統括しています。

例えば、オーケストラがたった一人の観客ために演奏しているとして、

メタ・アルゴリズムはその指揮者みたいなものです。

Listening to Trance?

未知の音楽が眠る鉱脈は、いくらでも地中深く掘り下げていくことができます。

ですがやはり、スポティファイで最も人気のプレイリストは「今日のトップヒット」なのであり、

パンドラで最も人気があるステーションは「今日のヒット」なのです。

果てしのない音楽の宇宙が目の前に広がっていても、私たちの多くは、

他のみんなも聴いていると思う音楽を選ぶのです。

 

 

著者:デレク・トンプソン(アトランティック編集主任)


元記事:http://theatln.tc/11nKWkb

(翻訳:角田 健)

 

 

音楽認識アプリが音楽を変える?(前編)

by デレク・トンプソン

 

レコード会社は、次のヒットを割り出すためにダウンロード実績と検索データの分析を行っています。

音楽業界にとってはプラスかもしれませんが、音楽そのものにとっては、はたしてどうなのでしょうか?

 

2000年、スタンフォード大の博士課程に在籍していたエイベリー・ワンは、

ビジネススクール卒業生の仲間数人と共同で、

シャザムという名の技術系スタートアップを創業しました。

創業時のアイディアは、

どんなに混雑したバーやカフェの店内にいても、

携帯電話を使うだけで、数秒以内に音楽の曲名を識別するサービスを開発する、

というものでした。
ワンは、音声分析を学んだソフトウェア開発の責任者ではありましたが、

当初は、実現は不可能なのではないかと恐れていたのでした。

音楽とその他の雑音を識別できるような技術は存在せず、

また、楽曲を一音違わずカタログのように記録していくにはレーベルの許可を得る必要があったためです。

 

しかしそのとき、ワンはブレイクスルーを経験します。

曲全体を捉えようとはすることは止め、

楽曲を個別に識別できる音楽の指紋のようなものを楽曲ごとに生成するアルゴリズムを組み上げたのです。

楽曲を単なるデータとして捉えることが開発のポイントだと、ワンは気付いたのです。
シャザムは2002年にデビューしました。

(スマートホンが登場する前は、ユーザーが電話番号を回して通話口を音源に向け、

シャザムがショートメッセージで曲名とアーティスト名を送ってくるまで待つ、という方式でした。)

その当時から現在までに、シャザムは5億回ダウンロードされるまでになり、

また3千万の楽曲の識別に使用されており、世界で最も使用されているアプリの一つとなりました。

また、音楽を制作する側にとっても、革命の起爆剤の一つともなりました。

 

大部分のユーザーはシャザムを「知らない曲名を教えてくれる便利なツール」程度に思っていますが、

音楽業界のエグゼクティブにとっては遥かに大きな価値を意味しているのです。

つまり、ヒットの早期発見機となるのです。

 

I call that clever Project 365(3) Day 202

毎日2千万件の検索履歴を分析することで、どの曲がどこで流行り始めているのかを誰よりも早く、

シャザムは知ることができるのです。

シャザムの前チーフ・テクノロジスト、ジェイソン・タイタスは

「大部分のリスナーの耳に届く数ヶ月も前から、ブレイクの兆しを見ることができる場合もあります」

と言います。(タイタスは、現在はグーグルのシニア・ディレクターです。)

 

昨年、シャザムは検索データを地図上で表示することができるインタラクティブ・マップをリリースしました。

サンパウロ、ムンバイ、ニューヨークなど、ユーザーは地図上で世界中の都市にズームインし、

最もシャザムで検索された曲を調べることができるようになったのです。

 

この地図は、世界中で生み出され人々の心をつかむ新しい音楽を、

まるでリアルタイムの地震計のように教えてくれるのです。

レコード会社のスカウトマンは、新しい震源地になる契約前のアーティストの発掘に、

この地図を利用しています。

(シャザム社内には、セルフプロデュースも含め、世界中から新しい音楽を収集し

膨大な音楽ライブラリのアップデートにあたっているチームがあるのです。

アーティスト側からシャザムに曲を提供することもできます。)
タイタスは、「ヒットがどんな場所で始まるか、私たち知っています。

ヒットが広がっていく様子を見ることもできるのです」と言います。

例えば、どこからともなく現れて2013年に世界でセンセーションを巻き起こしたロード。

Lorde

シャザムのエンジニアたちは時間を巻き戻して、ロードのファースト・シングル「ピュア・ヒロイン」が

どのように世界中に感染を広げていったか辿って見ることができるのです。

 

シャザム検索されたことを表すピンは、まずロードの出身国ニュージーランドで始まり、

アメリカのナッシュビル(カントリー音楽以外も含めた世界の音楽のハブ)に飛び、

そこからアメリカのイーストコーストとウェストコーストに広がっていきました。

その間、3千近いアメリカの都市それぞれで、検索のピークが何月何日だったのか、

正確に知ることもできるのです。
シャザムはアメリカ中で音楽エージェントのお気に入りアプリとなり、

さらに2月には、シャザム自身が音楽制作ビジネスに進出することをアナウンスしました。

アプリで見つけ出したアーティストのためのレーベルを、

ワーナー・ミュージック・グループ傘下に始動させたのです。
ポピュラー音楽ビジネスでは新しいデータの活用が進んでおり、シャザムはその中の一つに過ぎません。

コンサートのプロモーターは、動員数の見込める都市を回るためにスポティファイの再生回数を分析し、

あるアーティストは、ツアーの各会場で演奏する曲を決めるために、

パンドラのストリーミング実績からパターンを割り出しています。

 

私たちが行う検索、ストリーミング再生、ダウンロード、シェアなどは全て、実際に利用されています。

その目的は、

「人々が次に求める音楽は何か?」

という音楽業界が100年にわたって追い求めてきた質問の答えを見つけ出すためなのです。

 

Day Fourty Three - Soul Music

 

この質問の答えは、一昔前なら、音楽レーベルのエグゼクティブが、

とにかく腹を据えて自分自身の決断を信じること以外にありませんでした。

 

しかし、データが人々の嗜好傾向を物語るようになってパワーバランスが変わり、

一般の人々の意志がプロの直感に取って代わるようになったのです。

 

結果として、レーベルは私たちが聴きたい音楽を、

以前よりかなり的確に捉えることができるようになっています。

音楽業界は、常にデジタル革命に利益を切り崩されてきましたが、これだけは不幸中の幸いと言えるでしょう。

 

なので、音楽でビジネスをしたい人にとってプラスになるものであることは明白です。

しかし、音楽そのものにとっていいことなのかどうかは、はっきりとは言えないのです。
今年の初旬、リパブリック・レコードのスカウトマンであるパッチ・カルバートソンは、

ニューヨークのオフィスに座って、アイフォンでシャザムのマップを開いていました。

リパブリック・レコードは、音楽業界の中でも最もデータに基づいた経営を行っているメジャーレーベルです。

(競合レーベルのエグゼクティブでさえ、スカウトとマーケティングにおけるデータ分析利用の

最重要レーベルは、リパブリックだと述べています)。

そのリパブリック社の中でも、カルバートソンはスター・スカウトマンです。
カルバートソンは、昨年に自分で契約させたテキサス州デニソンのR&Bシンガー、

ソーモーの状況を確認していました。

Somo

カルバートソンは、テキサス州コーパスクリスティとヒューストンの間にある小さな町、

ビクトリアにズームインしました。

あるラジオ局がソーモーの『ライド』というシングルをかけ始めます。

 

人口6万3千人の小さな町なので、ここから全米ヒットが発信されるということはないのですが、

カルバートソンはビクトリアをいわゆる試験場のように捉え、

リスナーの心を捉えられるか否かの指標にしていたのです。

「『ライド』はビクトリアではナンバーワンになることが明らかです」

とカルバートソンが言います。
ポピュラー音楽はビジネスとしては人の感情に左右される要素が大きく、

新しい大ヒットやトレンドを予想するためには、人でごった返すバーに通ったり、

若いバンドが客を夢中にさせ会場を揺さぶるのを観察したりなどしなければならないものでした。

しかしカルバートソンも気付き初めています。

 

今や、現代のアーティストが名前を売り出すのはナッシュビルのクラブではなく

ツイッターとなったのであり、どんなクラブやコンサート会場に足を運ぶよりも

コンピューターの前の椅子こそが、アーティスト発掘に最適な場所なのです。

 

iTunes + iPod

アーティストの生演奏を実際に聴くことの意味は、新しいツールの登場で今後さらに薄れていくでしょう。

ニューヨークを拠点にして、音楽の分析を事業としている創業5年のネクスト・ビッグ・サウンドは、

スポティファイの再生回数、インスタグラムのメンション、その他オンライン空間でのファンの動向を追って、

ウェブをくまなく探し回り、次のブレイクの予想を立てています。

 

50万組の新人アーティストをアルゴリズムのふるいにかけ、

1年以内のブレイクが予想される100組のスターのリストにまで絞り込むのです。

 

ネクスト・ビッグ・サウンドのデータ・サイエンティストであるビクター・フーは

「トップ100組と契約すれば、そのうち20組はビルボードトップ200入りします」と言います。

確かに、打率20%では大して高くはないと思われるかもしれません。

ですが、果てしなく広がる宇宙に星の数ほど現れる新しいアーティストの中から

次のビヨンセを探し出さなければならないという風に考えれば、

決して低いとは言えないことがわかるでしょう。
昨年、ネクスト・ビッグ・サウンドは、6桁の金額の年会費で利用できるFindという名前の

カスタマイズ可能な検索ツールを発表しました。

ソーシャルメディアを掘り返して、スカウトマンがダイヤの原石を見つけだすのをサポートするものです。

例えば、もしツイッターでのフォロワー増加が早い無名バンドを知りたい等のであれば、

Findが瞬時にリストを作成してくれるのです。

 

今や音楽商品の売り上げの77%

上位1%のアーティストが稼ぎ出しています

バンドの成長を予測する物差しは複数あり、

その中には不可解なまでに正確なものがある一方、

Facebookの「いいね!」数のような尺度では不十分であると、

ネクスト・ビッグ・サウンドは気がつきました。

 

「ラジオでの露出が最も重要であることは、驚くに当たりません」とフーは言います。

リスナーに新しい音楽を紹介する最適な方法がラジオであることは、いまだに変わりのないことなのです。

2?3度でもラジオで耳にすれば、リスナーは好きになる傾向が高まります。

 

「ですが私たちは、バンドのウィキペディア記事が検索された回数が、ラジオの次に正確だと気付いたんです」

 

ウィキペディアでの検索がヒット予測のうえで正確なのは、シャザム検索と同様の理由です。

カルバートソンはこう説明します。

「ラジオでの放送がリスナーに曲を届ける手段になっている一方、

シャザムのデータを見れば、リスナーが曲について知りたがっているかどうかがわかるのです。」

Music Machine (#33548)

 

まず、曲をラジオで放送するにあたって、レーベルはある種のパラドックスに直面します。

すなわち、「誰も聴いたことのない曲がヒットになるかどうか、どうやって証明するのか?」

ということです。

 

オーディエンスは新しい音楽には見向きもしないことが多いため、

DJは、耳なじみのない曲はラジオ向きではないと判断してしまうのです。

過去には、レーベルがラジオ局に圧力をかけるとか、

金を渡してプロモーションさせるということがまかり通っていました。

音楽がヒットするか否かは、レーベルのエグゼクティブが握っていたのです。
しかしラジオも、よりデータ重視になってきており、

いまやレーベルのエグゼクティブがラジオ局と交渉するときも、

統計や表などを準備して持参することが多いのです。

 

曲のポテンシャルを示す資料も、徹底的に探さなければなりません。

ラジオ再生回数、セールス実績、ユーチューブ再生回数、フェイスブック上の状況、

さらには独自機関の調査やフォーカスグループによる調査結果でも、

それぞれ個別に見せられただけでは説得に足りません。

レーベルが規模の大きいラジオ局を説得して曲をかけさせるには、

それらのデータが示す点と点をつないで証明して見せないといけないのです。
「DJは好き嫌いでだけで曲を選んでいるという考えは、時代遅れです」と、

全米最大のFM局アイ・ハート・メディア(元クリア・チャンネル)のインサイト、研究、

および分析担当の副社長ラーダー・スブラマニヤムは語ります。

 

アイ・ハート・メディアは、シャザムのような会社を相手にコンサルティングを行い、

バイラルなヒット曲を特定します。

同社と提携を組んだニールセン・オーディオもデータ分析企業なのですが、

何千人ものリスナーに現金やギフトカードを見返りにして、

ポータブル・ピープル・メーターと呼ばれるデバイスを装着させ、聴いているラジオ局を追跡しているのです。

リスナーたちが曲に飽き始めるタイミングを知るために、

アイ・ハート・メディアは150万人のデータベースを使って毎週調査を行っているのです。
ポピュラー音楽の未来予測に最も興味津々であるのは、おそらく、

12年までに創業されたアイ・ハート・メディアの関連会社であるヒット・プレディクターでしょう。

その名の通り、昨年のラジオのヒット50曲のうち、48曲を予測した会社です。

 

ヒット・プレディクターは、ポピュラー・ヒット、アーバン、カントリー、オルタナティブなどのメジャー・チャートで

曲がデビューさえしていないうちに、キーとなる重要な役割を果たしています。

リスナーのオンライン・データベースの反応を元に、曲にレートをつけるのです。

65点を超えた曲は全てブレークの見込みありと判断されますが、

かといってその基準を超えた最高得点の曲がその後も売り上げとなるわけでもありません。

(メーガン・トレイナーのデビューシングル『オール・アバウト・ザット・ベース』は68.97点と

及第点ぎりぎりのところでしたが、秋には、カントリーチャートでトップとなります。)
なぜ、このように何もかも数字にして噛みくだいているかというと、

リスナーが選局のダイヤルを自分で操作する必要がないようにするためです。

デジタルに特化したレコード・レーベルであるディグ・シン

(販売は全てダウンロードで行っており、CDは扱っていません)のオーナー社長、ジェイ・フランクは

このように言っています。

「ラジオから人間的な要素を排除しているということではなく、もっとも人間的な要素、

つまりオーディエンスの反応をこれまで以上にクリアに見えるようにしている、

ということなのです。

現代こそが、ラジオの歴史の中でもっとも大衆主義的な時代になるのかもしれません」

 

cdcovers/disco/billboard top hits 1980.jpg

 

音楽チャートでも、同じ種類の革命が起きています。

例えば、1958年からアメリカのヒット曲のカウントダウンを行っている、

ビルボードのホット100を見てみましょう。

 

何十年ものあいだビルボードは、

レコード店のオーナーからの売り上げ報告や、

ラジオ局が作る再生曲のレポートに頼らざるを得ませんでした。

ですが、どちらも嘘をついていたのです。

 

レーベルは、ラジオ局を影で小突いたり金を渡したりして、

思い通りの曲をかけさせるということを頻繁に行っていましたし、

あるいは、レコード店側も品切れになっていたアルバムなどは

プロモーションしても仕方がないと思っていることがあったからです。

業界全体が、商品の回転をあげたがる傾向があったのです。

レーベルもレコード店も、新しいヒットを売り続けられるように、

チャートへの出入りをが早めたかったのです。
ホット100が大切なのは、リスナーの傾向がわかるからというだけでなく、傾向そのものを形作るからです。

2006年、コロンビア大学の3人の研究者が、

人気というものが曲のランキングにおよぼす影響を調査する

画期的な研究を行いました。

 

そして、人気というものは、そのものが自身の未来を予言し

その通りに実現していく傾向があるものだと発表したのです。

 

研究チームは、数十の音楽を聴けて気に入ったものはダウンロードできる

音楽サイト数種類準備し、参加者にアクセスさせました。

サイトには、ダウンロード数のランキングが表示してあるものと、ないものとがありました。

ランキングを見た参加者は、人気のある曲をすきになる傾向があることが分かったのです。
ではランキングを操作したらどうなるかと、研究チームは考えました。

次の実験では、あるサイトでは実際のダウンロード数を表示し、

別のサイトでは順位を逆にして、もっとも人気のない曲が一位になるように表示したのです。

この逆ランキングが、全てを塗り替えました。

それまでは無視されていた曲が大きな人気を獲得し、

それまでは人気のあった曲が無視されるようになったのです。

たとえ嘘であっても、人気曲である信じることで、ダウンロードされる可能性は高まっていたのです。
ビルボードは1991年に自己申告制を、

販売店レジのPOSデータをもとにしたチャートによる具体的なデータに置き換えました。

ビルボードのチャート・ディレクターであるシルビオ・ピエトロルオンゴは

「革命的なことでした。やっとのことで、レコードの実際の売り上げが見えるようになったのです」

と語ります。

ほぼ同時に、ビルボードはラジオ放送のモニタリングをニールセンへの外注に切り替えます。
それ以降、ヒップホップとカントリーがランキング内に浮上し、

古き良きロックが少しずつ勢いを失い始めました。

これは、東西海岸部の白人に握られていた音楽業界が、

都市部のマイノリティと南部白人の音楽的嗜好に十分位注意を払ってこなかった、ということかもしれません。
次の大きな変化は、ビルボードがストリーミング再生と

ダウンロード回数に注目を始めた、2000年代半ばに起こりました。

ブラック・アイド・ピーズによる2005年の『マイ・ハンプス』のような、

レーベルが選んだ以外のシングルが、レコード会社のエグゼクティブの選んだシングルを

追い抜くようになったのです。

black_eyed_peas_

 

以前は、「ディープ・カッツ」と呼ばれる、

レーベルが注目しないにもかかわらずファンには愛されるタイプの曲は、

ヒットのレーダーにかかることはありませんでした。

(レッド・ツェッペリンの『天国への階段』は、ポピュラー音楽史の中でも人気のある楽曲ですが、

リリース直後の数年間はラジオでプレイされることはなく、チャートに食い込むこともなかったのです。)

ですが、いまや人々に聴かれている音楽を追跡調査することができるのであり、

ファンの心をつかんでいる曲であれば、ヒットとなりうるのです。

led zeppelin, first album,

 

私がホット100について言葉を交わした人

(レーベルとラジオのエグゼクティブ、業界のアナリスト、ジャーナリスト)は全て、

ジェイ・フランクの言葉にうなずいています。

レーベルのヒットメーカーによって趣味をコントロールされていた数十年前より、

消費者の発言力が大きくなっている、という言葉です。

 

ですが、罠があります。

人々の発言力が大きくなりすぎると、耳馴染みのある同じ音を永久に聴き続けたいというようになり、

独創性を欠いた繰り返しばかりの音楽が、これでもかばかりと再生され続けるようになるのです。
ビルボードのランキングが、人々が買いプレイする音楽をより正確に捉えることができるようになった今、

ヒット曲のチャート上での滞留期間が大きく伸びています。

 

ホット100へのチャート・インの期間がもっとも長いトップ10楽曲は全て、

ビルボードがPOSデータを利用し始めた1991年以降のリリースで、

7曲は、ホット100がデジタルの売り上げを含めるようになった2005年以降のリリースなのです。

「私たちは、同じ音楽を何度も何度も繰り返して聴きたいだけだということになります」

とは、ピエトロルオンゴが私に語った言葉です。
人気のある曲がチャートに長居するようになったため、ヒット曲の相対的な価値が急上昇しています。

メディア研究の専門家は、いまや、レコード売り上げの77%が

トップ1%のアーティストによって稼ぎ出されるようになっていると語っています。

また、デジタルでの売り上げが増しているにもかかわらず、

現在、売り上げトップ10の売り上げは、10年前に比較すると、82%も伸びているのです。

デジタル時代に至ってDIY型のアーティストが現れるようになりましたが、これはあくまで細々としたもので、

トップは依然トップとして、以前よりも売り上げを伸ばしているのです。
一方でラジオ局も、リピート再生の限界を新しいレベルにまで押し上げています。

アイ・ハート・メディアの関連会社によると、ポピュラー・ヒットを主に取り上げるラジオ局での、

昨年のトップ10ヒット曲の再生回数は、10年前のほぼ2倍になっています。

 

ロビン・シックの『ブラード・ラインズ』は2013年にもっとも放送回数の多かった曲ですが、

この曲は2003年に最多放送回数だった3ドアーズ・ダウンの『ホエン・アイム・ゴーン』より

70%多く放送されています。

2013年の放送回数第5位だったザ・ルミニアーズの『ホー・ヘイ』でさえ、

10年前のどの曲よりも最低で30%以上は多く放送されているのです。

 

 

後編に続く)


元記事:http://theatln.tc/11nKWkb

(翻訳:角田 健)

 

 

最新の研究が教える「良い」顧客サービスとは

by レン・マーキダン

 

 

理論上は、顧客に喜んでもらえるサービスを提供する「秘訣」など、きわめて単純なものです。

  • 感情移入
  • 感謝
  • 有益であること

どれもたやすいことのように思えます。

 

この3つのスキルを向上させれば、準備完了、なのですから。

 

確かに「ありがとうございます」の言い方をマスターし、

語調や言葉の選び方による相手の受け取り方の変化を理解することによって

上記の3つを組み込むことはできるでしょう。

 

けれども現実には、顧客に満足してもらうことは、それほど単純ではありません。

実際に効果を上げた方法が、予想もしなかったことだった、というのも、よくある話です。

 

顧客が提供されたサービスの、どんなところに喜び、どんなところに腹を立てるかは、

私たちの直観に反していることがきわめて多いのです。

 

1. あなたは良いニュースと悪いニュース、どちらから話し始めますか?

  ――状況によります

 

あなたはこれまでどれほど、良いニュースと悪いニュースのどちらから初めてほしいか、

と、 誰かにたずねたことがあるでしょう。

 

昔からのお定まりの言い方ですが、実はちがいがあることがわかってきました。

あなたが口にする順番で、顧客の気持ちと行動を、実際に変えることができるのです。

 

カリフォルニア大学リバーサイド校で研究者たちは、被験者にニュースを配信する順序のテストをおこない、

反応や行動を測定しました。

 

そこで興味深いことがわかったのです。

 

悪いニュースを聞かされた人は、つぎの話で気分が良くなる傾向が見られたのに対し、

あとで悪いニュースを聞かされた人は、そのニュースをもとに、行動しなくては、という気持にかられたのです。

 

bad-or-good-news-first

 

通常の顧客サービスでは、顧客に満足してもらいたいので、

悪いニュースを先にもってくるのは良い考えです。

けれども、顧客を説得し、行動に移してもらいたいようなときは、 良いニュースから始めましょう。

 

2. 優れた顧客サービスには、速さより大切なものがある…

 

世間一般の通念では、顧客からの「ヘルプ」への対応は、速ければ早いほど満足度が高まる、とされています。

おそらく一般的には、その通りでしょう。

 

ところが、そのほかにも速さよりもっと重要な要素があることは、しばしば見過ごされています。

 

ギャラップは、銀行でサービスを受けた後、契約にいたった顧客がどのように感じたか、調査をおこなっています。

 

迅速なサービスを提供してくれる銀行に対しては、 6倍の人が、さまざまな面で取引をおこないたい、

と答えたのに対し、

「人的要因」での支持率が高い銀行(窓口のスタッフが礼儀正しく、親身な応対をしてくれる)では、

9倍もの人が全面的な取引をおこないたい、と答えたのです。

 

likelihood-of-engagement

 

ウィリアム・J・マキュアンは、『ブランドとの結婚』のなかで、このように言っています。

 

速さはひとつの要素ではあるが、

親身で的確なサービスを提供してくれる銀行窓口にくらべると、

重要さでははるかに劣る。

 

速さに焦点を当てるより、むしろ徹底した気配りや、親身な顧客サービスを重視してみましょう。

 

 3.  … ただし、ソーシャルメディアでは何よりスピードがものをいう

 

顧客の期待――顧客の満足感は、「期待」にかかっています――は、

あなたとのコミュニケーション手段によって変わってきます。

 

メールや電話、また対面のサポートでは、速さはさほど重要ではないかもしれませんが、

ソーシャルメディアでは、即応性が何にもまさる切り札となります。

 

ソーシャルメディアのリサーチをおこなっている「ソーシャルハビット」の調査によると、

ソーシャルメディアのユーザーの32%が、ブランドに連絡したときは30分以内の返信を期待しており、

42%のユーザーが、60分以内の返信を期待しています。

 

expected-response-times

 

また、そうした顧客は、夜間や週末だからという理由で、待たされることをいやがります。

57%の顧客が夜間や週末でも、通常の営業時間と同様に、すばやく返信がもらえることを望んでいるのです。

これはかならずしもフェアとはいえないかもしれませんが、事実です。

顧客はソーシャルメディアでは、スピーディな対応を期待しているのです。

 

 4. 末永く続く顧客を獲得したい? では「喜び」を超えるものを

 

顧客を喜ばせるやり方については、多くの人がさまざまに語っています。

そうした習慣を身につけることはすばらしいことですし、ビジネスの成長にもつながるでしょう。

 

けれども、顧客を喜ばせたからといって、 あなたが顧客の「特別な相手」になれるとは限りません。

愛着を持ってくれる顧客を作りだすためには、もっと有効な方法があります。

 

それは、顧客の手間を省く、ということです。

 

カスタマー・コンタクト協議会の2007年の調査によると、7万5千人を超える顧客が、

カスタマー・サービスの窓口と、電話、チャット、メールなどでコンタクトを取ったということです。

 

その結果から明らかになったのは、顧客がその企業に愛着を抱くようになった最大の要因は、

問題解決のために、顧客がやらなければならない作業を、企業が軽減してくれたことでした。

 

loyal-customer-recipe

 

この結果を、どうやって取り入れたら良いでしょうか?

答えはとても簡単。

顧客が問題解決のために何かをする必要があった場合には、それを代行してあげればよいのです。

 

あなたの顧客は、自分のアカウントを更新するために、リンクをたどり、

フォームに記入する必要があるのでしょうか?

彼らのために、アップデートをしてあげましょう。

 

あなたの顧客は、自分が抱える問題のせいで、トラブルシューティングのステップを、

ひとつひとつ踏んで、実行していかなければならないのでしょうか?

 

スカイプやグーグル・ハングアウトのスクリーンを用意して、ていねいにわかりやすく説明してあげましょう。

顧客はしばしば、問題解決のために、多くの作業をしなければなりません。

 

  • 別の番号に電話してください。
  • 郵送してください。
  • フォームに必要事項を記入してください。

 

こうした顧客の手間を取り除くことによって、双方の労力を減らすことができますし、

さらにはあなたの予想外の(予想外、ではない方が良いのですか)アプローチに、

たいそう驚いてもらえるでしょう。

 

 5.  企業と取引を停止する最大の理由は何ですか?

 

答えを聞くと、驚くことでしょう。 以下にヒントがあります。答えはこれ以外です。

  • 価格
  • 製品に欠陥がある
  • 競合他社の広告

確かに、これらはすべて、顧客の流出を引き起こしかねないものではあります。

 

けれども、2010年のライトナウ社による顧客体験レポートによると、

人が企業と取引をストップする最大の理由は、 顧客サービスの面で、いやな思いをしたことによります。

実際に、82%の人が、劣悪な顧客サービスを受けたことで、企業と関係を絶っています。

 

一方、満足のいく顧客サービスを提供し、顧客に喜んでもらえれば、予想にたがわず、

かならず大きな見返りがあります。

満足した顧客は、平均で9人の人々に、自分の経験を伝えるのです。

 

1-happy-customer-9-referrals

 

満足した顧客はコスト削減にもつながります。

さらには既存の満足した顧客ひとりあたりに対する販売の可能性は、

新規顧客への販売の可能性の14倍にも相当するというのです。

 

probability-of-selling

 

結局、劣悪な顧客サービスは、あなたの企業をつぶしかねないものであるのに対し、

優れた顧客サービスは、顧客との強い絆を築き、解約率を削減し、顧客の維持率や照会を増やし、

あなたのビジネスを急成長させることができるのです。

 

 

著者:?レン・マーキダン(マーケター、コピーライター)


元記事:http://blog.hubspot.com/marketing/surprising-customer-service-data

人はお金で動くのか?心理学から見たお金のチカラ

by クリスチャン・ジャレット

 
大金が手にはいるとわかれば、誰でも必死になる。

そんなことはあたりまえのように思えます。

だとすると、あなたが誰かにもっとがんばってほしいと思ったら、

お金をあげるから、と働きかければいいことになります。

ところが、現実はそんな簡単な話ではないようです。

 

お金にはすべてを変える力がある

 

お金がからんでくると、私たちのとらえかたはまるで変わってしまいます。

お金には、私たちを利己的に、また、競争心を駆り立てるちからがあるのです。

 

また、情熱を傾けてチャレンジしていたことが、

多額の報酬が得られるとわかったとたん、目的が金銭にすりかわってしまうこともあります。
こんな例を考えてみましょう。

余暇を利用して、あなたは本を書いているとします。

執筆は楽しく、寸暇を惜しんであなたは原稿に向かっています。
すると、その原稿を読んだ人が、まだ途中にもかかわらず、

それを書き終えたらお金をあげよう、と申し出てくれました。

 

今や執筆は、あなたにとってのフルタイムの仕事となたのです。

確かにこれは表面的には良いことのようにも思えます。

 

けれども、執筆に向けた心の持ちようは、申し出を受けた瞬間から変わってしまっていることでしょう。

あなたは書くことで、お金という報酬を得る。

原稿は、書き上げなければならない仕事となり、

完成を待つ人に対して、あなたは責任を負うようになったのです。

仕事のかたわら、趣味として、何かを作りだそうとしている人にとっては、

こうした出来事はよくあることでしょう。
さて、あなたはこれからどうなるのででしょうか?

 

お金という誘因(インセンティブ)が、人々の行動にもたらすものは、

なかなか予測がむずかしく、逆効果である場合も少なくありません。

心理学は、個人や集団にお金がからむと、

予測できない結果が生まれることを明らかにしています。

 

Work Chicago Daycare

お金は私たちの道徳意識をむしばむ

 

2000年にユーリ・ニージーとアルド・ルスティチーニは、こんな論文を発表しました。

 

保育園の子供を迎えに行くのに遅刻した人に対する罰金の事例です。

保育園は、子供のお迎えに遅刻した保護者に対して、罰金を科す、という規則を設けました。

ところが罰金にもかかわらず、遅れてくる保護者は徐々に増えていき、

結局、その数は倍にまでふくれあがったのです。
どうしてこんなことが起こったのでしょうか?

保護者は、罰金が、遅刻した場合に起こりうる最悪の事態であることを

知ってしまったのです。

 

罰金が科せられる以前は、保護者は子供と保育園のスタッフを待たせることの罪悪感から、

なんとか時間通りに保育園に着こうとしていました。

ところが今や保護者は、実際上、延長サービスの料金を支払っているも同然になったのです。

お金を導入することによって、暗黙のうちに築かれていた保育園と保護者の、

社会的な信頼関係と道徳観は、お金を導入したことによって損なわれてしまったのでした。
同様の転換が、あなたの仕事と人間関係の上で起こっていないか、考えてみてください。

 

あなたが仕事外の時間に、情熱を傾けて取り組んでいるプロジェクトでは、

自分の創造力を満足させることが、原動力になっています。

そのために、あなたは誰にも言われなくても、熱中してやっているのです。

あなたにとって、自分の創造性を充たすことは、何よりも大切なことなのです。

 

一方、仕事の合間にお金が支払われるプロジェクトをやるとなると、

お金以外の動機づけはなくなってしまい、道徳観も、人間関係も関係ありません。

それは、仕事の余暇、息抜きをする代わりにお金を稼ぐ、出口の見えない仕事になってしまったのです。

 

 

お金は私たちの時間感覚を歪める

 

1970年代に、エドワード・デシは、ボランティアの被験者にパズル・ゲームをやらせ、

その中の数人にだけ、お金を支払いました。

 

数日後、お金を支払った人々に、もうお金は出ないことを伝えた上で、

被験者全員を、ゲームと一緒にその部屋で待機させたのです。
最初にお金をもらった人々は、ゲームに触れようともしませんでした。

一方、お金をもらっていない被験者は、その間、楽しくゲームで遊んでいました。

 

いったい何が起こったのでしょうか?

 

お金をもらった被験者にとって、ゲームをすることは、

余暇の有効活用ではなく、「ただ働き」にほかなりませんでした。

 

それに対して、お金をもらっていない被験者にとって、

ゲームは一貫して、楽しむものだったのです。
また、時間給で働く人にとって、時間の感じ方がどのように変わっていくかを

調べた研究もあります。

 

サンフォード・デボーとジュリアン・ハウスは、

自分の時給を意識するように指示された人は、休憩時間、

音楽を聴くなどしても、あまり楽しむことができないことを明らかにしています。

 

つまり、時給10ドルの人にとって、2時間音楽を聴くことは

その音楽を聴くために、20ドルかかったように意識される、というのです。

 

Sarasota Design Conference

お金は私たちを怠惰にする

 

共同作業の場にお金がからんでくると、事態はいっそう複雑になります。

ある状況下では、高い報酬が、徐々にチーム全体の活動をむしばんでいくことさえあるのです。
どうしてそのようなことが起こるのでしょうか?

新しい雑誌の刊行に取り組んでいる、3人のデザイナーを想像してみてください。

それぞれがリサーチをおこなった上で、表紙のデザインを出し合っています。
仮にあなたがクライアントで、

良い結果が出れば、デザイナーに多額の報酬を支払おう、と言ったとします。

ここで、いわゆる「インセンティブ・リバーサル」として知られる現象が作用し始めるのです。
多額の報酬が支払われるという約束を聞いて、第1のデザイナーは気持ちが少しゆるみ、

自分が少しぐらい手を抜いても、ほかのメンバーが穴埋めをしてくれるにちがいない、と

思うようになるのです。

多額の報酬を得るために、おそらくほかの2人は一生懸命働くに決まっている、

だから自分はラクをしてもかまわない、と思うのです。
ところが実際はそうなりません。

ほかの2人も、同じようにさぼることを考えてしまうからです。

こうして、多額の約束は、裏目に出てしまいます。
報酬額が少ければ、このようなことは起こりません。

こんな報酬では、ほかの人たちはそんなに頑張って働かないだろうから、

自分がしっかりしなければ、と第1のデザイナーは考えます。

ところがそう考えるのは、第1のデザイナーばかりではないため、

結局、さぼる者は現れません。

こうやって、少額の料金で、チーム全体が一生懸命働くということになります。
とはいえ、多額の報酬の約束という仮定は、

補ってくれる人がいるからさぼる、という考え方が、経済的に理にかなっている、ということであって、

かならずしも実際に人がそうふるまうというわけではないのですが。
***
以上のことは、お金が実際に、動機づけには何の効果もない、といっているわけではなく、

予想が一筋縄ではいかない、と言っているにすぎません。

 

結局のところ、「情熱」には値段のつけようがないのです。

私たちがしっかりと認識しておかなければならないのは、

お金は決して万能薬ではない、ということです。

 

お金次第で、万事解決するわけではないのです。

もしあなたに情熱を傾けている、大切なプロジェクトがあったとしたら、

それを商品化するときには、よく考えてください。

ひとたびお金がからんでくると、もう後戻りはできなくなってしまうのですから。

 

 

著者:Christian Jarrett 心理学者 近著に『Great Myths of The Brain(脳の神話)


元記事:http://99u.com/articles/26185/how-money-makes-us-lazy

(翻訳:服部聡子)

 

 

本:『誰が何を、そしてどのようにして手にいれるのか?』

Who Gets What and Why: The New Economics of Matchmaking and Market Design

by Alvin E. Roth

原題:誰が何を、そしてどのようにして手にいれるのか?:マッチング市場の新・経済学

アルビン・E・ロス著

 
取るに足らない日常的なことも、人生を変える判断も、

私たちの行動を左右しているのはどのようなルールなのでしょうか。

また、そのルールではお金の役割はとても小さなもの、あるいはゼロだと言います。

ノーベル賞を受賞した著者が明らかにしていきます。
求人に応募するかまたは人を雇う場合でも、

自分で大学入試を受けるかまたは子供を幼稚園に入れる場合でも、

誰かをデートに誘うかまたは誘われる場合でも、

これら全てはある種の市場への参加と捉えることができます。

 

一般的な経済学の研究は、

売り手と買い手が商品の価格によって繋がれるコモディティー市場を扱っています。

ですが、例えば、名門イェール大学に入学できることや、

検索最大手グーグルでの仕事を得ることなど、

他の種類の「商品」ではどうでしょうか?

 

これらは、マッチング市場と言われるものに含まれるのであり、

「売り手」と「買い手」はお互いを選定しなければなりません。

また誰が何を手にするかを決めるのは、価格だけではないのです。

 

Alvin E. Roh

アルビン・E・ロスは、マッチング市場の研究で世界をリードする専門家の一人です。

また、医学生を実習受け入れ先に割り振る斡旋機関を企画したり、

腎臓移植のドナーと患者のマッチングを効率化するシステムを構築し

移植件数を増やした実績もあるなど、実際のマッチング市場を作り上げることにも携わっています。

 

「誰が何を、どうして手にいれる?」では

ロスが、私たちのまわりにあるマッチング市場を暴き出し、

良いマッチングを見極めて、自信を持って賢い選択をする方法を明らかにします。

 


元記事:http://amzn.to/1HtgGSH

(翻訳:角田 健)

 

クライアントが離れてしまったらどうするか?

by ジェフ・ウィリアムズ

 

 

大口のクライアントが去ってしまったら、

あなたの会社は二度と立ち直れないと思っているかもしれません。

けれども正しく行動すれば、損失を成功に変えることもできます。
誰もクライアントに切られたことなど、話したくはありません。

けれどもこれは、ビジネスをやっていれば誰にでも起こることなのです。
これまで大口のクライアントから切られた経験がないのだとしたら、

おそらくあなたは一般大衆を相手にしているのにちがいありません。

けれどもそこでも顧客は毎日、あなたの商品やサービスを、

選んだり、やめたりしながら、

あなたと取引するかどうか、ひそかに意志決定を行っているのです。
ある時点で、あなたの取引相手は、もはやあなたのサービスは必要ない、と結論を出しました。

そうして彼らはあなたと関係を断つことにします。

ぶっきらぼうに、怒ったように、あるいは申し訳なさそうに。

 

では、クライアントがもはやあなたと取引をしない、と言ってきたら、

あなたはどうしたら良いのでしょうか。

 

起業家として、あなたは悪いことは時に起こるものだということを

知っていなければなりません。

そんなとき、あなたにできることは、それに対応し、

あなたに言えることを伝えるだけなのです。

1.  推薦を頼む

 

一見、これはとんでもないことのように思えるかもしれません。

けれどもコンサルタントであり、スピーカーでもあるマーク・ファウストは

以下の点を指摘します。

 

解雇されたからといって、かならずしもあなたが失敗していたり、

相手があなたの仕事に悪印象を抱いたりしているとは限りません。

できれば、推薦状を書いてもらったり、

派生的な仕事をまかせてもらったりするのです。

 

ただ、これを頼む前に、何がうまくいかなかったか、

何らかの方法で、もう一度クライアントの仕事をやらせてもらえないか、

聞いてみる必要があります。

もちろん、クライアントが明らかにあなたの仕事、もしくはあなた自身に

不満を持っていることが分かっていれば、

推薦を頼むことはできません。

その代わりに…

2.  クライアントの競合のところへ行く

 

競合のところへ行き、あなたが過去にした仕事を参考にして仕事をすることは、

倫理的に見て、何も問題はありません。

 

とファウストは言います。

 

もちろん、たとえば機密情報を公開するような、

倫理に反することを行っても良いという意味ではありません。

また、あなたをお払い箱にした重役が、

あなたのことを喜んで保証してくれる、と偽ったりしてもいけません。

言葉を換えれば、あなたの誠実さを疑わせるようなことは、一切してはならないのです。
けれども、あなたを解雇した会社のために、あなたがしてきたことは、

あなたの職歴と経験の一部です。

 

そうして以前のクライアントの競合と一緒に仕事をする能力があなたに十分あるのなら、

自分を縛るようなまねをせず、そのチャンスをつかんでください。

とはいえ、ファウストはこのように指摘します。

 

おそらく多くの会社やコンサルタントは、

元のクライアントが最大の競合であるような人とは、距離を置きたがるでしょう。

 

3.  試合後の分析を

 

もし推薦状が手に入りそうもなく、

競合もあなたを雇ってくれそうになくても、

少なくとも、今は、何が間違っていたか、はっきりさせることができます。

どうしてあなたが切られたかわからなければ、ふたたび同じ過ちを繰りかえすでしょう。
ダイレクト・マーケティング・スタートアップのコネクト・ホーム・ソリューションズLLCの社長ニック・ニーハウスは、

私と話をする数か月前に、2人の大手クライアントから、契約を切られたばかりでした。

 

どちらの時もニーハウスは、8人の従業員に向かって、

収益の30%を失ったことを告げました。

 

「完全歩合制で働いている従業員にとっては、労働時間が少なくなることは大問題です。

私の収入にとっても、大きな打撃でした」とニーハウスは言います。

 

中小企業にとって、どんなクライアントを失うことでも、たいていの場合、一大事です。

けれども、起ち上げて間もない会社にとっては、一大事どころではない、死活問題です。
それでもニーハウスは、

「自分は頑固なので、あきらめて、先へ進むのはいやだった」と言います。

その代わりに、二度とも事後分析をして、何が起こったのか、明らかにしようとしました。

最初の時は、彼の会社の価格体系がうまくいってなかったことがわかりました。

 

私たちは新規顧客を重視し過ぎていたのです。

クライアントには2種類の料金が設定されていました。

配布したパンフレットで購入する人向けと、新規顧客向けです。

そうして新規顧客の方を、ずっと低く設定していたのです。

彼がまた別の大口顧客を失った二番目の時は、

自分のビジネスモデルがどのように効果を上げるか、

クライアントを十分に教育していなかったことがわかりました。

 

これまで最初はクライアントの相談を受けるという形で行っていましたが、

新規顧客に対してうまくいっていなかったので、

それをむしろ顧客のためのコーチング・セッションに変更していきました。

マイケル・パヴォーネも、2007年に彼の所有する広告会社の収益の30%を占めていたクライアントを失ってから、

こうした事後分析を行いました。

 

けれども、ニーハウスとは異なり、その広告会社はスタートアップではありませんでした。

パヴォーネ社は1992年に創業し、60人以上の従業員がいて、

年間収益が3,000万ドルにもなる企業です。

 

同社が最大のクライアントを失ったのは、むりやり外部からの統制が入ったことからでした。

パヴォーネ社のPRディレクターであるマイケル・ダッフィールドは、

「守りを固めることで、変革を成し遂げたのです」と言います。
同社のCOOであり、パヴォーネのパートナーでもあるエイミー・ビーマー・マレーは、

クライアントから切られたことで、非常に多くの貴重な教訓を得た、と言います。

「ある意味で、失った収益に相当するほどの価値ある教訓でした」
けれども、もし事後分析の結果、クライアントが離れていったのは、避けられないことで、

あなたやあなたの会社に何の落ち度もなかったことがわかったら、どうしますか?

ここからあなたは最終的な一歩を踏み出す時です。

4.  損失を受け入れる

 

「顧客を失うことは、いつも私の仕事や私自身に対して、不信任投票がなされたように感じます。

責任者として、受け入れるのは、簡単なことではありません」

とニーハウスは言います。

 

起業家として、あなたは悪いことは時に起こるものだということを

知っていなければなりません。

そんなとき、あなたにできることは、それに対応し、

あなたに言えることを伝えるだけなのです。

「人間は、ともすれば、世界は変化のないまま続いていく、と思いがちなものですが、

あなたの最良のクライアントが、10年後も最良のクライアントであることは、

おそらくないでしょう」とファウストも言います。

 

そうして彼は、限られた数のクライアントに売上を頼る中小企業のオーナーは、

そのクライアントがもっとも収益率が高いか、

どのクライアントがもっとも成長の余地があるか、

どのクライアントがもっとも失うリスクが高いか、

チャートも含めたマーケティング・プランを用意しておくことを勧めています。

 

その上で、あなたはそれぞれのクライアントに対して、

マーケティング・プランだけでなく、

つなぎ止めることと、離れていった場合の2種類の戦略を考えておかなければならない、と言います。

そうすることで、つねに新しいクライアントと収益源獲得に動き出せるからです。
あなたが損失を受け入れ、積極的に新しいクライアントを獲得しようとするのが速ければ速いほど、

あなたのビジネスもうまくいきます。

 

何よりも、その原因が資金不足であろうと、

顧客が望むものを提供できなかったことであろうと、

単にクライアントがあなたのことを好きではなくなったからであろうと、

クライアントを失うことは、不可避であるといえます。

 

それが弱肉強食の世界の本質です。

けれども、あなたが前もって計画にそのことも含めていれば、

新しいクライアントを獲得することもできるのです。

また、そうなることで事態が好転することもあり得るのです。

パヴォーネは言っています。

 

「進化か、さもなくば、死です」

 

 

著者:ジェフ・ウィリアムズ(著述家・編集者)


元記事:http://amex.co/1MzRpg1

(翻訳:服部聡子)

 

 

ガイ・カワサキ流プレゼンのヒント

by ガイ・カワサキ
元記事:http://bit.ly/1SRpMPt
(※この記事は著者からの許可を得て翻訳しています)
 
このコラムは、滅多に教えてもらえない売り込み術のヒントを6つ集めています。
潜在的投資家や、従業員、顧客、パートナーに、あなたの会社を伝えるために、あなたをお手伝いしましょう。

1.  10/20/30ルールを忘れずに

あなたの売り込みを10枚のスライドにまとめ、それを20分以内で、フォントサイズはいずれも30ポイント以上。
これがパワーポイントの10/20/30ルールです。
 
こうすればあなたはかならずあなたのビジネスを、わかりやすいスタイルで、簡潔に説明できます。
 
売り込みが短すぎると心配する必要はありません。
相手が興味を持てば、さらに情報を求めて、質問してくるでしょう。
それよりも、長すぎる売り込みのために、聞き手が退屈してしまう方がよほど危険です。

2.  スライドの背景色は黒で

黒い背景は真剣味が感じられますし、読みやすくもあります。
黒い背景が、あなたが用いていた細かく繊細なフォントをつぶすような場合は、
大きい、サンセリフのフォントに変更した方が良いでしょう。
フォントを変えるだけで、あなたの売り込みのイメージが上がることもあるのです。
 
ちょっと考えて見てください。
あなたはこれまで映画のエンドクレジットで、
白い背景に黒い文字が書かれていたものを見たことがありますか?
これがその理由なのです。
Marketing Interns Presentation 2013
Photo By:Virginia State Parks

3.  ティンダーを参考に

オンライン・デートサービスには2つの流派があります。
eハーモニーは、人々がソウル・メイトを探せるように、さまざまな心理的情報を提供します。
 
一方、ティンダーは、その人に興味を感じるかどうか、一瞬で決めるための場です。
 
売り込みは、eハーモニーではなく、ティンダーのようでなくてはなりません。
すなわち、あなたが第一印象でパッと与えるものがすべてなのです。

4.  F18戦闘機のように飛び立とう

ボーイング747ジャンボジェット機は、3,300メートルの離陸滑走距離が必要です。
それに対してF18は、60メートルほどのカタパルトを使って一気に飛び出します。
 
あなたの売り込みは、ジャンボジェット機のように、
論理を積み重ね、年代を追い、知的なストーリーとして構築された情報を提供するものであってはなりません。
 
最初の数分間で、カタパルトから空へ向かって射出されるように、一気に音速の壁を打ち破っていかなければなりません。
Luchtmachtdagen 2011 Royal Netherlands Air Force
Photo By:Archangel12

5.  デモンストレーションをはさむ

プレゼンの目的は、 相手の関心をしっかりと引きつけることです。
 
スライドをすべて使い、すべてのストーリーを物語ることが目的ではありません。
1枚の写真が、千語の言葉と同等の価値がある場合があります。
 
理想的には、F18のパイロットとして、自分が何をするか、どんな問題を解決し、どんな機会を提供するか説明し、
聞き手の目を引きつけるデモンストレーションを始めてください。
そうして残ったスライドを使い切ってしまおうとしないことです。

6.  1人が話す

話をするのは、かならず1人にまかせてください。
あなたは、投資家というものは、チームに投資するものだ、と聞いたことがあるはずです。
けれども、売り込みではチーム全員がしゃべるという意味ではありません。
1人が言っていることを十分に理解させることさえ、簡単ではありません。
ましてチームの全員が、分担しながら売り込みをしようとするのは、
あまりに困難なことです。
これは、クラス全員にせりふのある役を与える小学校の劇ではないのです。
CEOが売り込みをするときに、自分1人でできないというなら、新しいCEOを見つけてください。
 
これら6つのヒントは、あなたの売り込みの効果を2倍にするはずです。
ですから、すぐに実行してみてください。
スライドのテキストのフォントを選び、白を使い、30ポイントにし、黒い背景を使うのです。
 
きっとその結果に驚くことでしょう。
 

 

著者:Guy Kawasaki (Canvaチーフエバンジェリスト、文筆家、スピーカー)


元記事:http://bit.ly/1SRpMPt

(翻訳:服部聡子)

 

判断を遅らせることの価値

by リチャード・ブランソン

 

 

あらゆるリーダーが身につけておかなければならない重要なスキルの1つに、

決着をつけるタイミングを知る、

つまり、最終的な決定を全体に知らせる前に、一歩退いて、

より広い見地から全体を物事を眺めるタイミングを知る、ということがあります。

 

混乱や興奮、急成長や危機のさなかにあっては、

通常より多くの決断を、少ない時間で下さなければなりません。

できるだけ早く決めてしまいたい、という強烈な誘惑にかられてしまうことでしょう。

そのような中でリーダーは落ち着いて、自分の選択に自信を持ち、

自分のチームと顧客の将来に展望を持ち、情況をコントロールしなくてはならないのです。

 

それは、すべての事実を把握する前に、軽率に結論を出すことではありません。

 

私は先日、スティーブン・コヴィーの長く語り継がれるであろう教え、

「まず理解に徹し、そして理解される」(『七つの教え』)についてのこんな話を読みました。

 

その中に、2個のリンゴを持ったかわいい女の子の話が出てきます。

お母さんが来て、リンゴをひとつちょうだい、と言いました。

すると女の子はお母さんを見上げてから、

リンゴを一口かじり、次にもうひとつのリンゴも同じようにかじったのです。

お母さんは、この子は自分のことしか考えていないのね、とがっかりしました。

ところが女の子は一方を母親に差し出し、こう言ったのです。

「ママ、これを食べて。こっちの方がおいしいよ」

Pomme

 

たとえ私たちがあらゆるデータを知り、

あらゆる角度からシナリオを検討した、と思っていても、

状況についての真相は、思いがけないところにあるかもしれません。

 

だからこそ、人生はすばらしいのだとも言えます。

 

私たちが何かを理解し、学んだ、と感じるのは、まさにこのような時なのですから。

そういうわけで、ビジネスにおいて、判断を遅らせることは、有意義なのです。

 

これまでにも私が素早く決断したいという誘惑を抑え、

全体像がはっきりと見えてくるまで決定を先送りしてきた経験は、数多くあります。

 

決定を遅らせることによって、滅多にない機会を失うこともあります。

思い出すのは「トリビアル・パスート」という新しいゲームの権利を買うかどうか、

決断に時間をかけすぎてしまたっことです。

 

けれども、機会を逃したことで、大きな失敗を回避することができた経験も、

1度ならずありました。

 

判断に代わるものとして、統計を使用することに過度に依存することが増えてきています。

事実や数字は極めて役に立つ反面、データ分析だけにすべての決定を委ねるべきではありません。

「広告の父」デイヴィッド・オグルヴィは、重役陣が判断する上で、それだけ統計に依存しているか、

このようにまとめています。

 

彼らは調査にあまりに頼りすぎる。そうしてそれを、

酔っぱらいが街灯を照明としてではなく、

自分の体を支えるために使うように、使用している。

 

意志決定の際に不可欠なのは、見落とされがちですが、静かに熟考することです。

 

すべての統計に目を通し、専門家みんなと話をし、投資家と分析を終えた後、

ひとりになる時間を取って、ものごとがはっきりするまで考え抜くことです。

 

散歩して日陰を見つけたり、ただすわってしばらく考えるだけでもかまいません。

無用に時間をかける必要はありませんが、焦ってはいけません。

バランスを取ることがたいせつなのです。

そうすることで、あなたははるかに良い最終決断を下すことができるでしょう。

 

 

著者:リチャード・ブランソン (ヴァージン・グループ創設者)


元記事:http://bit.ly/1dK4h57

(翻訳:服部聡子)

 

起業の失敗から学んだ7つの教訓

by キマンジ・コンスタブル

(※この記事は”http://www.entrepreneur.com/article/237129” を翻訳したものです。)

無我夢中のままビジネスを立ち上げたのは、私が19才のときでした。短期間で3つの州に規模を広げで、5人の従業員を雇い、500,000ドルもの総収益を上げるまでになりました。ビジネスは順調でしたが、経営について無知であった私は、すぐにどうしようもない状況に陥ってしまいました。

事業を始めて6年が経ち、ずさんな経理の結果100,000ドルもの借金を抱えました。起業家としての夢は悪夢と変わったのです。私のこの経験から若い起業家が知るべき教訓についてお話ししましょう。

エコプレナーによると、18才から34才までの青年アメリカ人の54パーセントは起業家になりたいとの気持ちを持っているということです。ただ、起業家精神とは素晴らしいものですが、それもビジネスを適切に行うことが条件となります。

1. 顧客が誰であるかを明確にする

もしもあなたが「何でも屋」であるならば、ビジネスを成長させるのには苦労するでしょう。マーケティングなどのご自身の努力はまばらになります。セス・ゴーディンは

世界中の人にアプローチしようとすれば、結局誰にも届くことはない。

と言っています。

理想の顧客像について、明確であるほど上手く行きます。新規顧客を見つけ、アプローチするためのベストな手段を見つけるのに役立つでしょう。新しいビジネスを見つけようというあなたの努力が、焦点化されるのです。

2. 実現不可能な約束をしない

ハフィントンポストのブレント・ビショアーは、

あなたの顧客に奇跡を約束するならば、本当に奇跡を届けるべきだ。

と語っています。あなたのビジネスを成長させるならば、しっかりと約束を守るビジネスを心掛けてください。ビジネスを立ち上げた当初は、自分の限界を感じることもあるでしょうが、気にすることはありません。あなたの強みに焦点を当ててください。

3. 整理整頓

あなたが整理整頓できていないと、まわり人がフラストレーションを抱えることになります。従業員、顧客、そしてあなた自身のメンタル面もです!

整理整頓はビジネスが順調に進む上で重要なものです。整理整頓を怠たれば、顧客はあなたとのビジネスから身を引くでしょう。物事を簡潔化し、ビジネスを整理するようにしてください。

リーン・スタートアップ・モデルは、このシンプルさゆえに成功を収めています。

 4. 自分の税金を把握する

税金について詳細に書かれている本はたくさんあります。プロフェッショナルな人材を雇ってください! 税金の管理を間違えば、多くの事業が失敗するでしょう。過去多くの人たちが犯してきた過ちをあなたのビジネスで繰り返さないでください。

5. ビジネスを成長させる要素に焦点を当てる

企業家にとって重要な教訓の一つに、どのように時間を配分するかということがあります。仕事を成長させることに時間を割いてください。仕事に没頭するということではありません。スマートフォンをもっていれば、世界の知識はあなたのポケットにあるも同然です。ただ、これは幸せなことでもあり、同時に不幸なことでもあるのです。

ビジネスを成長するためにリサーチを重ねることで、情報過多の弊害を被ってしまうこともよくあることです。「起業家がやるべきこと」というタイトルで宣伝されている輝かしい成功談などには、惑わされないようにしてください。

6. 具体化するスピードが重要

起業家は、たくさんの良いアイデアをもっています。しかし、本当に成功する起業家は、良いアイデアを将来性のある製品やサービスに具体化することができます。

あなたが市場には常にベストの商品を出したいと思っていても、ベストな商品を生み出すには、時間が必要であり、顧客からのフィードバックが必要です。アイデアが浮かんだら、そのアイデアを試作品として、市場に出してみてください。

顧客には商品は試験段階にあり、開発中であることは伝えましょう。最初から完璧な商品を作ることにこだわる必要はありません。試験段階の商品を使ってみた顧客のフィードバックは最終的な商品の質を生み出すのに必要不可欠なものです。

7.失敗や逆境からすぐに立ち直る

失敗に対する恐怖は、起業家が抱える大きな不安の一つです。けれども、トーマス・エジソン、スティーブ・ジョブスやその他偉大な起業家たちに共通することは彼らがみんな失敗したことです。

有望な起業家は、自分の失敗を、一時的な後退ととらえ、ビジネスの終りと考えることはしません。失敗を経験するとき世界の終りであると考えるのではなく、この逆境をバネにさらに強くなって戻ってくると決意するべきです。

 

私はこれらの教訓を経験しながら再度復帰し、自分のビジネスを元に戻すことができました。結果的に仕事も上手く行き、借金の支払いもすべて終わりました。現在はハワイのマウイでビジネスを成長させています。

「知ったかぶり」の起業家にはならないでください。
以上の教訓を学べばあなたのビジネスは成長して行きます。

 

 

著者:Kimanzi Constable 起業家、著作家、コーチ


この記事は”http://www.entrepreneur.com/article/237129” を翻訳したものです。

訳:服部聡子(ShimaFuji IEM 翻訳チームリーダー)
出産・退職後、在宅で働ける資格を身につけるために翻訳を学び始める。
約5年フィクション/ノンフィクションの下訳、ウェブ・ライターを経て、
『限界はあなたの頭の中にしかない』に巡り合い、深い共感を覚え、弊社に。

 

時間の切り替えと生産性 

by ジョッシュ・デービス

 

 

スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのモバイル機器が普及し、

いつ何時であっても「ツールがないから仕事ができない」ということが言えなくなっています。

基本的には、一分一秒も最大限に活用できるようになり、

処理できる仕事の量は増やせるようになっているはずです。

 

ですが、こういったデバイスのおかげで、生産性が上がる部分があるのは明らかなところなのですが、

一方で、生産性を下げている部分もあるということは、それほど明らかに知られてはいません。

 

マインド・ワンダリングと呼ばれる状態、

別の言葉では、注意が散漫になり白昼夢を見ている状態がさまたげられると、

私たちの生産性は低下してしまうのです。

iPhone 6 "one-handed mode"

 

退屈しのぎや仕事の流れが途切れたときには、ついついモバイル機器に手を伸ばしてしまうものです。

ですが、そうすることで私たちは、新しい情報を処理し続けなければならない状況を自ら作り出しています。

 

「オン」の状態が続くことで、マインド・ワンダリングがもたらす脳の作用が阻害され、

私たちの生産性が下がることがあるのです。

 

神経科学と心理学の研究では、マインド・ワンダリングはクリエイティビティーと計画性とを促進し、

また将来の大きな目標のために現在の欲望を抑える働きがあることが知られています。

 

どれも、効率的に働くためには必要になるものです。

私たちのすることで、このように幅広いインパクトがあるものは、他に多くはありません。

 

例えば、「サイコロジカル・ジャーナル」誌で、このような発表がありました。

マインド・ワンダリングが起きている間、私たちの意識は、

専門家たちの言葉で「クリエイティブ・インキュベーション」と呼ばれる、

創造性をはぐくみやすい状態にあるといいます。

 

何らかの新しいアイディアや解決策が必要になる問題に取り組んでいるときは、

意識がさまよいマインド・ワンダリングの状態になるに任せて、

その後に改めて問題に取り掛かった方が、良い解決策に出会える可能性が高いというのです。

意識が別のトピックにそれても、脳の裏側では問題の整理が続いているのです。

 

ですが、意識が新しい情報を大量に追いかけ続けると、その脳の裏側での情報整理作用が阻害されて

マインド・ワンダリングが制限され、クリエイティビティーの促進がブロックされてしまうのです。

 

マインド・ワンダリングは、私たちが物事の計画を立てるときにも大切な働きをします。

集中力が途切れているとき、私たちの意識は、

主に将来の計画の調整にあてられているということを、研究者たちが突き止めています。

 

例えば、新しい顧客を捕まえるために仕事に精を出しているとしましょう。

ともすると私たちは、電話をかけたり見積もりを作ったりという日常業務にかまけて、

顧客の流れが途絶えないような仕組み作りのために本当にやるべきことは、

おろそかにしてしまいがちです。

長期計画を立てるための時間がないからだと、つい愚痴をこぼしてしまうものでしょう。

 

ですが、私たちが気付いていないのは、

計画作りに集中するための時間の有無だけが問題ではないということです。

仕事などに意識を集中した状態が続いていると、

計画の作成や調整を促す作用がブロックされてしまうことがあるのです。

 

同じように、ドイツの研究グループが、マインド・ワンダリングが目の前の欲望を抑え、

将来の目標実現に向かうための大きなサポートになっていると発表しています。

 

先ほどの例の続きで、その新しい顧客を捕まえるための何ヶ月もの努力の果てに、

ついに顧客側から一緒に仕事をしたい旨のオファーが得られましたが、

ところがその対価が低かったとしましょう。

これまで注いだ労力が実を結ぶならどのような形でもいいと、

先方からのオファーであれば何でも飛びつきたくなってしまうかもしれません。

 

ですがそれでは、もう少しだけ辛抱して、

それまでの時間と努力に本当に見合う内容の契約を結ぶこととは反対の行為です。

 

マインド・ワンダリングの状態にあるとき、

私たちは長期のゴールと自分自身を結びつけることができるようになり、

このような状況にあっても新しい観点に立つことができるようになるのです。

    
モバイル機器から溢れてくる情報の蛇口をひねって止めない限り、

大部分の情報はそのまま排水溝に吸い込まれていくだけです。

 

モバイルの使用を止めるべきだというのではありません。

ただ、ときには間を置くなり、仕事の間は手元に置かないようにするなりした方が良いというだけのことです。

 

そうすれば、集中力が途切れても、意識を全てモバイルに吸い取られることもなく、

マインド・ワンダリングの状態に入りやすくなるのです。

 

"Daydreaming ...

ですから、もし集中力が切れて気が散り始めたら、なすに任せましょう。

意識が別のトピックに移るなら、移るに任せればいいのです。

 

しかし、あまり心理的なエネルギーを要するトピックでもいけません。

お気に入りのサイトを見に行ったり、メールをチェックしてはいけないのです。

 

そうではなく、マインド・ワンダリングがもたらす無意識の働きが作用するに任せて、

仕事に戻ったときにさらに効率的になれるようにすればいいのです。

マインド・ワンダリングには、それほど時間をかける必要はありません。

数分もあればリフレッシュできるでしょう。

マインド・ワンダリングの手引きを少し紹介しましょう。

 

  • 集中力が欠けてきたと思ったら、窓のところに行って、行き交う人たちや車のことを、飽きるまでしばらく考えてみてください。
  • しばらく目を閉じて、室内でどんな音がしているか聞いてみてください。
  • 以前は、タバコ休憩というものがありました。今はモバイル休憩となってしまいました。ですが、タバコを吸うことはなくなっても、2?3分外に出ることはできます。しかし、モバイルは置いて出ましょう。

 

人の意識が効率的であるためには、あてもなくさまようことも必要なのです。

モバイルがこれを邪魔してしまっています。

ですが、ちょっとした変化を心がければ無意識の働き方も変わり、

生産性を高まるように促すことができるようになるのです。

 

著者:Josh Davis(研究者・著作家  近著に『成功する人は2時間しか働かない』)


元記事:http://bit.ly/1GBpVpM

(翻訳:角田健)