安易な無料配布で700人のリストラ!?マーケティングの失敗例に学ぶ

こんにちは、トイアンナです。
「集客のため、無料で商品サンプルを配る」施策は、わざわざ教わらなくても誰もが経験する王道のマーケティングです。

スーパーの試食品などは日常的に見かけますし、引っ越し業者がお見積りだけでくれるプレゼントはなかなかの量。お米から洗剤一式まで無料配布されると、ついその会社を選びたくなりませんか? こういった施策をマーケティングでは「サンプリング」と呼びます。

返報性の原理を利用した無料配布

サンプリング戦略がここまで広く採用されているワケは、費用対効果がいいからです。すなわちサンプルを配った分だけ、集客へ繋がる可能性が高いから。

高級車のように単価が高かったり、何度もリピート購買を狙えなかったりする商品では使えませんが、食品や消費財、美容室のトリートメントなど「何度も使ってくれる」「比較的安い」商品にはうってつけです。

ではなぜサンプリングは費用対効果がいいのでしょうか。その秘密は心理学における「返報性の原理」にあります。

多くの人は人からものをもらうと「何かお返しをしなくては」と考えます。それどころか、自分が親切をした上でお返しをしない人へは不快感すら抱くこともあります。たとえばタダで置いてあるからと飲食店のつまようじをゴッソリ持ち帰る人がいたら「この人、タダだからっていくらなんでも……」と思うでしょう。

このように「親切心に何かでお返ししたい」と感じることを返報性の原理と呼びます。

無料サンプリングはこの「タダだからって貰いっぱなしじゃ申し訳ない」という気持ちを利用して、お返しに何か購入しよう、と動機づけるのです。

今回は飲食店を例として見てみましょう。これまでの成功例に多いサンプリングは「無料のコーヒー」配布です。古くはカルディが2009年に実施し、短期間で店舗数を4.4倍へ拡大させました。

最近ではマクドナルドの100円コーヒー無料配布キャンペーンが記憶に新しい方もいらっしゃるかもしれません。

何社かが繰り返しているキャンペーンであっても、業界が違えば目新しく映ります。カルディはおしゃれな輸入食品店。ファストフード店のマクドナルドが同じ施策をすれば充分「新しい!」と興味を持っていただけるのです。

しかし、これらの成功例だけを胸に「ウチも配ろう」とは思わない方が賢明です。

無料コーヒーで700人の雇用危機を生んだWaitrose

いくつもの店舗で成功例とされてきた「無料コーヒーの配布」。ところが全く同じ施策で売上アップどころか、多数の店舗閉店へ追い込まれたスーパーマーケットの大手チェーンがあります。

イギリスの大手スーパー「Waitrose」が同様に無料コーヒーを配布した結果、「無料」に惹かれるだけで何も商品を購入しない客が殺到。結局、スーパーへ来店してもコーヒーだけもらって1品も買わない悲劇を生みました。今年だけでWaitroseは6店舗を閉鎖、それに伴い700名のスタッフが雇用継続の危機を迎えています。

では、カルディやマクドナルドは成功したコーヒーの無料配布でWaitroseはなぜ失敗したのでしょうか?

ブランドイメージにそぐわない戦略は売上を奪う

ここでWaitroseの情報を少し追加させていただきます。Waitroseはイギリスの高級スーパーで、日本で言えば紀伊国屋や成城石井のような存在です。強みは無農薬食材や世界中から集めた豊富な品揃え。日本食もお蕎麦や寿司を始め「わさび豆」まで扱う豊富さです。これらの強みと引き換えに商品の価格は高く、庶民はまず訪れません。

そして無料のコーヒーに惹かれる層はその「庶民」だったのです。

Waitroseにとって「無料配布」に惹かれるような層はターゲット顧客ではありません。
ですからいくら人を呼び込んでも、お客様になりそうな人はほとんど呼び込めていなかったのでしょう。

対してマクドナルドやカルディは、ごくごく普通の方が使う場所。「無料」に敏感な家族連れも多いため、そのまま店舗内購入が見込まれます。

Waitroseのように「高級」なブランドイメージを作ったら、たとえ世間が値下げラッシュに沸いている時期でも高級路線を貫く必要があります。ロレックスやフェラーリが「今だけ30%割引!」という施策をしても、いい顧客が集まらないのと同じです。

消費者は返報性の法則より強く「一貫したブランドイメージ」を求めます。「他社も成功しているし……」と安易にマーケティング戦略をマネすると、ブランドイメージを傷つけ、長期的な売上ダウンへとつながりかねません。

他業種の戦略から学び、自社へ適用するのは優れたマーケティングの応用方法です。他方、単にコピー&貼り付けした施策ではブランドイメージに反したやり方となり、却って売上を傷つけることがあります。社員から施策を募る際は自由にアイディア出しをしたのち、ブランドイメージを保てる施策だけ厳選する必要があるのです。

参考文献:重田修治『なぜか買ってしまうマーケティングの心理学』


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

 

女性のためのBizワークショップ大阪が行われました

4月12日、大阪で開かれた「島藤真澄・女性のためのBizワークショップ」に参加しました。

メンタークラブでの勉強会から派生した女性向けのワークショップがスタートしたのは、この4月からです。4月8日に博多で第1回が開催され、私が参加した12日の大阪は、その第2回でした。お目にかかるのも初めての方ばかりということで、少し緊張しながらの開始でした。

まず、みんなでワークをやって緊張をほぐします。
初めて言葉を交わす人でも、ひとつのワークに取り組むことで、あれこれと考える間もなく、自然と言葉を交わしています。気がつくとずいぶん前からの知り合いのように、気軽に話ができるようになっているのです

全員のワークが終わったら、今度は自己紹介。
自分がこれまでやってきたこと、現在やっていること、そうして行き詰りを感じていること。

この「自己紹介」も、単に自分を紹介するだけには留まりません。自分が感じている行き詰り、物足りなさの中に、「本当の自分」「本当に自分がやりたいこと」が隠れています。ふだんは自分自身でも気が付いていない、「本当の気持ち」に気づくきっかけになります。

そうしてこのワークのおもしろいところは、それをほかの人と共有することによって、自分が行き詰まりを感じていることが、今度は別の人の「解決策」につながり、それがこれまでにはなかった新しいビジネスへとつながっていく、というところです。

自宅で「在宅秘書」(この言葉を作ったのもその方だそうです!)をしながら、400人にも上るシングルペアレントの会を結成された方、これまで事務職をされていたけれど、結婚を機にこれまでの職を離れて、もっと自分が生き生きとできるような新しい仕事、新しい働き方を求めておられる方、離婚後、「食」のスペシャリストになるために、栄養士の資格を取ろうと、子供を育てながら短大に行き、資格を取られた方、フラワーアレンジメントの有資格者で、フラワーショップの経営の経験もお持ちの方…

それぞれの経歴、さまざまなバックグラウンドをお持ちの方が、できること、持っているものを出し合い、足りないところを、別の人の持っているものやできることで補い合う話し合いをしながら、新しいビジネスの可能性がいくつも生まれていきました。そうしてこの話し合いをもとに、実際に動きが始まっています。
かつて日本では、女性は二十代の半ばには結婚し、家庭に入り、専業主婦となることが、「当たり前」のライフコースだった時代がありました。男性が一家の「稼ぎ手」となって会社で働き、女性は家の中で家事・育児を担う、という分業体制が、社会にとっても望ましいことだったのです。

ところが現代では、社会の側が「働き手」としての女性の力を求めています。不況や労働環境の悪化によって、女性の経済力がなくては家庭が成り立たない、という厳しい背景もあります。にもかかわらず、女性の給与は依然として低いまま。女性の貧困、とりわけシングルマザーの貧困が問題になっていますが、問題なのは彼女たちが働いているのに、貧困を余儀なくされている、ということです。

その一方、従来から女性の役割とされてきた「家事・育児・介護」の役割の中心を担うのは、依然として女性が期待されています。とりわけ、女性にしかできない「出産」は、女性のキャリアを考える上で、避けては通れない大きな問題でもあります。

現代の日本で、女性が「自分らしく生きていく」ためには、何が必要なのか。そうして自分に何ができるのか。自分のできることは、誰の、どんなことに役立っていくのか。ワークショップでは、さまざまなことが話し合われましたが、その根本にあるのはそういうことなのだ、と強く感じました。

もちろん、実際の雰囲気はまったく堅苦しいものではなく、和気藹々とした中で、活発に意見や感想が出し合われていました。そのときが初対面であったにもかかわらず、私自身、皆さんとずいぶん以前からの友達のように感じられ、今後もぜひ集まりたい、と思いました。「他者紹介」のワークの効果を、みなさんもぜひ体験してみてください。

これからもこのワークショップは全国で続いていきます。
4月23日は四日市で開催です。
もう一歩先へ進みたい、つぎの扉を開けたい、という気持ちをお持ちの方の参加をお待ちしています。


ハットリサトコ
ShimaFuji IEM 翻訳チームの一員です。出産・退職後、在宅で働ける資格を身につけるために翻訳を学び始めました。
約5年フィクション/ノンフィクションの下訳、ウェブ・ライターを経て、『限界はあなたの頭の中にしかない』に巡り合い、深い共感を覚え、ShimaFujiIEMのチームに加わわっています。