マーケティングはピンチを操る 英国のEU離脱を活かした集客ビジネス
こんにちは、トイアンナです。
私は今年よりイギリスに住んでいますが、ブレグジット(英国のEU離脱)が決まったときは国全体が「しばらく終わりだ」という沈痛なムードに包まれていたのを思い起こします。イギリスはブレグジットが決まってから一夜にしてポンドが暴落。実に2/3の価格となりました。つまり、国の価値の1/3が吹っ飛んだのです。
もともとブレグジットが起きた背景は「テロや犯罪を起こしそうな移民はいらない」という排外感情。EUから移住している外国人も事によっては帰国せざるを得なくなります。さらにヨーロッパ金融の中心地という立場も失うため、経済は冷え込むと予想されていました。これがポンド暴落として現れたのです。
ところが、そんな危機を乗り越えるどころか、むしろ追い風にしたビジネスがイギリス国内にありました。外食産業です。今回はその外食産業がいかにマーケティングを駆使して集客を成功させたかをご紹介します。
イギリスは「おいしい」!?
さて、「イギリスといえば」と質問されれば紅茶、クラフトビール、そしてまずいご飯……と連想ゲームで出てきてしまうほど、ご飯のマズさは有名です。私も渡航して現地のミシュランガイドを買い、まさかの見開き2ページでロンドンの星付き店が尽きたときは絶望したものでした。
ところが実際に食べ歩いてみると、「グルメの首都」と称賛される日本ほどではありませんが、以前に比べて「おいしい」店は確かに増えている印象です。おそらくはこれ、EUの賜物。イタリアやスペインなど食事が美味しいEU圏国家からの移民に、香港統治時代から移ってきた中国人などが腕を振るっています。さらに食べる側にも移民がいることから味への要求水準が上がり、かなり改善されています。
そしてブレグジットが決まったとはいえ、すぐさま「はい、もう出て行ってくださいね」と法律が一朝一夕で変わるわけでもありません。現在もEU市民はロンドンを中心にその手腕を発揮しています。むしろブレグジットで変わったのは、イギリス人の振る舞いでした。
ブレグジットに便乗した外食産業
ブレグジットから発生したポンド安を理由に、イギリス人は海外旅行へ行かなくなりました。弱くなってしまったポンドでは豪遊できないからです。ブレグジット前はわずか数千円払えばヨーロッパへの航空券を買えた彼らも、今年は控えめに。
その分の娯楽費が、国内へ回ります。今年のイギリス人は休みの日や特別なお祝いを国内のパーティや外食で済ませることにしました。その結果、にわかに国内の外食産業が昨年比12%もの盛り上がりを見せています。
さて、このチャンスをつかんだのがデリバリー業界でした。イギリス人はもともと料理をあまりしません。専業主婦でもピザを温めるくらい。であれば、レストランは看板に「配達も承ります」と付け加えた方が得策です。マーケティングに長けた企業はいち早く自転車でのデリバリーを開始しました。食事は温かいうちに届けなくてはいけないため、バイクや自家用車で遠征するより近隣に素早く届ける方が喜ばれます。集客に長けたレストランは「店内の回転数以外」で売上をたたき出したのです。
Uberによる代理デリバリーも
そして、さらにマーケティングの才覚ある企業が存在しました。ウーバー・テクノロジーズが運営するタクシーのブランド、Uber(ウーバー)です。Uberはデリバリーをする余裕がない飲食店のために自社スタッフによる代理デリバリーサービスを開始。日々の食卓から豪華なホームパーティまで、デリバリー文化を一気に広めました。このサービスは日本へも上陸。東京の一部地域で利用できます。
Uberのサービスは簡単に言ってしまえば、お店の料理を家まで自転車で運ぶだけ。そんな単純なニーズがこれまで世界中で満たされていなかったのです。このようにマーケティングでは「誰もが欲しかったのに気づいていなかったニーズ」を満たすと、一気に集客を獲得できます。
優れたマーケティングはピンチからチャンスを見つける
このように、一見誰もが「もうだめだ」と落ち込むような経済や政治状況であっても、巡り巡って集客、販促のチャンスをつかむことはできます。そのために必要なのは、チャンスを見つけたときにすぐ動くこと。さらに言えば、いざとなったらすぐ動けるような稟議・承認システムを用意することです。
マーケティングではよく「シンプルなものが強い」と言われます。売上に繋がるコンセプトやキャッチコピーもそうですが、社内のしくみもシンプルであれとよく言われます。これからを生き抜くため、変化へ迅速に対応すること、「誰もが欲しがっているのに気づかれていないニーズ」を発掘するのと同時に、チャンスを見つけたらすぐ投資できるよう無駄な承認システムを削ることが成功への近道です。
トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com