成功する美容室の秘密は「ホワイトスペース」

ご自宅の最寄り駅に、美容室は何軒ありますか?
私が大学時代に住んでいた東京ののどかな住宅街は、駅前に美容室が4、5件もあって
「さすがに多すぎないか」と考えたものです。

当時はマーケティングの知識もなく、美容室はさぞかし利益率が高くて、
顧客の人数が少なくても経営できるんだろうなあ、なんてマヌケな予測を立てていました。

感覚だけでなく、データからもすさまじい美容室の軒数が把握できます。
平成24年のデータによれば、美容室の件数は23万。1,134550人に1軒美容室がある計算です。

そう思うと「あれ? まだ余裕がありそう?」と思うかもしれませんが、
あれだけどこにでもあるコンビニですら全国に約52,000軒しかありません。

他国と比較しても、私が住むイギリスには約1600人あたり1軒の美容室がある計算。人口当たりの競争率は3倍。
日本の美容師さんは、熾烈な競争へ巻き込まれています。

その一方で「成功できる」美容室の条件はこの数十年で大きく変わったわけではありません。
大手美容室を調べていくと、成功するキーワードは「参入障壁の高い差別化」にあることが分かります。

参入障壁とは、マネする大変さ

参入障壁とは、ある企業が市場へ加わろうとするときに払わなくてはいけないコスト。
もっと簡単な例として、あなたがレストランを開くとしましょう。
これまで1店舗もレストランを経営していない人は、塩・コショウからフライパンまで用意するだけで、準備にお金も時間もかかります。
安くて高品質な材料を手に入れる卸もわからず、最初は高値で買ってしまうかもしれません。

それと比べていくつかレストランを経営しているなら、調理器具はお下がりでもスタートできますし、
いい材料の入荷元もあらかじめ知っているので有利です。
このように新しく開業する人は、すでに業界にいる人と比べて高いコストを払います。
これを参入障壁と呼びます。

参入障壁の高さは「マネする大変さ」

さて、参入障壁には比較的マネしやすいものと、されにくいものがあります。
お金や手間がかかるもの、そのブランドでないと強みを発揮できないものは参入障壁が高く、
誰でもすぐマネできることは参入障壁が低くなります。

たとえば、美容室のポイントカードは参入障壁が低いアイディアです。
どの店舗でも今すぐ始められるからです。
逆にVIP専用のシアタールームを美容室内に用意するのは初期コストが高く誰にでもできることはありません。

競争が激しい業界で勝ち抜くには「他店がすぐにマネできない施策」を打つことが大切です。

ホワイトスペースを探し出そう!

ここで、ホワイトスペースという考え方をしてみましょう。
ホワイトスペースとは、ライバルがまだ進出していない領域のことです
たいていは参入障壁が高すぎるか、それが売れるなんて誰も思ってなかった! という理由で放置されています。

たとえば「お~いお茶」の発売当時は、日本人はお茶を家で淹れるからわざわざ金を出す人間なんかいるわけないと思われていました。
しかし現在は伊藤園の看板ブランドです。
ホワイトスペースをしっかり掴めば「日本初」の称号を得られます。

ホワイトスペースを今度は美容院業界で考えてみましょう。
ご自宅などで髪を切る訪問美容師は、これまで要介護で動けない方など一部のお客様に限られたサービスでした。
これを富裕層の忙しい方へ向けて行い成功した方がいます。
「誰も手を付けていないところ」へ最初に進出することでその場にある利益を独り占めできるのです。

上記とは真逆ですが1,000円カットも「簡単でいいから安く切ってほしい」というホワイトスペースを開拓したものでしょう。

2つを組み合わせると「長期的に成功できる」

まずは、あなたの業界でホワイトスペースを探してみましょう。
たとえばネイリストがいるヘアサロンは多いですが
「ご飯を食べながらカットできる」サービスがあればホワイトスペースかもしれません。

レストランの隣に出店してその店と協働するだけで用意できますから、難易度もそこまで高くありません。
食品営業許可申請が必要になる可能性が出てくるなど確認したいポイントはありますが、
忙しくてヘアサロンも行けない高収入ビジネスパーソンに受けそうです。

ただし、この案だと参入障壁が低い(=誰でもマネできそう)のが難点ですから付加価値をつける必要はあります。
たとえば体に優しいオーガニックフードを選べる、限定メニューがあるといったものが付加価値の例です。

まずは、ホワイトスペースと呼べそうな新しい領域を探してみましょう。

そして次に参入障壁の高い戦略を選ぶことで、長期的に勝てる場所を見つけてください。

あなたが日本初の〇〇としてメディアに引っ張りだことなるのも、近い未来かもしれません。

 

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

「あえて敵を作る」差別化で飽和市場を成長させるビール会社

こんにちは、トイアンナです。イギリスで有名な飲み物といえばビール。
日本でもパブのチェーン店がいくつもありますね。
イギリスではパブが駅ごとに1~2軒は立っており
「ちょっと一杯」にふさわしいカジュアルな社交場となっています。

ここまでの情報を踏まえ「イギリスで新しいビールブランドを作る」という企画があがったら、
マーケターとしては警戒するところです。
市場はすでに飽和している可能性が高く、今更ビールを飲みたい人口も増えない場所で、
他のシェアを奪うのは難しいでしょう。

ところが、私の至らぬ予想に反し、イギリスに1285軒存在する
小規模クラフトビール業界は、昨年比で10%も成長しています。
その背景には過熱した市場でも生き抜く、斬新なマーケティングが息づいています。
今回はその中から、「グローバルに成功している500社」へも選出され
最大の成功を収めているブリュードッグ(BrewDog)社について研究してまいります。

始まりはビールの最強の度数対決

ブリュードッグ社は2007年創業。
当時イギリスへ日本のアサヒが進出し
「ビールはアルコール度数が薄い楽な飲み物」のイメージが広がっていました。
そこでブリュードッグ社はあえてその逆を行く「世界最高度数のビール」、
タクティカル・ニュークリア・ペンギン(戦術的なペンギン核兵器)を生み出します。

商品名からしてその個性が際立っていますが、強烈なのは32%のアルコール度数。
ブリュードッグ社が「今までと違う」と印象付ける最高のマーケティング戦略でした。

とはいえ、当時ブリュードッグ社が知られていた理由は「最強の度数」に過ぎません。
ドイツのライバル企業がすぐさま「ショルシボック40」という40度のビールを出したこともあり、
このままではすぐ埋もれてしまう運命にありました。

秘密はあえて敵を作るマーケティング

そこでブリュードッグ社は単なる度数勝負を超える、次の一手を打ちます。

新製品はその名も「ザ・エンド・オブ・ヒストリー(歴史の終焉)」。
度数も55度ともはや標準的なウイスキーを超えてしまったのですが、
何より度肝を抜いたのはビールボトル。
リスのはく製でビール瓶を包んで販売したのです。

※ 実際の商品画像はこちらからご覧いただけますが、動物が好きな方はご注意ください。

元々イギリスは動物愛護団体も多く、
過激派は「インフルエンザウィルスにも生きる権利はあるから風邪薬を飲むな」と運動するほど
他の生命を大切にする国民性を持っています。

そんな中でリスのはく製を売ったものですから、動物愛護団体は激怒。
「安っぽいマーケティングだ」「死骸のビール」と散々なバッシングを受けました。

しかもこのリスのはく製ボトル、お値段は、約86,000円と超高額!
手軽な消費財であるべきビールではありえない金額設定も考えると、
小心者の私など「よく社内稟議を通ったな……」と当時を想像してはハラハラしてしまいます。

ところが、市場に出てからは大ヒット。
確かに動物愛護団体や心の優しい人は激怒しましたが
「パンク」と呼ばれるタブーを壊すことに抵抗のないファンが急増。
ブランドイメージとして「パンク」の称号を手に入れたブリュードッグ社は差別化を成功させ、
同ビールも瞬く間に世界中へ出荷される大ヒットとなりました。

ブランドイメージを守れば、ファンができる

お客様満足度100%。聞こえはいいですが、そんなブランドには敵がいません。
「なんでそんなものを買うの? 信じられない」と思う層がいないブランドは
無個性の塊として、そのうち忘れ去られてしまいます。
日本の巨大ブランド、たとえばdocomoやJALであっても
強烈な信者とアンチがいることによってブランドが保たれているのです。

ただしブリュードッグ社のように成功したいのであれば、
大切なのは斬新なアイディアが浮かんだときにブランドイメージから逸れないよう気を配ること。
ブリュードッグ社はブランドイメージを「パンク」にしていたがために、
今回取り上げたようなタブーを無視するアイディアが大成功となりました。

しかし同じ案を「伝統的・保守的」と思われたいビール会社が行っても
絶対にヒットしないでしょう。
斬新なアイディアは保守的なブランドにも存在します。
たとえばイギリスの女王陛下が美味しそうに飲み干すビールのCMが流れたら、
保守的であるにもかかわらず「ちょっと飲んでみようかな」と興味をそそられないでしょうか。

業界の革命児になって大成功を収めたいのであれば、
革新的なアイディアをブランドイメージに則って実行すること。
そして常に他社事例から学び、アイディアの幅を広げることです。

ブリュードッグ社の事例は2016年9月発売の
『ビジネス・フォー・パンクス ルールを破り熱狂を生むマーケティング』に詳しくありますし、
世界最高の広告を表彰するカンヌ国際広告祭の受賞作はYoutubeで見られるものも多くあります。
常にインプットを楽しみ、あなたの戦略に役立ててみてください。
参考文献:

『Good Beer Guide 2015』

 

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

チェーンに学ぶビジネスの勝ち方:1億杯のコーヒーを1週間で売る

こんにちは、トイアンナです。

イギリスといえば紅茶のイメージがありますが、実はその国に激震が起きています。
実は現在、イギリスはコーヒー大国。コーヒー店業界の売上は17年連続で上昇しており、
昨年だけでも10%市場が拡大しなんと1兆円市場へ到達。夢のような成長ぶりです。

それをけん引したのが、日本でいうならエクセルシオール、ドトールのようなコーヒーチェーン店です。
イギリス国内でコーヒーショップの数は20,000店舗を超えており
日本のスターバックスやドトールコーヒーの1,000~1,400店舗数と比較すれば、
非常に大きな市場であることがわかります。

そこで今回は、代表的な3ブランドをご紹介することで日本のカフェ経営にも応用できる
「成功の秘訣」をお伝えいたします。

なお、実際の3ブランドの店舗写真をご覧になりたい方はこちらをご参照ください。
イギリス情報 | お気に入りのカフェはどれ?

コスタ:コーヒーの先駆けという誰にも勝てない強み

初めてイギリス人を紅茶党からコーヒー党へと動かしたのがカフェ「コスタ」です。
コスタは1971年創業の老舗で、イギリスへコーヒー文化を持ち込む先駆者となりました。

特に大きなカップで紅茶を何倍でもお代わりするイギリス人にとって、
の直径10cmはあろうかという大きなカップで
コーヒーを「ごくごく飲む」という発想がぴったりフィット。
在でも2,000店舗以上の大規模チェーンとして愛されています。

日本で応用できる点:イノベーションを起こし業界をけん引する

マーケティングで最も影響力が強いとされるのが
「この世に無かったものを消費者に提案すること」、通称イノベーションです。
まだ流行っていない製品やマニア向けサービスを一気に広げることでブームを巻き起こします。

製品を広めた最初の1社目はその後もトップシェアでいられることが多く、
「コーヒーと言えばコスタ」といったイメージを植え付けられます。
日本の例なら「コーラといえばコカ・コーラ」あるいは「航空会社と言えばJAL」といったものです。
ただし、イノベーションを巻き起こすためには認知度を急激に上げる必要があり、得てして広告費がかかります。

カフェ・ネロ:美味しいコーヒーが飲める唯一の店

さて、業界1位のコスタには大きな欠点がありました。
コーヒーがそこまで美味しくなかったのです。
決してマズいとまでは言いませんが、当時のコーヒーは「紅茶ほどは美味しくない」くらいの位置づけでした。

そこでカフェ・ネロは「どこよりもおいしいコーヒー」を純粋に追及し、
イタリア風の濃いコーヒーを展開して一気に質を向上させました。
カフェ・ネロが登場するまで、多くのコーヒー店では目の前でインスタント粉コーヒーを入れるだけ、という店も多かったイギリス。

カフェ・ネロはひき立てコーヒーを提供することで、
チェーンに限らず全国のコーヒー品質を向上させる革命を起こしたのです。

日本で応用できる点:質で勝ることで1位の座を揺るがす

イノベーションを繰り返す企業は先進的な反面で、品質に劣ることがあります。
たとえばソニーのウォークマンは1990年代まで時代の寵児でしたが、
その一方で「ソニータイマー」とも揶揄される品質の欠陥が指摘されていました。
そこで品質を求めた消費者はパナソニックなどの他ブランドを選んでいました。

このように先頭を走るブランドが逃している品質に目を向け、
そこで圧倒的な差別化をすればトップを揺るがすライバルになれるのです。
現在でも誰もが知っている製品で、質で劣るものはないでしょうか。
そこが、あなたが次に勝てる場所です。

プレタ・マンジェ:オーガニックという新しい軸で独自展開

「プレタ・マンジェ」は他ブランドに比べて創業も遅く、コーヒーチェーンでは後塵を拝していました。
ただの品質、ただのイノベーションでは勝てない。
圧倒的不利な状態から生まれたのは「大規模チェーンが決してできない戦略」を狙うことでした。

まず、「プレタ・マンジェ」は添加物を使わないオーガニック食品を使い、都心に展開しました。
特に環境や有機野菜に関心がある都会の裕福なビジネスパーソンを狙ったのです。
こういった「全国的に人数が少ない」相手へ売り込むことは、
すでに大きくなりすぎたチェーン店にとって難しくなります。

「プレタ・マンジェ」の手作りサンドイッチは味も美味しく、健康志向の富裕層へ大ヒットしました。
日本で例えるならナチュラルローソンや、成城石井の成功例がこれに近いと言えるでしょう。

現在はより激しくなった競争に打ち勝つため「筋トレ用の美味しいたんぱく質メニュー」や
「ベジタリアンが満腹になるお弁当」といった、
これまで「味に妥協してきた人」を満足させる品ぞろえとなっています。

日本で応用できる点:大規模チェーンができない「少ない人数」を狙い撃ち

日本でもダイエット中の方、筋トレに励んでいる方向けのメニューを用意できているカフェはほとんどありません。
日本でも「偏食しませう」という強烈なキャッチコピーで
筋トレしている方が食べられるお店「b-ZONE」がヒットしています。

このように「今まで誰も狙ったことのない消費者」へ目を向けることで、
コアなファンを作るのもマーケティングの手法です。
メリットは広告費が無くても口コミで広がりやすいこと、
デメリットはある程度人口がない地域で実施すると
「該当する人が10人くらいしかおらず、商売にならない」恐れがあることです。
この戦略を取られるのであれば、必ず
お住まいのエリアにどれくらいコアなファンがいるかを概算してからにしてください。

ここまで、イギリスのコーヒーチェーンを参考に
日本で勝てるマーケティングの方法をご案内してまいりました。
大規模な市場も、街中のお店も初めは同じ1店舗。
そこからあなたが成功するためにも、先人の知恵を活用していってください。

参考資料:
スターバックス 店舗数
http://www.starbucks.co.jp/company/history/
ドトールコーヒー 店舗数
https://www.doutor.co.jp/about_us/ir/report/fcinfo.html


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)