第一印象の秘密 私たちはどのように見られているか

第一印象についての新しい研究が
Mixed Impressions: How We Judge Others on Multiple Levels
(「入り混じった印象:私たちは他人を複数のレベルで判断している」)で明らかにされています。
 
人は、一瞬で相手のことを判断します。
この人は信頼できそうだな、とか、頭の切れそうな人だな、というふうに。
ビジネスの場面でも、私生活での交流の中でも、私たちは出会う人ごとに、第一印象で判断しながら、相手とのつきあい方を決めていきます。
交流を重ねるごとに、その第一印象には修正が加えられていきますが、
多くの場合、最初に描いたイメージが、180度変わってしまうことはさほどないように思います。
だからこそ、よく言われるように、「第一印象が大切」なのでしょう。
 
けれども、第一印象というのは、私たちに操作できることなのでしょうか?
実際、私たちにできることといったら、身だしなみを整えるぐらい…
生まれつきの顔は、どうしようもないし…
そう思っている人がほとんどではないのでしょうか。
 
ところが近年、心理学の分野では、この第一印象が、
たった2つの要素で成立していることがあきらかになっています。
 
私たちが他者をいかに判断するかを研究しているハーバード・ビジネス・スクールの教授エイミー・カディ、
プリンストン大学心理学者であるスーザン・フィスク、ローレンス大学のピーター・グリックは、このように述べています。

世界のあらゆる場所で、人は2つの要素で他者を判断しています。
すなわち、暖かさ(彼らが親しみやすく、善意を持っているか)と
能力(彼らはその意図を伝える能力があるかどうか)です。   
Mixed Impressions: How We Judge Others on Multiple Levels

私たちが初対面の人に会うと、私たちは無意識のうちに一瞬で
相手を「暖かい人かどうか」「能力がある人かどうか」の両方で評価している、というのです。
この評価は、私たちの行動にも影響を与えるといいます。

暖かく、有能な人に、私たちは夢中になり、助けようとし、
冷たく、能力のない人であると判断すれば、軽蔑を感じ、そのように行動するのに対し
ふたつの要素が入り混じった人に対しては、態度を決めかねてしまうのです。
たとえばユダヤ人や、アジア人、金持ちに対するステレオタイプに見られるような
有能ではあるけれども、冷たい印象は、妬みや危害を加えたいという欲求を誘発します。
事実、そうしたグループに対して、しばしばそうした事態が起きています。
また、暖かく、能力的に欠けているところのある人、たとえば母親や高齢者に対しては、
憐みをもよおし、見て見ぬふりをします。
                 (引用同)


 
新しい研究では、一瞬で下されるこうした判断が、
しばしば誤っていることも明らかにされています。
というのも、そうした判断は、私たちの抱くステレオタイプや、過去の経験に大きく依存しているからです。
 
近年、心理学者のニコラス・ケルビンらは人の暖かさと能力について、私たちが抱きがちなイメージについての研究を発表しました。
被験者に対して、2つのグループを示します。
一方の人々は以前の実験で、暖かい行動を示し、もう一方は冷たい行動を示します。
被験者たちは、暖かいグループの方が冷たいグループよりも
能力が低いだろう、と予想する傾向がありました。
 
同様に、一方のグループが能力が高く、他方が低いという情報を与えられれば
被験者は直観的に、前者を冷たく、後者を暖かい、と答えることがわかりました。
 
つまり、私たちには
ある性質を取り上げることによって、別の性質を切り落とす場合がある
というのです。

能力の高い人は冷たい(暖かさに欠ける)、というふうに、何かを取り上げ、別の何かを落とすという「補償効果」は
私たちが、人を個人個人で評価するより、他の人と比較することによって起こります。
 
これは有名な「ハロー効果」、優れた点がひとつあれば、他の部分も優れているだろうと考える
私たちの認知バイアスとは逆の、もうひとつの癖です。
 
補償効果もハロー効果も、人が「暖かさ」と「能力」を判断する場合に生じる、いくつかの間違いに表れていきます。
たとえば、私たちは、仮にある人の地位が、たまたまその人の生まれ合わせに過ぎない場合でも、
その人が高い地位にあれば、有能であるとみなします。
 
さらにその人が「暖かい」かどうかの判断は、あなたとの関係にも左右されるのです。
「仮にあなたが誰かに負けたとしたら、その人のことを悪い人だと思うでしょう」
とカディは言います。
 
人がどのような脳のメカニズムで第一印象を判断しているかを理解していれば
私たちには自分の「第一印象」をより良いものにすることができます。
たとえば、あなたの職業や、所属するグループに対して
多くの人がどのような印象(暖かい or 冷たい/能力がある? or 能力がない)を持っているか
さらに、多くの人があなたに対してどのような印象を持っているかを理解すれば
あなたは自分のイメージを変えるよう努力することができるのです。
 
たとえば、世間では冷たいという印象を与えがちな有能な政治家は
自分の暖かさを利用することによって有権者とのより良いつながりを維持することができるのです。
 
とはいえ、カディのこのような指摘は、心に留めておく必要があるでしょう。
「その人の暖かさや能力は、誰であっても、人生のどこかでかならず相手には伝わるのです」

(文章および翻訳:服部聡子)