マーケティングでV字回復を狙うイギリス紅茶市場 集客を取り戻す差別化の鍵は?

こんにちは、トイアンナです。
「イギリスといえば?」と連想ゲームをするなら、すぐに思い浮かぶのが「紅茶」でしょう。特に女性にとって、優雅なアフタヌーンティーは憧れです。ところがその紅茶、イギリスで斜陽となっています。調査によればイギリスの紅茶市場は2013年から2015年までで14%縮小
その理由は「若者の紅茶離れ」です。
今回はイギリスの紅茶が一体どのような危機を迎えているか、そして紅茶の復活を願った各社が力を入れたマーケティング施策をご紹介します。

イギリスの若者には緑茶がトレンド

そもそも、イギリス人はどのくらい紅茶を飲むと思いますか?
およそ3割の50・60代のイギリス人は1日5杯、紅茶を飲みます。日本で同じ量の緑茶を飲む方はまずいないのではないでしょうか。
「イギリスと言えば紅茶」も納得です。

しかし20代後半から30代前半の若者ではこれが2割弱まで減少。紅茶よりコーヒーを好む若者が増えています。イギリスでは日本と同じようにスターバックスを初めとするコーヒー店が続々増えており、紅茶市場を揺るがしているのです。

さらに調べてみると、紅茶が不人気な理由のトップは「汚れが歯につくから」。
ここで「ん?」と引っかかった方は、マーケティングのセンスがある方です。若者がもし本当に歯の汚れを気にして紅茶離れを起こしたなら、コーヒーも飲めないはず。むしろ私達日本人からすると、コーヒーの方が歯も汚れるイメージも強くありませんか。

このように矛盾のあるデータが上がってきたときは、アンケートの数字に出てこない本当の理由が隠れていることが多いものです。マーケティングではこれを「インサイト」と呼びます。インサイトを知るためには、対面でのヒアリングが欠かせません。

実際にお話を20代イギリス人から伺うと「紅茶はダサい」「年寄りの飲み物だからオシャレなカフェで頼みたくない」という赤裸々なインサイトが明らかになりました。何だか、日本の「若者の日本茶離れ」「若者の和菓子離れ」に通じるものを感じます。どの国でも、伝統的な食べ物は若者から敬遠されるようです。

弱みより強みを活かした集客を

もちろん、若者の本音を見抜いたのは私だけではありません。紅茶メーカーから販売店、カフェまで紅茶は「イケてない」と思われていることに気づいていました。彼らもただ手をこまねいているわけにはいきません。そこで集客のため考案されたのが「オシャレなアフタヌーンティー」でした。

アフタヌーンティーはもともと1日2食だったイギリスで、午後の小腹が空く時間に軽食を食べるため考案されました。しかし現在、1人あたりの価格は5,000円以上。アフタヌーンティーは日常的に楽しむものというより「ハレの日」のイベントとなっています。

若者が欲しがらない紅茶も、ハレの日を演出すればお金を落としてもらえる。その証拠に高級ホテルのアフタヌーンティーでは予約率が上昇していました

ハレの日にふさわしい、若者が来たくなるアフタヌーンティーを提供できれば……。紅茶市場の復活を目指し、ホテルは差別化戦略を立てました。

若者に「ワクワク」の要素を

ここからは、実際にマーケティングの成功した事例ご紹介します。

高級ホテル「サンダーソン」では『不思議の国のアリス』に因んだ「帽子屋のお茶会」をテーマにアフタヌーンティーを提供しています
リンクをご覧いただければ一目瞭然のカラフルなお菓子。アリスをモチーフにした可愛らしいデザインは、世界中の乙女を虜にしました。従来の伝統的お菓子からは想像もできない外見が「ハレの日」を演出しています。

また、どの国でも海外へあこがれを抱くもの。日本人がイギリスに憧れるように、イギリスではフランスやアメリカ、日本のスタイルが「オシャレ」とされます。

アフタヌーンティーカフェ「sketch」では、パリの三ツ星レストランシェフ「ピエール・ガニェール」の力を借りて個性的な内装と料理を届けました。
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Photo By: トイアンナ

こちらは実際に訪問してきましたが、お昼過ぎには満席。観光客が多いエリアにも関わらず若いイギリス人客もちらほら見かけました。

さらに観光客へ舵を切りヒットしているのがB-Bakaryのアフタヌーンティー。なんと二階建てバスの中をまるごとアフタヌーンティーの場所にし、観光しながら紅茶を飲める仕様にしています

紅茶文化を復活させるため、各施設がマーケティングを駆使し差別化へ成功しています。

どんな時に使いたくなるか? が経営のヒント

「市場が斜陽産業で、これから顧客は減っていく一方」という現場でも、市場を伸ばす方法はあります。
今使っていただいている方法以外で、どんなシーンで利用してもらえそうか、どんな気分で愛されそうか。もし自社製品の市場が伸び悩んだときは、ユーザーが製品をどんな時に使いたくなるかを思いつくままリストアップして、市場全体を大きくする方向を模索してみましょう。

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

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