by ジェフリー・ジェイムズ
トップアスリートが卓越したレベルに到達できるのも、毎日の基礎トレーニングがあればこそ。
あなたのキャリアも同じです。ここではその方法をご紹介します。
先ごろ雑誌『ニューヨーカー』でも取り上げられていましたが、
過去数十年間でスポーツは、技術面において劇的な進化を遂げました。
世界記録は絶えず破られていき、どの世代をとっても、
アスリートたちは上の世代よりも強く、速くなっています。
大幅な向上を見せているのは、オリンピックレベルのアスリートやチームだけではありません。
あらゆるスポーツにおいて、それが起こっているのです。
たとえば、高校のバスケットボールでも、トップクラスのチームなら、
1960年代のプロチームをこてんぱんに叩きのめすことでしょう。
どうしてこんな飛躍が可能になったのでしょうか?
今日のアスリートは、1日数時間を基礎トレーニングに費やします。
ところが、かつてはコーチも選手も、基礎トレーニングは時間の無駄であり、
しかも実際の試合に備えて、賢く蓄えておかなければならないエネルギーを、
いたずらに消費してしまうと考えていたのです。
このことは職場にも応用できるのではないでしょうか。
私たちが利用するテクノロジーは、きわめて強力なものとなっています。
ところが、ビジネスの基本的な要素 ― 書く、話す、聞く ― に
そのテクノロジーが導入された結果、 現代の「プレー」の平均値は『マッド・メン』
(※1960年代の大手広告代理店を舞台にしたドラマ) の時代を下回るものになりつつあります。
たとえば「書くこと」を取り上げてみましょう。
コンピューターを使えば、文書作成はとても簡単です。
テキストを打ち込み、テンプレートからペーストすれば良いのですから。
そのおかげで今日のメールは、1960年代の平均的なメモに比べて、
冗長でバズワードが氾濫したものになっています。
同様のことが、公式で「話すこと」においても見られます。
パワーポイントで武装したプレゼンテーションは、 旧式のスライド時代よりも、
退屈なものになってしまっています。
さらに「聞くこと」に関していえば、
多くの職場で、あまりに気を散らせる音があふれているせいで、
人の話に気に留める人すら、ほとんどいないありさまです。
けれども、そうした問題が起こるのは、テクノロジーのせいではありません。
いつの間にか私たちが、テクノロジーのおかげでコミュニケーションは、
かつてより進化しているだろう、と思いこんでしまっているせいなのです。
皮肉なことに、情報があふれかえっている現代にあっては、
正確なコミュニケーションが、これまで以上に重要になっています。
今日では、明晰なメッセージだけが、ノイズの海を突き進むことができるし、
簡潔なプレゼンテーションだけが人の記憶に残ります。
人と人の間に長続きする関係を築けるのは、内容豊かな会話だけです。
それなのに、書き、話し、聞くことの基礎トレーニングを毎日行おうとする企業は、
極めて少数であるのが現状です。
結果的に、ほとんどの組織は、凡庸な「選手」であふれかえり、
生まれつき資質の高い人が、散発的に現れるだけになっています。
けれども、企業が基礎トレーニングを怠っているということは、
基礎的なコミュニケーションスキルを改善するための日常的なトレーニングを行おうとする人にとって、
すばらしいチャンスでもあります。
そのことに留意して、以下に挙げる一週間のプログラムを実行してみてください。
月曜日: “TED”の講演を視聴し、分析する
所要時間: 20分
もし普段、冗長で退屈な同僚のプレゼンテーションを見ているならば、
あなた自身のプレゼンテーションも、自然に冗長で退屈なものになっているはずです。
それに対する特効薬は、毎週少なくとも一度は、YouTubeで TED を見ることです。
ただし、漫然と見るのではありません。
講演者がどのように情報を伝えているか、考えるのです。
彼または彼女がどのようにスライドを使うか、
あるいは使わないか。
声の調子を聞き取り、単に情報が提供されているだけではなく、
それぞれの講演において、それがどのように伝えられているか注目してください。
火曜日: トップ・ブロガーのブログを批評的に読む
所要時間: 10分
もしあなたが読んでいるのが業界誌と社内メモだけなら、
あなたはそうした文書にありがちな、月並みな文体を模倣するようになるでしょう。
そうではなく、非凡なビジネス・ライターによって書かれたものを読んでみてください。
記事よりはむしろブログの投稿をおすすめします。 というのも、
こうしたものは定期的なビジネス・レターに近いものだからです。
私のお気に入りのブロガーはペネローペ・トランクですが、
ほかにもガイ・カワサキやセス・ゴーディン、ボブ・サットン、ダン・ローム、
トム・ピータース、ジョン・ジャンツッチなど すばらしいビジネス・ブロガーがいます。
そのほか、もし何かの気まぐれで、私のブログでこのトレーニングがしてみたければ、
無料の週刊メルマガを講読するのが便利です。 毎週火曜日、発行しています。
あなたが読むのが誰のブログであっても、 単に内容を把握するためだけに読んではいけません。
距離を保って、批評的に読むのです。
書き手はどのように話に入っていき、トピックを展開させているか、
彼または彼女は文章や段落をどのように組み立てているかを、注意深く確かめます。
自分自身より才能のある書き手の文章を読むことで、 あなたの書いたものも上達していきます。
これは、人間が書くことを発明して以来の真実といっても過言ではありません。
水曜日: 最高のポッドキャストを主体的に聞く
所要時間: 15分
「主体的に聞く」というのは、 感情がおもむくままのおしゃべりや、
頭の中でのひとりごとをオフにして、 その代わりに他の人の話に全神経を集中して耳を傾けることです。
(これは意外にむずかしいことです。
というのも、人の脳が言葉を処理するスピードは、実際に人が話すより速いからです)
主体的に聞くトレーニングをポッドキャストでおこなうことは、
実際に誰かが話しているのに耳を傾けるより簡単です。
というのも、
1) あなたには返事をする必要がなく
2) 良質なポッドキャストなら、集中しやすい からです。
このトレーニングをするために、静かな場所に腰を下ろし、
スマートフォンかタブレットをポッドキャストに合わせ、耳を傾けます。
話者の語る一語一語をしっかり聞き取ります。
手作業や運動など、ほかのことは何もしません。
集中力を最高まで高め、それを維持するのです。
この聞くトレーニングを続けていれば、職場でほかの人の話を主体的に聞くスキルも、
すぐに身につくことでしょう。
とはいえ、ポッドキャストを最初から最後まで聞く必要はありません。
もしそれが15分より長いなら、その先は主体的に聞く必要はありません。
私の個人的なお気に入りは、『シリアル』 と 『ディス・アメリカン・ライフ』 ですが、
そのほかにも利用できるポッドキャストは、いくらでもあります。
相手の話に集中して耳を傾けるトレーニングは、あなたの人間関係をより緊密にしていくでしょう。
というのも、同僚のことをもっとよく理解できるようになるからです。
いつしか自分が以前より、好意を持って迎えられていることに気づくはずです。
木曜日: 届いたメールをリライトする
所要時間: 5分間
効果的なリライトのコツは、冗長な文章の中から読み手にとって何が重要であるかを見抜き、
そのエッセンスを2つか3つの短い文にまとめることにあります。
届いたメールであれば、「対象とされる読者」はあなた。
自分にとって何が大切かわかっているので、読み手の「ツボを押さえる」ことは簡単です。
一例をあげます。
リライト前:
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このメールがお目に留まれば幸甚に存じます。
11月は、恒例の「全米キャリア開発月間」となっております。
ご自身のプロフェッショナル・ライフの成功と、
目標の達成のためのキャリアに関するヒントについて、
XYZトレーニング・エキスパートと話し合うことに興味がおありでしたら、
以下のお手続きをお願いしたいと思っております。
会社員が日々の仕事に励みつつ、
同時に自分自身のキャリア形成を確かなものにするために、
より大きな目標に向けてライフプランを立てていくことは、非常にすばらしいことです。
もしXYZトレーニング・エキスパートに相談してみようと思われましたら、
ぜひお知らせください。
早期に面談のお手続きを喜んでさせていただきます。
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リライト後:
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職業上の目標を持つことは、あなたの読者にとっても重要なことです。
あなたの独立をお手伝いします。
従業員の将来設計を助ける経営者が、どれほど愛社精神を涵養できるか、
エキスパートとしてぜひお話しください。
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送られてきたメールを、最低1通はリライトし簡潔にまとめることで、
あなたは徐々に、短いセンテンスとシンプルな言葉で、コミュニケーションできるようになります。
さらに、あなた自身が書く場合も、無駄のない文章が書けるようになるはずです。
金曜日: 同僚からコーチを受ける
所要時間: 10分間
一週間、あなたがより効果的に書き、話すことができるようになったか、
試してみるチャンスがやってきました。
おそらくあなたにコーチがつく可能性は低いでしょうから、
次善の策として、あなたのやったことを同僚に評価してもらうのです。
信頼できる誰かに頼んで、あなたのリライトしたメールを見てもらうか、
プレゼンテーションをひとつ聞いてもらうかしてください。
彼または彼女に、どうやったらもっとうまくいったのか、
どうしたらもっとよくなるのか、聞いてみましょう。
言うまでもないことですが、相手が同じことを望めば、
あなたも気持ちよくそれに応えてあげてください。
同僚が遠慮なくしてくれる批評は、あなたの聞くスキルを生かす、願ってもないチャンスでもあります。
同僚が彼もしくは彼女ならではの視点を述べてくれたなら、
言い訳などしたりせず、虚心坦懐に耳を傾けましょう。
(言い訳はあなたの邪魔にしかなっていない、内なる自分との対話です)
時間がたつうち、書き、話し、聞く能力が向上した自分の仕事を、
別の視点から眺めることができるようになるはずです。
そうなれば、不可避的にあなたはより有能な人になっている、すなわち成功に近づいていることでしょう。
by ジェフリー・ジェイムズ(スピーカー、セールス・ブロガー)
元記事:http://bit.ly/1JJCfDb
(翻訳:服部聡子)