「いい人」ではなく、役立つ人になろう
馬は人間よりもずっと多くのことを理解している。
毎日、自分の背に、違う生き物を乗せている馬が、
彼らのことを何も考えていないはずがない。
一方、毎日違う生き物の背に乗る人間が、
彼らのことを何も考えていない、というのは、
実によくある話である。
ダグラス・アダムズ 『ダーク・ジェントリーの全人的探偵事務所』
会社の上司や、政治家の「先生方」、顧客の「お偉いさん」。
私たちの身の回りには、「権力」を持った人が大勢います。
――そんな人の目に、自分はどう映っているのだろう?
そんなふうに思ったことはありませんか?
自分は人間ではなく、「道具」や「歯車」としてしか扱われていないのではないか、
と感じたことは?
もしかしたら、そこには「権力のレンズ」がゆがめているのかもしれません。
「権力という度の入ったレンズは、私たちが相手を見、判断するときに、
お互いの姿をゆがめてしまうものです」
こう書くのは、ハイディ・グラント・ハルバーソンです。
彼女は近著『誰もわかってくれない場合にすべきこと』の中で、
私たちが気がつかないうちに、さまざまなレンズを通して、ものごとをゆがめて見ている、
と指摘します。
特に上司と部下、顧客と販売員、先生と生徒などの、いわゆる「上下関係」にある人は、
双方が「権力のレンズ」を通して相手を見ています。
このレンズのせいで、意図がうまく伝わらなかったり、誤解されたりして
双方が不満を抱く結果を引き起こしてしまうのです。
こうした事態を打開するためには、どうしたら良いのでしょうか。
権力は状況や環境に左右される
まず、わきまえておかなければならないのが
「ある人物Xが、あなたより権力を持っている、ということは、絶対にありません」
ということです。
つまり、あなたの上司があなたに対して権力をふるうのは、
「ある特定の状況において、限定された時間に、特定の条件においてのみ」
なのです。
たとえば、会社がなくなってしまったり、あるいはあなたが会社を辞めたりすれば、
上司は、もはやあなたに言うことを聞かせることはできません。
そのことをあなたもわかっているから、理不尽なことを言ってくる上司がいれば、
「辞めてやる!」と思うのですね。
でも、辞めるのはいつでもできること。
そうなる前に、状況を改善する方法をさぐってみましょう。
(相対的に)権力のある側は、あなたをどうみているか
さまざまな研究からわかっているのは、
権力を持つ人たちは、権力の無い人たちに対しては複雑で、繊細な考えをもつ必要がないと感じる
ということです。
「面接官や職場の上司は、権力を持つという感覚を抱くと、就職希望者や賞与を配分するときに、
固定観念に左右され、偏見を持ちやすくなる、という研究も報告されています」
自分をひとりの人間とは見ず、
「女性だから」とか「二流大学出身者だから」などという粗いくくりで
見なされた経験は、誰にもあることでしょう。
おもしろいことに、実験では、こうした固定観念を通して見る傾向が高いのは、
「リーダーが「任意に」選ばれた場合にのみ、当てはまる」ことが明らかになっています。
「リーダーが自身の社会的能力や仕事の適性に対して評価を受けて選ばれた場合は、
このような偏見は見られません」
無能な上司こそ、こうした固定観念を振りかざしてくる、という私たちの実感を、
実験も裏づけているのです。
けれども、こうした上司を私たちは「災難」として、堪え忍ぶしかないのでしょうか?
「権力のある人にあなたのことをしっかりと知ってもらうには、
あなたを知ることが必要であり、有益であるようにする必要があるのです」
とハルバーソンは言います。
あなたを固定観念でしか見ようとしない面接官や上司に対して、
あなたがどんな人であるかをしっかり知ってもらうためには、
あなたの「インストルメンタリティ(どれほど役に立つか)」が鍵になります。
ハルバーソンは以下のように述べています。
「権力を持つ人が目的を達成するために、あなたは何ができますか?
あなたをよく知ることで、彼らにとっては何の利益になりますか?
もし、あなたを詳しく知るために彼らが時間と労力を投資するならば、
どのような利益が生まれるでしょうか?
権力を持つ人が目的を達成するために、あなたは何ができますか?
あなたをよく知ることで、彼らにとっては何の利益になりますか?
もし、あなたを詳しく知るために彼らが時間と労力を投資するならば、
どのような利益が生まれるでしょうか?
役に立つ存在であるために、あなたがまず、すべきことは、
自分は権力を持つ人の願望や挑戦を理解しているだろうか? と自問することです。
たとえば、権力を持つ人があなたの上司であるとします。
自分の一年の目標や未来のゴールは知っていても、上司のそれは知っているでしょうか?
上司にとって、他の人からの手助けが一番必要になるのは、どこでしょうか?
どうすればその仕事を手伝うことができるのでしょうか?
上司にとっては、どこが上手く行っていないのでしょうか?
作業の時間配分をするとき、多くの人は柔軟に時間を使うことができません。
自分の上司が手伝いを必要としているときに手を貸せるように、
自分の仕事の優先順位を決めていけば、
あなたがどれほど役に立つ人間であるかは、劇的に知られることでしょう。
そして、役立つ存在であることはもちろんですが、
求められていることをやれば良いだけなのです。
しかし、あなたの存在が、何よりも知られる方法は、
上司が頼む前に、上司が必要としそうなことを準備しておくことです」
大切なのは、いい人になることではなく、役に立つ人になることです。
そうすれば、この「権力のレンズ」をあなたもうまく役立てることができるでしょう。
引用はすべて
(翻訳:横手祐樹 責任編集:服部聡子)