うまくダメ出しする方法
by クリスチャン・ジャレット
相手の間違いを指摘しないことは利己的な行為
仕事仲間のまずい仕事ぶりを目の当たりにしたとき、あなたはどうしますか?
それを指摘し、注意するのは楽しいことではありませんが、
ほんとうは、きわめて重要で、相手にとっても親切な行為です。
私たちの誰もが、現在、どのような状況にあろうと、過去に何をしていようと、
進歩していくことは可能です。
けれどもそのためには、自分に欠けている点を、
信頼できる誰かから、指摘してもらう必要があるのです。
間違った点の指摘や批判は、潜在的な贈り物です。
医療産業や航空産業などの業界では、人の命を救うことさえあります。
けれども指摘や批判をおこなうことは、簡単なように思えて、
一歩まちがえると、きわめて危険な結果を招きかねません。
人間関係や信頼を壊すかもしれないのです。
では、どうしたら思いやりのある評価と不愉快なコメントの間で、
うまくバランスを取ることができるのでしょうか。
ダメ出しをおこなうためには、まず第1に、信頼関係を築いておく必要があります。
研究によると、自己評価の低い人は、マイナスの評価を差し控える傾向があるといいます。
とりわけ対面でその傾向が強くなるのは、嫌われたくないから、
あるいは、批判的な言葉が自分に投げ返されるのを恐れているから、
という理由があるからなのでしょう。
別の研究では、「自己監視」傾向の強い人
(自分が社会的に見て適切なことをしているか、非常に気になる人)
も、同僚にマイナスの評価を出せないということが明らかになっています。
とりわけその会社が、静穏という企業文化を持つようなところなら、
その傾向はいっそう強まるでしょう。
自己評価の低い人は、批判を控える傾向がある
逆説的に聞こえるかもしれませんが、自分がどう思われるかを気にして、
マイナスの評価をしない、というのは、利己的な行為です。
あなたのエゴは、いったん脇へ置いて、
自分がきらわれたら、とか、良い人と思われたい、などと考えるのはやめましょう。
正当な批判を適切な態度でおこなうことは、相手にとっての利益であり、
あなたがもっと有能な同僚や上司となる機会でもあるのです。
逆に、あなたがマイナスの評価を控えるということは、
相手の成長の機会を奪っているということになります。
それだけではありません。
相手もやがて自分の失敗に気づき、
さらにあなたにはチャンスがあったにもかかわらず、注意してくれなかった、
と思いいたるかもしれません。
ですから、あなたが黙っていたせいで、今日は人気者でいられるかもしれませんが、
明日のトラブルの種を抱え込むことにもなりかねないのです。
批判は、人ではなく、プロセスに対しておこなうもの
人は、マイナスの評価に対して、
それぞれの気質や信条に応じて、異なった反応を示します。
そうしてその反応が、私たちが批判を形成していく手がかりになるのです。
相手の批判を素直に聞く人で、
目標をもっと学んだり、修得したりすることに置いている人であれば、
批判的な評価を受けても、過ちを訂正したり、もっと精進を重ねたり、という、
建設的な反応を見せます。
彼らは批判を学ぶチャンスと受けとめるのです。
逆に、柔軟性に欠ける人、
目標を自分の能力を示すことや、高度な仕事を成しとげることに置いている人だと、
マイナスの評価を受けることが、助けにならない場合もあります。
?そういう人は、自分本位に受け取って、腹を立てたり、批判を避けようとしたりするかもしれません。
「自分は文章を書くのが下手だから/頭が悪いから」などと、
自分の性質だから仕方がない、とばかりに、マイナスの評価を途中でさえぎろうとします。
そうしてまた、マイナスに評価されたことが引き金となって、
あなたに対する信頼感を失っていったり、
「あのバカは自分が何を言っているか、わかってないんだ」
といって、徹底して批判を拒もうとする場合もあります。
ちがいはここにあります。
「良くなろう」という思考パターンの人と、
「良くあろう」という思考パターンの人がいるのです。
批判される側のこうしたちがいを逆に利用して、
相手に望ましい反応をしてもらえるような批判を作ることもできます。
相手に対して、あなたがうまくやれなかったのは、
容易に修正できる、外部的な原因だと説明することによって
(「この記事がうまく書けていないのは、十分な調査と知見が得られなかったからだ」)
相手にとって重要なのは、あなたがどれだけすごい人であるかを示すことではなく、
もっと学ぶことにある、と暗に伝えると、
批判が建設的な反応を生む可能性が高くなるのです。
つまり、相手が実際に次のステップに踏み出せるように
(「今度はもっと気をつけて、十分な調査をやっておきます」)
あなたはそれとなく微調整のきっかけを与えてやる、ということです。
ところが、相手の仕事ぶりに対する批判となった場合は、
次のステップはもっと曖昧なものになってしまいます。
(「次はもっと頑張ります」)
相手の進展をそれとなくうながしたいときは
具体的に次の一歩が踏み出せるような提案を
全体から見て適切で、恩着せがましくさえなければ、
あなたが出したマイナスの評価も、
実践的な、相手に合わせた改善ステップと組み合わせることで、
相手の基本的な能力に対する評価ではないことが、はっきりとわかってもらえます。
(「この記事は、君のライターとしてのスキルを思ったら、十分とは言えないな。
君だったら、この分野の専門家と話して調査を重ねたら、もっと良い記事が書けるはずだ」)
最近の研究では、間違った箇所に対する指摘も、こうしたやり方なら、
受け手が自分がどこまでやり遂げたかを理解できることで、
さほど自己嫌悪に陥らなくてすむことがわかっています。
また、相手に対して意見を述べることによって、受け手の反応を形成することもできます。
たとえばもしあなたが、誰かのやったまずい仕事ぶりを取り上げて、
別の同僚と比較するようなことがあれば、
仕事仲間の間にライバル心や、成果主義の考え方を生み出す怖れがあります。
このような状況で、あなたが批判的な評価を下せば、おそらく彼らは腹を立てるでしょう。
どんなマイナスの評価でも受け入れられる基礎を築くことが、
あなたがまず第一にやっておかなければならないことです。
もしあなたが「何ができるか私に見せてくれ」という態度で仕事を割り当てたなら、
あとでその仕事のできが不十分なことを指摘した場合に、
ひどい反応が返ってきても、驚いてはいけません。
その代わりに、この仕事は学び、上達するチャンスだと相手に悟らせることができれば、
仮にあなたがマイナスの評価を下したとしても、
相手はもっと心を開き、生産的なものとして受け取ってくれるでしょう。
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大胆に、辛抱強く、建設的な批判をおこなえば、
相手を助け、相手が向上するのを助けることができます。
けれどももっと大切なのは、私たちの行動が、信頼という文化に貢献することです。
そこは仕事仲間が「良くやった」と背中をポンとたたき合うだけでなく、
ミスを指摘し、それを改善する方法を指摘できるような場でもあります。
そうやって、私たちみんなが成長していくのです。
著者:Christian Jarrett (心理学者、British Psychological Society’s Research Digest blog)
(翻訳:服部聡子)