社内起業家として成功するために
大企業で働きながら、同時に起業家として働いている人もいます。
彼ら社内起業家も、会社に属さない起業家と同じように、
革新的な製品を作りだすことを夢見ています。
彼らもまた、試作品を作り、宣伝し、売り込み、自力で立ち上げ、人材を募集し、
資金集めをし、パートナーを探し、販売し、サポートしなければなりません。
このコラムでは、企業の一員でありながら、なおかつ起業を考えている人のために、
何をしなければならないか、説明したいと思います。
皮肉にも、名の知れた会社の社員をうらやましく思っている起業家は、少なくありません。
ラッキーな連中は、莫大な資金と、大規模な営業部門、フル装備の研究室、
いくらでも拡張していける工場、確立されたブランドを好きなように使えるじゃないか、
おまけに医療と歯科治療の給付まで……。
そんな贅沢な環境で新製品の開発ができるなんて、どれほどすばらしいだろう。
ガレージで開発を続ける起業家たちは、そのように思っているのです。
でも、もう一度、考えてみてください。
そんな最新設備の中で新しい製品を作りだすのは、簡単なのではなく、ただ、違うのです。
私はこの点に関して、ニール・アナリティックスのデータ・サイエンス所長、ビル・ミードと共同で分析しました。
その上で私たちは、社内起業家に向けた提案リストを考案しました。
1. 優先するのは会社である
社内起業家の第一の(唯一ではないにしても)モチベーションは、
つねに自分を雇っている会社の業績アップでなければなりません。
社内起業家制度は、自分が注目を浴びたり、帝国を築いたり、
会社から全速力で飛び立つためのカタパルトを設置するためのものではありません。
あなたが製品の良いアイデアを持っていれば、最初から大勢の同僚を引きつけることができます。
あなたが自分の個人的な利益のためではなく、会社のために働いているならば、
同僚はみんなあなたを応援してくれるでしょう。
2. 金の卵を産むニワトリは殺してしまおう
会社にありのままをぶちまけて、敵を作る必要はありません。
ですが、あなたの任務は新しい製品を作りだすこと。
そのために、いまある製品が用済みになってしまうことも、起こりうる事態です。
たとえば、マッキントッシュ・コンピューターは、アップルIIを殺すことになりました。
アップルにとっては、競合している会社がマッキントッシュを開発した方が良いことだったのでしょうか?
それとも、マッキントッシュなど、決して開発されず、その道が閉ざされてしまった方が良かったのでしょうか?
とんでもないことです。
3. こっそりと行動しよう
ガレージで開発していたふたりの男にとっては、できるだけ大きな注目を集めることが、重要でした。
努力の成果を知ってもらえれば、資金調達も容易になるし、
パートナーシップを結ぶことも、取引を成立させることも、従業員を雇うことも、簡単になります。
けれども、社内起業家にとっては、その逆が真なのです。
あなたのプロジェクトが、誰も無視できないほど、先に進んでいるか、
会社全体が、それが必要だと認識してもらえるようになるまで、
経営陣からは放っておいてもらえるようにしておきましょう。
4. ゴッドファーザーを見つけよう
多くの会社に、「ゴッドファーザー」的な存在がいます。
しかるべき何かを支払っておけば、日々のちょっとした政治的な力関係から、
私たちの身を安全に保ってくれるような存在です。
彼らはどちらかというとアンタッチャブルで、経営陣からも気を使われています。
社内起業家は、そうしたゴッドファーザーを見つけ、アドバイスや、技術的・経営的な面からの意見をもらい、
いざというときには自分たちのプロジェクトを守ってもらわなければなりません。
5. 別のビルに部屋を持とう
社内起業家が大企業のメインストリームで仕事をすることは、死を意味します。
あらゆる部署の上司が、こんなアイデアは無駄だと主張して、切り刻まれてしまうからです。
ピーター・ドラッカーはこのように言っています。
「現実に進行中の堅固な仕事の前では、
新しいことはいつでも、取るに足らない、見込みのないものに思える」
6. 夢を持っている人に希望を与えよう
どんな会社にも
「こんなばかでかくて間抜けな会社じゃ、イノベーションなんて起こせない」
と考える、シニカルな人はいるものです。
実は彼らは、イノベーションが現実のものとなるのを見たい、理想家でもあるのです。
大企業には、無視され、忘れられ、屈辱を感じつつ、服従を強いられている、有能な人がいます。
彼らは踏みつけにされているかもしれませんが、死んではいません。
そんな人々に、あなたが体制の中心部に杭を打ち込もうとしていることを知らせれば、
かならず物心両面の助けが得られるでしょう。
こうした人々のイノベーションを求める気持ちが、あなたを助け、実を結んだとき、
あなたのゴールは、彼らの昇進につながります。
7. 社内の転換を予測し、うまく利用しよう
会社が変化することを、社内起業家は歓迎しなければなりません。
市場の変化などの外部要因や、新しいCEOの就任などの内部要因によって会社の構造が転換するときは、
あなたにとって、チャンスかもしれないのです。
有能な社内起業家なら、こうした変化を予想し、いざその段になれば、新製品を公開できるようにしておくべきです。
「これが私たちが取り組んできたことです」 と。
それが、社内に巣食う愚か者だと、こんな具合。
「配置転換を今、知ったところです。
6ヶ月間の猶予とアナリストのお許しがいただければ、新製品戦略を作成いたします」
8. いまあるものを足がかりにしよう
大企業の内部でイノベーションをおこなおうとすることのマイナス面は、
明確に文書化することを求められる点です。
イノベーションを少しでも簡単にするために、
会社のいまあるインフラを有効活用することを、躊躇しないでください。
設備だけではなく、ほかの部署にいる社員までもが、チームの一員であると感じられるように、
友だちの輪を拡げていくのです。
9. データを集め、共有しよう
経理担当者や法律家の呼び出しを受け、あなたのプロジェクトの存在理由を問われる日が来るでしょう。
運が良ければ、そんな日が来るまで、もう少し時間の余裕があるでしょうが、いずれにせよ、やってくるのです。
その日のために、
(1) 使用した金額と、得た金額のデータを集めておく
(2) そのデータを公開し、シェアする
大企業では、データを公開していれば、反対勢力の出現を抑えることができます。
けれどもひとたび反対勢力が登場してから、データを入手しようとしても、手遅れになりかねません。
9. 副社長にお越し願おう
副社長にプロジェクトを賛同してもらうことが、第一歩でしょうか?
いいえ、ちがいます。
賛同は、最後の一歩です。
副社長には、あなたのアイデアを「自分のもの」にしてもらい、
支援というより自分が「発見し」、
自分が後ろ盾となってあなたにやってもらうのだ、と思いこませるのです。
機が熟したら、あなたは確実に、副社長に「偶然」発見してもらわなければなりません。
これは、プロジェクトのスタート許可を求めることとは、まったくちがうものです。
10. 完了後は解散しよう
社内起業の利点は、社のメインストリームより早く、新製品を開発できる点にあります。
起業家グループがもし、全体から切り離され、超然としたままで存在し続けると、
あれほど効果をあげたはずのグループ内部の一体感が、不幸なことに、
グループの失墜を招くことになりかねません。
11. 脳を再起動しよう
ここで説明した実践は、社内起業家の多くがこれまでに経験したり、学んだりしてきたこと、
時には大企業で教えられてきたりしたこととも、異なっているかもしれません。
ほんとうのことは、既存の会社の内部で要求される新しい行動パターンを編みだしながら、
何か新しいことを始めることによって明らかになります。
何より大切なことは、あなたの脳を活性化することなのです。
このコラムはガイ・カワサキの最新刊『スタートの技術 2.0』(原題)の一部分を元にしたものです。
ご一読後、飛躍されんことを。
著者:ガイ・カワサキ
(翻訳:服部聡子)