時間の切り替えと生産性
by ジョッシュ・デービス
スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのモバイル機器が普及し、
いつ何時であっても「ツールがないから仕事ができない」ということが言えなくなっています。
基本的には、一分一秒も最大限に活用できるようになり、
処理できる仕事の量は増やせるようになっているはずです。
ですが、こういったデバイスのおかげで、生産性が上がる部分があるのは明らかなところなのですが、
一方で、生産性を下げている部分もあるということは、それほど明らかに知られてはいません。
マインド・ワンダリングと呼ばれる状態、
別の言葉では、注意が散漫になり白昼夢を見ている状態がさまたげられると、
私たちの生産性は低下してしまうのです。
退屈しのぎや仕事の流れが途切れたときには、ついついモバイル機器に手を伸ばしてしまうものです。
ですが、そうすることで私たちは、新しい情報を処理し続けなければならない状況を自ら作り出しています。
「オン」の状態が続くことで、マインド・ワンダリングがもたらす脳の作用が阻害され、
私たちの生産性が下がることがあるのです。
神経科学と心理学の研究では、マインド・ワンダリングはクリエイティビティーと計画性とを促進し、
また将来の大きな目標のために現在の欲望を抑える働きがあることが知られています。
どれも、効率的に働くためには必要になるものです。
私たちのすることで、このように幅広いインパクトがあるものは、他に多くはありません。
例えば、「サイコロジカル・ジャーナル」誌で、このような発表がありました。
マインド・ワンダリングが起きている間、私たちの意識は、
専門家たちの言葉で「クリエイティブ・インキュベーション」と呼ばれる、
創造性をはぐくみやすい状態にあるといいます。
何らかの新しいアイディアや解決策が必要になる問題に取り組んでいるときは、
意識がさまよいマインド・ワンダリングの状態になるに任せて、
その後に改めて問題に取り掛かった方が、良い解決策に出会える可能性が高いというのです。
意識が別のトピックにそれても、脳の裏側では問題の整理が続いているのです。
ですが、意識が新しい情報を大量に追いかけ続けると、その脳の裏側での情報整理作用が阻害されて
マインド・ワンダリングが制限され、クリエイティビティーの促進がブロックされてしまうのです。
マインド・ワンダリングは、私たちが物事の計画を立てるときにも大切な働きをします。
集中力が途切れているとき、私たちの意識は、
主に将来の計画の調整にあてられているということを、研究者たちが突き止めています。
例えば、新しい顧客を捕まえるために仕事に精を出しているとしましょう。
ともすると私たちは、電話をかけたり見積もりを作ったりという日常業務にかまけて、
顧客の流れが途絶えないような仕組み作りのために本当にやるべきことは、
おろそかにしてしまいがちです。
長期計画を立てるための時間がないからだと、つい愚痴をこぼしてしまうものでしょう。
ですが、私たちが気付いていないのは、
計画作りに集中するための時間の有無だけが問題ではないということです。
仕事などに意識を集中した状態が続いていると、
計画の作成や調整を促す作用がブロックされてしまうことがあるのです。
同じように、ドイツの研究グループが、マインド・ワンダリングが目の前の欲望を抑え、
将来の目標実現に向かうための大きなサポートになっていると発表しています。
先ほどの例の続きで、その新しい顧客を捕まえるための何ヶ月もの努力の果てに、
ついに顧客側から一緒に仕事をしたい旨のオファーが得られましたが、
ところがその対価が低かったとしましょう。
これまで注いだ労力が実を結ぶならどのような形でもいいと、
先方からのオファーであれば何でも飛びつきたくなってしまうかもしれません。
ですがそれでは、もう少しだけ辛抱して、
それまでの時間と努力に本当に見合う内容の契約を結ぶこととは反対の行為です。
マインド・ワンダリングの状態にあるとき、
私たちは長期のゴールと自分自身を結びつけることができるようになり、
このような状況にあっても新しい観点に立つことができるようになるのです。
モバイル機器から溢れてくる情報の蛇口をひねって止めない限り、
大部分の情報はそのまま排水溝に吸い込まれていくだけです。
モバイルの使用を止めるべきだというのではありません。
ただ、ときには間を置くなり、仕事の間は手元に置かないようにするなりした方が良いというだけのことです。
そうすれば、集中力が途切れても、意識を全てモバイルに吸い取られることもなく、
マインド・ワンダリングの状態に入りやすくなるのです。
ですから、もし集中力が切れて気が散り始めたら、なすに任せましょう。
意識が別のトピックに移るなら、移るに任せればいいのです。
しかし、あまり心理的なエネルギーを要するトピックでもいけません。
お気に入りのサイトを見に行ったり、メールをチェックしてはいけないのです。
そうではなく、マインド・ワンダリングがもたらす無意識の働きが作用するに任せて、
仕事に戻ったときにさらに効率的になれるようにすればいいのです。
マインド・ワンダリングには、それほど時間をかける必要はありません。
数分もあればリフレッシュできるでしょう。
マインド・ワンダリングの手引きを少し紹介しましょう。
- 集中力が欠けてきたと思ったら、窓のところに行って、行き交う人たちや車のことを、飽きるまでしばらく考えてみてください。
- しばらく目を閉じて、室内でどんな音がしているか聞いてみてください。
- 以前は、タバコ休憩というものがありました。今はモバイル休憩となってしまいました。ですが、タバコを吸うことはなくなっても、2?3分外に出ることはできます。しかし、モバイルは置いて出ましょう。
人の意識が効率的であるためには、あてもなくさまようことも必要なのです。
モバイルがこれを邪魔してしまっています。
ですが、ちょっとした変化を心がければ無意識の働き方も変わり、
生産性を高まるように促すことができるようになるのです。
著者:Josh Davis(研究者・著作家 近著に『成功する人は2時間しか働かない』)
(翻訳:角田健)