ビジュアルシンキング 10と1/2の戒律

by ダン・ローム

 

ビジネスにおける問題解決の未来は、ビジュアルシンキングにあります。

 

ビジュアルシンキングとは、 私たちが生まれながらにして持っている、

目と心の眼を通してものを見るという能力を活用して、

表面には現れてこないアイデアに光を当てるものです。

 

? さらに、そのアイデアを直観的に引き出し、ほかの人にも

簡単に理解してもらえるような方法でシェアするものなのです。

 

誰もが知っているように、 実はビジュアルシンキングは少しも「新しい」ものではありません。

人間が大昔、進化の過程で言葉を介したコミュニケーションを おこなうようになる以前から、

問題解決のために使っていた道具です。

 

さらに、私たちが読み書きできるようになる前、 幼稚園児のころから培われてきた、

自分の考えをたどり、説明する能力です。

 

グローバル化した流通ネットワークと、新興市場の登場によって 世界はフラット化し、

情報過剰が通常の状態となり、 コミュニケーションチャンネルは増殖を重ねる・・・。

 

そんな中にあっては、問題解決は複雑さを増していくばかり。

 

言葉を換えれば、かつてないほどに多くのデータが、 さまざまな形と言語で存在し、

ビジネスパーソンが正しく決定し、 自分の考えを伝えなければならない必要性は

これまでにないほど高まっているといえます。

 

ビジネスパーソンとして、ふたたび視覚的な技能に親しむこと、

すなわち、 複雑な情報を見て、現れてくる重要なパターンを見抜き、

新しい可能性を描き出し、 そうした発見を他者に見せる能力を養っていくことは、

もっとも価値あるスキルとなりつつあります。

 

WHAT TO DO WHEN WORDS DON’T WORK

 

 ”BLAH BLAH BLAH:

 WHAT TO DO WHEN WORDS DON’T WORK”

(『言葉が役に立たないときはどうしたらいいか』)

 

の中で私は、

ビジネスパーソンが自分の目を使って考えることで、

 どのように複雑な問題を解決したか

という例をいくつもあげていきました。

 

 

もっと大切なのは、この中で紹介した4つの基本的なビジュアルシンキングのツールです。

これを使えばいつでも誰でもどんな問題にでも対処できるのです。

 

私は本をできるだけ「ハウツー」に絞りたかったので、

一番好きな章を削除することに決めました。

 

その章を、あらためて 『ビジュアルシンキング 10と1/2の戒律』とタイトルをつけて公開できることを、

私はうれしく思っています。

 

みなさんにとって役に立つもの、 そうして目覚めをうながすものであってほしいと願っています。

 

 

1. 図にすればどんな問題も解くことができる

 

 

 

戦略上の問題、財政上の問題、営業上、個人的、感情的な問題…。

直面する問題の性質がどんなものであろうと、

私たちがそれをイメージし、図に描けさえすれば、 問題はたいしたものとはなりません。

 

図にしてみれば、それまで気がつかずにいた側面や、 解決できるかもしれない方策が浮かび上がってきます。

 

図解は、どんなときでもやってみる価値があります。

たとえ情況が最悪で、はっきりとした解決策が見えてくることはないようなときでも、

自分たちを取り巻く情はが、それまでよりもずっと鮮明になっていることでしょう。

 

2. 誰もが「図なんて描けないよ、でも…」と言いながら始めている

 

 

図なんて描けないよ、と思うのは、あなた一人ではありません。

今日では、自分に図が描けると考えている集団は、

唯一、幼稚園に存在するだけです。

 

ちょっと待って…。でも、あなたもかつては幼稚園児ではありませんでしたか?

実は、私たちはみな、 生まれながらにしてすぐれたビジュアルシンキングの資質を備えているのです。

 

つまずいたりしないで部屋に入ってこれるくらいの視力があるなら、

図解しながら問題を解決していくには十分の視覚的センスはあります。

 

 

3. テーブルリネンには描かない(笑)

 

「ナプキンに描く」ことの本質は、 いつ思っていることを視覚的に明らかにしたくなるか、

決して予想がつかない、という点にあります。

ペーパーナプキンならどんな問題でも描きつけることができます。

だからこそ、カフェやバーは、人とアイデアを共有できるすばらしい場所なのです。

 

けれども、リネンのナプキンが出てくるしかるべき場所にいるのなら、

JKM(J=自分の、K=紙を、M=持ってくる)が必要となるでしょう。

 

ベストな教訓:メモ帳とペンをいつも持っておく。

(*ヒント:立派なレストランならウェイターはいつも喜んでペンを貸してくれるでしょう。

ちゃんと返すことをお忘れなく)

 

4. 最初にマルを描いて名前をつける

 

最初のひと筆が何よりむずかしい…なんてことは、夢にも思わないで。

紙の真ん中にマルを描いて、心に浮かんだ最初のものの名を書けばいいのです。

「自分」「あなた」「彼ら」

「今日」「昨日」「明日」

「利益」「損失」「自社製品」

「我が社」「競争相手」

「地球」「天気」……

何でもかまいません。

 

この段階では何から始めようがたいしたことではありません。

大切なのはあなたが始める、ということです。

 

 

5.「基本6タイプ」から最適なものを選ぶ

 

ひとたび最初のマルを描いたなら、 あとはもうそのマルが、私たちが解決すべき問題を

もっともよくサポートしてくれる「基本6タイプ」のどれに当てはまるのか、

選んでいくだけでいいのです。

 

A. 問題が「誰が」もしくは「何が」ということに関するときのイラスト

B. 問題が「どれほどの」ということに関するときのグラフ

C. 問題が「どこの」ということに関するときの地図

D. 問題が「いつの」ということに関するときのタイムライン

E. 問題が「どうするか」ということに関するときのフローチャート

F. 問題が「なぜ」ということに関するときの多変数(※注)グラフ

 

これらの6つのタイプは、どんな問題も解決できる図の基本的な枠組みです。

 

(※訳注) 多変数グラフとは、ダン・ロームの編み出した パワーポイント用のグラフである。

縦軸に平均寿命、横軸に一人当たりの収入、 グラフに示される折れ線の代わりに丸いバブルが人口を表し、

アニメーションによって時間の推移が示される。

 

6. あらゆるものを擬人化する

 

人間は人間に反応します

 

ラフスケッチであっても、棒人間に顔がついたようなものでも、

あっという間に注意や理解や反応を引き出すことができます。

 

因果関係と量を示すものであろうが、 あるポイントを強調するためものであろうが、

単にどのくらいの規模かを示すためだけであっても、 人を描くことによって人を引きつけるのです

(同様に、手描きのスケッチがセールスと コミュニケーションの面できわめて強い力を発揮するのも、

目の前の棒人間が、完璧とは程遠いからです。

「完成途上」に見えるからこそ、見る側に、参加して手伝ってください、

と呼びかけられているような気持ちを起こさせるのです)。

 

7. 脳のあらゆるトリガーを活用する(別名「認知以前」の属性を利用する)

 

7

▲どちらが上か(左)、この上を歩いてはいけないのがどこか(中央)、どちらが食べられる生き物か(右)

人間は瞬間的に認知できる

 

人間の精神は、たとえ「見た」と意識されていなくても、

目に入るさまざまなシグナルを 即座に処理するための進化を重ねてきました。

だからこそ「認知以前」という言葉があるのです。

 

人間はものごとについて、考え始めるよりずっと前に、

大きさ、形、向き、位置、形状の意味を認識し、判断し、

さらにそれらの特色を結びつけたり、ちがいを識別したりしています。

 

私たちは、ものごとの基本的な性質を処理する 「高レベル」認知サイクルをまったくムダにしていません。

ですから、情報が多ければ多いほど、私たちの 「もっと深い意味を知りたい」という意識が

いきいきと動き出すのです。

 

8. しゃべりながら描き、消すときはもっと大きな声で消す

 

 

昔の人は 「一枚の絵は千語に匹敵する(百聞は一見にしかず)」と 言いましたが、

それを言った誰かのおかげで、 私たちの絵に対する理解はすっかりねじ曲げられてしまっています。

 

良い絵のポイントは、言葉を排除するところにあるのではなく、

私たちがおびただしい言葉で言いあらわそうとすることがらを、

たった一枚の絵で置き換えることができるということなのです

(組み合わせや位置、比率、性質や量を言葉で説明するよりも、

図にすれば、意味するところをはるかに短時間で示すことができます)。

 

ですから、図を描くときはかならず説明を心がけてください。

たとえ自分の頭を整理するためであっても。

 

この箇所は何を意味しているのか、どうして自分はこれらを描いているのか、

どこに自分はいるのか、などなど。

 

たとえそれが意識の流れに浮かぶ泡でも、 図の中に現れ、位置づけられれば、そこで意味を成します。

何かがおかしいと思ったら、それも言葉にしながら消してしまうのです。

創造することと語ることを同時に進めていくことで、魔法が生まれるのです。

 

 

9. 別世界にあるものを描かず、いま、ここにあるものを描く

(別名 空はわざわざ「青くない」と言わない限りは青いもの)

 

私たちの誰もが、ものごとの「本当の姿」について 独自の考えをもっていますが、

誰もほんとうのことは知りません。

問題解決のために図解することの本質は、偉大な芸術に寄与することではありません。

 

私たちは「向こう側の世界」(真の世界)ではものごとがどう見えるかを、

明らかにしようとしているのではなく、

「いまここ」でものごとがどう見えているのか

(私たちがそれを自分の頭の中でどう見ているか)を描き出すのです。

 

人間の脳は、問題解決のためのすばらしい装置です。

たいていのとき、私たちはすでに問題の解決法を知っています

 

多くの場合、以前どこかで経験したからなのですが、 それが何かを理解する前に、

どこかにしまいこんでしまったのです。

自分の問題が、目の前で図となって展開されるうち、 解決がページの外に飛び出すこともよくあることです。

 

その図がどんなふうに見えるか気にするのはやめて、 図が示すものに意識を集中させてください。

 

 

10. 結論を描いて引き出す

 

図を描くという単純な行為は、 視覚を用いた問題解決の中で、最も重要な部分です。

描き出すことによって、私たちはものごとをじっくりと見るようになり、

全体を眺めるようになり、想像できるようになり、

ペンを取る前はどこかに潜んでいたアイデアを、 明らかにできるようになります。

 

つまり、何か新しいものが出現しようとしているところに、 私たちの図を連れて行くことは、

十分に価値あることなのです。

 

もうおしまいだ、と思ったら、 もう一度、 タイトルを、結論を、考えを、

コメントを書くために ペンを取り上げてください。

あなたのビジュアルシンキング・マッスルを 最後の一滴まで絞り出せば、

かならずや「ユウレカ!(わかった)」の声が出て来ることでしょう。

 

 

10.5 ウソはつかない(自分に、相手に、何よりも自分の絵に)

 

絵というのは強力なものです。

というのも、イメージを処理する脳の活動は、

言葉だけのときよりはるかに脳の奥深くに関わっていくので、

私たちは自分の見たものを信じる傾向があるからです。

 

しかも目で見た映像は、耳で聞くだけより、はるかに脳内に定着します。

どんな問題も図で描くことで解決ができる反面、

まちがった図は、事態をいっそう悪くもします。

 

ですから、図を描き終わったら、 最初に戻ってもういちど見直してみてください。

自分が誤解したまま描いたせいで、

図解の持つ素晴らしい働きを引き出していないのではないか、

と確かめるためだけでも。

 

 

著者:ダン・ローム (著述家、Napkin Academy主催)


元記事:http://www.theartof.com/articles/the-ten-and-a-half-commandments-of-visual-thinking

(翻訳:服部聡子)