by コナー・ドウアティ、ヒロコ・タブチ
サンディエゴで広告代理店取締役を務めるデニス・チャップマンは、
毎日自分が何時間、服やプレゼントを検索しながらスマートフォンの画面を見ているかと思うと
ゾッとする、と言います。
そのくせ、実際に買い物をするのは、アイフォンではなく、
長年キッチンの机に置いてある、長年使っているデルのパソコンを起動させるのです。
「最近ではスマホで買い物をしようとさえ思いません」
とオンライン・ショッピングの経験を語るのは、ミズ・チャップマンです。
「ほとんどの場合、個人情報の入力は親指で、やり直しばかりなんです。
デスクトップで作業をしたほうがずっと楽に感じます」
現在、グーグル、フェイスブック、ツイッター、ピンタレストなどのいくつかの企業は
「購入」ボタンをシンプルにすることで、
スマートフォンのブラウザでの買い物と、PCでの買い物の間のギャップを埋めようとしています。
購入ボタンはインターネットの初期段階からありました。
アマゾンの「ワンクリック注文」などに代表されるように、ボタンに
クレジットカード情報や、希望する配達先を、あらかじめ入力しておくのです。
けれども新しい購入ボタンは、テクノロジー企業が消費者と小売業者との仲介役となります。
ワンクリック注文の対象を、何千という小規模の小売業者に拡げて、
スマートフォンのタッチスクリーン上での、わずらわしいクリックをなくすのです。
膨大な量の情報が指1本で扱える世界からみれば、
購入がわずらわしいことなど、ささいな問題かもしれません。
けれども、テクノロジー企業にとっては重大事です。
なにしろ、数十億ドル単位の広告報酬が、スマホ利用者によってさらに拡大しつつある中、
オンラインショッピングの成否がかかっているのですから。
毎日、スマホの画面に目をこらしながら3時間近くを費やしながら、
アメリカ人のほとんどは、オンライン・ショッピングをパソコンで行っています。
大きなスクリーンとキーボードのあるパソコンは、
画面を見るのも、クレジットカード情報の入力をするのも、扱いやすいからです。
今年、アメリカ人がインターネットを見る時間の約半分は、
スマートフォンを通してであることが分かりました。
ところが電子商取引の売り上げは、そのうちの約1/5にすぎなかったことを
イーマーケターは報告しています。
「消費行動は、モバイルへと根本的に移っています。
ところが、費やされる時間と金額の間には、大きな隔たりがあるのです」
とヴァージニア州レストンにあるリサーチ企業コムスコアにて
マーケティング・インサイト副社長を務めるアンドリュー・リプスマンは言います。
新しい購入ボタンに取り組む企業は次のような理論を持っています。
成長しているスマホ業界では、多くの人は文字入力よりも画面タップを利用しています。
そのため決済のプロセスをもっとわかりやすくすることによって、
買い手の抵抗感が減れば、売上が増大する、と。
モバイルアプリは、この面で、良いモデルとなっています。
というのも、モバイル・アプリでは、人はウェブサイトへログインしたまま、
さらにクレジットカード情報を登録したままにしていられる、クローズド・システムを構築し、
その中でのタクシーの呼び出しから食料の買い物など
いろいろな注文を画面タップでおこなっているからです。
しかし、アプリをダウンロードする前提であればよいのですが、
オンライン上でランダムに商品を探し、買い物をするにはあまり適したものではありません。
コムスコアはスマートフォンからでは商品の画面が小さい、
配送や支払いのオプションを確認するボタンが小さくて使いづらい、
といったクレームがユーザーから出ていると報告しています。
「スマートフォンが広範に普及し始めた当初、
必要性に駆られて、画面の小さいバージョンのウェブサイトが作られましたが、
うまくいった企業はどこにもありませんでした」
とサンフランシスコにある、ピンタレストなどのモバイル決算システム会社
ストライプの共同設立者であるジョン・コリソンは言います。
ピンタレストの「購入可能ピン」は次のようなものです。
ピンタレストのアプリに、配送先情報とクレジットカード情報を入力します。
買いたいものを見つけたときは、「購入する」をクリックします。
この時点で小売業者には、配送先情報とクレジットカード、
もしくはアップル・ペイによる支払いという情報が伝えられます。
テクノロジー企業側としては、画面にある広告をクリックしても、
クレジットカードを利用して、「コンバージョン」してくれなれければ儲けになりません。
モバイルサイトで小売業者の出す広告をクリックすることにより生まれる売り上げは、
デスクトップを利用した際のものより84%低いと
インターネット検索広告会社アドマーケットプレイスは報告しています。
アドマーケットプレイス社長アダム・J・エプスタインによれば、
このコンバージョン率の著しい低さは
なぜモバイル検索広告料が、デスクトップ広告の値段の半額かということの
説明になっている、とのことです。
もちろん、パソコンの決済ページが快適であるということではありません。
けれどもモバイル端末が普及する以前に、
オンラインで購入することと、実際に店舗に出向くことの手間を比較すると、
決済ページで少々手こずったとしても、
実際に車を運転し、店に行き、商品を買い、家に戻るといった面倒にくらべれば、
どうということもなかったのです。
「モバイルに関して言えば、モバイルとパソコンとの比較になります。
取引をもっと増やそうとするなら、パソコンのものよりシンプルでなければいけません」
とエプスタイン氏は述べています。
グーグルほどモバイル広告に力を入れている企業はありません。
グーグルはデスクトップ、ラップトップパソコン上の広告スペースを一大支配下に置き
世界で最も価値ある企業になりましたが、
その企業もモバイル機器へのシフトチェンジを加速しています。
グーグルはアメリカを含む10か国において、
今年初めてモバイル検索が、パソコンでの検索を上回ったことを発表しました。
アメリカ広告企業はパソコンよりも、モバイル検索広告に投資することが見込まれています。
イーマーケターによればモバイル検索への投資は128億5千万ドルに対し、
パソコン検索に対しては128億3千万ドルとされています。
ここ数年、グーグルは重要な収入源であるコスト・パー・クリック(1クリックあたりのコスト)が
低下しており、ユーザーのクリック毎に支払われる広告収益の平均も低下しています。
「パソコンで行われていたのは、いわゆるeコマース、電子商取引でした。
検索し、商品を買うか予約を入れたりするなど、一連のプロセスが、
閉じた環の中で行われていたのです。
そのため、私たちにも追跡調査が可能でした」
と、グーグル・パフォーマンスメディア部門副部長であるジェイソン・スペロは言います。
スマートフォンは、オンラインと店頭ショッピングの境界線を曖昧なものにします。
店内で買い物をしているときでも携帯電話を利用したり、
注文する電話番号を探すのに利用するためです。
しかし広告が購入に直接繋がるのであれば、消費者にとっても便利ですし、
おそらく広告料金も上がります。
近年グーグルはホテルの広告など、
掲載されている広告を通じて直接予約ができるような形式を公開しています。
スペロ氏によれば、新しい購入ボタンの公開は、今年の後半になり、
グーグル・プロダクト・アド内で利用できるようになるとのことです。
このことが小売業者にとってどうなるか、現時点で判断することはできません。
購入ボタンがオンライン公開されるようになれば、
買い物客にとっては、ショッピングサイトを探して買い物をする必要性が減り、
特定の店に行って買い物をするような習慣は、さらに減ることでしょう。
コムスコアのリプスマン氏はこの件に関し楽観的で、
購入ボタンは携帯機器ショッピングによる売り上げは向上すると考えています。
ピンタレストの「購入可能ピン」に共同で取り組んでいる
メイシーズのデジタルメディア部門副部長セレナ・ポッターは
店の収入がどこから入るかにはこだわらない、と述べています。
「お客様には買い物をしてもらいたいだけです。
どこで情報を得て、どのように決算するかは当社に問題はありません」
と彼女はコメントをしています。
(ニューヨーク・タイムズ 2015年 7月15日)
元記事:http://nyti.ms/1ClPI3L
(翻訳:横手祐樹)