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TEDのように話すには

 

 

TED(テクノロジー/デザイン/エンターテインメント)は、2014年3月、30周年を迎えました。

TEDの登場以来、基調講演のあり方は、大きく様変わりしつつあります。

TEDの「講演」は、オンラインで1日200万回以上のペースで視聴されており、

さらにそれより規模の小さい、独立したTEDxのイベントが145ヵ国で開催されていることもあって、

 

TEDの講演を見たことがある人は、現在、非常に多くなっています。

そのため、今後、私たちがプレゼンテーションするときは否応なくTEDと比べられることになるでしょう。

 

500回分にも及ぶTEDの講演(150時間)を分析し、

再生数2千万回を数える人気スピーカーへのインタビュー、

さらにはコミュニケーション分野の神経科学者との対話をふまえ、

カーミン・ギャロは、TEDのすばらしい講演には、共通してあるものが備わっていることを見つけたのです。

 

もし、あなたが聞き手に影響力を与え、あなたの考えで人を動かしたいのなら、

つぎのプレゼンテーションでは、その「共通して備わっているもの」を、ぜひ取り入れてください。

 

ここではカーミンの

『TEDのように話す:世界のトップの頭脳が編み出した人前で話すときの秘訣』

からのアドバイスを紹介しましょう。

 

 

Photo:DSC06245 By:hahatango

1. あなたの情熱を伝えよう

 

あなた自身が情熱を持っていなければ、人の情熱をかきたてることもできません。

自分自身を掘り下げて、話題と自分の深く、有意義なつながりを確かめてください。

自分の熱い思いを観客に表明することに、躊躇しないでください。

 

 

Photo:Sheryl Sandberg By:www.geteverwise.com

2. 少なくとも3つのストーリーを話す

 

フェイスブック最高責任者(COO)シェリル・サンドバーグは、このように言っています。

彼女はTEDの講演の準備をしていました。

事実やデータを満載して、個人的な話題はすべて排除したのです。

すると、ある友人が強く言いました。

 

「もっとあなた自身の話、 ワーキング・マザーとしてのチャレンジみたいな、

あなただけにしかできない話を聞かせて」と。

 

サンドバーグはそのアドバイスを聞き入れ、講演を変更し、まったくちがったものにしたのです。

 

そうしてその話は、講演と同じタイトルの『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』

という本となって、 一躍ベストセラーになり、世界中で話題となりました。

 

 3. ツイッターの投稿にぴたりとはまるタイトルをつけよう

 

TED.comで視聴できる1600の講演をあらためて見てから気がついたのは、

タイトルがすべて――ひとつの例外もなく――、140文字以内に収まっている、

ということです。

 

つまり、ツイッターの制限字数に当てはまるのです。

 

視聴回数の多い講演を見てみましょう。

 

ケン・ロビンソン『学校教育は創造性を殺してしまっている』

 

ブレネー・ブラウン『傷つく心の力』

 

サイモン・シネック『優れたリーダーはどうやって行動をうながすか』

 

もしあなたのタイトルが140文字以内に収まっていなければ、もういちどよく考えてください。

 

 

4. ユーモアを、ただし控えめに

Photo:Sir Ken Robinson By:eschipul

 

教育専門家ケン・ロビンソンのTEDの講演は、これまででもっとも人気の高いもので、

2千万回を超える視聴回数があります。

同時に、大変ユーモラスな講演でもあります。

 

ところがケンは、一度も 「ジョーク」 は言っていません。

かわりに、個々の出来事にもとづいた見解を、ユーモラスに語るのです。

 

「このあいだ、ディナーパーティに出席しました。

――実は、教育関係者というのは、あまりディナーパーティに招待されたりはしないんですがね、

まあ、そこで、ひとたび自分が教育関係者だ、なんて言うと……」

 

ユーモアを交えながら、ひとりの観客の顔に、にっこりと笑いかけています。

 

 5. 聞き手の五感を刺激する

 

時には観客を、スライドから外の世界に連れ出してあげてください。

実演や、びっくりするようなことをやってみるのです。

 

かつてビル・ゲイツは、マラリアの原因についてプレゼンテーションしている最中に、

TEDの観客席に向けて蚊を放したことがあります。

 

彼のパフォーマンスは夜のニュースでも取り上げられるほどのものとなりました。

予想外の出来事を、無視できる人など存在しません。

 

  6. パワーポイントのスライドは、文字より画像を

Photo:TEDxParisSalon - 27 nov 2012 By:Emmanuel Vivier

 

TEDのスライドで箇条書きを見ることは、ほとんどありません。

写真や画像、動画、それから注意深く選ばれた、ごく少数の言葉です。

 

パワーポイントやプレジ、アップル・キーノートといったデザイン・ソフトウェアを使う際の共通テーマは、

「箇条書きを使わない」です。 絶対に。

 

 7. 18分ルールを守る

Photo:Chris Anderson By:pmo

もしあなたの名前がビル・ゲイツや、シェリル・サンドバーグ、 ボノやスティングでないならば、

あなたの持ち時間は18分です。

 

TEDのキュレーター、クリス・アンダーソンは、 18分あれば真剣な議論は十分できるし、

少なくともその間は人の注意力をつなぎとめておける、 と言っています。

 

 8. 観衆に何か新しいことを伝える

Photo:Rokia Traore By:whiteafrican

 

人間の脳は目新しいものを放っておくことはできません。

いつも何かしら新しいもの、わくわくするようなものを探しています。

びっくりするような情報、新鮮な、予想もしていない情報を盛り込んでください。

 

 9. 練習を重ねる

 

TEDの講演者の中には、18分間の講演のために、200回も練習を重ねる人が何人もいます。

あるスピーカーのパフォーマンスはあまりにすばらしく、オプラ・ウィンフリーの目に留まるほどでした。

 

今日、彼女のキャリアはオプラのサポートのおかげで復活を遂げ、TEDの中でも有名な講演となっています。

 

 10. 自分らしくあれ

 

 

お芝居はほとんどの人に見破られてしまいます。

自分ではない誰かのまねをしようとすると、観衆からの信頼を失うだけになってしまいます。

 

嘘偽りのないあなた自身、正直なあなたであってください。

 

 

もしかしたら、あなたがTEDで講演を頼まれることはないかもしれません。

それでも、TEDのようなプレゼンテーションをおこなうようになれば、

聞き手に感銘を与え、あなたの夢に手が届くチャンスは、 はるかに大きなものとなっていくでしょう。

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://bit.ly/1QPIoQt

(翻訳:服部聡子)

女性が権威を持って話すには

 

「女性は人口の面から見れば多数派ですが、発言力という面では、未だ少数派です」

こう語るのは、スピーチ・コーチであり『雄弁な女性たち(The Well-Spoken Woman)

の著者でもあるクリスティーン・ヤンキーです。

Christine K. Jahnke

彼女はアメリカでもっとも力のある女性と、一緒に仕事をしてきました。

ヒラリー・クリントンの大統領選挙戦や、

ミシェル・オバマの初の国際的なスピーチのアドバイザーを務めながら、

彼女たちがどのような舞台であっても、威厳に満ちた話し方ができるよう、

助けてきたのです。
ヤンキーのアドバイスは、基本的に、女性-男性の一方に偏ったものではありませんが、

専門職に就いている女性は、心に留めておいた方が良いものです。

女性の自然な高い声は、子供っぽい印象を与える傾向があります。

「ですから女性の場合、2、3歩、後ろに下がって話し始めると良いでしょう」

とヤンキーは言います。
会議での発言力を高めたい、

プレゼンテーションのスキルを上げたい、

仕事関係者と話すときに、もっと影響力と権威を発揮したい、

など、あなたの望みがどのようなものであっても、ヤンキーのアドバイスは役に立つでしょう。

部屋を支配する

ヤンキーによると、力と権威を背景に話すということは、

ほとんど精神的な駆け引きで決まる、とのことです。

「ひとたび部屋に入ったなら、そこが自分の場所だ、と意識することです」

 

多くの女性が会議やプレゼンテーションを、

まるで自分がテストされる場であるかのようにとらえている、と言います。

あなたが自信を持ち、リラックスして臨めば、それは周囲にも伝わるのです。

さらに、後ろの方にすわり、人の陰に隠れようとしたり、

頭を低くしたりするような態度を取らないように、とも、注意うながしています。

 

チャンピオンのように立とう

「プレゼンテーションやスピーチは、きわめて身体的な行為です」

舞台に上がったり、人々の前に立ったりするときは、

チャンピオンの姿勢を取ること、と彼女はアドバイスします。

つまり、一方の脚を前に出し、体重は後方の脚にかけます。

頭を高く上げ、肩を後ろに引き、上体を心持ち前に傾け、

にっこりとほほ笑みを浮かべましょう。

Hillary Clinton in Hampton, NH

▲ヒラリー・クリントン

すわるときは、テーブルに肘を

腰を下ろしたら、お母さんのアドバイスは忘れて、両肘をテーブルに載せてください。

「両手だけをテーブルに載せないでください。それだとあまりにお上品になってしまいます」

その代わりに、背を伸ばし、前腕部をテーブルの上に載せます。

直接であれ、カメラ越しであれ、視線はほかのスピーカーやカメラレンズから外さないでください。

Ministru prezidents Valdis Dombrovskis tiekas ar Starptautisk? Val?tas fonda izpilddirektori Krist?ni Lagardu

メッセージは聴衆に合わせて調整する

プレゼンテーションが近づいた頃、よくある間違いは、こう自問することです。

「私は何を話したらいいの?」

そうする代わりに、しっかりと考えてください。

「聴衆は、どんな話を聞きたいのだろう。

私のテーマについて、どれほど知っているのだろう」

ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の共同議長であるメリンダ・ゲイツは、

聴衆のことを理解するのが、とりわけ巧みです。

彼女の話によって聴衆は、遠く隔たった世界に運ばれていき、

そこで慈善活動が与えた影響を、みずからも経験し、目の当たりにすることができるのです。

 

Melinda Gates, speaking at the London Summit on Family Planning

▲メリンダ・ゲイツ(ビル&メリンダゲイツ財団共同会長)

 

ポイントを突く

「あなたの敵は、注意持続時間です」とヤンキーは言います。

とりとめのない、散漫なスピーチでは、誰も聞いてくれません。

効果的なプレゼンテーションは、「伝えたいこと」から離れることなく、

短い文章で構成します。

余談は必要なく、すぐに要点に入ってください。

 

ゆっくりとしたテンポで、呼吸を意識する

ペプシ社の会長インドラ・ヌーイは、イェール大学の経営管理大学院に進むために

最初にインドからアメリカにやってきた頃は、

ほとんど息を継ぐ暇もないほど、早口にまくしたてていました。

ヌーイはゆっくり話すこと、自分の意見に権威を持たせるような、

もっと効果的なペースで話をすることを学ばなければなりませんでした。

ヤンキーによると、アナウンサーのしゃべる速さは、1分間に150ワード

(※日本語の場合は約300-350語)ほどであるということです。

 

Indra Nooyi, PepsiCo CEO, Speaking at the World Economic Forum 2010 Annual Meeting

▲インドラ・ヌーイ(ペプシコCEO)

 

あなたの声を道具として活用しよう

「何よりもしてはいけないのが、抑揚もなく、単調で平板にしゃべることです」

ヤンキーは、声はもっとも活用されていない道具だと考えています。

本来なら、声をうまく使うことによって、力を誇示し、興味を引き出すことができるのです。

声を最適化しましょう。

中音域を使い、声の抑揚をつけることによって、強調や変化を表します。

声の大きさは、注意を喚起しますが、大きすぎないように。

重要なセンテンスの後は、間をおきましょう。

はっきりと発音することによって、聞き取れない言葉が出てくるのを防ぎます。

 

言葉と言葉の間に、意味のない語を差し挟まない

「ええ…」「あのう…」「なんというか…」「まあ…」「…みたいな」など、

このような言葉は、あなたの伝えたいことを弱め、あなたの持つ力をむしばんでいきます。

このような無機能語を差し挟むことによって、あなたは緊張しているように見えるし、

あまり準備できていないようにも、また上の空のようにも見えます。

このような語を差し挟んでしまうのは、間(ま)があくのを怖れるからです。

けれども実際は、「間」というものは、きわめて効果的なものだとヤンキーは指摘します。

 

ユーモアと暖かみが感じられるように

IMF専務理事であるクリスティーヌ・ラガルドや、

フェイスブックCOOであるシェリル・サンドバーグなどのような女性リーダーは、

言葉が明瞭で雄弁なだけでなく、聴衆と気持ちを通じ合わせるために、

ユーモアをうまく使っています。

彼女たちは聴き手を安心させ、晴れやかな気持ちに誘うとともに、

自分に寄せる信頼を確立していくのです。

Ministru prezidents piedal?s Latvijas bankas un Starptautisk? Val?tas fonda konferences "Apst?k?iem sp?t?jot: Baltijas valstu tautsaimniec?bas atvese?o?an?s pieredze" atkl??an?

▲クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事)

自己不信を取り除こう

「リズ・レモンではなく、ティナ・フェイであってください」

(※コメディ・ドラマ「30ロック」は、ティナ・フェイが脚本・制作総指揮を担当し、
主人公のリズ・レモンを演じている)

自分を信頼し、自分が言わなければならないことの重要性を信頼することによって、

ほかの人からの信頼も得ることができる、とヤンキーは言います。

「30ロック」でフェイが演じるリズ・レモンは、いつも自分に自信がなく、

自意識過剰に苦しめられて、結果的に自分の権威を損なうようなことをしているのです。

そうならないためにも、機会を見つけてスピーチの練習をしてスキルを向上させたり、

進んでパネルディスカッションの司会を務めたり、

公的・私的を問わず、さまざまな集まりの場でスピーチをしたりすることを通じて、

自信をつけていくことを、ヤンキーは勧めています。

「細かいところに気を配っていけば、どんどんよくなるはずです」

 

著者:ジェンナ・ゴードロー


元記事:http://onforb.es/KlgI8Y

(翻訳:服部聡子)

著者:Jenna Goudreau エディター、スピーカー

 

 

ネガティブイメージ・キャンペーン

最近、大手カジュアル衣料品チェーン店で買い物をした。
いつものとおり会計をしていると、レジの店員が最後に
「ご意見をお聞かせください」というようなことを言いながら、
アンケートはがきを商品の袋に入れた。
 
その申し訳なさそうな顔が何とも印象的だった。
他の店舗でも同様だった。最後に必ず一言添えながら、アンケートが同封された。
そのとき私が思い出したのは2つ。
1つはそのチェーン店の売上高が大きく減ったという最近のニュース。
 
それからもう1つは、昔勤めていた会社で、破たんした山一證券出身の人が言っていた
「アンケートって会社が行き詰まるとやるんですよね」という言葉だった。
 
絶好調のときのその衣料品チェーン店のレジの店員は、こんな顔はしていなかった。
 
勢いがあって、さすが大手と思わせる接客ぶりであった。
今でももちろん、みな感じが良いとは思うのだが
(競合の某海外アパレルの接客態度には、本当にあきれるときがある)、
はがきを入れるときの店員さんには、何だかみな一様に負のオーラが漂っているような気がした。
 
ビジネスは結局イメージに尽きると思う。
とくにこういった小売業であればなおさらであろう。
「売上が前年比大幅減」で
「店員がはがきを申し訳なさそうに入れる」店の服は、
たとえそれがまったく同じでも、
「売上が絶好調」で「店員の威勢が良い」店の服とは違うような気がするのである。
 
顧客の声が聞きたいのなら、他にもっと方法があるはずである。
単純に、すべてのレジで一言添えてはがきを挟み込むコスト自体が膨大なことに加えて、
店員も顧客も、みんなの気持ちが盛り下がるマイナス効果絶大のキャンペーンである。
 
ちなみにその山一證券出身の同僚が言っていたのは、山一がつぶれる直前の時期は、
やたら社内アンケートのオンパレードであったという話であった。
 
そのとき私(とその同僚)が勤めていた会社も業績が低迷し、社内調査を繰り返していたので、
彼の一言は、周りの空気を凍らせるのに十分な説得力のあるものであった。
 
あなたの会社はどうだろうか。
社内であれ社外であれ、アンケートをしているだろうか。
 
もちろんそれが効果的な場合もあるだろう。
貴重な情報やリストが手に入るかもしれない。
しかしそれは、そのコストと効果と影響を十分見積もった上でやっているものだろうか。
 
ちょっときつい言い方をするならば、自分で考えることをあきらめた末に、
「我々には顧客や社員の声が分かりません」
と丸投げしてはいないだろうか。
 
私はちなみにこの衣料品チェーン店を応援したいと思っている。
日本を背負って立つ存在として、海外でもいっそう頑張ってほしいと思っている。
 
だからこそぜひ彼らにはお願いしたい。
同じ膨大なコストをかけて顧客の意見を収集しようとするのなら、
当然ながらはがきをそのまま捨ててしまった私でも思わず返信してしまうような、
何か秘策を考えてほしいのである。
 


(新海祥子)

 

日本人のあいづち

人の感情の90%は、言葉以外の要素、身ぶりや表情、声のトーンなどで相手に伝わっているといいます。
ところが私たちは、自分の言葉に向けているほどの注意を言葉以外のものに向けているでしょうか?
私たちが気づかないところでコミュニケーションを左右している身ぶりについて、考えてみました。

あいづちというのは、日本人特有のしぐさだというと、
驚く人もいるかもしれません。

もちろん外国人も、相手の話に合わせて、うなづいたり、”Un-huh”と言ったりすることもありますが、
あくまでもこれは「同意」を表明するというニュアンスがあり、日本人のあいづちとは、少しちがうように思われます。

社会学者の多田道太郎も『しぐさの日本文化』の「あいづち」の章で、

日本人のしぐさということで私がまず思いつくのは「あいづち」である。

と言っています。

あいづちとは、多田によると、「鍛冶で、弟子が師と向かい合って互いに槌を打つこと」から来ているといいます。

弟子と師が槌をトンカントンカンと打ち合わすところを、向かい合うふたりの仕草になぞらえているのでしょう。
640px-japanese_blacksmith
wikipedia「刀工」

外国人は打ってくれないあいづち

あいづちというと、私が思い出すのは、こんな経験です。

高校時代、私は近所に住む外国人の家に、英語を習いに行っていたのですが、
そこで最初に気がついたのは、先生があいづちをまったく打ってくれないことでした。
私の眼にぴたっと視線を合わせたまま、通じているのかいないのか、じっと黙ったままなのです。

私もまだろくに言葉も出ないころで、”come” と “go” を言い間違えたりするときだけ訂正をしてくれるのですが、
それ以外は私が言葉に詰まって四苦八苦していても、じっと次の言葉を待っているのです。
相手の視線をはね返しながら話し続けるだけで、全身汗びっしょりになりました。
おそらくそれは、単に語学力の問題や、相手が外国人であるという緊張感ばかりではなかったはずです。

そのとき初めて、日本人が相手ではないと、あいづちというのは打ってくれないことを知ったのでした。
そうして、日本人である私にとって、あいづちのない話というのが、どれほど緊張感を増し、疲れるものかということに、
このとき初めて気がついたのです。

相手によっては誤解されることもあるあいづち

ふだん、私たちは意識しないまま、人の話を聞きながら、あいづちを打っています。
日本人同士なら、お互い、気にも留めないしぐさですが、外国人が相手だと、こんな摩擦を生むこともあります。

以前、聞いた話なのですが、あるアメリカ人が、日本人に頼み事をしました。
日本人はうなずきながら、”Oh, yes,” “yeah” ” I see.” としきりに言います。
アメリカ人は、てっきり相手が頼み事を聞いてくれるものだとばかり思っていたのですが、
最後に「それはできない」と断られてしまったというのです。
アメリカ人は、日本人は不誠実だ、何を考えているか本当にわからない、と、腹を立てた、というのです。
おそらくこの日本人は、日本でのあいづちを、そのまま英語でやってしまったのでしょう。
私はあなたの話を聞いています。
あなたも大変なのですね。
あなたの気持ちもよく理解できます。
それで、それからどうしたのですか?
もっと聞かせてください。
そういう意味でのうなづきや、”Oh, yes,” “yeah” ” I see.”だったのでしょう。

このことは逆に、私たちが無意識にしているあいづちがどういうものか、教えてくれます。
日本人のあいづちは、相手の言葉に賛同を示すというより、私はあなたの話を聞いていますよ、というサインなのです。

Photo by:Dean Wissing

話を引き出すのは「聞いている」という身ぶり

子供の頃、授業中におしゃべりしていると、先生が怒るのは、あたりまえの光景でした。
子供だった私は、別に悪いことをしているという意識もなく、
怒られた時だけ静かにして、じきにおしゃべりを再開したものです。
やがて、人前で話をする機会を得て気づいたのは、
自分が話しているときに私語を交わされるのは、なんともいえず辛い、ということでした。

聞いてもらえないと、事態に支障をきたすという実際的な理由より、むしろ、精神的に辛くなってくるのです。
そのとき初めて、先生が怒っていた本当の理由に思い至りました。
私語を交わしている側は、軽い気持ちでそうしているのでしょうが、話す側からすれば、自分の話を無視して、私語に興じる姿は、
おおげさに言うと、自分の存在が否定されているような気持ちになるのです。
逆に、こちらと目を合わせて、うなずきながら聞いてくれる人がいるのがわかると、
話す口調にも自然に力がこもって、あとでふり返っても、良い話ができたな、と満足できるのでした。
結局のところ、話を引き出すのは、話し手の側よりも、聞き手の「聞いている」という身ぶりということになるのでしょう。

「聞いている」という身ぶりは、さまざまな文化によって異なる現れ方をするものです。
日本人のように、頻繁にあいづちを打ったり、うなずいたりする文化もあれば、
相手の眼をじっと見つめ、ほとんど身動きもせず「一心に聞く」という文化もあるのでしょう。

けれどもそれは「聞いている」というサインであることには変わりはないはずです。
おそらくあいづちを打ってもらえず、冷や汗をかいたかつての私も、日本人の最後のノーに腹を立てたアメリカ人も、
異なる文化に直面したとまどいだったのでしょう。

そうしてその根底にあったのは、相手は自分の話を本当に聞いてくれているのだろうか、
という不安だったのだろうと思うのです。

コミュニケーションというと、私たちはどこかで、
「自分の考えや思いを、相手に伝えること」という風には思っていないでしょうか。

けれども、「伝えること」を引き出すのは、相手の「聞いている」という身ぶりだとしたら。
真摯な「聞いている」という態度こそが、コミュニケーションを支えているのだとしたら。

面接でも、ミーティングでも、商談でも、私たちのコミュニケーションのあり方は、少し、変わっていくのかもしれません。

 

 


(服部聡子)