スタートアップの第2幕
by グレン・ケルマン (レッドフィンCEO)
F.スコット・フィッツジェラルドによれば、アメリカ人の人生には第2幕がないということです。
ほとんどのスタートアップも同じ問題を抱えています。
私たちは、自分のアイデアを持って、スポットライトの下に行きます。
それから失敗するか、そのアイデアが買ってもらえるか、
ほんの短い間、人目にふれて終わります。
ところが大企業というのは、アイデアがひとつだけではなく、
アイデア・マシーンさながらに、つぎつぎに生まれていきます。
こうした企業は、10億ドルどころではない、100億、1000億ドルもの価値があります。
デスクトップ・コンピューターのイノベーターだったアップルは、
現在作っているものの大半は、ガジェットです。
DVDの郵送サービスを始めたネットフィリックスは、
現在は映画の配信と、映画制作をおこなっています。
アマゾンは、Eコマースのインフラを、クラウド・サービスとして販売するようになっています。
アイデア・マシーン
アイデア・マシーンとなるためには、あなたはアイデアを生み出す構造に、まず投資しなければなりません。
ビル・ゲイツはマイクロソフトの初期の成功は、OSではなく、
ソフトウェア・エンジニアの1/3を、残った2/3のエンジニアのためのツールを制作することに
当てたことにある、と言っています。
当時、マイクロソフトにそんな時間の余裕があるのかといぶかる声もありました。
けれども次の20年間、マイクロソフトより速いソフトウェアを作ったところはありませんでした。
現在は、フェイスブックが同じ立場にいます。
ほとんどのエンジニアを投入して、システム全体に影響を及ぼすことなく、
サイトをすぐに更新できる独自のデータベース・ソフトウェア制作に関わりました。
アイデア・マシーンもまた、自分のアイデアを生成する能力に投資します。
偉大な企業が成し遂げる根底からのイノベーションとは、製品におけるイノベーションではなく、
企業の存在自体をイノベーションし続ける、ということなのです。
留まるためには変わっていかなければならない
大きな変化、というのは、むずかしいものです。
会社が成功すればするほど、コンサルタントや役所や流行に乗り遅れまいとする人々が集まってきて
成功するなら自分たちの助力が必要だ、と言い張ります。
成長しろ、青臭いやり方を捨てろ、改良しろ、
ほかの大企業のようにふつうのビジネスの慣例に適合しろ、と言って。
こんな連中は、イノベーションを開発研究室の中だけに留めたいのです。
まるで、他とはちがうやり方を取ることなく、他とはことなる製品を作れ、というように。
けれども、最高の会社は、時間を経るにつれて、少しずつ普通になっていくのではなく、
もっともっと特異なものになっていきます。
変わったことをするためには、変人でなければならないということを理解しているのです。
この特異性は、アップルの美の文化のなかで誕生し、
フェイスブックにハッキングされ、アマゾンで効率化されました。
アップルのアイデアは、すべてこの美の文化から生まれています。
フェイスブックのアイデアは、ハッキングから。
アマゾンのアイデアは、効率性から。
私が働いているレッドフィンは、こうした巨人と同じリーグではありません。
けれども、成功した多くのビジネスの一翼に連なっていればいいと思っています。
私たちの特異性は、私たちが誰であるか、にあります。
不動産業者を大勢雇ったソフトウェア企業、
インターネットと現実社会の垣根を越えて、家の売買のための調査や視察、契約を
ふつうの人に少しでも有利なように、おこなっています。
私たちは、いよいよ第2幕の幕開けを迎えようとしています。
第1幕は、既存のプロセスを、もっと消費者のためになるように、
もっと効率的になるように、作り替えていくことでした。
未だに不動産屋というと、客に家を見せに連れて行く人だと考えられていますが、
レッドフィンでは、家はすでに私たちが購入しているのです。
地図上の売り家をすべて、1軒ずつ見せることができる私たちのテクノロジーは、
今日では広く模倣されています。
けれども、私たちも視察の予定を組んだり、取引成立させたり、を
より速く、簡単にするために、そのシステムを使っています。
第1幕は、何億ドルという収益を上げました。
家を売り買いする人が節約できた手数料も、何億ドルにものぼります。
けれども会社をさらに大きくするために、私たちは第2幕を開けなければならないと思っています。
第2幕では、家を売買するプロセスを、根本的に変えていきます。
どのようにオンラインや、直接、家を見るのか、
どのようにオファーや条件交渉をやっていくのか、また、売買契約をまとめるのか。
第2幕を開けるには、まだ数年はかかるでしょう。
どんな劇でも、第2幕というのは、ゆっくりしたものです。
最初は第1幕とは一見無関係なところから始まります。
けれども実は深くつながっているのですが。
私たちの場合、これまで何百という企業が、
近隣一帯をカバーする十分な業者がいなかったり、
新しい規則を作るには、市場占有率が十分ではなかったり、という
不十分な状態のまま不動産業界を変えようとして、失敗してきました。
レッドフィンがこのゲームへの挑戦権を獲得するために取ってきた、ただひとつの方法は、
まず、ゲームのルールを学ぶということです。
フィッツジェラルドが誰よりもよく知っていたように、
古典劇では、第2幕は第1幕のアイデアを、もっと広いテーマとして展開していきます。
ただ、私たちはときどき辛抱できなくなって、
理解したり、筋を追っていこうとするのをあきらめてしまうのですが。
第2幕では、あかあかと燃え上がったり、若くして死んだり、という華々しい展開はありません。
その代わりに、主人公はまだ若い間に何かもっと良い人間になれないか考える、という展開に
時間を取っていきます。
ちょうどスタートアップも同じで、これから先、ふたたびあなたの物語をより大きく展開させるために、
スローダウンが必要なのです。
ビジネスが安定期を迎えたとき、あなたはふたたび危険な橋を渡らなければなりません。
ほんとうにすばらしい演劇は、5幕で上演されます。
最良のフィナーレを迎えるためには、その前にあらゆることをしておかなければなりません。
著者:グレン・ケルマン (レッドフィンCEO)
(翻訳:服部聡子)