ミレニアルの高い買い物
by デレク・トンプソン
近頃まで若者たちは、自家用車には見向きもせずに公共交通機関を利用し、
カーシェアリング・アプリを使用してきました。
しかし今、若者たちが自動車ディーラーに姿を表すようになっています。
そう、親たちの世代と同じようにです。
物書きという職業の害は、発表した内容が誤っていることも多々あることであり、
また場合によっては、それを目にした読者の頭にまで同じ誤りを刷り込んでしまうことです。
数年前に、私はジョーダン・ワイスマンとともに、若者たちが先の大不況に恐れをなして、
郊外に一軒家を買い自家用車を持つという文化から顔を背けてしまうのではないか、
という記事を書きました。
この二つの高額な買い物は、これまでに起こってきた恐慌においては、
国の経済のけん引力となっていたものです。
この記事について私は何年もの間フラストレーションを感じていたのですが、
それはコメント欄の意見がどれも、
私たちが書いていない「安上がりな世代」という3語だけを読んで書いたのではないかと疑うほど、
記事の内容を把握していないことでした。
この3語は見出しの文言で、私たち筆者が書いたものですらなかったのです。
しかし今週、この記事について新たなフラストレーションの原因ができてしまいました。
私たち筆者にとっては大変不都合ながら、現実が私たちの予想を裏切り初めたのです。
2011年と2012年初頭にこの記事を執筆した時点では、
若者たちの自動車離れが進んでいるとして、メーカー各社は疑う余地のない恐怖を感じていたのです。
フォードのグローバル消費者トレンド研究のリーダー、シェリル・コネリーは、
若者たちは「所有することよりアクセスできること」に意味を見出している、と言いました。
「自動車購入について、ミレニアル世代の考え方が
ベビーブーマー世代の考え方と一致することはないと考えています」
とも言ったのです。
若者たちが都市中心部に住むようになり、
若い家族を乗せて走っていた自家用車は公共交通機関に取って代わられて、
また十代の若者にとっては初めて手にする自分の車というものは独立心や社会とのつながり、
責任感を体現するものでしたが、それもスマートホンによって置き換えられるだろうというものでした。
今週、ブルームバーグがJ.D. パワー・アンド・アソシエイツのデータをもとに、
ミレニアル世代、またの名をジェネレーションY(基本的には、1980年代から1990年代生まれを指します)が、
すでに新車販売台数の27%を占めていると報道しました。
この数字は、1961年から1981年生まれを指すジェネレーションX向けの台数をすでに追い抜いており、
その上を行くのはベビーブーマー世代のみになるというのです。
私はこの記事を、歯ぎしりしながら読みました。
そして、顔を真っ赤にして、
まるでスポーツカーのドライバーがドリフト走行でハンドルを握りしめる様子さながらに、
私は自分の確証バイアスにかじり付きながら、J.D. パワーにメールを送ったのです。
ミレニアル世代の自動車需要は実際は急伸などしていないと言える何がしかの証拠が欲しくて、
データの送付を依頼したのでした。
今、そのデータを目の前にして、私にもこう言い切ることができます。
ミレニアル世代の自動車需要は急成長しています。
若い世代への新車販売台数が、定規で引いたように一直線の右肩上がりで伸びているのです。
【ジェネレーションYはジェネレーションXより多く車を買っている】
(
【新車販売台数の世代別シェアではジェネレーションYだけが伸びている】
なので、自分たちで立てたCheap Generation説に自信が持てなくなってきてしまった訳です。
とはいえ、間違いだったと完全に納得しきったわけではありません。
コネリーの主張で大切な
「ミレニアル世代の自動車購入に対する考え方が、
ベビーブーマー世代の考えと同じになることはないと考えています」
という言葉は、それでも現状を正確に表しているのです。
ミレニアル世代の半数以上は25歳を超えているにもかかわらず、
その親の世代の購入台数を下回っています。
また、ミレニアル世代の購入台数はジェネレーションX世代を上回ってはいますが、
ミレニアル世代は人口そのものもまた1,500万人から2,000万人多いのです。
さらに、自動車業界に吹く逆風は、ミレニアル世代の懐事情だけではないのです。
アメリカの自動車販売台数のピークは15年前の2000年に1,730万台でしたが、
さらに当時は顧客数もかなり少なかったのです。
その一方で、一人当たり走行距離はブッシュ政権中期から落ち始めています。
昨年にやっと、10年ぶりに上向きになったばかりです。
購入台数も運転距離も減少しているのであり、これは構造的な変化と思われるのです。
【一人当たりの走行距離(青)と走行距離の総計(赤)】
そして、私たちが立てた他の予想はどうでしょうか?
郊外に立つ柵で囲われた庭付き一戸建てというアメリカンドリームの象徴を、
若者たちは拒絶しているのでしょうか?
ここでも、話の筋は同じでした。
2012年当時に正しく予想できた部分もありましたが、
テキサスなどサン・ベルト地帯の今日の好況に見られるように、
アメリカの不動産景気これほどまでに素早く立ち直れるとは
予想できていなかったのも事実なのです。
大卒で20代から30代の裕福な層が、密集した都市部に住む傾向が
20年前に比べて非常に顕著なのは、
ベン・カッセルマンとジェド・コルコの説明する通りです。
全体で見ればごく一部でしかないこの豊かなグループを
ミレニアル世代全体と同義語のように語るメディアもありますが、
これは記事を書いた記者が、イーストコーストやウェストコーストの
大都市にあるバーに通うようなタイプの人間だったからかもしれません。
それらのバーの客層がこのような豊かな層と一致するものだから、
それがミレニアル世代の全体像であると誤解してしまっているのかもしれないのです。
ですが、ブルックリンやワシントンDC、オークランドなどから一歩足を踏み出せば、
世の中一般での話は全く変わってくるのです。
実際のところ、25歳から34歳で大卒学位を持たない層(本来はこちらが大多数です)が
都市部に住む傾向は2000年前後に比べて弱まっています。
また多くは、余裕ができ次第に郊外に移っているのです。
ということで、ジョーダンと私の記事は誤りだったでしょうか?
私たちは、ミレニアル世代はその親たちの世代ほど
自動車に乗ることはないだろうと予測したのです。
そして現状がその通りであることに間違いはありません。
郊外型住宅の建設業界には長期間の悪影響が出るかもしれないと書きましたが、
これは間違いなく今日にも当てはまります。
ですが私たちは、より広い意味では、
現状を維持しようとする強烈な逆風を予測できていなかったのです。
若者というものはやはり自動車を買い、都市から郊外に抜け出し、
そしてカロライナからテキサスを抜け北西沿岸部にまで広がる、
陽光眩しい土地に住処を求めるものなのです。
若い世代が変にませているのを見るのは嫌なものです。
ですが、ジェネレーションYは、それよりさらに酷いものに変わってしまう恐れを秘めていました。
それは、退屈極まりない普通な世代になってしまうことなのです。
(翻訳:角田 健)