判断を遅らせることの価値

by リチャード・ブランソン

 

 

あらゆるリーダーが身につけておかなければならない重要なスキルの1つに、

決着をつけるタイミングを知る、

つまり、最終的な決定を全体に知らせる前に、一歩退いて、

より広い見地から全体を物事を眺めるタイミングを知る、ということがあります。

 

混乱や興奮、急成長や危機のさなかにあっては、

通常より多くの決断を、少ない時間で下さなければなりません。

できるだけ早く決めてしまいたい、という強烈な誘惑にかられてしまうことでしょう。

そのような中でリーダーは落ち着いて、自分の選択に自信を持ち、

自分のチームと顧客の将来に展望を持ち、情況をコントロールしなくてはならないのです。

 

それは、すべての事実を把握する前に、軽率に結論を出すことではありません。

 

私は先日、スティーブン・コヴィーの長く語り継がれるであろう教え、

「まず理解に徹し、そして理解される」(『七つの教え』)についてのこんな話を読みました。

 

その中に、2個のリンゴを持ったかわいい女の子の話が出てきます。

お母さんが来て、リンゴをひとつちょうだい、と言いました。

すると女の子はお母さんを見上げてから、

リンゴを一口かじり、次にもうひとつのリンゴも同じようにかじったのです。

お母さんは、この子は自分のことしか考えていないのね、とがっかりしました。

ところが女の子は一方を母親に差し出し、こう言ったのです。

「ママ、これを食べて。こっちの方がおいしいよ」

Pomme

 

たとえ私たちがあらゆるデータを知り、

あらゆる角度からシナリオを検討した、と思っていても、

状況についての真相は、思いがけないところにあるかもしれません。

 

だからこそ、人生はすばらしいのだとも言えます。

 

私たちが何かを理解し、学んだ、と感じるのは、まさにこのような時なのですから。

そういうわけで、ビジネスにおいて、判断を遅らせることは、有意義なのです。

 

これまでにも私が素早く決断したいという誘惑を抑え、

全体像がはっきりと見えてくるまで決定を先送りしてきた経験は、数多くあります。

 

決定を遅らせることによって、滅多にない機会を失うこともあります。

思い出すのは「トリビアル・パスート」という新しいゲームの権利を買うかどうか、

決断に時間をかけすぎてしまたっことです。

 

けれども、機会を逃したことで、大きな失敗を回避することができた経験も、

1度ならずありました。

 

判断に代わるものとして、統計を使用することに過度に依存することが増えてきています。

事実や数字は極めて役に立つ反面、データ分析だけにすべての決定を委ねるべきではありません。

「広告の父」デイヴィッド・オグルヴィは、重役陣が判断する上で、それだけ統計に依存しているか、

このようにまとめています。

 

彼らは調査にあまりに頼りすぎる。そうしてそれを、

酔っぱらいが街灯を照明としてではなく、

自分の体を支えるために使うように、使用している。

 

意志決定の際に不可欠なのは、見落とされがちですが、静かに熟考することです。

 

すべての統計に目を通し、専門家みんなと話をし、投資家と分析を終えた後、

ひとりになる時間を取って、ものごとがはっきりするまで考え抜くことです。

 

散歩して日陰を見つけたり、ただすわってしばらく考えるだけでもかまいません。

無用に時間をかける必要はありませんが、焦ってはいけません。

バランスを取ることがたいせつなのです。

そうすることで、あなたははるかに良い最終決断を下すことができるでしょう。

 

 

著者:リチャード・ブランソン (ヴァージン・グループ創設者)


元記事:http://bit.ly/1dK4h57

(翻訳:服部聡子)