情報の高速化はマーケティングをどう変える?

 

 

『絶対的価値:(ほぼ)完全情報の時代に顧客に本当に影響を及ぼすもの(原題)』の中で、

著者のエマニュエル・ローゼンとイタマール・サイモンソンは、

新製品や新しいサービスの認知を確立するための、新しいアプローチを説明しています。

absolute value

 

 旧約聖書で、モーゼはたったひとり、神に会いに行き、

 与えられた神の言葉を、今度は各部族の長老に伝えます。

 ところがこうした徐々に伝播する、トリクルダウンアプローチは、

 今ではしだいに当てはまらなくなっている、というのです。

 というのも、インターネットを通じて、情報はどんどん速く、

 安価に、しかも完全なかたちで伝わるようになってきたからです。

 

 たとえば、新製品が出荷されて、わずか数時間の後には、

 大勢の人が、シーネットやアマゾンのようなサイトで、

 レビューを読むことができます。

 

イノベーター、アーリーアダプター、そうしてアーリー・マジョリティのユーザーは、

発売直後の数分以内に、自分の意見を表明します。

リークがあれば、出荷以前に。

 

情報は、もはやトリクルダウン方式で届くものではありません。

それは速やかに、無料で、遠くまで拡散するものなのです。

新刊が出る。

誰がニューヨーク・タイムズに書評が載るまで待って、それからアマゾンで買うでしょうか?

 

この 〈 速く、無料で、完全 〉 ?という新しい情報の本質が、マーケティングを根本的に転換させるのです。

 

1. 有名人は重要でなくなる

 

製品を評価し、自分の意見をすぐに拡散させることは、多くの人に可能になっています。

有名人の発売後のレポートは、今でも重要視されてはいますが、

購入やトライアルのきっかけ作りという意味では、さほど必要はなくなっています。

「どこにでもいる人」が、新しい「重要人物」なのです!

 

2. ブランドは重要ではなくなる

 

情報が不完全で時間のかかるものであった時代、品質を保証するものとして、

人々はブランドのお墨付きに依存していました。

ところが書籍販売ビジネスを見てみると、

アマゾンの星の数の平均や、一般人が投稿した最初のいくつかのコメントの方が、

出版社の名前よりも、重要視され、目立つようになっています。

 

3. ブランドに対する愛着心は一時的なものに

 

理想社会では、あなたが過去に製品を買ったメーカーは、将来に渡ってもすばらしい製品を作りだすはずです。

現実社会では、かならずしもそうではありません。

たとえば、フェイスブックで記事をシェアするのが好きでも、

フェイスブックのメール・サービスを使ったことがない人もいるでしょう。

こうしたことを総合すると、メリットとは新しいマーケティング戦略なのです。

 

以下は、この新しい世界で勝ち残る方法です。

 

4. コントロールするという幻想を捨てる

 

全知全能は、幻想でしかありません。

誰が可能で、誰が助けてくれるか、あなたにはわからないのです。

また、あなたのマーケティングや広告で、誰かをコントロールすることもできません。

ですから、あなたの製品をとにかく送り出し、流れに身をまかせましょう。

 

5. 多くの種をまく

 

プランターではなく、野原に種をまくのです。

これは数の戦略です。種が多ければ多いほど、たくさんの花が咲くのです。

あなたにはどの種がヒマワリを咲かせるか、わからないのですから。

 

Sunflower

 

ピラミッド方式で、頂点にいる有名人を通して接触できる人もいれば、

何千という種をまくことによって接触できる人もいます。

起業に関する多くの問題と同じく、

どちらが正しく、どちらがまちがっているというものではありません。

何が効果があって、何が効果がないかということでしかないし、

何が効果があるかは、実験によって初めて明らかになるのです。

 

 

このコラムはガイ・カワサキの最新刊『スタートの技術 2.0』(原題)の一部分を元にしたものです。

一読後、飛躍されんことを。

The_Art_of_the_Start_2.0

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://linkd.in/1G2MdQl

(翻訳:服部聡子)

TEDのように話すには

 

 

TED(テクノロジー/デザイン/エンターテインメント)は、2014年3月、30周年を迎えました。

TEDの登場以来、基調講演のあり方は、大きく様変わりしつつあります。

TEDの「講演」は、オンラインで1日200万回以上のペースで視聴されており、

さらにそれより規模の小さい、独立したTEDxのイベントが145ヵ国で開催されていることもあって、

 

TEDの講演を見たことがある人は、現在、非常に多くなっています。

そのため、今後、私たちがプレゼンテーションするときは否応なくTEDと比べられることになるでしょう。

 

500回分にも及ぶTEDの講演(150時間)を分析し、

再生数2千万回を数える人気スピーカーへのインタビュー、

さらにはコミュニケーション分野の神経科学者との対話をふまえ、

カーミン・ギャロは、TEDのすばらしい講演には、共通してあるものが備わっていることを見つけたのです。

 

もし、あなたが聞き手に影響力を与え、あなたの考えで人を動かしたいのなら、

つぎのプレゼンテーションでは、その「共通して備わっているもの」を、ぜひ取り入れてください。

 

ここではカーミンの

『TEDのように話す:世界のトップの頭脳が編み出した人前で話すときの秘訣』

からのアドバイスを紹介しましょう。

 

 

Photo:DSC06245 By:hahatango

1. あなたの情熱を伝えよう

 

あなた自身が情熱を持っていなければ、人の情熱をかきたてることもできません。

自分自身を掘り下げて、話題と自分の深く、有意義なつながりを確かめてください。

自分の熱い思いを観客に表明することに、躊躇しないでください。

 

 

Photo:Sheryl Sandberg By:www.geteverwise.com

2. 少なくとも3つのストーリーを話す

 

フェイスブック最高責任者(COO)シェリル・サンドバーグは、このように言っています。

彼女はTEDの講演の準備をしていました。

事実やデータを満載して、個人的な話題はすべて排除したのです。

すると、ある友人が強く言いました。

 

「もっとあなた自身の話、 ワーキング・マザーとしてのチャレンジみたいな、

あなただけにしかできない話を聞かせて」と。

 

サンドバーグはそのアドバイスを聞き入れ、講演を変更し、まったくちがったものにしたのです。

 

そうしてその話は、講演と同じタイトルの『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』

という本となって、 一躍ベストセラーになり、世界中で話題となりました。

 

 3. ツイッターの投稿にぴたりとはまるタイトルをつけよう

 

TED.comで視聴できる1600の講演をあらためて見てから気がついたのは、

タイトルがすべて――ひとつの例外もなく――、140文字以内に収まっている、

ということです。

 

つまり、ツイッターの制限字数に当てはまるのです。

 

視聴回数の多い講演を見てみましょう。

 

ケン・ロビンソン『学校教育は創造性を殺してしまっている』

 

ブレネー・ブラウン『傷つく心の力』

 

サイモン・シネック『優れたリーダーはどうやって行動をうながすか』

 

もしあなたのタイトルが140文字以内に収まっていなければ、もういちどよく考えてください。

 

 

4. ユーモアを、ただし控えめに

Photo:Sir Ken Robinson By:eschipul

 

教育専門家ケン・ロビンソンのTEDの講演は、これまででもっとも人気の高いもので、

2千万回を超える視聴回数があります。

同時に、大変ユーモラスな講演でもあります。

 

ところがケンは、一度も 「ジョーク」 は言っていません。

かわりに、個々の出来事にもとづいた見解を、ユーモラスに語るのです。

 

「このあいだ、ディナーパーティに出席しました。

――実は、教育関係者というのは、あまりディナーパーティに招待されたりはしないんですがね、

まあ、そこで、ひとたび自分が教育関係者だ、なんて言うと……」

 

ユーモアを交えながら、ひとりの観客の顔に、にっこりと笑いかけています。

 

 5. 聞き手の五感を刺激する

 

時には観客を、スライドから外の世界に連れ出してあげてください。

実演や、びっくりするようなことをやってみるのです。

 

かつてビル・ゲイツは、マラリアの原因についてプレゼンテーションしている最中に、

TEDの観客席に向けて蚊を放したことがあります。

 

彼のパフォーマンスは夜のニュースでも取り上げられるほどのものとなりました。

予想外の出来事を、無視できる人など存在しません。

 

  6. パワーポイントのスライドは、文字より画像を

Photo:TEDxParisSalon - 27 nov 2012 By:Emmanuel Vivier

 

TEDのスライドで箇条書きを見ることは、ほとんどありません。

写真や画像、動画、それから注意深く選ばれた、ごく少数の言葉です。

 

パワーポイントやプレジ、アップル・キーノートといったデザイン・ソフトウェアを使う際の共通テーマは、

「箇条書きを使わない」です。 絶対に。

 

 7. 18分ルールを守る

Photo:Chris Anderson By:pmo

もしあなたの名前がビル・ゲイツや、シェリル・サンドバーグ、 ボノやスティングでないならば、

あなたの持ち時間は18分です。

 

TEDのキュレーター、クリス・アンダーソンは、 18分あれば真剣な議論は十分できるし、

少なくともその間は人の注意力をつなぎとめておける、 と言っています。

 

 8. 観衆に何か新しいことを伝える

Photo:Rokia Traore By:whiteafrican

 

人間の脳は目新しいものを放っておくことはできません。

いつも何かしら新しいもの、わくわくするようなものを探しています。

びっくりするような情報、新鮮な、予想もしていない情報を盛り込んでください。

 

 9. 練習を重ねる

 

TEDの講演者の中には、18分間の講演のために、200回も練習を重ねる人が何人もいます。

あるスピーカーのパフォーマンスはあまりにすばらしく、オプラ・ウィンフリーの目に留まるほどでした。

 

今日、彼女のキャリアはオプラのサポートのおかげで復活を遂げ、TEDの中でも有名な講演となっています。

 

 10. 自分らしくあれ

 

 

お芝居はほとんどの人に見破られてしまいます。

自分ではない誰かのまねをしようとすると、観衆からの信頼を失うだけになってしまいます。

 

嘘偽りのないあなた自身、正直なあなたであってください。

 

 

もしかしたら、あなたがTEDで講演を頼まれることはないかもしれません。

それでも、TEDのようなプレゼンテーションをおこなうようになれば、

聞き手に感銘を与え、あなたの夢に手が届くチャンスは、 はるかに大きなものとなっていくでしょう。

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://bit.ly/1QPIoQt

(翻訳:服部聡子)

社内起業家として成功するために

 

大企業で働きながら、同時に起業家として働いている人もいます。

彼ら社内起業家も、会社に属さない起業家と同じように、

革新的な製品を作りだすことを夢見ています。

 

彼らもまた、試作品を作り、宣伝し、売り込み、自力で立ち上げ、人材を募集し、

資金集めをし、パートナーを探し、販売し、サポートしなければなりません。

このコラムでは、企業の一員でありながら、なおかつ起業を考えている人のために、

何をしなければならないか、説明したいと思います。

 

皮肉にも、名の知れた会社の社員をうらやましく思っている起業家は、少なくありません。

ラッキーな連中は、莫大な資金と、大規模な営業部門、フル装備の研究室、

いくらでも拡張していける工場、確立されたブランドを好きなように使えるじゃないか、

おまけに医療と歯科治療の給付まで……。

そんな贅沢な環境で新製品の開発ができるなんて、どれほどすばらしいだろう。

ガレージで開発を続ける起業家たちは、そのように思っているのです。

 

でも、もう一度、考えてみてください。

そんな最新設備の中で新しい製品を作りだすのは、簡単なのではなく、ただ、違うのです。

私はこの点に関して、ニール・アナリティックスのデータ・サイエンス所長、ビル・ミードと共同で分析しました。

その上で私たちは、社内起業家に向けた提案リストを考案しました。

 

 1. 優先するのは会社である

 

社内起業家の第一の(唯一ではないにしても)モチベーションは、

つねに自分を雇っている会社の業績アップでなければなりません。

 

社内起業家制度は、自分が注目を浴びたり、帝国を築いたり、

会社から全速力で飛び立つためのカタパルトを設置するためのものではありません。

 

あなたが製品の良いアイデアを持っていれば、最初から大勢の同僚を引きつけることができます。

あなたが自分の個人的な利益のためではなく、会社のために働いているならば、

同僚はみんなあなたを応援してくれるでしょう。

 

Beth concepting ideas for the Health Axioms

 

2. 金の卵を産むニワトリは殺してしまおう

 

会社にありのままをぶちまけて、敵を作る必要はありません。

ですが、あなたの任務は新しい製品を作りだすこと。

そのために、いまある製品が用済みになってしまうことも、起こりうる事態です。

 

たとえば、マッキントッシュ・コンピューターは、アップルIIを殺すことになりました。

アップルにとっては、競合している会社がマッキントッシュを開発した方が良いことだったのでしょうか?

それとも、マッキントッシュなど、決して開発されず、その道が閉ざされてしまった方が良かったのでしょうか?

とんでもないことです。

 

3. こっそりと行動しよう

 

ガレージで開発していたふたりの男にとっては、できるだけ大きな注目を集めることが、重要でした。

努力の成果を知ってもらえれば、資金調達も容易になるし、

パートナーシップを結ぶことも、取引を成立させることも、従業員を雇うことも、簡単になります。

 

けれども、社内起業家にとっては、その逆が真なのです。

あなたのプロジェクトが、誰も無視できないほど、先に進んでいるか、

会社全体が、それが必要だと認識してもらえるようになるまで、

経営陣からは放っておいてもらえるようにしておきましょう。

 

4. ゴッドファーザーを見つけよう

 

多くの会社に、「ゴッドファーザー」的な存在がいます。

しかるべき何かを支払っておけば、日々のちょっとした政治的な力関係から、

私たちの身を安全に保ってくれるような存在です。

彼らはどちらかというとアンタッチャブルで、経営陣からも気を使われています。

 

社内起業家は、そうしたゴッドファーザーを見つけ、アドバイスや、技術的・経営的な面からの意見をもらい、

いざというときには自分たちのプロジェクトを守ってもらわなければなりません。

 

5. 別のビルに部屋を持とう

 

社内起業家が大企業のメインストリームで仕事をすることは、死を意味します。

あらゆる部署の上司が、こんなアイデアは無駄だと主張して、切り刻まれてしまうからです。

 

ピーター・ドラッカーはこのように言っています。

「現実に進行中の堅固な仕事の前では、

新しいことはいつでも、取るに足らない、見込みのないものに思える」

 

Correspondance visuelle 5

 

6. 夢を持っている人に希望を与えよう

 

どんな会社にも

「こんなばかでかくて間抜けな会社じゃ、イノベーションなんて起こせない」

と考える、シニカルな人はいるものです。

 

実は彼らは、イノベーションが現実のものとなるのを見たい、理想家でもあるのです。

大企業には、無視され、忘れられ、屈辱を感じつつ、服従を強いられている、有能な人がいます。

彼らは踏みつけにされているかもしれませんが、死んではいません。

 

そんな人々に、あなたが体制の中心部に杭を打ち込もうとしていることを知らせれば、

かならず物心両面の助けが得られるでしょう。

こうした人々のイノベーションを求める気持ちが、あなたを助け、実を結んだとき、

あなたのゴールは、彼らの昇進につながります。

 

7. 社内の転換を予測し、うまく利用しよう

 

会社が変化することを、社内起業家は歓迎しなければなりません。

市場の変化などの外部要因や、新しいCEOの就任などの内部要因によって会社の構造が転換するときは、

あなたにとって、チャンスかもしれないのです。

 

有能な社内起業家なら、こうした変化を予想し、いざその段になれば、新製品を公開できるようにしておくべきです。

「これが私たちが取り組んできたことです」 と。

 

それが、社内に巣食う愚か者だと、こんな具合。

「配置転換を今、知ったところです。

6ヶ月間の猶予とアナリストのお許しがいただければ、新製品戦略を作成いたします」

 

8. いまあるものを足がかりにしよう

 

大企業の内部でイノベーションをおこなおうとすることのマイナス面は、

明確に文書化することを求められる点です。

 

イノベーションを少しでも簡単にするために、

会社のいまあるインフラを有効活用することを、躊躇しないでください。

設備だけではなく、ほかの部署にいる社員までもが、チームの一員であると感じられるように、

友だちの輪を拡げていくのです。

 

9. データを集め、共有しよう

 

経理担当者や法律家の呼び出しを受け、あなたのプロジェクトの存在理由を問われる日が来るでしょう。

運が良ければ、そんな日が来るまで、もう少し時間の余裕があるでしょうが、いずれにせよ、やってくるのです。

 

その日のために、

(1) 使用した金額と、得た金額のデータを集めておく

(2) そのデータを公開し、シェアする

 

大企業では、データを公開していれば、反対勢力の出現を抑えることができます。

けれどもひとたび反対勢力が登場してから、データを入手しようとしても、手遅れになりかねません。

 

9. 副社長にお越し願おう

 

副社長にプロジェクトを賛同してもらうことが、第一歩でしょうか?

 

いいえ、ちがいます。

賛同は、最後の一歩です。

 

副社長には、あなたのアイデアを「自分のもの」にしてもらい、

支援というより自分が「発見し」、

自分が後ろ盾となってあなたにやってもらうのだ、と思いこませるのです。

 

機が熟したら、あなたは確実に、副社長に「偶然」発見してもらわなければなりません。

これは、プロジェクトのスタート許可を求めることとは、まったくちがうものです。

 

10. 完了後は解散しよう

 

社内起業の利点は、社のメインストリームより早く、新製品を開発できる点にあります。

起業家グループがもし、全体から切り離され、超然としたままで存在し続けると、

あれほど効果をあげたはずのグループ内部の一体感が、不幸なことに、

グループの失墜を招くことになりかねません。

 

11. 脳を再起動しよう

 

ここで説明した実践は、社内起業家の多くがこれまでに経験したり、学んだりしてきたこと、

時には大企業で教えられてきたりしたこととも、異なっているかもしれません。

ほんとうのことは、既存の会社の内部で要求される新しい行動パターンを編みだしながら、

何か新しいことを始めることによって明らかになります。

何より大切なことは、あなたの脳を活性化することなのです。

 

 

このコラムはガイ・カワサキの最新刊『スタートの技術 2.0』(原題)の一部分を元にしたものです。

ご一読後、飛躍されんことを。

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://linkd.in/1EOuQlD

(翻訳:服部聡子)

イノベーションの技術

 

 

    イノベーションとは、起業家精神にとって、特殊な道具である。  

    イノベーションが源となり、富を創造するという能力が花開く。   

                       ― ピーター・ドラッカー

 

 

ピーター・ドラッカーは正しいことを言っています。

イノベーションとは、富を生むものです。

イノベーションとは、実際、ひどく困難なことですから、 もうけが出るのもあたりまえなのかもしれません。

 

このコラムの目的は、イノベーションの原理を説明することです。

私はそれを、アップル社の前線で、また、私が起こした3つの企業で、

アドバイザーを務めた多くの企業を通して、学んできました。

私は間違いなど犯したことがなかった…、と言えれば良いのですが、 きっとそれは事実ではないでしょう。

私の言うとおりにやってください

― 実際に私がやった通りではなく。

 

1. 意味を作りだす

 

あなたが、何かほんとうに意味のあることを通して、

どのように世界を変えていこうとしているのか はっきりと決めてください。

アップルはコンピューターを大衆のものにしました。

グーグルは情報を大衆のものにしました。

イーベイは商取引を大衆のものにしました。

 

これらの企業は意味を作りだし、意味を作ることによって、結果的に大きな利益を生み出しました。

 

2. マントラを作る

 

なぜ、自分が意味を作りだそうとしているのか、説明できるような、

3つから4つの言葉からなる、自分のマントラがあるはずです。

 

たとえばナイキのマントラは、私が思うに「本物のアスリートのパフォーマンス」にちがいないと思います。

またイーベイは「大衆化された商取引」でしょう。

私のマントラは「人々に力を与える」。

 

要するに、なぜ自分が存在しなければならないのか、マントラが説明してくれるのです。

 

3. つぎのカーブにジャンプしよう

 

あまりに多くの企業が、同じ成長カーブ上で争っています。 1880年代に、氷を切り出す産業がありました。

 

 

冬の間、氷の塊を切り出す会社がいくつもあったのです。

ところが氷工場ができて、氷を切り出す会社はいずれも廃業に追い込まれました。

 

 

というのも、氷工場なら、天候の制限を受けないからです。

やがて冷蔵庫会社ができて、今度は氷工場が廃業に追い込まれました。

 

 

個人で冷却装置を所有すれば、よりいっそうの利便性が得られるからです。

つぎの成長カーブにジャンプするときに、 さらにいえば、つぎのカーブを作り出したときに

ほんとうのイノベーションは起こります。

 

4. すばらしい製品はDICEE

 

DICEEとは、Deep(=深い)

Intelligent(=知的な)

Complete(=完璧な)

Empowering(=力を与える)

Elegant(=エレガントな)

の頭文字を取ったものです。

 

「深い」とは、多方面における特徴と力を持っている、ということです。

 

「知的」というのは、人の感じている痛みと必要性を、 その企業が理解している、ということです。

「完璧な」というのは、満足できるトータルソリューションを、その企業が提供している、 ということです。

 

「力を与える」というのは、顧客がその製品と格闘するのではなく、

その製品を使って、より良いことができるようになる、という意味です。 ?

「エレガント」というのは、製品がうまくできている、ということです。

 

5. 安っぽく思えても心配しないで

 

革新的な製品の中に、チャチな側面があったとしても、 出荷するとき、不安にならないでください。

イノベーションが、最初から完成された状態で起こることはまずありません。

 

たとえばMacコンピュータはソフトウェアがなく(私のせいです)、

ハードディスクもなく(ソフトウェアがなければ、いずれにせよさほど意味がないのですが)、

スロットもなく、色もありませんでした。

 

もし会社がすべてが完璧になるまで出荷を待っていたら、 そんな日は来ないだろうし、

市場は素通りして先に行ってしまいます。

6. 「100の花を咲かせよう」

 

私はこの言葉を毛沢東から拝借しました。

イノベーターは、人々がその製品をどのように使うかについては、 柔軟である必要があります。

エイボンは「Skin So Soft」という製品を、肌をやわらかく保つために開発しましたが、

子供のいる人々が、それを虫除けに使っても、そのままにしておきました。

 

アップル社は、スプレッドシート/データベース/ワードプロセッサー機能のコンピュータを開発しましたが、

顧客はそれをデスクトップパブリッシング・マシンとして利用していることがわかりました。

教訓は、種は植木鉢ではなく、野原にまこう、ということです。

さまざまな花を、好きなように咲かせてやれば良いのです。

 

7. 両極化を怖れない

 

ほとんどの企業は、 統計上のいかなる年齢層にも、

いかなる社会的経済的バックグラウンドを持つ人にも、

どのような地域に居住する人であっても、 すべての人がほしくなるような、聖杯を作りだそうとしています。

 

けれども、そんなものを求めても、得られるのは、確実に凡庸なものとなります。

それより、ある一部の人々を幸せにするような、すばらしい製品を作ってください。

それ以外の人々が不幸になったらどうしよう、と心配するのはやめてください。

最悪なのは、結局、どんなリアクションも引き出すことができない場合です。

そんなことが起こるのは、企業があらゆる人を幸せにしようとしたからなのです。

 

8. 新しい考えを生みだそう

 

私は、製品には安っぽい側面があってもかまわない、と言いました。

けれども、安っぽいままであってもかまわない、とは言っていません。

企業はバージョン1.0を改良し、1.1、1.2 … 2.0と進化させていかなければなりません。

イノベーションを出荷すること自体が大変なので、これを実行に移すのはむずかしい教訓といえます。

なにしろ社員というものは、自分たちの送り出した完璧な製品に、

ケチをつけられることがたまらなくいやなものだからです。

けれども、イノベーションは、 終わってしまった出来事などではなく、進化し続けるプロセスなのです。

 

9. ニッチであろう

 

イノベーションという輝かしい聖杯は、ユニークであり、しかも価値のあるものを創造するところにあります。

イノベーションを起こしたければ、意味を作りだし、限界に迫り、歴史を作っていかなければなりません。

エンジニアであれば、これまでに類のない、しかも価値のあるものを作るのです。

マーケターであるならば、製品がユニークで、価値あるものだと、世界に向かって伝えるのです。

 

10. 完璧なキャッチフレーズを

 

比類のない展示販売をおこなうには、3つのカギがあります。

第1に、導入部をカスタマイズします。 聞き手を大切にし、その相手に合わせてやてみせる必要があるのです。

第2に、製品を通して、夢を売るのです。

この製品によって、人生がどのようにすばらしいものになるか伝えます。

業界用語を使わず、これを所有することで、どのような利益があるのかを説明するのです。

 

第3に、プレゼンテーションでは、10-20-30ルールを守ることです。

スライドは10枚、説明は20分、フォントサイズは30です。

 

11. 傍迷惑な人のせいで気持を腐らせない

 

傍迷惑な連中は、そんなことやっても無駄だ、とか、やらないほうがいい、とか、

必要ない、とかと言いたがるものです。

そんな連中の多くは、どう見ても負け犬です。

負け犬など無視するのは簡単。

 

でも、金持ちで、セレブで、権力を握っているような「ボケナス」は、危険です。

というのも、彼らは賢い、と見なされているからです。

けれども、そんな連中は運が良かっただけ。

彼らにはつぎの上昇曲線など理解できないし、なおさら受け入れることなどできはしません。

イノベーションというのは、読む(あるいは書く)のは簡単でも、成し遂げるのは、困難なものです。

 

これまでにあげた11は、イノベーションの基礎にすぎません。

けれども、意味を作り、上昇カーブにジャンプするまで、休まず仕事を続けていけば、

いつかイノベーションに到達するはずです。

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://bit.ly/1gAzTMc

(翻訳:服部聡子)

 

本:『力強く立ち上がること』

 

Rising Strong 

  by Brene Brown

『力強く立ち上がること』

 ブレネー・ブラウン 著

 

自らの過去を否定するとき、過去が限界を定めてしまいます。

過去を受け入れるとき、自らで物語の終わりを紡げるようになるのです。

 

勇気、心のもろさ、恥の意識、そして自らに感じる価値の意識に関する議論に火を着け、

全世界を巻き込んだ社会科学者、ブレネー・ブラウン。

ブラウンの著作は新たな地平を切り開き、私たちの心に深く根ざした真実を明らかにしました。

心のもろさ、すなわち、何の見返りが期待できなくても人びとの前に姿をさらす意志こそが、

より深い愛、帰属意識、創造性、そして喜びに通じる唯一の道だったのです。

ですが、勇敢に生きるということは、易しいものではありません。

つまずき、転んでしまうことは避けられないものなのです。

 

ブラウンが本書でテーマに選んだのは、つまずき、転んだ後に立ち上がることです。

データに根ざした理論の研究者としてブラウンは、

フォーチュン500企業や軍のリーダーから芸術家、関係が長く続いているカップル、

教師、子を持つ親などに、自らの勇気、つまずき、

そして立ち上がった経験について語らせています。

 

そしてブラウンは、

 

強く深い愛で結ばれた人たち、創造性を促すリーダー、

イノベーションを推し進める芸術家、

そして信念と神秘をもって人びとに寄り添って歩く聖職者。

彼らが共通して持っているものは何か?

 

という問いを自身に投げかけます。

 

答えは明快でした。

皆、感情の持つ力を認識しており、苦境に立つことを恐れていないのでした。

 

それぞれが持つ傷みの話に足を踏み入れるのは危険に感じられるかもしれません。で

すが、苦しみにもがくなかで自分の足場を確認することで、

勇気が試され、自らの価値観を形作ることができるのです。

私たちが経験する困難は、失業や離婚などの大きなものから、

友達や同僚との不仲のような小さなものまであります。

 

その大きさや状況によらず、力強く立ち上がるためのプロセスは変わりません。

感情を考慮して自分の気持ちに対して興味を持ちます。

そして、真実のある場所にたどり着くまで、

自分自身のストーリーに延々と考えを巡らせます。

 

そして、このプロセスの中に毎日を生き、習慣となって、

人生に他ならぬ革命を起こすまで継続するのです。

つまずきの後に力強く立ち上がることは、

自らの全てを含んだ誠実さを深めることにつながります。ブ

ラウンは、このプロセスが自分自身について最も多くのことを教えてくれるといっているのです。

 


 

元記事:http://amzn.to/1WLj2aJ

(翻訳:角田 健)

 

 

働き方のアドバイス:人間らしくあれ

(※この記事はhttps://www.theatlantic.com/business/archive/2015/08/job-advice-be-cool/401954/?utm_source=SFTwitter#disqus_threadを翻訳したものです)
by ジリアン・B・ホワイト (アトランティック・シニア・エディター)
 

社会的スキルが職場での成功につながる

今日の就職市場で一歩抜きん出るためには何が必要なのでしょうか?
厳しさを増す経済状況の中で戦うためには、専門的で技術的なスキルを身につけるしかないと思われがちですが、そうではないのです。
一歩先を行くために本当に必要なのは、社会的なスキルなのです。

どうしてでしょうか?
最近の研究によると、アメリカでは今後20年の間に、およそ半分近い数の仕事が、オートメーション化のせいで必要なくなってしまうと言います。では、働く者たちは何をなすべきなのでしょうか?

より人間らしくあることだと、ハーバード大学のデビッド・J・デミングは言います。
社会的スキルの重要性はここ数十年でもすでに高まってきており、特に給与が高く競争が激しい仕事に就きたければ、その傾向はさらに強まるとデミングは言います。

デミングによると、認知能力と社会的なスキルの両方が求められる仕事と、高水準の数学的あるいは分析的な訓練は必要なものの社会的な胆力を要しない仕事とを比べると、前者の方が過去数十年の間で給与の伸びは大きいというのです。そして、その給与の差は、職位の高低に関わらず存在すると言います。

将来、オートメーション化されにくい仕事というのは、単調な分析仕事をこなすだけでなく、同僚や顧客とのやりとりが頻繁に必要となる仕事です。また、これらの仕事は人間の本質的な活動、つまり他者の視点でものを考えることなどを要します。こういった人間的なやりとりのニュアンスというのは、コンピューターはまだマスターできていないものなのです。

社会的なスキルが真価を発揮するのは、チームを組んで、スキルや能力に応じてタスクを交換しながら働くときです。デミングはこのように言っています。

職場でのやりとりはチームでの仕事を伴います。
働く者たちは、お互いの強みを利用しながら、変わり続ける環境に柔軟に対応していくのです。
このような、人間同士の規則性のないやりとりこそが、機械に対する人間のアドバンテージの核心なのです。

研究ではさらに、社会適性の価値がもっと注目されるようになれば、男女間の給与格差を埋めることもできるかもしれないと述べています。なぜなら、女性の方が、男性よりも高いレベルのEQ(心の知能指数)を示す傾向があるからです。

上向いている教育水準と相まって、優れた社会的なスキルが女性の職場進出を後押ししてきたということなのかもしれません。

 

 

著者:ジリアン・B・ホワイト (アトランティック・シニア・エディター)


元記事:https://www.theatlantic.com/business/archive/2015/08/job-advice-be-cool/401954/?utm_source=SFTwitter#disqus_thread

(翻訳: 角田 健)

 

 

10代で妊娠した女の子が起業家になるまで

 

トラン・ウィルズは成功したビジネス・オーナーですが、
そうなるまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。

 

高校生で、帰る家もないトラン・ウィルズが妊娠していることに気づいたときは、

まさか将来の自分が、成功した会社を2つも経営し、愛する夫と4人のすばらしい

子供たちと生活しているとは想像もできなかったでしょう。

 

現在の夫であるジョシュと一緒に、夜、働きながら、高校は卒業することができました。

それからふたりは最初の店、“ファブリック・ラボ”を開いたのです。

コロラド州デンバーの美容院の地下室の前で、地元のデザイナーが作った商品を売る店でした。

友だちも家族も、そんなところに店を開くなんてどうかしてる、と笑いましたが、

そこに決めたのは家賃が月200ドルで、託児所よりも安かったからでした。

 

それからいくつかの店を開いたり、閉めたりしながら、33歳になった今では、

デンバーで“スーパー・オーディナリー”というショップを併設したアート・ギャラリーと、

人体に無害で化学薬品を使わない施術を行う“ベース・コート・ネイルサロン”を経営しています。

それだけではありません。

ウィルズとビジネス・パートナーは、来年、ロサンゼルスにも

ベース・コートを出店するために、賃貸契約を結んだところです。

今では16歳になった長男のノアは、音楽家の道を目指しており、

その下には12歳のクインと10歳のエリオットの姉妹が続き、

末っ子のヘッシュはまだ5歳で、お姉さんたちが学校に行っている間は

お母さんの出席する会議について行くこともあります。

 

夫のジョシュは、ノース・フェイスやオークリーの仕事を請負うファクトリー・デザイン・ラボの

クリエイティブ・ディレクターの職を離れ、

自分のデザインスタジオ“コンシューム&クリエイト”を開いたところです。

 

自分がどのように人生のスタートを切り、

職業人としての生活と、家族との生活を、いかに維持しているのか、

そんなトラン・ウィルズが聞かせてくれました。

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家出、10代の出産、起業家になるまで

 

インタビュアー:

あなたが15歳の時、ご両親に家から追い出されたのですよね。
成功したビジネスを2つも経営するようになると、
当時のあなたに想像できたでしょうか?

ウィルズ:

15の時は、なんとか生き延びようと、それだけしか考えていませんでした。

両親が私を追い出したのは、大好きな男の子に会うのを止めようとしなかったからです。

友だちの家を転々としていました。

 

そんなとき、ノアを妊娠していることがわかったんです。

ジョシュが自分の両親に話してくれて、2人は家に来ていいよ、って言ってくれたんです。

6か月の赤ちゃんと一緒に卒業するだなんて、どうかしてるわよね。

でも、ほんとにそうだったのよ。

 

ノアが1つになったとき、やっと私たちはジョシュの実家を出ることができました。

それで、やっと生活らしい生活ができるようになったんです。

結婚して16年、その間に子供が4人、そうやって今に至る、ってわけ。

 

私はずっと、自分の店が持ちたかったんです。

でも、自分がこんな風に、人を雇う側にまわるだなんて、夢にも思わなかった。

ベース・コートは従業員が9人、スーパー・オーディナリーは2人いるんです。

自分でも信じられないわ。

 

小さな子供を抱えながら、資金もないままビジネスを始めようという勇気は、
いったいどこからわいてきたのでしょうか?

 

自分の道を選ぶのは自分だ、って思っていました。

店を始めた当時、ジョシュはアーティストだったから、私が服を作りました。

後悔だけはしたくなかった。

 

10代で母親になった女性に対して、世間は“おまえなんかクズだ”っていう目で見るんです。

だから、そんな風にはならない、って、みんなに見せつけてやりたかった。

子供たちのためにね。

もし子供なんていなかったら、たぶん、嫌だ嫌だ、って思いながら働いているでしょうね。

January 2013

母親として、経営者として

 

よくビジネス・ミーティングに、お子さんを連れていらっしゃるとうかがいました。
他の方はどのような反応を示されるのでしょうか。

 

びっくりする人は多いですよ。

「あなたはそれでもプロなのか?」なんて聞いてくる人もいます。

だから私はこう言うんです。

「もし私と仕事をするつもりなら、これがその仕事よ」ってね。

私は店に子供たちを連れてくるのを止めようとは思いません。

私がどんな風に子供を育てようとしているのか、

どんな風にビジネスを経営しているのか、

自分の信条を明らかにするものだから。

 

最初のブティックのあと、あなたはカップケーキとシリアル・バーの店を開きましたが、
それはうまくいきませんでしたね。
そこから何か学んだことはありましたか?

 

ビジネス・パートナーと組んだのですが、うまくいかなかったんです。

やり方がちがっていました。

自分にぴったりの人を選ぶことが、本当に大切なんだってわかったんです。

自分と同じくらい情熱を持っている人、

自分と同じくらい、献身的に働いて、

自分と同じくらい、他のことをあきらめたり犠牲を払ったりするのをためらわない人。

一緒に仕事ができるのは、そういう人です。

ひとたびそんな見つかりさえすれば、ずっと楽になるはずです。

 

カップケーキの店を閉めた時は、つくづく思い知らされました。

自分のアイデアが、どれもこれもうまくいくわけがない、ってわかったんです。

ストレスもかなりのものでした。

 

それでも、今ではその経験は良かったと思っています。

私は今も学んでいるところなんです。

うまくいくこともあれば、失敗することもある。

それはそれでいいじゃない、って。

 

失敗は起こるものだし、受け入れるしかないんです。

そう思えば、勇気もわいてきます。

だって、私をがっかりさせた人や、私ががっかりさせた人と

これからも向き合っていかなければならないんですもの。

 

それからあなたは“スーパー・オーディナリー”を開きました。
最初のファブリック・ラボと比べると、どうでしたか?

 

最初、スーパー・オーディナリーは私たちの家の前に開きました。

140平米の倉庫だったんです。

私たちはストリート・アートで倉庫をいっぱいにしようと考えていました。

たいていのアート・ギャラリーが、飾りたがらないような。

 

そこには可動式の壁があって、隔週の土曜日に動かしながら開展したんです。

その裏に誰かがいたなんて、みんな思わなかったでしょうね。

 

ギャラリーは予約制にしていたのですが、

私がそこにいたので、いつも開けていたんです。

私たちの家を知っている人は、家族連れで来るようになりました。

それで、コミュニティができていったんです。

 

オープニングの作品は、全部売れてしまいました。

それで、私たちはそこから移ることにしたんです。

今のスーパー・オーディナリーは、長女が店をやっています。

建築家を雇って、あとは全部、自力で作りました。

パートナーを2人、呼んできて、

みんなが思い描くものを作り上げていったんです。

さまざまなものを寄せ集めながら、ユニークなギャラリーにしています。

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▲ スーパー・オーディナリー・アート・ギャラリー(photo:madelife)

 

ビジネスの資金はどうしたのですか?

 

すべて私たちのお金です。

ほとんどは、ジョシュのですが。

ジョシュの収入は、すべてビジネスに当てています。

 

スーパー・オーディナリーに関しては、2人のビジネス・パートナーが

開店資金を出してくれましたが、1年で返済しています。

私たちにはローンはありません。

誰にもお金を借りていません。

ベース・コートでは出資者が必要でしたが、

そうしなければビジネスを拡大することはできなかったからです。

 

多くの小企業のオーナーが、結婚の面では苦労しています。
あなたとジョシュは、どのように結婚生活を続けているのですか?

 

子供を育てるのは、本当に大変なことです。

良い妻であり、良いビジネス・パートナーであることも大変です。

3つの間で引き裂かれているみたいに、しょっちゅう感じているわ。

 

幸いなことに、私たちはお互い、大好きでいられるんです。

一緒に大人になりながら、何度も何度も恋に落ちたのよ。

ほとんどの人は、完全な結婚だ、って言うでしょうね。

でも、私たち、しょっちゅう派手にケンカしてるのよ。

きっとそれが大切なんでしょうね。

子供をどんな風に育てるか、とか、

ビジネスをどうやって成長させていくか、とか。

ふたりとも、とっても情熱的だから、良かったんだと思います。

ケンカして、ああだこうだ言い合っても、

いつも相手のことをバックアップしていくんです。

 

どうしたらそんなことができるのですか?

 

ケンカして、乗り越えて、そうやって毎日毎日生きていくのよ。

ジョシュと私は毎晩座って、話し合うの。

「あの子がそこに行かなきゃならない。誰が行ける?」

 

子供って、すぐ病気になるでしょう?

だから私は1週間以上先の予定を立てたり、予約を入れたりしないようにしてるの。

それに予定外のことが、かならず起こるし。

毎日生活しているうちに、

大変なことが起こったときの覚悟ができるようになるものよ。

子供が病気になった、店で何かうまくいかないことが起こった、って。

 

人は、店のオーナーともなれば何だって思い通りにできる、

って思ってるでしょうね。

でも、実際は、正反対よ。

自分がやるべきことをやらなかったら、一歩も先へ進めないし、

何もかも、めちゃくちゃになってしまうわ。

 

ジョシュは先頃、会社勤めを辞めて、新しい仕事を始めましたね。
ひとつの家族に起業家が2人いるのは、どのようなものですか?

 

定収入がないことのストレスはあります。

でも、定収入を得るために、ジョシュはがまんをしていたの。

彼はこれまでずっと私を支えてくれた。

だから、今度は彼の番だって。

でも、すごいのよ。すごく忙しいの。

 

お子さんたちは、あなたのことをどのように見ていらっしゃいますか?

 

あの子たちは私の誇りだし、元気の源よ。

ノアもきっとそう言ってくれると思うわ。

彼が私たちを支えてくれるように、私たちも彼を支えたいと思ってるの。

 

ノアは音楽プロデューサーになりたいのよ。

ほとんどの親は、こんな風に言うでしょうね。

「だけどそれでは金にならないぞ」。

でも私たちはこんな風に言うの。

「わかったわ、そのためには方法があるのよね。

あなたはそれを見つけなきゃ」って。

 

9時から5時までの仕事をしなくても幸せになれる、

っていうロールモデルを、私たちは提供していると思うの。

2人ともが創造的な仕事に就いていると、

普通、お金なんて稼げない、って思うでしょう?

でも、私たちはやってきた。

それは可能なんです。

 

仕事をしようとしている女性に何かアドバイスはありますか?

 

つねに助けを求めてください。

助けを求めたら、ずいぶん人生は生きやすいものになるから。

私はずっと、自分ひとりでやっていくのに慣れていたんです。

子守も家政婦さんも雇いませんでした。

 

時々、そう思ったこともあります。

でも、そうするぐらいなら、子供に何か買ったり、

そのお金をビジネスに回したりしてきました。

今、私は家の掃除ができます。

でも、いつか助けがほしいと思う時が来るはずです。

それが犠牲のように思えたり、止めたいと思ったりする時が来る。

もしかしたら一週おきに雇うようになるかもしれません。

でも、子供たちに会いたくなくなるときはないでしょうね。

 

 

 

by エイミー・ハイマール(Fortune


元記事:http://fortune.com/2015/08/10/tran-wills-entrepreneur/

(翻訳:服部聡子)

女性が権威を持って話すには

 

「女性は人口の面から見れば多数派ですが、発言力という面では、未だ少数派です」

こう語るのは、スピーチ・コーチであり『雄弁な女性たち(The Well-Spoken Woman)

の著者でもあるクリスティーン・ヤンキーです。

Christine K. Jahnke

彼女はアメリカでもっとも力のある女性と、一緒に仕事をしてきました。

ヒラリー・クリントンの大統領選挙戦や、

ミシェル・オバマの初の国際的なスピーチのアドバイザーを務めながら、

彼女たちがどのような舞台であっても、威厳に満ちた話し方ができるよう、

助けてきたのです。
ヤンキーのアドバイスは、基本的に、女性-男性の一方に偏ったものではありませんが、

専門職に就いている女性は、心に留めておいた方が良いものです。

女性の自然な高い声は、子供っぽい印象を与える傾向があります。

「ですから女性の場合、2、3歩、後ろに下がって話し始めると良いでしょう」

とヤンキーは言います。
会議での発言力を高めたい、

プレゼンテーションのスキルを上げたい、

仕事関係者と話すときに、もっと影響力と権威を発揮したい、

など、あなたの望みがどのようなものであっても、ヤンキーのアドバイスは役に立つでしょう。

部屋を支配する

ヤンキーによると、力と権威を背景に話すということは、

ほとんど精神的な駆け引きで決まる、とのことです。

「ひとたび部屋に入ったなら、そこが自分の場所だ、と意識することです」

 

多くの女性が会議やプレゼンテーションを、

まるで自分がテストされる場であるかのようにとらえている、と言います。

あなたが自信を持ち、リラックスして臨めば、それは周囲にも伝わるのです。

さらに、後ろの方にすわり、人の陰に隠れようとしたり、

頭を低くしたりするような態度を取らないように、とも、注意うながしています。

 

チャンピオンのように立とう

「プレゼンテーションやスピーチは、きわめて身体的な行為です」

舞台に上がったり、人々の前に立ったりするときは、

チャンピオンの姿勢を取ること、と彼女はアドバイスします。

つまり、一方の脚を前に出し、体重は後方の脚にかけます。

頭を高く上げ、肩を後ろに引き、上体を心持ち前に傾け、

にっこりとほほ笑みを浮かべましょう。

Hillary Clinton in Hampton, NH

▲ヒラリー・クリントン

すわるときは、テーブルに肘を

腰を下ろしたら、お母さんのアドバイスは忘れて、両肘をテーブルに載せてください。

「両手だけをテーブルに載せないでください。それだとあまりにお上品になってしまいます」

その代わりに、背を伸ばし、前腕部をテーブルの上に載せます。

直接であれ、カメラ越しであれ、視線はほかのスピーカーやカメラレンズから外さないでください。

Ministru prezidents Valdis Dombrovskis tiekas ar Starptautisk? Val?tas fonda izpilddirektori Krist?ni Lagardu

メッセージは聴衆に合わせて調整する

プレゼンテーションが近づいた頃、よくある間違いは、こう自問することです。

「私は何を話したらいいの?」

そうする代わりに、しっかりと考えてください。

「聴衆は、どんな話を聞きたいのだろう。

私のテーマについて、どれほど知っているのだろう」

ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の共同議長であるメリンダ・ゲイツは、

聴衆のことを理解するのが、とりわけ巧みです。

彼女の話によって聴衆は、遠く隔たった世界に運ばれていき、

そこで慈善活動が与えた影響を、みずからも経験し、目の当たりにすることができるのです。

 

Melinda Gates, speaking at the London Summit on Family Planning

▲メリンダ・ゲイツ(ビル&メリンダゲイツ財団共同会長)

 

ポイントを突く

「あなたの敵は、注意持続時間です」とヤンキーは言います。

とりとめのない、散漫なスピーチでは、誰も聞いてくれません。

効果的なプレゼンテーションは、「伝えたいこと」から離れることなく、

短い文章で構成します。

余談は必要なく、すぐに要点に入ってください。

 

ゆっくりとしたテンポで、呼吸を意識する

ペプシ社の会長インドラ・ヌーイは、イェール大学の経営管理大学院に進むために

最初にインドからアメリカにやってきた頃は、

ほとんど息を継ぐ暇もないほど、早口にまくしたてていました。

ヌーイはゆっくり話すこと、自分の意見に権威を持たせるような、

もっと効果的なペースで話をすることを学ばなければなりませんでした。

ヤンキーによると、アナウンサーのしゃべる速さは、1分間に150ワード

(※日本語の場合は約300-350語)ほどであるということです。

 

Indra Nooyi, PepsiCo CEO, Speaking at the World Economic Forum 2010 Annual Meeting

▲インドラ・ヌーイ(ペプシコCEO)

 

あなたの声を道具として活用しよう

「何よりもしてはいけないのが、抑揚もなく、単調で平板にしゃべることです」

ヤンキーは、声はもっとも活用されていない道具だと考えています。

本来なら、声をうまく使うことによって、力を誇示し、興味を引き出すことができるのです。

声を最適化しましょう。

中音域を使い、声の抑揚をつけることによって、強調や変化を表します。

声の大きさは、注意を喚起しますが、大きすぎないように。

重要なセンテンスの後は、間をおきましょう。

はっきりと発音することによって、聞き取れない言葉が出てくるのを防ぎます。

 

言葉と言葉の間に、意味のない語を差し挟まない

「ええ…」「あのう…」「なんというか…」「まあ…」「…みたいな」など、

このような言葉は、あなたの伝えたいことを弱め、あなたの持つ力をむしばんでいきます。

このような無機能語を差し挟むことによって、あなたは緊張しているように見えるし、

あまり準備できていないようにも、また上の空のようにも見えます。

このような語を差し挟んでしまうのは、間(ま)があくのを怖れるからです。

けれども実際は、「間」というものは、きわめて効果的なものだとヤンキーは指摘します。

 

ユーモアと暖かみが感じられるように

IMF専務理事であるクリスティーヌ・ラガルドや、

フェイスブックCOOであるシェリル・サンドバーグなどのような女性リーダーは、

言葉が明瞭で雄弁なだけでなく、聴衆と気持ちを通じ合わせるために、

ユーモアをうまく使っています。

彼女たちは聴き手を安心させ、晴れやかな気持ちに誘うとともに、

自分に寄せる信頼を確立していくのです。

Ministru prezidents piedal?s Latvijas bankas un Starptautisk? Val?tas fonda konferences "Apst?k?iem sp?t?jot: Baltijas valstu tautsaimniec?bas atvese?o?an?s pieredze" atkl??an?

▲クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事)

自己不信を取り除こう

「リズ・レモンではなく、ティナ・フェイであってください」

(※コメディ・ドラマ「30ロック」は、ティナ・フェイが脚本・制作総指揮を担当し、
主人公のリズ・レモンを演じている)

自分を信頼し、自分が言わなければならないことの重要性を信頼することによって、

ほかの人からの信頼も得ることができる、とヤンキーは言います。

「30ロック」でフェイが演じるリズ・レモンは、いつも自分に自信がなく、

自意識過剰に苦しめられて、結果的に自分の権威を損なうようなことをしているのです。

そうならないためにも、機会を見つけてスピーチの練習をしてスキルを向上させたり、

進んでパネルディスカッションの司会を務めたり、

公的・私的を問わず、さまざまな集まりの場でスピーチをしたりすることを通じて、

自信をつけていくことを、ヤンキーは勧めています。

「細かいところに気を配っていけば、どんどんよくなるはずです」

 

著者:ジェンナ・ゴードロー


元記事:http://onforb.es/KlgI8Y

(翻訳:服部聡子)

著者:Jenna Goudreau エディター、スピーカー

 

 

ネガティブイメージ・キャンペーン

最近、大手カジュアル衣料品チェーン店で買い物をした。
いつものとおり会計をしていると、レジの店員が最後に
「ご意見をお聞かせください」というようなことを言いながら、
アンケートはがきを商品の袋に入れた。
 
その申し訳なさそうな顔が何とも印象的だった。
他の店舗でも同様だった。最後に必ず一言添えながら、アンケートが同封された。
そのとき私が思い出したのは2つ。
1つはそのチェーン店の売上高が大きく減ったという最近のニュース。
 
それからもう1つは、昔勤めていた会社で、破たんした山一證券出身の人が言っていた
「アンケートって会社が行き詰まるとやるんですよね」という言葉だった。
 
絶好調のときのその衣料品チェーン店のレジの店員は、こんな顔はしていなかった。
 
勢いがあって、さすが大手と思わせる接客ぶりであった。
今でももちろん、みな感じが良いとは思うのだが
(競合の某海外アパレルの接客態度には、本当にあきれるときがある)、
はがきを入れるときの店員さんには、何だかみな一様に負のオーラが漂っているような気がした。
 
ビジネスは結局イメージに尽きると思う。
とくにこういった小売業であればなおさらであろう。
「売上が前年比大幅減」で
「店員がはがきを申し訳なさそうに入れる」店の服は、
たとえそれがまったく同じでも、
「売上が絶好調」で「店員の威勢が良い」店の服とは違うような気がするのである。
 
顧客の声が聞きたいのなら、他にもっと方法があるはずである。
単純に、すべてのレジで一言添えてはがきを挟み込むコスト自体が膨大なことに加えて、
店員も顧客も、みんなの気持ちが盛り下がるマイナス効果絶大のキャンペーンである。
 
ちなみにその山一證券出身の同僚が言っていたのは、山一がつぶれる直前の時期は、
やたら社内アンケートのオンパレードであったという話であった。
 
そのとき私(とその同僚)が勤めていた会社も業績が低迷し、社内調査を繰り返していたので、
彼の一言は、周りの空気を凍らせるのに十分な説得力のあるものであった。
 
あなたの会社はどうだろうか。
社内であれ社外であれ、アンケートをしているだろうか。
 
もちろんそれが効果的な場合もあるだろう。
貴重な情報やリストが手に入るかもしれない。
しかしそれは、そのコストと効果と影響を十分見積もった上でやっているものだろうか。
 
ちょっときつい言い方をするならば、自分で考えることをあきらめた末に、
「我々には顧客や社員の声が分かりません」
と丸投げしてはいないだろうか。
 
私はちなみにこの衣料品チェーン店を応援したいと思っている。
日本を背負って立つ存在として、海外でもいっそう頑張ってほしいと思っている。
 
だからこそぜひ彼らにはお願いしたい。
同じ膨大なコストをかけて顧客の意見を収集しようとするのなら、
当然ながらはがきをそのまま捨ててしまった私でも思わず返信してしまうような、
何か秘策を考えてほしいのである。
 


(新海祥子)

 

日本人のあいづち

人の感情の90%は、言葉以外の要素、身ぶりや表情、声のトーンなどで相手に伝わっているといいます。
ところが私たちは、自分の言葉に向けているほどの注意を言葉以外のものに向けているでしょうか?
私たちが気づかないところでコミュニケーションを左右している身ぶりについて、考えてみました。

あいづちというのは、日本人特有のしぐさだというと、
驚く人もいるかもしれません。

もちろん外国人も、相手の話に合わせて、うなづいたり、”Un-huh”と言ったりすることもありますが、
あくまでもこれは「同意」を表明するというニュアンスがあり、日本人のあいづちとは、少しちがうように思われます。

社会学者の多田道太郎も『しぐさの日本文化』の「あいづち」の章で、

日本人のしぐさということで私がまず思いつくのは「あいづち」である。

と言っています。

あいづちとは、多田によると、「鍛冶で、弟子が師と向かい合って互いに槌を打つこと」から来ているといいます。

弟子と師が槌をトンカントンカンと打ち合わすところを、向かい合うふたりの仕草になぞらえているのでしょう。
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wikipedia「刀工」

外国人は打ってくれないあいづち

あいづちというと、私が思い出すのは、こんな経験です。

高校時代、私は近所に住む外国人の家に、英語を習いに行っていたのですが、
そこで最初に気がついたのは、先生があいづちをまったく打ってくれないことでした。
私の眼にぴたっと視線を合わせたまま、通じているのかいないのか、じっと黙ったままなのです。

私もまだろくに言葉も出ないころで、”come” と “go” を言い間違えたりするときだけ訂正をしてくれるのですが、
それ以外は私が言葉に詰まって四苦八苦していても、じっと次の言葉を待っているのです。
相手の視線をはね返しながら話し続けるだけで、全身汗びっしょりになりました。
おそらくそれは、単に語学力の問題や、相手が外国人であるという緊張感ばかりではなかったはずです。

そのとき初めて、日本人が相手ではないと、あいづちというのは打ってくれないことを知ったのでした。
そうして、日本人である私にとって、あいづちのない話というのが、どれほど緊張感を増し、疲れるものかということに、
このとき初めて気がついたのです。

相手によっては誤解されることもあるあいづち

ふだん、私たちは意識しないまま、人の話を聞きながら、あいづちを打っています。
日本人同士なら、お互い、気にも留めないしぐさですが、外国人が相手だと、こんな摩擦を生むこともあります。

以前、聞いた話なのですが、あるアメリカ人が、日本人に頼み事をしました。
日本人はうなずきながら、”Oh, yes,” “yeah” ” I see.” としきりに言います。
アメリカ人は、てっきり相手が頼み事を聞いてくれるものだとばかり思っていたのですが、
最後に「それはできない」と断られてしまったというのです。
アメリカ人は、日本人は不誠実だ、何を考えているか本当にわからない、と、腹を立てた、というのです。
おそらくこの日本人は、日本でのあいづちを、そのまま英語でやってしまったのでしょう。
私はあなたの話を聞いています。
あなたも大変なのですね。
あなたの気持ちもよく理解できます。
それで、それからどうしたのですか?
もっと聞かせてください。
そういう意味でのうなづきや、”Oh, yes,” “yeah” ” I see.”だったのでしょう。

このことは逆に、私たちが無意識にしているあいづちがどういうものか、教えてくれます。
日本人のあいづちは、相手の言葉に賛同を示すというより、私はあなたの話を聞いていますよ、というサインなのです。

Photo by:Dean Wissing

話を引き出すのは「聞いている」という身ぶり

子供の頃、授業中におしゃべりしていると、先生が怒るのは、あたりまえの光景でした。
子供だった私は、別に悪いことをしているという意識もなく、
怒られた時だけ静かにして、じきにおしゃべりを再開したものです。
やがて、人前で話をする機会を得て気づいたのは、
自分が話しているときに私語を交わされるのは、なんともいえず辛い、ということでした。

聞いてもらえないと、事態に支障をきたすという実際的な理由より、むしろ、精神的に辛くなってくるのです。
そのとき初めて、先生が怒っていた本当の理由に思い至りました。
私語を交わしている側は、軽い気持ちでそうしているのでしょうが、話す側からすれば、自分の話を無視して、私語に興じる姿は、
おおげさに言うと、自分の存在が否定されているような気持ちになるのです。
逆に、こちらと目を合わせて、うなずきながら聞いてくれる人がいるのがわかると、
話す口調にも自然に力がこもって、あとでふり返っても、良い話ができたな、と満足できるのでした。
結局のところ、話を引き出すのは、話し手の側よりも、聞き手の「聞いている」という身ぶりということになるのでしょう。

「聞いている」という身ぶりは、さまざまな文化によって異なる現れ方をするものです。
日本人のように、頻繁にあいづちを打ったり、うなずいたりする文化もあれば、
相手の眼をじっと見つめ、ほとんど身動きもせず「一心に聞く」という文化もあるのでしょう。

けれどもそれは「聞いている」というサインであることには変わりはないはずです。
おそらくあいづちを打ってもらえず、冷や汗をかいたかつての私も、日本人の最後のノーに腹を立てたアメリカ人も、
異なる文化に直面したとまどいだったのでしょう。

そうしてその根底にあったのは、相手は自分の話を本当に聞いてくれているのだろうか、
という不安だったのだろうと思うのです。

コミュニケーションというと、私たちはどこかで、
「自分の考えや思いを、相手に伝えること」という風には思っていないでしょうか。

けれども、「伝えること」を引き出すのは、相手の「聞いている」という身ぶりだとしたら。
真摯な「聞いている」という態度こそが、コミュニケーションを支えているのだとしたら。

面接でも、ミーティングでも、商談でも、私たちのコミュニケーションのあり方は、少し、変わっていくのかもしれません。

 

 


(服部聡子)