正しい決断を下すために必要なもの

by スティーバー・ロビンス

 

正しい決定を下すためのスキルを持っているかどうかで、人生は大きく変わります。
「ゴールディロックスと3びきのクマ」の話を思い出してください。
森の中のクマの家にやってきたゴールディロックスは、
おかゆが熱いか冷めているか、ちょうど良いか、思い悩んでいたのです。
家宅侵入が罪であることにも考えが及ばないほど、
おかゆの温度に夢中だったのですから。
野生のクマの所有する家だったというのに!
MITの学生時代、数ある学生寮には、それぞれ個性がありました。
私たちのところでは、新年度最初の一週間、新入生歓迎会を開き、
新入生にロブスターを食べさせて勧誘していました。
そこで「ベイカーハウスの方が部屋がきれいだった」と新入生が言えば、
「自分が気に入ったところを選べばいいよ」と私は答えていたのです。
「もちろん君の選択は、君が1人の人間として決定すればいいよ。
そこから人生の全体が決まっていくんだからね。
でも、そのことは忘れて。今はこのロブスターを食べなよ」
決断の結果は、今から始まり、のちのちまで続いていきます。
けれども私たちが何ごとか決定する場合には、
たいていのとき、たった1つの時間枠での結果しか考慮していません。
正しい決断を下すためには、それにふさわしい時間枠が必要です。

誘惑には対象期間がある

私たちが結果について思いめぐらしたとしても、
その対象となるのは数分間、数週間、せいぜい数か月というあまりに短い期間です。
けれどもほんとうに重要な結果は、何年も先になってからでないと、出ないかもしれません。
あなたの人生を形成する時間を、今晩のロブスターを基準にして選ぶのでしょうか?
それではあまりに対象とする時間枠が短くはないでしょうか。
オレオ・アイスクリーム・ケーキが食べたいとき、
私たちが考えるのは、「おいしい!」と感じる一瞬のことだけで、
それを消化するための、3週間にわたる有酸素運動ではないのです。
不快な、遠い将来の結果を、意識的・具体的に想像することによって、
誘惑に抵抗することができます。

不快な予感は短い時間枠での決断を引き起こす

私はコーチングの実践の中で、クライアントが誤った決断を下す場合は、
誤った時間枠に基づいていることに気が付きました。
あるクライアントは、自分には合わない仕事を選びました。
「私にオファーが来たのは、これだけだったんです。
だから、この仕事をやるしかないわ!」
何という誤りでしょう。
たった今、ほんの短期間の不安を和らげるために、
自分が嫌いぬいている仕事を何年も続けるという、ストレスの道へ飛び込もうとしていたのです。
けれども、ほとんどの人は、長く働くことのできる、自分に合った職を見つけるために
求職活動を延長するより、ストレスの多い求職活動を短期間で切り上げることを選びます。
短期のものは、長期のものより魅力的に映るのです。
ほかの決定の際でも、多くの人は短い時間枠で考えます。
長期的に見て合わなくても、目先の必要を満たす選択肢を選びがちなのです。
「ほんのちょっと」「今だけ」「さしあたって」
このような言葉に目をくらまされて、起こり得る深刻な問題に目をふさごうとします。
「たった1度だけ」なら、悪いことをしてもかまわない、というように。
「たった1度だけ」が簡単に堕落へとつながっていくことにも気づかないのです。
緊急対応計画であっても、短期的な時間枠と、長期的な時間枠をペアにして、
決断を下してください。
新しくその職に就いた人のための試用期間は、
長期採用した場合にふさわしくない人に任せることのないよう、
現在の必要を満たすための緊急対応計画にほかなりません。
短い期間に周囲を汚染するような人であっても、
適切に指導し、再評価できるなら、立派な緊急対応計画になります。
あるいはまた、倫理の斜面を転げ落ちることを苦にしなければ、
タックスヘイブンの地、ケイマン諸島に別荘を持つことは、
緊急対応策にちがいありません。

遠くを見すぎる場合には

同様に、私たちは遠い将来のことを考えることもあります。
多くの起業家は、自分たちがどのように利益を上げるか考えることもなく、
会社を起ち上げます。
「10年もしたら、全部わかるだろう」というように。
けれども、今を生き延びる計画がなければ、10年も経たないうちに
資金は底を尽き、失敗してしまうでしょう。
高い目標達成をする人は、はるか将来に意識を向けていることが多いものです。
彼らは必死で働き、家族や趣味、友人や生活を軽んじがちになります。
どうしてなのでしょう。
彼らは次の昇進に、引退後の計画に、子供たちを大学に送ることに、
あるいはまた、いつの日か人工知能を持ったダチョウを発明して、
世界を征服することに、目を奪われているからです。
この場合、彼らは将来に備えるあまりに、現在を損なっています。
彼らは、今、家族と幸せに過ごすこともできるのです。
子供たちに、自分の大学資金を得る方法を教え、助けてやることもできるのです。
趣味や友だちや生活を楽しむこともできるのです。
人工知能のダチョウのことは、そこまで確かではありませんが。
長期的な観点のみに基づいた決定は、短期的なリスクを引き起こす可能性が、きわめて高いのです。
しかも、短期的なものを無視することで、
自分のほしいものや、すでに自分が持っているものを見失ってしまいます。
長期的な方向を定めつつ、その途上の短期的な毎日を楽しむ、ということが、
私の考える、すばらしい生活なのです。
もしあなたが長期的な時間枠のみに集中しているなら、
それをやめて、短期的な時間枠や「いま、このとき」に目を向けてください。
もしかしたら、あなたは自分が望むものが、すでにあるのかもしれません。
であれば、かならず長期的な目標に到達するまでの、短期的な延命策を用意してください。
さまざまな意味での「延命」、経済的にも、肉体的にも、社会的にも、精神的な意味でも。

決断を下す時には さまざまな時間枠を考える

決断を下す場合、あなたはゴールディロックスになりがちです。
きわめて短期的な時間枠のみで考えてしまうのです。
そこで、もう一度考えます。
きわめて長い時間枠で考えるのです。
そこから、情報をもとに、適切な時間枠、三番目の時間枠で、もう一度考え直すのです。
緊急対応策が必要なときも、短期間の延命策も加味され、
長期的な計画を立てることができるでしょう。
また、あなたの計画対象期間も、適切なものになるはずです。
(翻訳:服部聡子)