イノベーションを引き出すシンプルな質問
by ガイ・カワサキ
元記事:http://linkd.in/1H05xu2
(※この記事は著者の承諾を得て翻訳しています)
成功した会社には、創業者が壮大な抱負を抱いて第一歩を踏み出した……という神話がつきものです。
この話が言外に匂わしているのは、起業家が成功しようと思えば、
誇大妄想的な目標を掲げてスタートしなければならない、ということです。
ところが私の見るところでは反対に、多くの大企業は、ごく単純なことを
「なぜだろう?」と考えるところからスタートしているのです。
つまり、単純な疑問こそが会社を生みだす、と言えるでしょう。
「ということは、どういうことなんだろう?」
この質問が起こってくるのは、何かを見つけたり、トレンドを予測したあと、その先に思いを馳せるときです。
この質問は、実際にはこのように現れていきます。
「誰もがカメラ付きでインターネットにアクセスするスマートフォンを持つようになるだろう」
「ということは、どういうことなんだろう?」
「みんな、写真を撮るようになり、人に見せたいと思うはずだ」
「ということは、どういうことなんだろう?」
「みんなが自分の撮った写真をアップロードしたり、人の写真を評価したり、
コメントを投稿したりできるようなアプリを開発しなければならない」
そうして、ジャーン、インスタグラムが出来上がりました。
(参考 : エイドリアン・J・スライウォツキー 『ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか』)
「これはおもしろくないか?」
この問いかけが原動力となって、知的好奇心が発動し、偶然の発見が生まれます。
電化製品のセールスマンだったレイ・クロックは、人里離れたところにある小さなレストランが、
8台もミキサーを注文したことに気がつきました。
好奇心からそのレストランを訪ねてみると、そこが大変繁盛しているのを見て、強い印象を受けたのです。
クロックは、ディックとマックのマクドナルド兄弟に、同様のレストランを数多く出店するよう強く勧めました。
その後どうなったかは、周知の通りです。
Photo By:Jerry Huddleston
「もっと良いやり方はないだろうか?」
現状の技術の状態に対するフラストレーションが、この言葉には端的に表れています。
かつてフェルディナンド・ポルシェは、こう言いました。
「最初、私はいろいろ見て回ったのだが、自分の夢にかなうような車は見つからなかった。
だから、自分で作ろうと決心したのだ」(参考:フォーブス2003年冬号)
スティーブ・ウォズニアックがアップルIを作ったのは、政府や大学や大企業で働かなくても、
コンピューターを使える方法を考えたからでした。
Photo By:Ed Uthman
「どうして我が社はこうしないのか?」
現在の雇い主に対する不満は、以下のような情況では触媒として働きます。
あなたは顧客や彼らが求めているものをよく知っています。
そこで経営陣に、顧客が必要とするものを作るべきだと訴えるのですが、彼らはあなたの言葉に貸そうとしません。
とうとうあなたは説得をあきらめて、自分で作り始めます。
「可能性があるんだから、やってみないか?」
あらかじめ、成功が約束されているイノベーションなど存在しません。
ですから、「失敗したっていいじゃないか、やってやるぞ」という態度を言葉にすると、こうなります。
たとえば1970年代に、モトローラが携帯電話を考案したときも、ほとんどの人にとって、理解不能なものでした。
当時、電話といえば人ではなく、場所につながるものだったからです。
ところが、マーティン・クーパーとモトローラ社のエンジニアたちは前進し、やり遂げたのです。
それからどうなったかは周知の通りです。
「お告げでもあったのか?」などと言われても、無視することです。
「業界トップの弱点は何だろう?」
市場最大手は、以下の3つの面で、脆弱性を抱えています。
第1に、ビジネスのやり方。
IBMが再販業者を通じて販売していたので、デルは直接販売という方法でイノベーションに成功しました。
第2に、顧客が最大手に対して不満を抱いているとき。
ブロックバスターでビデオを借りようと思えば、車で行き、また返すときにも車を使わなければなりませんでした。
ネットフィリックスのチャンスはそこにありました。
第3に、最大手に金の卵を産むニワトリがいて、イノベーションを怠ったとき。
これはマイクロソフト・オフィスがグーグル・ドキュメントに影響されていることに端的に現れています。
Photo By:Eric
「どうやったら大金が稼げるだろう?」という質問は、種類がちがうものです。
私のことを理想主義者と呼んでもらってもかまいませんが、偉大な企業は、金持ちになりたいという欲望ではなく、
「どうやったら世界を変えることができるのだろう」
というシンプルな質問に答えようとしているのです。
(翻訳:服部聡子)