性差別は女性ばかりでなく男性にとっても不利

by クリスチャン・ジャレット

 

 

どれほどあなたが自分をしっかり持っていたとしても

あなたの年齢や性別、人種や民族による特性に基づく周囲の判断からは、

逃れることはできません。

職場で、そこにいるのが男性か女性かというだけで、

周囲の人々がどれほど態度を変えているか、

心理学は多くの人々の日常の経験を通して、

さまざまな事例を明らかにしています。

とりわけ私たちが「性差別を行わない」という視点を欠いたまま

他人を判断する際には、

相手が男性であっても女性であっても、

偏見に基づく悪影響を受けている可能性が高いのです。

こうした偏見というのは、どのようなものなのでしょうか。

あなたの職場でも起こりうる5つのパターンを見ていきましょう。

 

1. 女性は正々堂々と意見を述べたり 怒りをあらわにすると罰せられる

専門職の女性は、自己主張することによって、

男性からも、他の女性からも、厳しい目で判断されます。

一例をあげると、ある研究によれば、男性及び女性の被験者は、

女性のCEOが積極的に主張し、自説を曲げない場合は、

能力を欠いており、リーダーの役割にふさわしくないと考える割合が高く、

男性のCEOに対しては、結果はまったく逆で、

寡黙で控えめな態度は、無能のあらわれであると見なされました。

怒りに対しても、同様の結果が得られています。

怒りは、コントロールされたものである限り、交渉や、

期待する働きをしていない人を奮起させる道具として、

重要な感情です。

ところがあなたが女性であれば、怒って感情をあらわにすると、

犠牲を払うことになります。

 

2008年の研究によると、怒っている男性は、男性からも女性からも、

高い地位にあり、有能な人と見なされたのに対し、

怒っている女性は、低い地位の、有能ではない人と判断されることがわかっています。

それだけでなくこの研究は、女性が怒りの原因を明らかにし、

なぜ自分が怒っているかに焦点を当てることによって、

反発を避ける戦略が可能であることも指摘しています。

このプロセスを経ることで、女性であることが、不利に働きにくくなるのです。

男女差別がある状況は、男性にとっても決して有利ではありません。

差別によって被害を受けるのは、男性も同様です。

たとえば面接の場で、控えめな態度を取っていると

「男らしくない」と評価されたりします。

2. 女性の上司の下で働く男性は偏見にさらされる

職場の機会均等によって、不可避的に女性の上司の下に男性がくることも増えました。

ところが性差に対する旧弊な見方から、

女性上司の下の男性は、特別な目で見られる傾向にあります。

とりわけその業界が、通常「男性の領域」にあると考えられる場合、

その傾向は顕著なものになっていきます。

これを明らかにした研究もあります。

被験者は「ある男性は建設業界で働いてるが、上司は女性」

という説明書きを読みます。

 

被験者は男女とも、彼は男性上司の下で働いている他の男性より、

賃金、地位ともに低く、いくぶん女性的である、と判断したのです。

(一方、女性社員が女性中心の業界で、男性上司の下で働いている、という仮定では、

そうした偏見にさらされることはありませんでした)。

私たちは、こうした男性が「男らしくない」と見なされる偏見が、

女性リーダーにとっても不利に働くことを見ておかなければなりません。

自分が男らしくないと見なされることを怖れて、

女性上司の下で働きたがらない男性も多いからです。

認めたくないことですが、これには実際的な解決策はありません。

ただ、いくつかの調査では、男性がステレオタイプの男性性を証明するものを

強調することによって、女性上司の下にいる男性に対する偏見は、

相殺されることが明らかになっています。

たとえばスポーツや車の話題を好んで口にするような場合です。

本当の解決策は、性差に対するステレオタイプを全面的に改める点にあることを思えば、

この解決案には不満を抱かざるを得ませんが。

 

 

3. 女性は失敗が予想される組織を任される傾向にある

重役のメンバーが、女性を含めて構成されている企業ほど

業績が良いことが実証されているにもかかわらず、

上級幹部の中で、女性が過小評価されるケースは、未だ極めて多く残っています。

イギリス企業を分析した心理学者は、彼女たちがトップに昇進するのは、

うまくいかなくなりつつある組織である傾向が高いことに気がつきました。

いわゆる「ガラスの断崖(※失敗の怖れが極めて高い地位)」と呼ばれる現象です。

このことが非常に顕著に表れたケースとして、

2009年、世界的な金融危機の中、未曾有の危機に直面したアイスランドの選挙で、

ヨハンナ・シグルザルドッティルが発の女性首相に就任した出来事が上げられます。

もうひとつ、同様の事例として、2012年マリッサ・メイヤーの

ヤフーのCEO就任も上げられるでしょう。

これは、危機に直面したときに、伝統的に女性の特質、

たとえばコミュニケーション・スキルが高い点などに価値が置かれるために、

このような作用が生じると考えられます。

けれども、このようなタイミングでのみ、女性が偏愛されている現象は、

沈没しつつある組織という毒杯を、女性に押しつけることの現れでもあります。

船が最終的に沈没してしまえば、女性だから、と非難しやすくなるのです。

 

 

4. 家族のために休暇を取る男性は弱いと見られやすい

職場環境の改革によって、出産や、病気の血縁者の介護のために

男性が休暇を取ることは(無給のものであることも多いのですが)

簡単になりました。

とはいえ、人々の態度はあまり変わっていません。

研究によれば、私たちの多くは、男性が優先すべきは仕事である、

という伝統的な価値観を抱いたままで、そうでない態度を取る人には、

否定的な評価を下しがちであることが明らかになっています。

研究者たちはそれを「フレキシビリティの汚名」と呼びます。

ある研究では、女性ではなく男性が、

子供や病気の親族の面倒を見るために休暇を取った場合、

被験者たちは厳しい判断を下す傾向が見られました。

休暇を取ることは、仕事に貢献することなく、

同僚に迷惑をかけていると受けとめたのです。

ラトガーズ大学の心理学者による最近の研究では、

同様の筋書きで、この「汚名」の理由の手がかりを探りました。

被験者は男性従業員と、人事部長の面談の記録を読みました。

病気の近親者の介護をするために休暇を申し出た男性は、

そうでない社員より、能力が低いと見なされ、

低賃金でもかまわないと判断されたのです。

その理由として、被験者は、男性女性ともに、

その従業員は意気地が無く、女々しいと判断したからです。

男性が家族のために休暇を取っても良い、という方針が導入されて、

まだ十分な時間が経っていない、ということなのかもしれませんが、

私たちの態度の面でも、改革が必要なようです。

男性が家族を優先することについての偏見をなくす1つの選択肢として、

父親に対して出産・育児休暇を強制的に取らせることが考えられます。

私たちは、女性の場合も含めて、家族の問題に関することでは

偏見にさらされることが少なくありません。

妊娠の場合は特にその傾向が強いようです。

妊娠すると女性の頭の働きが鈍くなるという通説が広まっていて、

調査によると、適性試験や面接の結果が同程度であっても、

妊娠中の求職者は、そうでない求職者より、職に就きにくいことが明らかになっています。

 

5. 女性は「情け深い性差別主義」に嫌な思いをさせられる

情け深い性差別主義は、実際には出来そうもないことに対して

表面的な親切をしてみせます。

たとえば、イギリスの国民保健サービスを考えてみてください。

女性のマネージャーも男性と同じように、トレーニングコースに派遣されます。

けれども、やりがいのある仕事、

たとえば大きな事件や緊急事態の際にどのように対処するかといったことを

まかせられることはほとんどありません。

研究者は、こうしたことが起こるのは、

決定権を持つ男性が、未だに女性は男性の保護を必要とすると考えているからだと

結論づけています。

昔ながらの情け深い性差別主義的な事例です。

学生と共におこなった追跡調査では、

最も挑戦的な役割に参加したいと希望する女性は、男性とほぼ同数であったことが

明らかになっています。

ジョージ・メイソン大学のエデン・キングと同僚は、この結果をふまえ

「女性の前進を抑えつけようとするのは、

従来からある性差別主義者の敵対ばかりではなく、

一見、思いやりのある決定や行動でもあると言えるでしょう」

と結論づけています。

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心理学の研究には、伝統的な性差別的なものの見方に逆らおうとした男性と女性が、

どのように罰せられるか、という事例であふれています。

これらの偏見を打ち砕くには、時間がかかるでしょう。

けれども、単にこうした偏見に自覚的であるだけでも、

対抗するチャンスが生まれます。

性別に関係なく、自分の本当の潜在能力を発揮できるようになることが、

私たちすべてにとってのゴールです。

昨年、カナダとシンガポールの研究者が、オリンピックのメダルの国別集計を見たときに

はっきりとしたパターンが明らかになったのです。

男女平等がより達成されている国で、

男女とも、数多くのメダルを獲得していました。

 

 

 

 


元記事:http://bit.ly/1KRR0la

(翻訳:服部聡子)