リチャード・ブランソンからのアドバイス
by リチャード・ブランソン
父の教え
子供の頃のわが家はいつも、あわただしさのまっただ中にありました。
母は、次から次へと新しい起業の計画を練っていたし、
私と妹は、大騒ぎしながら駆け回っていました。
当時の私は、母の新しいプロジェクトを手伝っているか、
外で木に登っているか、でした。
こんな楽しくも混乱した中で、いつも父は頼もしく、
私たちみんなの心を穏やかにするような影響を与えていました。
とりたてて無口というほどでもなかったのですが、
たいていのとき、私たちのようにおしゃべりではありませんでした。
おかげで、わが家はバランスが取れ、私たちはいつでも、
どんなことでも父に頼ればいいのだ、と感じていたのです。
それとなく私たちを見守りながら、
父は何よりも大切で、シンプルなアドバイスを、私に授けてくれました。
自分が話すより、もっと相手の言うことに耳を傾けるんだよ、と。
確かに、自分が話していることからは、新しいことは何も学べません。
以来、どこに行くにせよ、私はそこで会う人からの話を聞く時間を、
できるだけ取るようにしています。
人は自分の知らないことを教えてくれる
幸いなことに、私は世界中を旅行して、
あらゆる社会に住む、大勢の魅力的な人と出会っています。
そんな人と、自分の個人的な経験をシェアできるのは、いつも楽しいものですが、
逆に、相手の話を聞かなかったとしたら、それはずいぶん愚かなことでしょう。
私はいつもペンとノート、もちろんのこと iPad を持ち歩いていますが、
その理由のひとつは、自分の考えを書き留めておくためです。
身の回りの人が語る言葉に、ただ耳を傾けるだけで、
多くのことが学べるのを、知らない人は多いでしょう。
電車の乗務員であろうと、宇宙船を整備しているエンジニアであろうと、
コンピュータのカスタマー・サービス担当者であろうと、
自分の耳を開いておくだけで、どれほど新しい、有益な情報が入ってくるか、
驚きはつきることがありません。
ビジネスで人に会うことも多いのですが、
運良く、ちょっとした成功をおさめたような人は、
とりわけ自分の声を聞かせるのが大好きです。
ところが、そんな人は、自分の話が終わり、ほかの人が話し始めると、
こちらから見てもはっきりわかるほど、スイッチをオフにしてしまい、
目を合わせて、真剣に話に参加することをやめ、
おざなりな相づちを打ったり、スマートフォンをいじったりし始めます。
それに対して、私の知っている、大きな成功をおさめた起業家は
いずれも共通して、聞き手として卓越したスキルを備えているのです。
おそらく、真剣に聞こうとしなかった人はみな、
そんなことは全部わかっている、と思っていたのでしょうが。
自分が知っているのはほんのわずかなことにすぎない
父のアドバイスを視覚化するために、私は大きな円をイメージするのが好きです。
その円は、私たちが学びうるすべてのことを表しています。
私自身が知っていることは、ほとんど見えないほどちっぽけな点です。
人類が今日までに知ったことを集めても、
この円の中の小さなシミにしかならないでしょう。
私たちがこれから学んでいかなくてはならないあらゆることが、
残ったスペースを埋めていくのです。
広大な宇宙のなかで、私たちは毎日、学んでいます。
耳を傾けない人は、そのチャンスを失ってしまうのです。
著者:リチャード・ブランソン
(翻訳:服部聡子)