本:『人格形成への道』
The Road to Character
David Brooks
原題:『人格形成への道』
著者 デイヴィッド・ブルックス
この本を書いて、自分が人格形成への道をたどることができたかどうかはわかりません。
けれども、少なくとも、その道がどんなものかはわかったような気がするし、
ほかの人がどのようにたどっていったかもわかったのだと思います。
デイヴィッド・ブルックス
何百万の読者を有するニューヨークタイムズで、
知性やユーモア、好奇心、鋭い知見にあふれるコラムを通じて、
デイヴィッド・ブルックスは、日常生活に
思いがけない角度から光を当ててきました。
人間がどのように結びつき、
その関係を豊かにしていくかを、
神経科学の見地から探求しています。
今回の『人格形成への道(原題)』で、ブルックスが焦点を当てるのは、
私たちの人生を形成する、より深い価値についてです。
ブルックスは、現在の私たちを取り巻く状況を
外的な成功を強調する 「大文字の私(Big Me)」 文化と呼びます。
その文化に対抗して、私たちは(著者みずからも含めて)
「履歴書に書ける美点」、すなわち財産や名声や社会的地位といったものと、
「褒め言葉としての美点」、人間としての私たちの中核に存在する、
優しさや、勇気や、誠実さといった、人間関係を形成する上で重要なものとの間で、
もう一度、バランスを取り戻そう、というのです。
ブルックスは、世界中の偉大な思想家や指導者に目を向けて、
彼らがどのように葛藤や、自分の限界を知りながら、
強い自我を形成していったかを探求していきます。
アメリカ初の女性労働長官となったフランシス・パーキンスは、
自分の一部を抑える必要を理解し、大きな組織の一部となることができました。
ドワイト・アイゼンハワーは、自分の人生を、自己表現の場としてではなく、
自制の場と考えて創りあげていきました。
ラディカルな共産主義者からカトリックに改宗し、カトリック労働者運動を創設した
ドロシー・デイは、若い女性として、簡素であること、身を委ねることの意味を悟りました。
市民権運動の先駆者であるA.フィリップ・ランドルフとバヤード・ラスティンは、
寡黙であること、自己を律する論理を学び、
偉大な改革運動をおこなっているさなかでも、自分を疑うことの必要を理解したのです。
心理学や政治学、精神性や告白をも織り込みながら、
『人格形成への道』は、私たちが自分の中での優先順位を見直し、
人間性と道徳的な深みを持つ、豊かな内面を築く機会を与えてくれます。
(翻訳:服部聡子)