本:『スティーブ・ジョブズになるまで』
Becoming Steve Jobs: The Evolution of a Reckless Upstart into a Visionary Leader
『スティーブ・ジョブズになるまで
無謀で横柄な青年が洞察力に満ちたリーダーへと遂げた進化』
著者 ブレント・シュレンダー、リック・テッツェリ
史上もっとも有名なCEOのひとりであるスティーブ・ジョブズに関しては、
既に大小さまざまな本が、数多く出されています。
けれども、本書はこれまでに書かれたものとは一線を画すものです。
『スティーブ・ジョブズになるまで』は、既存のジョブズ神話やステレオタイプ像に
真っ向から立ち向かい、打ち壊そうとするのです。
従来の、一次元的ジョブズ像とは、
天才と変人が相半ばする青年であり、
かんしゃくもちで利己的なリーダー、
家族や友人を軽んずる人物、
というものでした。
『スティーブ・ジョブズになるまで』では、
アップル社の共同創設者であり、CEOともなった彼の人生とキャリアに対する疑問の核心、
すなわち、向こう見ずで傲慢な青年、自分が作り上げた会社から締め出されるような青年が、
私たちの時代のもっとも強力で、未来を見通す力を持ったビジネス・リーダー、
世界中の何十億という人々の生活を根底から変えていくような人物となっていったのか?
という疑問に対するひとつの回答です。
普段は接触できないような人々にまで、驚くほど綿密な取材を重ね、
著者のシュレンダーとテッツェリは、従来とは異なる物語、
長い時間をかけてみずからの欠点に立ち向かい、
強さを極限まで高めていった、リアルな人間のストーリーを語ります。
豊かで魅力的な語りを裏づけるのは、これまで語られたこともなかった、
誰よりもジョブズをよく知る人々の数多くの証言です。
家族、アップルの側近やピクサー、ディズニーの重役、ティム・クック、ジョニー・アイブ、
エディ・キュー、エド・キャットムル、ジョン・ラセター、ロバート・アイガー、その他にも大勢の人々。
さらに、著者のひとりシュレンダーは、25年にわたってジョブズと個人的に親交があり、
これまで公式・非公式におこなった数多くのインタビューも、同書には盛り込まれています。
両著者は、ジョブズの行動を単純に書き記すだけでなく、人間として描き出します。
私たち誰もが経験したテクノロジー革命と、
ジョブズがさまざまな面でこの世界を変えていったことについても、言及されます。
シュレンダーとテッツェリは、アップルでのジョブズの驚くほどの成功は、
彼が単に適切な製品を選び出したというより、はるかに複雑なものであったことを浮き彫りにしています。
ジョブズは忍耐心を養い、側近を信頼することを学び、
きらびやかな画期的製品であることを狙うのではなく、
少しずつ会社を発展させることの重要性を見出していったのです。
踏み込んだ内容の、数多くの証言によって、私たちのジョブズ像は、大きく様変わりすることでしょう。
『スティーブ・ジョブズの生成』は、私たちの時代の、誰よりも波乱に富んで魅力的な人物が、
倦むことを知らない情熱と、成熟した経営スタイルで、
この惑星でもっとも価値の高い、愛された会社をどうやって作ったかを教えてくれます。
(翻訳:服部聡子)