ほどよい噛みごたえを目指して

するめのおいしさの一要素が噛みごたえであるように、翻訳にも噛みごたえが大切だと思っています。書き手の想いがこめられた原文を台無しにしないように、文章に合わせた、かたすぎずやわらかすぎない言葉を選ぶように心がけています。

たとえば、lifeという単語が出てきたとしましょう。「人生」「暮らし」「生活」などと訳されることが多い単語です。ある人の生活について書かれている場面で、このlifeに「人生」という言葉をあててしまったら、ちょっとカタすぎる大げさな文章になってしまいます。逆に、ある人の人生や信念ついて書かれた壮大な文章なのに、「暮らし」という言葉をあててしまったら、やわらかすぎて読みごたえがなくなってしまいます。

では、friendlyという単語なら、どんな噛みごたえにするのがよいでしょうか。この単語は、人間、お店、雰囲気などさまざまな名詞につく形容詞です。論文などのカタい文章や一般向けの文章なら、「好意的な」「親しみやすい」「親切な」、カジュアルでくだけた文章なら、「フレンドリーな」といったところでしょうか。コンピューター関連なら、「(ユーザー)フレンドリー」という言葉がちょうどよいでしょう。

advantageという言葉はどうでしょうか。ビジネスに関する文章なら、「(競争上の)優位性」「(自社の)強み」「長所」などがちょうどよいところでしょうか。スポーツの世界なら、「アドバンテージ」という言葉がよくつかわれています。私はサッカーが好きなのですが、サッカー用語として「アドバンテージ」という言葉があります。試合中継では、「Aチームが優位だと判断しました」ではなく「Aチームのアドバンテージを取りました」とカタカナ語で実況してもらったほうが、サッカーらしい試合の雰囲気を壊さずに楽しめると感じています。

おカタい英語の文章には堅い日本語を、やわらかい英語の文章にはやわらかい日本語をあて、言葉の意味も雰囲気も的確に伝えることを念頭に置いて、日々翻訳をしています。


(渡部真紀子)
ShimaFuji IEM 翻訳チームの一員。
アメリカの大学でビジネスを学んだ後、帰国して小売り業界で働くが、国際的な仕事への想いが募り、翻訳の道へ。マーケティング関連の翻訳を経て、弊社翻訳チームに加わる。