ビジネスプランの「禅」

by ガイ・カワサキ

 

 

一冊の本ほどにも分厚いビジネスプラン作成に人生を捧げる前に、

ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された

「起業:最初の一歩を踏み出すために必要な正式事業計画書」

という記事に引用されていた名言をご紹介しましょう。

 

――計画は役に立たない。だが、立案はすべてにまさる。

 ドワイト・D・アイゼンハワー

 

1985年-2003年、バブソン大学の卒業生の起業した116社を

分析した研究結果が発表されました。

成功の指標として、歳入、従業員数、実収入などを導入して比較した結果、明らかになったのは、

起業に際して正式なビジネスプランを準備したか否かは、

のちの成功に統計的な有意差が見られなかった、ということでした……

 

「本当のところ、私たちがやりたくないのは、1年間、

下手をしたらもっと時間を費やして、ビジネスプランを作成することなんです。

現実に顧客が来てくれるかどうかもわからないのに」

と、この研究の著者、バブソン大学のウィリアム・バイグレイヴ氏も言っています。

「でも、やるしかないんです」

と起業家の気持ちを擁護していますが。

 

さらに、起業家は下書きに何ヶ月も費やしたがために、

それが不備のある計画書であっても、しがみつく傾向があることも指摘しています。

 

この研究報告を読んで、計画もビジョンも、

コミュニケーションやチームワークといったものには必要ないのか、

と結論は出さないでください。そんなことはありませんから。

 

確かなのは、ビジネスプランはそれ自体で動き始めるものではない、ということです。

ツールではあるけれども、それ自体が目的ではありません。

 

効果を上げるビジネスプランを書くために学ばなければならないこと。

それが「ビジネスプランの禅」なのです。

 

 1. 実施要項に焦点を当てる

実施要綱は、ほんの1、2ページにすぎないものですが、

ビジネスプランの何よりも重要な部分です。

もしその箇所が、とびきりのもの、目を引きつけ、胸を高鳴らせるようなものでないなら、

投資家はそこから先は読んでくれないでしょう。

たとえあなたのすばらしいチームには誰がいて、

あなたがどんなビジネスモデルを持っていて、

どうしてその製品が新しい地平を開き、パラダイムシフトを巻き起こし、

革命的であるといえるのか、などと書いてあったとしても。

 

仮に、そのプランが純粋に社内向けだったとしても、

努力の80%は、しっかりした実施要綱を書くことに注ぐべきです。

ところが大半の人は、誰も説得できないどころか、理解さえしてもらえない、

膨大なエクセル表を作成することに80%の努力を傾注しているのです。

 

 2. 書くことには意義がある

 

多くの人は、投資家の気を引くためにビジネスプランを書きます。

ところがビジネスプランによって資金を集めようとしている起業家に対して、

大半のベンチャーキャピタリストは、その売り込みの間にGoサインを出すか、やめるか、

本能的に決断しています。

 

ビジネスプランを受け取る(そして、おそらくは目を通す)ということは、

注意義務に基づいた、機械的な段取りのひとつにすぎません。

仮に資金を集められなかったとしても、ビジネスプランを書くことには、

もっと有意義で大切な理由があります。

ビジネスプランには、目的(何を)、戦略(どうやって)、戦術(いつ、どこで、誰が)について、

経営陣を団結させる力があるのです。

 

 3.  作成は一人の手で

 

ビジネスプランの作成は、経営陣をも含めたグループワークではありますが、

実際に書くのはひとり(できればCEOが望ましい)に任せるべきです。

ひとりの筆者ではなく、複数の人間が分担し、コピーペーストで作業を進めた場合、

統一の取れた文書に仕上げることは大変困難になります。

 

 4. 計画の前にキャッチフレーズを

 

多くの人がビジネスプランを作成しますが、そのほとんどはガラクタです。

60ページのうち50ページが統計と、もったいぶった専門用語、略語、

「われわれに必要なのは、市場の1%のシェアである」

といった意味のない文句でできています。

そんなもので売り込もうとするのですから。

 

正しい順番はこうです。

まず完璧なキャッチフレーズの作成をし、

そのつぎにそれをもとにしたビジネスプランを書くのです。

ちゃんとしたキャッチフレーズは、事業計画書を蒸留したのちに出て来るものではありません。

それはなぜでしょうか?

その理由は計画を修正するより、キャッチフレーズを修正する方が、はるかに簡単だからです。

何通りかキャッチフレーズを作成してみて、使えるかどうかを試し、

そののちにビジネスプラン全体を書き始めるのです。

どんなにおおぜいの人が、全文を仕上げたのちに、要約を書いていることでしょう。

 

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 5. すっきりと、読みやすく

 

理想的なビジネスプランとは、20ページ前後、これは統計や補遺を含んでいます。

提出する事業計画書は、余計なものがないほうが良いのです。

20ページを超えると、10ページ増えるごとに、

計画書に目を通してもらえる割合は、25%ずつ下がっていきます。

 

多くの人は、ビジネスプランの目的を、

投資家に衝撃を与え、畏敬の念を起こさせ、お金を振り込んでもらおうとするためだと誤解しています。

 

実際は、ビジネスプランというのは、次の段階に進むためのものです。

保証人や顧客の確認といった、投資対象の資産価値・収益力・リスクなどの調査分析が、それに続きます。

考えている内容が煮詰められていればいるほど、計画書は短いものになっていきます。

計画書が短ければ、読む側も簡単に読み終えることができます。

 

 6. 財務計画は1ページ、キー・メトリクスをプラス

 

多くのビジネスプランには、5ヵ年事業として1億ドルという数字が最上段に計上されていながら、

項目欄には、鉛筆の予算といった細かいことが書かれていたりします。

これでは、誰が見てもあてずっぽうな数字を並べているだけだと思われてしまいます。

 

みなさんにお願いがあります。

エクセルの誇大妄想を1ページにまとめて、

事業をキー・メトリクス(※ 総利用時間や 総人口、年齢分布、性別比率などの統計データ)に基づく

予測を出してください。

たとえば、有料入場者数などの数字です。

こうしたキー・メトリクスは、仮説を確かなものにします。

万一あなたが、初年度、

フォーチュン誌が選ぶ500社の20%に製品を購入してもらえると見込んでいるならば、

一度、リハビリプログラムを検討してみた方が良いかもしれませんが。

 

 7. じっくり書け、迅速に行動せよ

 

私はこの言葉を、『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』を著した、

友人のクレイトン・クリステンセンから借りました。

イノベーションのジレンマ

 

つまり、ビジネスプランを書くときは、

自分がこれから何をやるのか、

完全に理解しているように行動せよ、ということです。

熟慮を重ねるべきです。

間違っているかもしれませんが、ベストをつくすのです。

 

とはいえ、どんなに熟考して書いたからといっても、

新しい情報やチャンスに直面しても、計画書に固執してはいけません。

計画の実行においては、迅速さが求められるのです。

すなわち、柔軟性をもってすばやく動く。市場のことがわかればわかるほど、計画は変わっていきます。

 

以下に手順を述べます。

 

キャッチフレーズを決め、それをもとに1-2週間かけてビジネスプランを書く。

チームにも相談しながらビジネスプランを煮詰める。

(ビジネスに対するものの見方考え方が、それぞれ、どれだけ離れているかわかるはずです)。

 

ビジネスプランは、作業のための文書だと考えて、

これで実際のビジネスを動かしていこうなどとは考えないことです。

もしこのようにやっていけば、90%のライバルより、優れたビジネスプランが書けるはずです。

 

 

著者:ガイ・カワサキ


 

元記事:http://bit.ly/1Yqh2W5?

(翻訳:服部聡子)