イノベーションの技術

 

 

    イノベーションとは、起業家精神にとって、特殊な道具である。  

    イノベーションが源となり、富を創造するという能力が花開く。   

                       ― ピーター・ドラッカー

 

 

ピーター・ドラッカーは正しいことを言っています。

イノベーションとは、富を生むものです。

イノベーションとは、実際、ひどく困難なことですから、 もうけが出るのもあたりまえなのかもしれません。

 

このコラムの目的は、イノベーションの原理を説明することです。

私はそれを、アップル社の前線で、また、私が起こした3つの企業で、

アドバイザーを務めた多くの企業を通して、学んできました。

私は間違いなど犯したことがなかった…、と言えれば良いのですが、 きっとそれは事実ではないでしょう。

私の言うとおりにやってください

― 実際に私がやった通りではなく。

 

1. 意味を作りだす

 

あなたが、何かほんとうに意味のあることを通して、

どのように世界を変えていこうとしているのか はっきりと決めてください。

アップルはコンピューターを大衆のものにしました。

グーグルは情報を大衆のものにしました。

イーベイは商取引を大衆のものにしました。

 

これらの企業は意味を作りだし、意味を作ることによって、結果的に大きな利益を生み出しました。

 

2. マントラを作る

 

なぜ、自分が意味を作りだそうとしているのか、説明できるような、

3つから4つの言葉からなる、自分のマントラがあるはずです。

 

たとえばナイキのマントラは、私が思うに「本物のアスリートのパフォーマンス」にちがいないと思います。

またイーベイは「大衆化された商取引」でしょう。

私のマントラは「人々に力を与える」。

 

要するに、なぜ自分が存在しなければならないのか、マントラが説明してくれるのです。

 

3. つぎのカーブにジャンプしよう

 

あまりに多くの企業が、同じ成長カーブ上で争っています。 1880年代に、氷を切り出す産業がありました。

 

 

冬の間、氷の塊を切り出す会社がいくつもあったのです。

ところが氷工場ができて、氷を切り出す会社はいずれも廃業に追い込まれました。

 

 

というのも、氷工場なら、天候の制限を受けないからです。

やがて冷蔵庫会社ができて、今度は氷工場が廃業に追い込まれました。

 

 

個人で冷却装置を所有すれば、よりいっそうの利便性が得られるからです。

つぎの成長カーブにジャンプするときに、 さらにいえば、つぎのカーブを作り出したときに

ほんとうのイノベーションは起こります。

 

4. すばらしい製品はDICEE

 

DICEEとは、Deep(=深い)

Intelligent(=知的な)

Complete(=完璧な)

Empowering(=力を与える)

Elegant(=エレガントな)

の頭文字を取ったものです。

 

「深い」とは、多方面における特徴と力を持っている、ということです。

 

「知的」というのは、人の感じている痛みと必要性を、 その企業が理解している、ということです。

「完璧な」というのは、満足できるトータルソリューションを、その企業が提供している、 ということです。

 

「力を与える」というのは、顧客がその製品と格闘するのではなく、

その製品を使って、より良いことができるようになる、という意味です。 ?

「エレガント」というのは、製品がうまくできている、ということです。

 

5. 安っぽく思えても心配しないで

 

革新的な製品の中に、チャチな側面があったとしても、 出荷するとき、不安にならないでください。

イノベーションが、最初から完成された状態で起こることはまずありません。

 

たとえばMacコンピュータはソフトウェアがなく(私のせいです)、

ハードディスクもなく(ソフトウェアがなければ、いずれにせよさほど意味がないのですが)、

スロットもなく、色もありませんでした。

 

もし会社がすべてが完璧になるまで出荷を待っていたら、 そんな日は来ないだろうし、

市場は素通りして先に行ってしまいます。

6. 「100の花を咲かせよう」

 

私はこの言葉を毛沢東から拝借しました。

イノベーターは、人々がその製品をどのように使うかについては、 柔軟である必要があります。

エイボンは「Skin So Soft」という製品を、肌をやわらかく保つために開発しましたが、

子供のいる人々が、それを虫除けに使っても、そのままにしておきました。

 

アップル社は、スプレッドシート/データベース/ワードプロセッサー機能のコンピュータを開発しましたが、

顧客はそれをデスクトップパブリッシング・マシンとして利用していることがわかりました。

教訓は、種は植木鉢ではなく、野原にまこう、ということです。

さまざまな花を、好きなように咲かせてやれば良いのです。

 

7. 両極化を怖れない

 

ほとんどの企業は、 統計上のいかなる年齢層にも、

いかなる社会的経済的バックグラウンドを持つ人にも、

どのような地域に居住する人であっても、 すべての人がほしくなるような、聖杯を作りだそうとしています。

 

けれども、そんなものを求めても、得られるのは、確実に凡庸なものとなります。

それより、ある一部の人々を幸せにするような、すばらしい製品を作ってください。

それ以外の人々が不幸になったらどうしよう、と心配するのはやめてください。

最悪なのは、結局、どんなリアクションも引き出すことができない場合です。

そんなことが起こるのは、企業があらゆる人を幸せにしようとしたからなのです。

 

8. 新しい考えを生みだそう

 

私は、製品には安っぽい側面があってもかまわない、と言いました。

けれども、安っぽいままであってもかまわない、とは言っていません。

企業はバージョン1.0を改良し、1.1、1.2 … 2.0と進化させていかなければなりません。

イノベーションを出荷すること自体が大変なので、これを実行に移すのはむずかしい教訓といえます。

なにしろ社員というものは、自分たちの送り出した完璧な製品に、

ケチをつけられることがたまらなくいやなものだからです。

けれども、イノベーションは、 終わってしまった出来事などではなく、進化し続けるプロセスなのです。

 

9. ニッチであろう

 

イノベーションという輝かしい聖杯は、ユニークであり、しかも価値のあるものを創造するところにあります。

イノベーションを起こしたければ、意味を作りだし、限界に迫り、歴史を作っていかなければなりません。

エンジニアであれば、これまでに類のない、しかも価値のあるものを作るのです。

マーケターであるならば、製品がユニークで、価値あるものだと、世界に向かって伝えるのです。

 

10. 完璧なキャッチフレーズを

 

比類のない展示販売をおこなうには、3つのカギがあります。

第1に、導入部をカスタマイズします。 聞き手を大切にし、その相手に合わせてやてみせる必要があるのです。

第2に、製品を通して、夢を売るのです。

この製品によって、人生がどのようにすばらしいものになるか伝えます。

業界用語を使わず、これを所有することで、どのような利益があるのかを説明するのです。

 

第3に、プレゼンテーションでは、10-20-30ルールを守ることです。

スライドは10枚、説明は20分、フォントサイズは30です。

 

11. 傍迷惑な人のせいで気持を腐らせない

 

傍迷惑な連中は、そんなことやっても無駄だ、とか、やらないほうがいい、とか、

必要ない、とかと言いたがるものです。

そんな連中の多くは、どう見ても負け犬です。

負け犬など無視するのは簡単。

 

でも、金持ちで、セレブで、権力を握っているような「ボケナス」は、危険です。

というのも、彼らは賢い、と見なされているからです。

けれども、そんな連中は運が良かっただけ。

彼らにはつぎの上昇曲線など理解できないし、なおさら受け入れることなどできはしません。

イノベーションというのは、読む(あるいは書く)のは簡単でも、成し遂げるのは、困難なものです。

 

これまでにあげた11は、イノベーションの基礎にすぎません。

けれども、意味を作り、上昇カーブにジャンプするまで、休まず仕事を続けていけば、

いつかイノベーションに到達するはずです。

 

著者:ガイ・カワサキ


元記事:http://bit.ly/1gAzTMc

(翻訳:服部聡子)