日本の「おもてなし」のウソ 本当の気遣いを見せる集客とは?

こんにちは、トイアンナです。
2020年東京オリンピック関連のニュースも増える昨今、外国人観光客も増加しています。2013年に1036万人だった訪日外国人観光客が、なんと2016年には2404万人。わずか3年で倍以上の外国人観光客が日本へ押し寄せているのです。

外国人観光客が増えて影響を受けるのはホテルや遊園地など観光に直結している産業だけではありません。エステサロンや飲食店など「旅行中に使いたくなる関連施設」から、いざというときの病院や歯科医院も多言語の対応を迫られるでしょう。さらには観光をきっかけにビジネスチャンスを見出した外国人パートナーとの取引もありえます。ですから誰にとっても外国人観光客増加は他人事ではないのです。

そこで今回はそのチャンスを逃さない方法を再考してみましょう。

「お・も・て・な・し」は本当に意味があるのか?

ここで少しさかのぼって、オリンピック招致が決まった瞬間を思い出してください。当時の映像で私たちが必ず思い出すのは「お・も・て・な・し」と滝川クリステルさんがスピーチする場面でしょう。

確かに細やかな気を遣ってくださる日本のサービスは素晴らしい……と語る滝川クリステルさんのスピーチ。しかし現実は相反します。融通がきかない、杓子定規だと外国人から不評も多いのが日本のサービスなのです。

たとえば京都では市内観光バスがすし詰めとなってしまい急遽値上げに踏み切るなど観光客増に追いつけない受け入れ態勢が課題となっています。

以前の連載でも申し上げましたが、日本には富裕層向けサービスが不足しています。そのせいで富裕層が訪問したくても高級ホテルの数が「ベトナム並」しかないからと、訪問自体が白紙になるケースも報告されています。

また、いまだに英語への苦手意識からお客様を受け入れない方も多いのではないでしょうか。簡単な相談をしているのに「ノーイングリッシュ、ノーイングリッシュ!」とかわされてしまうことで、外国人も敬遠してしまうことが少なくありません。

「嫌なら来るな」と突っぱねるのは簡単ですが、外国人観光客を誘致したのは外ならぬ日本です。宣伝しておきながらいざ訪れたら冷たい対応をされる国との悪評が広まってしまえば「日本嫌い」の外国人が増えるリスクもはらんでいます。

実はこの兆候、すでにデータでも表れています。先述のとおり日本を訪れる観光客は増えたにもかかわらず、訪日客が使った金額は6.7%減となっているのです。

その背景には東京、京都など有名都市へ観光客が集中してしまい、すし詰め状態で観光客の満足度も下がっているようすがうかがえます。せっかくお金を使いに観光客が押し寄せているのに、魅力的な使い道を私たちが提案できていないのです。

地方への誘致は、バス1本でできる

さて、この記事をご覧になっている方には地方にお住まいの方も多いでしょう。そして日本の良いところは地方ごとに特色が強い点でもあります。世界のどこを見渡しても、スキーとビーチリゾートが両立しうる国はさほどありません。北海道でスキーを楽しんでから沖縄で海遊びなど、四季の違いを数日間で味わえるのは大きな魅力です。

さらに地方ごとに文化、言語、食べ物が違うのも魅力的です。都内から少し足を延ばすだけでも長野や仙台、鎌倉、日光など色とりどりの文化を体験できる環境が整っています。

しかし日本に足りないのは「簡単な交通手段」です。

都心へ上京された方なら誰しも、新宿や渋谷駅の複雑さに舌を巻いたことがあるでしょう。
出口の数は無限、複雑な矢印の案内図にくらくらします。東京住まいが10年弱となる私も、いまだに新宿からバスに乗らねばならないときはハラハラします。

そもそも電車の出口にたどりつけるのか、バスターミナルにたどり着いたところで難十か所もある中から正しいバス停へたどり着けるか。日本語でもわかりづらい表示のバス停一覧。英語表記も容易に見つかりません。

しかしもし、わかりやすい駅から近隣都市へ出られるバスが1本出ていたらいかがでしょうか。そしてバスに乗るだけで、その土地の良さを味わえるツアーが外国人向けに存在していたら?

地域の「熱愛なファンになる」ターゲットを考えよう

すでに熱海や箱根などの有名観光地はこの手段を取っていますが、まだまだ外国人向けの簡単なツアーは発掘されていません。

また「グルメ」「歴史」といったおおざっぱなツアーではなく廃墟巡りやアニメの聖地巡礼、伝統工芸の1日体験など特定の地域だからこそつかめるニーズは眠ったままです。多くの観光客は見向きもしないけれど、特定の層にだけ強く刺さる観光スポットさえあれば地方にとってはうれしい収入源となります。

おおざっぱに「外国人向け」を考えるよりも「イスラム教徒が感動するハラール(教徒に許された食事)を精進料理で提供できる」「地域に縁切り寺が多く、失恋した人ならきっとめぐりたくなる」といった、「熱烈なファンを獲得できそうな長所」を地域のみなさまと一緒に考えてみてください。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

 

シャネルに学ぶ「度肝を抜くマーケティング・イベント」の考え方

こんにちは、トイアンナです。
シャネル、Dior、エルメス……。ランウェイをさっそうと歩く、ハイブランドたちは「伝統的な顧客を守りつつ、革新的なファッションを発表せねばならない」ジレンマと常に戦います。

伝統と革新は相反する概念ですから、たとえるなら「最高級フレンチのジャンクフード」「手術をしない抜歯」を求めるようなものです。私がもしクライアントから両立した企画を作るよう依頼を受けたら「それで、本当はどっちを優先されたいですか?」と質問してしまうかもしれません。

しかし、本来ありえない真逆の要求を両立させる気概があるからこそ、ハイブランドは優れたマーケティングが生まれる源泉でもあります。今期のシャネルはその好例でした。

シャネルのエッフェル塔を再現した「度肝の抜き方」

シャネルは今期、展示会場内にエッフェル塔を屋内に再現するというまさに度肝を抜くマーケティングを実現しました。パリの大規模展示会場「グランパレ」のガラス張りになった屋内に、高さ50mのエッフェル塔がドライアイスに包まれて登場。エッフェル塔付近にあるキオスクまで再現するというこだわりが魔法のような演出を実現し、新聞を始め取材を大量に獲得しました。

「そんなこと言ったって、大企業の新作発表なのだからPRで掲載されるのは当たり前」と思われるかもしれません。しかしファッションの世界は新商品、コレクション発表、アンバサダーの露出、期間限定ショップ開設などPR企画が月に1回以上発生します。

自社で乱立するイベントのすべてを報道してもらうのは不可能なうえ、ファッション業界には競合も大量に存在しています。エルメス、ルイ・ヴィトン、ディオール……。ファッション業界はどこも豊富な資金でPRイベントを打ってくるため、単なる「何かを開催します」では取材をしてもらえないレッド・オーシャンです。したがってPR担当者は「伝統の範囲内で最大限革新的な」という難しい課題をクリアし、度肝を抜くことが求められます。

実はローコストでもあるイベント

そしてシャネルのPRイベントには、中小企業だからこそ学びにつながる特徴が1点あります。

実はラグジュアリー業界を俯瞰してみると、世界3グループが大手ブランドをほぼ独占していることがわかります。ルイ・ヴィトンやDior、セリーヌなどを抱えるLVMHグループを筆頭に、世界のほとんどの有名ブランドは3社が独占しているのです。

大手グループはブランドごとの協働イベントも行えるうえ、予算を他ブランドから回すこともでき大変有利です。一方、シャネルは単独のメゾン。他のブランドから利益を回すことができないためイベント予算は限られていたはずです。

こんな「誰も考えたことのない」マーケティング戦略でありながら、エッフェル塔の制作は獲得した取材の量に比してローコストでもあったでしょう。今回の企画は同じ露出を獲得できるほどの広告出稿に比してローコストでありながら、爆発的な成果を出せたと言えるでしょう。このように広告を出すのと比較しても、コストパフォーマンスが高いのがPRの特徴です。

やみくもな広告出稿は「安っぽさ」を出してしまう

さらにシャネルのようなハイブランドは「広告ではなくPRで認知度アップを図る」必要が特にある業界です。安い商品はテレビCMを大量に打ちさえすれば力技で認知度を獲得できますが、シャネルのようなハイブランドが同じ戦略をとると「安っぽい」と思われてしまうからです。

一部雑誌社への広告出稿、銀座のど真ん中に位置する直営店舗などを除くと、高級イメージを維持したまま知名度を上げられる手法は限られています。その中でも今回のシャネルが実施したPRイベントは大成功を収めました。

たとえばあなたが自社製品を高級だと思ってもらいたいなら、闇雲な広告出稿へは1度「待った」をかけてください。その広告が目に触れる場所で、他社はどんな広告を出しているでしょうか。露出さえ増やせば「誰かの目に映る回数」は増えますが、果たしてその相手は自社製品を購入してくれる可能性が少しでもありそうでしょうか? 単に近くへ住んでいる、性別や年代が合っているだけでなく所得やラグジュアリー感も同じでしょうか?

お金さえあれば1日に1度、全国民の目に触れる広告を出すことも不可能ではありません。しかしそれだとコスト以前に「大衆っぽさ」「安っぽさ」を出してしまうリスクをはらんでいます。会員制のバー、富裕層向けの歯科医院、ラグジュアリーなエステサロンなど、高級感を醸し出す必要がある製品やサービスを届けるなら、広告よりもPRが適していると言えるでしょう。

PRで取材を獲得できるかどうかは、当日にならねばわかりません。当日芸能人のスキャンダルや災害があれば、取材も立ち消えになるバクチ要素を秘めているからです。それでも取材を獲得し、安定的に知名度を上げる素晴らしいPRイベントには「伝統と斬新」を両立させる優れたアイディアと、賢いコスト感覚の2点が内包されているのです。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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なぜアリアナ・グランデのテロ追悼にOASISが流れるのか マーケティングの新時代

こんにちは、トイアンナです。

先月、イギリスで痛ましいテロが起きました。人気沸騰中の歌手、アリアナ・グランデのコンサート会場でテロが発生。計22名が亡くなりました。犠牲になったのは10代の子供たちと、コンサート帰りで送迎に来ていた親御さん。遺された痛みを想像するとそれだけで筆が止まりそうです。

一方、イギリスでは「ある奇妙な現象」が起きていました。テロの追悼番組では、事件の当事者であるアリアナ・グランデではなくイギリスを代表するロックバンドOASISの音楽が流れたのです

音楽は世代で断絶された

この事態がどれほど奇妙だったか。比較するために1980年のジョン・レノン暗殺事件を思い出してみましょう。現在に至るまで追悼番組で流れる音楽はいつも『イマジン』です。これに限らずとも特定のアーティストに関する事件では、BGMとして本人の曲が流されるのが通例です。

ところが、アリアナ・グランデでそれは起きませんでした。彼女の楽曲の知名度が20代以上で低かったからです。

といっても、アリアナ・グランデは決して「カルトな人気」の歌手ではありません。2013年にデビューアルバム『ユアーズ・トゥルーリー』をリリースして以来、動画再生サイトYoutubeでは10億回も楽曲が再生されました。若者に人気の写真投稿SNS「インスタグラム」では世界3位のフォロワー数に支えられています。

ここであることに気付かれた方もいらっしゃると思います。アリアナ・グランデの業績には「CDは何枚売れたか?」がないのです。

筆者はアラサー世代ですが、当時はCD全盛期。浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、椎名林檎とビッグ・スターが次々登場し、CDのミリオンヒットも珍しくありませんでした。

もちろん親世代は「なんだ? 最近のアユ、リンゴって。リンゴ・スターか?」くらいに思われていたかもしれません。しかしCDおよびTV番組『速報!歌の大辞テン』などに支えられ、世代を超えて「何が流行っているか」は知られていました。

宇多田ヒカルのアルバム『First Love』は2000年1月31日までに853万8465枚を売り上げています。当時の10代だけが購入していたとするなら、ほとんど達成不可能な数字です。
新曲を耳にした親世代も一緒にCDを購入したからこその栄誉でしょう。

それに対し、アラサーの私にとってもアリアナ・グランデは「名前くらいは聞いたことのある歌手」に留まります。なぜならアリアナ・グランデは音楽のインターネット上における再生で10代「だけ」に知名度を上げ続けたからです。

ツールによる世代の断絶を理解し、当事者の声を聴く

アリアナ・グランデは音楽再生アプリ”Sportify”(スポーティファイ)で主に試聴されていることから、”スポーティファイ時代のスター”と呼ばれます。スポーティファイは世界中の音楽をストリーミング再生できるアプリで、アクティブユーザーは1億人以上、有料会員数5000万人。Apple社の競合アプリ”Apple Music”を超える勢いで若者へ普及しています。

ところが、このツールを使っているアラサー以上の年代はほとんどいないのではないでしょうか。実際のデータはないため推論ですが、少なくとも今まで数百名に実施した30代以上へのヒアリングで「スポーティファイ」という単語を聞いたことがありません。

これまで、レコードがCDになり、CDがMDになっていく進化の過程で「ある世代だけが使うプレーヤー」はありませんでした。若年層の方が流行に敏感だったため早期購入層ではあったでしょうが、「ある年代だけが使っていて、他の年代は全く使わない音楽プレーヤー」はほぼ見られなかったはずです。

しかしスマートフォンが一気に普及した現在、主にアプリを使って音楽を試聴する若者と、そうでないアラサー世代は分離しました。スポーティファイで大ヒットする若手アーティストを30代以上は知ることもなく、また今の30代が買うミスチルやB’zといったアーティストも「おじさん・おばさんのもの」になりました。

自分が聞いていた音楽が「おじさん・おばさんのもの」と言われることはどの時代にもありましたが「テレビを見ないからミスチルを聞いたことがない」「浜崎あゆみ、名前だけなら知ってる」と言われるほど認知度が低くなっているのは、現代の特異さではないでしょうか。おそらく使っているメディアによって、「音楽の世代間断絶」が起きているのです。

世代を超えたら「常識」を疑おう

音楽の世代間断絶により、アリアナ・グランデのテロを伝えるニュースでは「レコード世代・CD世代の我々でも知っている」OASISが選ばれたと思われます。

ビジネスでも同様に自分と異なる世代や性別、職業の人へマーケティングを考えるときには、我々の「常識」を超えた道具が使われ、知らない人がそのグループには大変な有名人ということもあります。

なぜマーケティングでは消費者の生の声を、何度もしつこく調査する必要があるのか。
それは30歳と25歳の間にすら、互いの常識が通じない世界が転がっているからです。自分の世代の常識を疑うところに、マーケティングの種が転がっています。


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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超富裕層に超個人主義―「超」に振り切る集客で観光大国日本を実現できる

こんにちは、トイアンナです。
政府が「観光大国」として日本を活性化する目標を定め、2015年の3倍となる6,000万人の観光客誘致を達成しようとしています

そして政府の「観光立国」に伴い、下記の動きがすでに生まれています。

・宿泊施設の増加
観光客を誘致したいなら、宿泊先なしには始まりません。日本ではホテルだけでなくAirBnBに代表される「民泊」が増加。
さらに高級ホテルグループ「星野リゾート」も庶民派エリアの新今宮に建設が始まり、再開発が進んでいます。

・多言語に配慮したサービスの普及
宿泊施設の次は「交通の便」です。都心部はすでに私鉄・JR共に公共機関が縦横無尽に走っています。一方で駅名が英語表記だと長くて暗記できなかったり、駅の出口が多すぎて道に迷ったりといった「わかりやすさ」には課題が残っていました。読者の皆様も新宿や梅田駅の「迷宮」に迷われた経験はございませんか? 初めて日本へ来た観光客が日本の複雑な交通網を理解することはまず不可能です。

2016年より都内ではJRの駅名に遠し番号が振られ、駅名が判らなくても乗降者できるようになっています。たとえばローマ字だと長い「Musashi-Koganei(武蔵小金井)」を覚えなくてもJC15という通し番号だけで乗降できるようになり、案内する側・される側も便利になりました。

・グローバルサービスの参入
さらに飲食店のデリバリーサービス「Uber Eats」を始めとした、世界的企業が日本へ次々と参入しています。慣れ親しんだサービスなら安心して観光客も使えるため、集客には欠かせません。

ところがこういった状況を尻目に、日本企業の多くは未だ「何をすればいいか」と戸惑っている段階です。

本来ヘアサロンや歯医者などは外国人来訪者が増えれば大きな売上アップのチャンスになるのですが、「うちは英語のできるスタッフもいないし」と日本人顧客にばかり目を向けてはないでしょうか?

日本は観光客を増やすチャンスをいくらでも持っている

もともと日本は観光客を増やすポテンシャルが高い国です。

・「グルメの首都」と呼ばれる最高のレストラン群
・沖縄から北海道と「冬と夏」を両方楽しめるリゾート
・京都を中心とした歴史的建造物の多さ
・家族連れでも安心の治安

ここまで集客できる要素があるのに「むしろ少なすぎる」のが日本の観光客数。その原因はサービスの「画一化」にあると、経営者デービッド・アトキンソンは指摘します。

超富裕層向けサービスがない国、日本

たとえば、日本のホテルでは年収10億円あるような超富裕層に対応できる施設がほとんどありません。ロンドンの一番高いホテルは1泊1万ポンド。なんと144万円です!(2017年5月3日現在)一体誰が使うんだ、とお思いになるでしょうがロンドンを一望できることが人気で、満室なこともしばしば。

それに対して東京で一番高いと噂の「アマン東京」でも、1泊が20万円を超えることはめったにありません

また、ロンドンを始めヨーロッパでは「追加料金を払って他の客より先に入場する」サービスがよく見られますが、日本では貧富に関係なく大行列を作って待つのがよいこととされています。例外はディズニーとUSJくらいです。

しかしその一方で、こう考えたことはないでしょうか? 「あの展示会は行ってみたいけど混んでるからいいや」と。我々と同じことを富裕層は考え、日本でお金を落とさないのです。

このように日本では「そこそこお金持ち」までしかターゲティングできておらず、マーケティング上「超富裕層」向けサービスが不足しています。

超〇〇を狙えば、市場を独占できる

そしてこの現象は「超富裕層」だけではありません。サービスが画一化してしまったせいで、個性ある観光ができていないのです。観光客に日本で思いっきりお金を落として欲しいなら「超〇〇」な方へターゲティングしてマーケティング施策を練る方が成功します。

たとえば……

①アニメファン向きのツアー:
コミックマーケットの時期に合わせてアニメファンを誘致。
アニメの「聖地巡礼」から同人誌即売会の交渉まで代行

②グルメツアー:

日本の有名レストランを巡ることを目的としたツアー:
レストランの予約時間以外はすべて自由行動にし
予約の取りづらい一流レストランを一斉手配

ここではツアーだけを例にしましたが、歯医者なら「超富裕層向けセラミック施術」を用意できます。ヘアサロンならアニメファンを見越して「キャラクター名を言ってもらえれば再現したヘアスタイルにするサービス」を準備するだけでも大きな売上アップへ繋がります。

日本ではとかくサービスの均質化を求めますが、むしろこれからは「差別化」の時代。観光立国として「超〇〇」と呼べそうな尖った顧客を獲得していきましょう。

参考文献:
デービッド・アトキンソン『新・観光立国論―イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」』


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
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安易な無料配布で700人のリストラ!?マーケティングの失敗例に学ぶ

こんにちは、トイアンナです。
「集客のため、無料で商品サンプルを配る」施策は、わざわざ教わらなくても誰もが経験する王道のマーケティングです。

スーパーの試食品などは日常的に見かけますし、引っ越し業者がお見積りだけでくれるプレゼントはなかなかの量。お米から洗剤一式まで無料配布されると、ついその会社を選びたくなりませんか? こういった施策をマーケティングでは「サンプリング」と呼びます。

返報性の原理を利用した無料配布

サンプリング戦略がここまで広く採用されているワケは、費用対効果がいいからです。すなわちサンプルを配った分だけ、集客へ繋がる可能性が高いから。

高級車のように単価が高かったり、何度もリピート購買を狙えなかったりする商品では使えませんが、食品や消費財、美容室のトリートメントなど「何度も使ってくれる」「比較的安い」商品にはうってつけです。

ではなぜサンプリングは費用対効果がいいのでしょうか。その秘密は心理学における「返報性の原理」にあります。

多くの人は人からものをもらうと「何かお返しをしなくては」と考えます。それどころか、自分が親切をした上でお返しをしない人へは不快感すら抱くこともあります。たとえばタダで置いてあるからと飲食店のつまようじをゴッソリ持ち帰る人がいたら「この人、タダだからっていくらなんでも……」と思うでしょう。

このように「親切心に何かでお返ししたい」と感じることを返報性の原理と呼びます。

無料サンプリングはこの「タダだからって貰いっぱなしじゃ申し訳ない」という気持ちを利用して、お返しに何か購入しよう、と動機づけるのです。

今回は飲食店を例として見てみましょう。これまでの成功例に多いサンプリングは「無料のコーヒー」配布です。古くはカルディが2009年に実施し、短期間で店舗数を4.4倍へ拡大させました。

最近ではマクドナルドの100円コーヒー無料配布キャンペーンが記憶に新しい方もいらっしゃるかもしれません。

何社かが繰り返しているキャンペーンであっても、業界が違えば目新しく映ります。カルディはおしゃれな輸入食品店。ファストフード店のマクドナルドが同じ施策をすれば充分「新しい!」と興味を持っていただけるのです。

しかし、これらの成功例だけを胸に「ウチも配ろう」とは思わない方が賢明です。

無料コーヒーで700人の雇用危機を生んだWaitrose

いくつもの店舗で成功例とされてきた「無料コーヒーの配布」。ところが全く同じ施策で売上アップどころか、多数の店舗閉店へ追い込まれたスーパーマーケットの大手チェーンがあります。

イギリスの大手スーパー「Waitrose」が同様に無料コーヒーを配布した結果、「無料」に惹かれるだけで何も商品を購入しない客が殺到。結局、スーパーへ来店してもコーヒーだけもらって1品も買わない悲劇を生みました。今年だけでWaitroseは6店舗を閉鎖、それに伴い700名のスタッフが雇用継続の危機を迎えています。

では、カルディやマクドナルドは成功したコーヒーの無料配布でWaitroseはなぜ失敗したのでしょうか?

ブランドイメージにそぐわない戦略は売上を奪う

ここでWaitroseの情報を少し追加させていただきます。Waitroseはイギリスの高級スーパーで、日本で言えば紀伊国屋や成城石井のような存在です。強みは無農薬食材や世界中から集めた豊富な品揃え。日本食もお蕎麦や寿司を始め「わさび豆」まで扱う豊富さです。これらの強みと引き換えに商品の価格は高く、庶民はまず訪れません。

そして無料のコーヒーに惹かれる層はその「庶民」だったのです。

Waitroseにとって「無料配布」に惹かれるような層はターゲット顧客ではありません。
ですからいくら人を呼び込んでも、お客様になりそうな人はほとんど呼び込めていなかったのでしょう。

対してマクドナルドやカルディは、ごくごく普通の方が使う場所。「無料」に敏感な家族連れも多いため、そのまま店舗内購入が見込まれます。

Waitroseのように「高級」なブランドイメージを作ったら、たとえ世間が値下げラッシュに沸いている時期でも高級路線を貫く必要があります。ロレックスやフェラーリが「今だけ30%割引!」という施策をしても、いい顧客が集まらないのと同じです。

消費者は返報性の法則より強く「一貫したブランドイメージ」を求めます。「他社も成功しているし……」と安易にマーケティング戦略をマネすると、ブランドイメージを傷つけ、長期的な売上ダウンへとつながりかねません。

他業種の戦略から学び、自社へ適用するのは優れたマーケティングの応用方法です。他方、単にコピー&貼り付けした施策ではブランドイメージに反したやり方となり、却って売上を傷つけることがあります。社員から施策を募る際は自由にアイディア出しをしたのち、ブランドイメージを保てる施策だけ厳選する必要があるのです。

参考文献:重田修治『なぜか買ってしまうマーケティングの心理学』


トイアンナ
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「雨が多いイギリスで傘を売るな」マーケティングで欠かせないヒアリングの技術

こんにちは、トイアンナです。
私は現在イギリスに住んでいますが、日本製品は食事から雑貨まで高品質なことで知られ、愛されています。特にトレンドへ敏感なロンドンではいたるところに寿司屋やラーメン店があり、異国感が薄れてしまうほど。

雑貨ではMUJI(無印良品)、UNIQLOが名だたるブランド品と並んで出店しており、特にUNIQLOのヒートテックは大ヒット商品となりました。

このような成功例を踏まえ「同じように高品質なものをヨーロッパへ出せば売れるのではないか」と日本企業の多くが進出を試みています。しかしその多くは辛くも惨敗し、撤退せざるを得ない現状があります。なぜ日本の製品は素晴らしいのに、現地で売れないのでしょうか。

今回は「自分が知らない分野」へ進出する際にありがちなマーケティングの失敗例と回避術をお伝えします。

雨が多い国だからと傘を売ろうとする国、日本

イギリスは雨と霧の国――そう聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。昨年はドラマ『シャーロック』が流行りましたが、その中で多くの殺人事件やバトルシーンが霧の中起きていました。

そうすると、日本企業の担当者はこう考えます。「イギリスは降水量が多い? だったら日本の傘はよく売れるに違いない。ざっと調べてみたが、イギリスの傘は粗悪でデザインもシンプルすぎる。日本の傘は丈夫でコンパクト、さらにデザインが豊富。さらに手軽に買える値段でもある。これなら輸出するだけで売れるはずだ」

そう考えて傘を売ると、これがさっぱり売れません。それもそのはず、イギリス人は雨が降っても傘を差さないのです。

浅いマーケティング分析では測れない真の需要とは?

イギリスの雨は日本と違い、ぽつぽつと大人しく降り、そしてすぐ止みます。1日中雨の日は珍しく、長くて1時間で止むのが特徴。むしろ雨は降らないままどんより曇りだけが続くことも珍しくありません。

こういった雨が多いと、傘をいちいちさすのも面倒くさいからと、折り畳み傘を持ち歩く人も少ないのです。

道端で雨が降りだしたときイギリス在住者が取る反応は以下の2つ。
(1) 気にせず歩き続ける
(2) カフェにでも入って雨がやむのを待つ
これでは雨で売上が上がるのは、傘より駅近くのカフェでしょう。

イギリスでは傘が売れない代わりに、防水ジャケットとカバンがよく売れます。傘をささずに歩き続ける雨の中で、パソコンやお菓子を持ち運ぶならカバンに防水機能が欠かせません。日本のようにオシャレで口の空いたバッグなど持ち歩いてはあっという間に水で中身が濡れてしまいます。

一時日本のランドセルがイギリスで売れていると話題になったことがあります。これも売れるのは納得。防水性・軽さ・丈夫さのどれもがイギリスの気候に合っているからです。

売れる商品、集客できるサービスの裏には必ず消費者のニーズに合ったマーケティング戦略があります。そして正しいマーケティング戦略は「〇〇だからXXが売れるだろう」という机上の空論ではなく、地道なヒアリングで成り立っています。

「現場の消費者にこそ売上アップの答えがある」というマーケティングの考え方は、営業を経験された方にとっては腑に落ちるのではないでしょうか。マーケティングとは多くの日本企業が強みとする営業力を、取引先の代わりに消費者へ向ける技術です。

真実はヒアリングの中に

もしこれまでに「マーケティングは会議室で話し合うばかり。営業しか現場を知らないんだ」とお考えになっているのであれば、それはこれまでに接触したであろうマーケターが与えてしまった誤った印象です。マーケティングを生業にするものの一人として、こういう誤解が生まれたことを申し訳なく思います。

正しいマーケティング戦略の基盤は、営業と同じ現場にあります。マーケティングにとっての現場とは顧客・消費者の声です。

マーケティングでは消費者が「これなら絶対に買う」と仰っていただくことが、営業にとって「よし、うちで扱おうじゃないか」とお取引先に確約していただくことに等しくなります。

多くの企業では何も考えず飛び込み営業をするよりも、長期的に利がありそうなお取引先を選んでからご挨拶へうかがうでしょう。マーケティングでやみくもに傘を売らず、自社の製品が好まれそうな地域や消費者を探すのも同じことです。

イギリスへ傘をやみくもに輸出するような失敗を避けるためにも、すべての企画に先駆けたヒアリングは欠かせません。もしマーケティングへ割くことのできる予算が限られているのであれば、リーフレットやWebサイトを作る費用を後回しにしてでも、ヒアリングへ真っ先に予算を割いてください。

ヒアリングは明日の利益にはつながらないかもしれませんが、1年後、2年後に歴然とした差を生みます。手っ取り早い果実よりも大きな成功を目指すため、消費者の声へ耳を傾けていただければ幸いです。

 

 


トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。
ブログ:http://toianna.hatenablog.com

集客を考えるときはマーケティングと「善悪」を切り離そう

こんにちは、トイアンナです。
マーケターとして仕事をしていると、たまに「天才だ」と思わされるマーケターに出会います。たとえばドナルド・トランプは天才の一人です。正確に言えば、ドナルド・トランプのバックにいて、彼の原稿や発言を管理している有能な秘書たちでしょうか。

トランプ大統領は就任直後、いきなりイスラム教徒が多い国籍保持者を入国拒否しました。数百万人単位のデモを起こし、世界中で混乱と批判を浴びているトランプの何が天才なのか?と思われることもあるでしょう。

しかしアメリカ国民に対して行われた調査では、トランプの入国拒否手続きを支持すると答えた層が反対を上回っています。

彼にとって一番重要なのは自国の支持率を維持することですから、いくら裁判所がNOを付きつけようが、目的を達成するために正しい戦略を取ったと言えるでしょう。

彼のしたことは現場の担当者へ大混乱を招きましたし、何よりビザを持つ人間すら拒否したため裁判所から合衆国憲法違反と判断されました。さらに何も悪いことをしていないのに空港で追い返された多くの人を傷つけたという意味で「正しい」「正しくない」の天秤にかけるなら「正しくない」と感じる方も多いはずです。私もリベラル寄りなので政治的信条からすると彼の行為は絶対に許せないことです。

その一方、マーケティングという目線で語るなら彼の戦略はあまりに的確で、舌を巻きます。

マーケティングでは「正しさ」を問わない

マーケティングは「正しさ」「正しくなさ」に関係なく目標を達成するための道具です。
ところが自社のマーケティングや集客を考える上で、まずは頭を柔らかくしてどんなアイデアでも自由に出してみましょう――と言われても

「これはウチのポリシーに反するから」
「いくら売上のためだからってこれはできないよ」

と、「正しい」「正しくない」でアイデアの幅を狭めてしまう方が少なくありません。特に同じ業界で長くお勤めなら慣習やしがらみもあり、なかなかこれまでのやり方を無視できないはずです。

けれど、思いもよらないマーケティング戦略は正しさやしがらみ、常識から外れたところに生まれます。たとえば機能が劣ってもいいからカッコいい動作を追求しようと、携帯電話業界の常識を無視して登場したのがiPhoneです。iPhoneにはデコレーションメール機能や着メロの音質といった「当時ガラケーの会社が当然備えるべきと考えた機能」は何一つありませんでした。

iPhoneが海外製品だったから勝てたというわけではありません。日本の例ですと、雑誌なのに「読まれなくていい。付録目当てで買ってもらう」という新しいコンセプトで爆発的に売上を伸ばした女性誌『InRed』があります。男性に身近なケースでは、ビールなのにアルコール分ゼロを売りにしようという新しい発想で生まれたのが『キリンフリー』は記憶にあるかと思います。

「正しい」「正しくない」やこれまでのしがらみを一度すべて忘れ、新しいアイデアを出すことで大ヒット商品は生まれてきました。

このように型にハマらないヒットの卵を産むためにはスティーブ・ジョブズ並の天才社員、もしくは何でも提案できる社風づくりが欠かせません。「とんでもないこと言い出しやがって」と部下を叱る前に「待てよ、もしかすると面白いかもしれない」と一度採用してみる。こんな心意気が、ヒット商品へ繋がります。

「どうすればできるか」を考える

さて、企業によっては「スティーブ・ジョブズ型の天才ばかりを雇用する」ところもあるかもしれませんが、アイデアを出しやすい仕組みづくりを行う企業の方が日本では多く見られます。そのため多くの企業がボーナス付きのアイデア公募制度を用意しています。公募制度を実施する際はボーナスだけでなく、社内で不利益を被る人が出るアイデアでも投稿者が報復人事にあったり、嫌がらせをされたりしない仕組みが必要です。

アイデアを全社員が出しやすい土壌を作ったところで、次に常識破りの面白いアイデアが出てきたとしましょう。しかしそのまま世に出してはトランプ並みの波紋が業界へ起きます。また、奇抜なだけのアイデアは話題こそ呼ぶものの実際の集客へ繋げるのは難しいものです。

そこで、まとまった時間を取ってからアイデアを並べ、「どうしたらアイデアを活用して集客を実現できるか」「どうしたらしがらみや慣習を突破できるか」を考えてみるのが、マーケティングのやり方です。

面白いアイデアの中から、目標(売上・利益)を達成できそうなものを選び、さらに業界からも「最初はびっくりしたけど、ありゃ面白いね」と言われるサービスや製品をこの世へ出せるかには、会社としてどこまでリスクを取れるか覚悟が求められます。

冒頭のトランプであれば「たとえ大反発を招いても、支持率を稼げるなら目標達成だ」と判断し、リスクを取ったと思われます。トランプほどの反発を招く行為は私が御社のマーケターならオススメしませんが、それくらいの胆力があればどんな「正しさ」も超えて優れたマーケティングアイデアを出せるはずです。まずはアイデアを出せる制度作り、御社で考えてみませんか?

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トイアンナ:

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。

ブログ:http://toianna.hatenablog.com

新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)

マーケティングの集客を成功させる秘訣は「季節感」

こんにちは、トイアンナです。
大変遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。日本にお住まいの方であれば、新年には家族でおせちやお餅を召し上がったかと思います。つまりおせちを作るお弁当屋さんやお餅を生産する工場にとっては12月~1月が儲けどきと言えます。

もっと市場が潤うのはクリスマスです。ギフト商品からラッピング、飲食店からヘアサロンと、恩恵を受けた方も多かったのではないでしょうか。

このように「季節感」は売上アップを考える上で欠かせない要素です。季節のイベントへ便乗することでいつもより売上や集客を確保できますから、時期を絞って広告費を集中投下するマーケターも多くいます。

この記事では2016年、季節を利用して成功したマーケティングの事例を振り返りつつ自社にも応用できる成功の秘訣をお伝えします。

「季節感」の利用例1 夏も売場を独占する空気清浄機

まずは昨年「ドヤ家電」と流行した蚊取り機能付き空気清浄機を見てみましょう。

一般的な空気清浄機の売上が上がる季節は春と夏。どちらも花粉が飛ぶ時期です。春には飛ぶように売れる空気清浄器ですが、夏には家電売り場の奥へ引っ込むさだめ。代わりに家電屋のメイン売り場には除湿機能つきのエアコンや扇風機が並びます。

その運命をひっくり返したのが、蚊取り機能つきの空気清浄機でした。虫を引きよせるUVライトで引き寄せ、空気清浄機の力で吸い込むという極めてシンプルな機能を付けました。春の花粉から夏の蚊取りまで、季節感を応用して2シーズンの売り場を確保したのです。

さらに「有害物質を使わず蚊を除去したい」ニーズに応えた製品は大ヒット。長年売上低迷に苦しんできた発売元のシャープにとって、久々のポジティブなニュースとなりました。売り場を確保する営業力と、季節感を活用したマーケティングの融合による成功例と言えるでしょう。

「季節感」の利用例2 クリスマスに売上を伸ばしたパン屋

次に海外の事例より、クリスマスを活用したマーケティング集客テクニックをご紹介します。

クリスマスは日本人がケンタッキーでお買い物して、ケーキを買うのが一般的です。同様にイギリスには七面鳥やクリスマスプディング、パイなどの定番メニューがあります。これらの店舗が爆発的に売れる一方で、普段より売れなくなってしまう飲食店もあります。たとえば普通のパン屋さんは、12月にプディング需要のせいで売上を落とすのが通例でした。

ところが同じ季節感を活用し、この運命をひっくり返したパン屋があります。グレッグズというパンのチェーン店は、普段なら閑散期になる冬を狙って「チキンの香り」「パイの香り」を付けたリップを無料配布しました。
http://metro.co.uk/2016/12/15/greggs-is-now-doing-lip-balms-that-taste-like-mince-pies-and-festive-bakes-6324801/
「クリスマスにパンを買う気は起きないけれど、クリスマス関連グッズなら興味が湧く」というインサイトを利用したのです。この無料配布で「クリスマスの香り」が欲しいとパン屋へ人が戻っただけでなく10誌以上にキャンペーンが掲載され、高いPR効果も手に入れました。

通常、サンプリングは自社製品を配るだけのことが多いのですが、季節感を取り入れるためあえて「クリスマスの香り」を集客に利用した好例です。

「季節感」を上手に使う方法

このように季節感を上手に使えば、普段は閑散期として諦めていた売上を爆増させることも夢ではありません。ただし1点だけ注意事項があります。闇雲に「季節限定」といっても売れるわけではないのです。極端な例ですが「春限定!五寸釘セット」があっても売れないのは容易に想像できるでしょう。

これらは、ベンチャーから中堅企業でも少ない予算で始められる「季節感」の条件です。

(1)  すでに盛り上がっているイベントへ便乗する
バレンタイン、ハロウィン、クリスマスなど、国民全体の財布のひもが緩むイベントへ便乗しましょう。ゼロからイベントを作って認知させるには大型投資を必要とするからです。

(2)  自社を使ってイベントを「盛り上げる」
事例でご紹介したパン屋が「クリスマスの香りのリップ」を配ることはパンと何の関係もありません。しかしクリスマスの盛り上げに貢献したことで売上に繋がりました。

新しい季節感のあるマーケティング企画を立てるなら自社製品を押し出すことより「どうすればイベントをもっと盛り上げられるか」を考えます。お客様は「イベントでもっと盛り上がるもの」を広く探していますから、自然と普段は来ない層も来客を見込めます。

(3)  他社にない試みで季節を盛り上げる
たとえば今からカフェが「桜のラテ」を考えても、スターバックスのコピーになってしまい爆発的な売上は考えられません。同業では始まっていない試みにチャレンジしてみましょう。同じカフェ×春の季節なら「お花見用ランチボックス」などいかがでしょうか?

世界中で集客に利用されている「季節感」を利用したマーケティングで、きっと御社もヒット商品を生み出せます。季節を盛り上げて、ますますのご繁栄をお祈りしております。

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toiannaトイアンナ

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
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マーケティングはピンチを操る 英国のEU離脱を活かした集客ビジネス

こんにちは、トイアンナです。
私は今年よりイギリスに住んでいますが、ブレグジット(英国のEU離脱)が決まったときは国全体が「しばらく終わりだ」という沈痛なムードに包まれていたのを思い起こします。イギリスはブレグジットが決まってから一夜にしてポンドが暴落。実に2/3の価格となりました。つまり、国の価値の1/3が吹っ飛んだのです。

もともとブレグジットが起きた背景は「テロや犯罪を起こしそうな移民はいらない」という排外感情。EUから移住している外国人も事によっては帰国せざるを得なくなります。さらにヨーロッパ金融の中心地という立場も失うため、経済は冷え込むと予想されていました。これがポンド暴落として現れたのです。

ところが、そんな危機を乗り越えるどころか、むしろ追い風にしたビジネスがイギリス国内にありました。外食産業です。今回はその外食産業がいかにマーケティングを駆使して集客を成功させたかをご紹介します。

イギリスは「おいしい」!?

さて、「イギリスといえば」と質問されれば紅茶、クラフトビール、そしてまずいご飯……と連想ゲームで出てきてしまうほど、ご飯のマズさは有名です。私も渡航して現地のミシュランガイドを買い、まさかの見開き2ページでロンドンの星付き店が尽きたときは絶望したものでした。

ところが実際に食べ歩いてみると、「グルメの首都」と称賛される日本ほどではありませんが、以前に比べて「おいしい」店は確かに増えている印象です。おそらくはこれ、EUの賜物。イタリアやスペインなど食事が美味しいEU圏国家からの移民に、香港統治時代から移ってきた中国人などが腕を振るっています。さらに食べる側にも移民がいることから味への要求水準が上がり、かなり改善されています。

そしてブレグジットが決まったとはいえ、すぐさま「はい、もう出て行ってくださいね」と法律が一朝一夕で変わるわけでもありません。現在もEU市民はロンドンを中心にその手腕を発揮しています。むしろブレグジットで変わったのは、イギリス人の振る舞いでした。

ブレグジットに便乗した外食産業

ブレグジットから発生したポンド安を理由に、イギリス人は海外旅行へ行かなくなりました。弱くなってしまったポンドでは豪遊できないからです。ブレグジット前はわずか数千円払えばヨーロッパへの航空券を買えた彼らも、今年は控えめに

その分の娯楽費が、国内へ回ります。今年のイギリス人は休みの日や特別なお祝いを国内のパーティや外食で済ませることにしました。その結果、にわかに国内の外食産業が昨年比12%もの盛り上がりを見せています

さて、このチャンスをつかんだのがデリバリー業界でした。イギリス人はもともと料理をあまりしません。専業主婦でもピザを温めるくらい。であれば、レストランは看板に「配達も承ります」と付け加えた方が得策です。マーケティングに長けた企業はいち早く自転車でのデリバリーを開始しました。食事は温かいうちに届けなくてはいけないため、バイクや自家用車で遠征するより近隣に素早く届ける方が喜ばれます。集客に長けたレストランは「店内の回転数以外」で売上をたたき出したのです。

Uberによる代理デリバリーも

そして、さらにマーケティングの才覚ある企業が存在しました。ウーバー・テクノロジーズが運営するタクシーのブランド、Uber(ウーバー)です。Uberはデリバリーをする余裕がない飲食店のために自社スタッフによる代理デリバリーサービスを開始。日々の食卓から豪華なホームパーティまで、デリバリー文化を一気に広めました。このサービスは日本へも上陸。東京の一部地域で利用できます。

Uberのサービスは簡単に言ってしまえば、お店の料理を家まで自転車で運ぶだけ。そんな単純なニーズがこれまで世界中で満たされていなかったのです。このようにマーケティングでは「誰もが欲しかったのに気づいていなかったニーズ」を満たすと、一気に集客を獲得できます。

優れたマーケティングはピンチからチャンスを見つける

このように、一見誰もが「もうだめだ」と落ち込むような経済や政治状況であっても、巡り巡って集客、販促のチャンスをつかむことはできます。そのために必要なのは、チャンスを見つけたときにすぐ動くこと。さらに言えば、いざとなったらすぐ動けるような稟議・承認システムを用意することです。

マーケティングではよく「シンプルなものが強い」と言われます。売上に繋がるコンセプトやキャッチコピーもそうですが、社内のしくみもシンプルであれとよく言われます。これからを生き抜くため、変化へ迅速に対応すること、「誰もが欲しがっているのに気づかれていないニーズ」を発掘するのと同時に、チャンスを見つけたらすぐ投資できるよう無駄な承認システムを削ることが成功への近道です。

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トイアンナ
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マーケティングでV字回復を狙うイギリス紅茶市場 集客を取り戻す差別化の鍵は?

こんにちは、トイアンナです。
「イギリスといえば?」と連想ゲームをするなら、すぐに思い浮かぶのが「紅茶」でしょう。特に女性にとって、優雅なアフタヌーンティーは憧れです。ところがその紅茶、イギリスで斜陽となっています。調査によればイギリスの紅茶市場は2013年から2015年までで14%縮小
その理由は「若者の紅茶離れ」です。
今回はイギリスの紅茶が一体どのような危機を迎えているか、そして紅茶の復活を願った各社が力を入れたマーケティング施策をご紹介します。

イギリスの若者には緑茶がトレンド

そもそも、イギリス人はどのくらい紅茶を飲むと思いますか?
およそ3割の50・60代のイギリス人は1日5杯、紅茶を飲みます。日本で同じ量の緑茶を飲む方はまずいないのではないでしょうか。
「イギリスと言えば紅茶」も納得です。

しかし20代後半から30代前半の若者ではこれが2割弱まで減少。紅茶よりコーヒーを好む若者が増えています。イギリスでは日本と同じようにスターバックスを初めとするコーヒー店が続々増えており、紅茶市場を揺るがしているのです。

さらに調べてみると、紅茶が不人気な理由のトップは「汚れが歯につくから」。
ここで「ん?」と引っかかった方は、マーケティングのセンスがある方です。若者がもし本当に歯の汚れを気にして紅茶離れを起こしたなら、コーヒーも飲めないはず。むしろ私達日本人からすると、コーヒーの方が歯も汚れるイメージも強くありませんか。

このように矛盾のあるデータが上がってきたときは、アンケートの数字に出てこない本当の理由が隠れていることが多いものです。マーケティングではこれを「インサイト」と呼びます。インサイトを知るためには、対面でのヒアリングが欠かせません。

実際にお話を20代イギリス人から伺うと「紅茶はダサい」「年寄りの飲み物だからオシャレなカフェで頼みたくない」という赤裸々なインサイトが明らかになりました。何だか、日本の「若者の日本茶離れ」「若者の和菓子離れ」に通じるものを感じます。どの国でも、伝統的な食べ物は若者から敬遠されるようです。

弱みより強みを活かした集客を

もちろん、若者の本音を見抜いたのは私だけではありません。紅茶メーカーから販売店、カフェまで紅茶は「イケてない」と思われていることに気づいていました。彼らもただ手をこまねいているわけにはいきません。そこで集客のため考案されたのが「オシャレなアフタヌーンティー」でした。

アフタヌーンティーはもともと1日2食だったイギリスで、午後の小腹が空く時間に軽食を食べるため考案されました。しかし現在、1人あたりの価格は5,000円以上。アフタヌーンティーは日常的に楽しむものというより「ハレの日」のイベントとなっています。

若者が欲しがらない紅茶も、ハレの日を演出すればお金を落としてもらえる。その証拠に高級ホテルのアフタヌーンティーでは予約率が上昇していました

ハレの日にふさわしい、若者が来たくなるアフタヌーンティーを提供できれば……。紅茶市場の復活を目指し、ホテルは差別化戦略を立てました。

若者に「ワクワク」の要素を

ここからは、実際にマーケティングの成功した事例ご紹介します。

高級ホテル「サンダーソン」では『不思議の国のアリス』に因んだ「帽子屋のお茶会」をテーマにアフタヌーンティーを提供しています
リンクをご覧いただければ一目瞭然のカラフルなお菓子。アリスをモチーフにした可愛らしいデザインは、世界中の乙女を虜にしました。従来の伝統的お菓子からは想像もできない外見が「ハレの日」を演出しています。

また、どの国でも海外へあこがれを抱くもの。日本人がイギリスに憧れるように、イギリスではフランスやアメリカ、日本のスタイルが「オシャレ」とされます。

アフタヌーンティーカフェ「sketch」では、パリの三ツ星レストランシェフ「ピエール・ガニェール」の力を借りて個性的な内装と料理を届けました。
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Photo By: トイアンナ

こちらは実際に訪問してきましたが、お昼過ぎには満席。観光客が多いエリアにも関わらず若いイギリス人客もちらほら見かけました。

さらに観光客へ舵を切りヒットしているのがB-Bakaryのアフタヌーンティー。なんと二階建てバスの中をまるごとアフタヌーンティーの場所にし、観光しながら紅茶を飲める仕様にしています

紅茶文化を復活させるため、各施設がマーケティングを駆使し差別化へ成功しています。

どんな時に使いたくなるか? が経営のヒント

「市場が斜陽産業で、これから顧客は減っていく一方」という現場でも、市場を伸ばす方法はあります。
今使っていただいている方法以外で、どんなシーンで利用してもらえそうか、どんな気分で愛されそうか。もし自社製品の市場が伸び悩んだときは、ユーザーが製品をどんな時に使いたくなるかを思いつくままリストアップして、市場全体を大きくする方向を模索してみましょう。

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トイアンナ
大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
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新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)