ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

ビール会社の差別化:飽和市場で成長するための挑戦

「あえて敵を作る」差別化で飽和市場を成長させるビール会社
 
こんにちは、トイアンナです。イギリスで有名な飲み物といえばビール。
日本でもパブのチェーン店がいくつもありますね。
イギリスではパブが駅ごとに1~2軒は立っており
「ちょっと一杯」にふさわしいカジュアルな社交場となっています。
 
ここまでの情報を踏まえ「イギリスで新しいビールブランドを作る」という企画があがったら、
マーケターとしては警戒するところです。
市場はすでに飽和している可能性が高く、今更ビールを飲みたい人口も増えない場所で、
他のシェアを奪うのは難しいでしょう。
 
ところが、私の至らぬ予想に反し、イギリスに1285軒存在する
小規模クラフトビール業界は、昨年比で10%も成長しています。
その背景には過熱した市場でも生き抜く、斬新なマーケティングが息づいています。
今回はその中から、「グローバルに成功している500社」へも選出され
最大の成功を収めているブリュードッグ(BrewDog)社について研究してまいります。

始まりはビールの最強の度数対決

ブリュードッグ社は2007年創業。
当時イギリスへ日本のアサヒが進出し
「ビールはアルコール度数が薄い楽な飲み物」のイメージが広がっていました。
そこでブリュードッグ社はあえてその逆を行く「世界最高度数のビール」、
タクティカル・ニュークリア・ペンギン(戦術的なペンギン核兵器)を生み出します。
 
商品名からしてその個性が際立っていますが、強烈なのは32%のアルコール度数。
ブリュードッグ社が「今までと違う」と印象付ける最高のマーケティング戦略でした。
 
とはいえ、当時ブリュードッグ社が知られていた理由は「最強の度数」に過ぎません。
ドイツのライバル企業がすぐさま「ショルシボック40」という40度のビールを出したこともあり、
このままではすぐ埋もれてしまう運命にありました。

秘密はあえて敵を作るマーケティング

そこでブリュードッグ社は単なる度数勝負を超える、次の一手を打ちます。
 
新製品はその名も「ザ・エンド・オブ・ヒストリー(歴史の終焉)」。
度数も55度ともはや標準的なウイスキーを超えてしまったのですが、
何より度肝を抜いたのはビールボトル。
リスのはく製でビール瓶を包んで販売したのです。
 
※ 実際の商品画像はこちらからご覧いただけますが、動物が好きな方はご注意ください。
 
元々イギリスは動物愛護団体も多く、
過激派は「インフルエンザウィルスにも生きる権利はあるから風邪薬を飲むな」と運動するほど
他の生命を大切にする国民性を持っています。
 
そんな中でリスのはく製を売ったものですから、動物愛護団体は激怒。
「安っぽいマーケティングだ」「死骸のビール」と散々なバッシングを受けました。
 
しかもこのリスのはく製ボトル、お値段は、約86,000円と超高額!
手軽な消費財であるべきビールではありえない金額設定も考えると、
小心者の私など「よく社内稟議を通ったな……」と当時を想像してはハラハラしてしまいます。
 
ところが、市場に出てからは大ヒット。
確かに動物愛護団体や心の優しい人は激怒しましたが
「パンク」と呼ばれるタブーを壊すことに抵抗のないファンが急増。
ブランドイメージとして「パンク」の称号を手に入れたブリュードッグ社は差別化を成功させ、
同ビールも瞬く間に世界中へ出荷される大ヒットとなりました。

ブランドイメージを守れば、ファンができる

お客様満足度100%。聞こえはいいですが、そんなブランドには敵がいません。
「なんでそんなものを買うの? 信じられない」と思う層がいないブランドは
無個性の塊として、そのうち忘れ去られてしまいます。
日本の巨大ブランド、たとえばdocomoやJALであっても
強烈な信者とアンチがいることによってブランドが保たれているのです。
 
ただしブリュードッグ社のように成功したいのであれば、
大切なのは斬新なアイディアが浮かんだときにブランドイメージから逸れないよう気を配ること。
ブリュードッグ社はブランドイメージを「パンク」にしていたがために、
今回取り上げたようなタブーを無視するアイディアが大成功となりました。
 
しかし同じ案を「伝統的・保守的」と思われたいビール会社が行っても
絶対にヒットしないでしょう。
斬新なアイディアは保守的なブランドにも存在します。
たとえばイギリスの女王陛下が美味しそうに飲み干すビールのCMが流れたら、
保守的であるにもかかわらず「ちょっと飲んでみようかな」と興味をそそられないでしょうか。
 
業界の革命児になって大成功を収めたいのであれば、
革新的なアイディアをブランドイメージに則って実行すること。
そして常に他社事例から学び、アイディアの幅を広げることです。
 
ブリュードッグ社の事例は2016年9月発売の
『ビジネス・フォー・パンクス ルールを破り熱狂を生むマーケティング』に詳しくありますし、
世界最高の広告を表彰するカンヌ国際広告祭の受賞作はYoutubeで見られるものも多くあります。
常にインプットを楽しみ、あなたの戦略に役立ててみてください。
 

参考文献:

『Good Beer Guide 2015』

 

←「マーケティング深化論」目次ページへ


ファイル 2016-03-04 15 23 20

トイアンナ:

大学卒業後、外資系企業にてマーケティング業務を歴任。
消費者インタビューや独自取材から500名以上のヒアリングを重ね、
現在はコーチングやコラム執筆を行う。

ブログ:http://toianna.hatenablog.com

新著に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)


注目記事